異世界マッチョ

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126 マッチョさん、移動する

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 小さめの木をロキさんとジェイさんが切り倒し、大物は私が切り倒す。そして馬車を進める。時速数キロというところか。こっちの方が進軍の効率は多少良くなる。
 ひたすら木を切り倒し、馬車を引いて進む。日も暮れて森の中で夜を過ごすことになった。けっこう深い森だな。
 焚火をして暖を取る。昼間はそうでも無かったが、日が傾き始めると寒いのだ。
 「魔王のいる場所までたどり着けないとなると、道を整備してからやり直しですね。」
 食料が切れた状態で魔王と戦いたくは無い。勇者であっても食べなければいけないのだ。
 「明日からは狩りも少しやってみるニャ。森があるならたぶん食べられる生き物もいると思うんだニャー。フィンがいるからたくさん獲れそうだニャー。」
 「水場も探してみます。立派な木がたくさんある森ですから水も美味しいと思いますよ。」
 水と食料があるなら一応は生きていける場所だということか。
 「魔物、来ないニャー。夜になったら襲ってくると思ったんだけれどニャー。」
 「マッチョ殿に近づけないのではないのかな。勝てぬ相手に魔物は襲ってこないだろう。」
 それにしても・・・
 「初代人間王のパーティって、どうやって魔王のところまで行ったんでしょうかね?」
 私のように馬車を引いて移動したとしても、森で引っかかるはずだ。徒歩では補給ができない。馬では水と草が必要になる。みんな考え込んでしまった。
 「・・・徒歩か馬か・・・いずれにせよ魔王がいる場所に到着しても戦える状態だとは思えないな。」
 「マッチョさんのように、ずっと精霊の恩寵が使えたのであればみんなで走って魔王のところまで行けたかもしれませんね。」
 あー、という同意の声が漏れる。
 「ロキさんが言うように、本来は魔王のところへ行くまで精霊が助けてくれたのかもしれません。これもまた精霊が弱っているということなのでしょうか・・・おいたわしい・・・」
 そうか。なにもかも初代王の時代よりも不利になってしまっているのだな。
 今日の分の進捗を手紙にして私はハトを飛ばした。
 久しぶりによく動いた。疲労感はそうでもないが勇者になっても眠い時は眠い。
 私は火の番を他の人たちに任せて眠ることにした。やはり筋肉に良くないと分かっていることは、勇者になったといえども私にはできそうも無いのだ。

 朝食を摂り行軍を進める。
 ミャオさんとフィンさんは狩りに出た。三人で進めるところまで馬車を進めた。風景が変わった。樹木以外のなにかが見える。
 「マッチョさん!」
 やっと森を抜けた。
 茫漠とした岩地だ。気合いの入った樹木がいくつか岩地でも茂っているが、そもそも土となるものが無い。死んでいる土地だな。とても動物が住める場所ではない。
 「龍族の里の近くにある限界領域と同じような光景だな。生き物は住めぬだろう。」
 「リクトンさんという人は魔物のためにある場所のようだ、と言っていました。」
 「たしかにそういう感じがしますね。ふつうの生き物が住める場所には見えません。」
 障害物が無くなった。魔王のところまで馬車を引いて進めるな。
 「二人が帰って来たら一緒にお昼にしましょう。お茶の用意をしておきます。」
 準備中に二人が帰ってきた。顔色が悪い。
 「どうしたんですか?そんな真っ青になって・・・」
 「この森・・・おかしいニャ・・・」
 「動物が居ないんですよ。水場はあったのですが、飲めるものではありませんでした。樹木を生かすためだけの水です。」
 「これだけの樹木があっても、水がダメなら動物も住まぬか。」
 「・・・たぶんそういう事だけでは無いと思います。」
 「・・・どういう意味ですか?」
 「この森は時間をかけて作ったのだと思います。生き物がいない森なんて信じられませんよ。」
 フィンさんは誰が作ったのかまでは言わなかったが、勇者の全員がその言葉を理解した。
 魔王が勇者を足止めするための森をわざわざ作ったのだろう。魔王というのはそんなことまでやれてしまうようだ。初代王の時代には無かった天然の要塞というところか。

 昼食を摂って食休みもしっかり取り、私はまた馬車を引いた。
 道は無いが馬車を遮るものも無い。私は主にミャオさんの指示通りに走った。引いて走った方が乗っている人たちの負担も少ないのだろう。四人の勇者は私へ指示を出さない間はなにかと語り合っていた。故郷について、勇者という役割について、戦い方について、彼らが信じる精霊について、各種族への印象について、食事や生活習慣や家族について、伝えられている魔王の話について。たまに私も会話に参加した。馬車を引いて走っていてもたいして疲れないのでヒマなのだ。負荷が小さすぎてまったくトレーニングとしての体を成していない。
 ロキさんとジェイさんとは長い付き合いになるが、ミャオさんやフィンさんはそこまで長い付き合いでも無い。我々は一蓮托生である以上、相手をより理解しなくてはいけないのだ。ドロスさんの話によれば、フィンさんは後衛として弓に特化した戦い方を選んだそうだ。けん制役がミャオさんとフィンさん、中衛に長物使いのジェイさん、前衛は二人そろって斧を使うロキさんと私だ。本来なら全体を見渡せる後衛か中衛が指揮を出すべきなのだろうが、大精霊から私が指揮を学んでしまったので私が指揮をとることになってしまった。

 「マッチョ、速いニャー・・・魔王を封印したあとは、馬車を引いて大儲けできそうだニャー。」
 「この早さですと、明日には魔王のところに着きますよ。魔王が移動していなければですけれど。」
 「マッチョさん、そろそろ日も暮れます。適当なところで野営しましょう。」
 いい感じの高台を見つけた。私は馬車を静かに止め、勇者たちと火を囲み夕食を摂ることにした。
 「ハム、炙っても美味しいですね。」
 「この焼印がマッチョの背中なんだニャー。」
 にぎやかな食事が終わると、なんとなく皆の口数が少なくなってきた。誰かが焚火にさらにマキを加えた。マキが弾ける音がする。
 明日には魔王のところに到着する。ということは、この五人で過ごす時間はこれが最後になるのだ。少なくとも私は帰れない。目の前に居る何人かも命を落とすかもしれない。
 私はいくつか大切なことを仲間に打ち明けることにした。
 私が異世界人であること、魔王の封印に成功したら私だけは帰れないということ、そして魔王が復活したら次は封印ができないかもしれないということ。
 目の前にいる彼らは知っておかなくてはいけないし、知る立場にある人間だろう。
 おそらく初代王もこうやって仲間に伝える瞬間があったのだと思う。 
 愉快な時では無い。だが、魔王のところに到着する前に言っておかなければ。
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