ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

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57話 温泉旅行へ行こう!

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 僕らが特別休暇を取ったのは、シラヌイと同居してから一週間後の事だった。
 四天王全員、数日分の仕事を片付けて、休暇後にドタバタしないよう段取りを組んでいる。休暇は二泊三日、まとまった休日なんて久しぶりだな。

「うん、旅支度はこれでいいな。よし!」

 鞄の中に着替えやポルカへのお土産を詰め込んで、準備万端。早くポルカに会いたいな。

「ディック! 早く行きましょう、皆待ってるから!」
「分かった、急ごう」

 シラヌイが待ちきれない様子ではしゃいでいる。尻尾がぶんぶん揺れていて、ポルカに会えるのが凄く楽しみみたいだ。
 それに、首元でちらついているロケットも、同様に揺れている。
 彼女のロケットには、僕の肖像画が入っている。彼女が仕事の合間にごり押しして、画家に三日で描かせた絵だ。
 シラヌイも人の事を言えない程度には暇だったんだな、それはいいとして……彼女が僕の肖像画を身に着けていると思うと、こそばゆくなる。
 と、シラヌイは無邪気に僕の手を握ってきた。多分、気が高ぶったせいだとは思う。

「あ、いやこれは……あんたが遅いから手を引いてやろうかなって思っただけで」
「言い訳はいいよ、このままで行こう」
「……うん」

 折角シラヌイから握ってくれたんだ、こんな事そうそうないぞ。最初は手が触れるだけでも爆発していたのにな。
 彼女と手を繋いで待ち合わせ場所へ向かう。バルドフの馬車乗り場だ。
 ここはバルドフと各地を結ぶ馬車が並んでいる。僕達が利用するのは、一番の高速馬車、ペガサス便だ。
 空を飛ぶこの馬車は、目的地まで最速で運んでくれる便だ。これなら二時間程度で妖怪リゾートに向かう事が出来る。

「リージョンの能力で行けばいいのに、無駄金使うわね」
「あいつ曰く、無駄な時間もまた旅情なり。なんだってさ」
「その通り! 旅行とはプロセスを楽しむのも醍醐味だろう」

 リージョンが来た。振り向いて見やると、僕らは絶句した。

「……なんだその恰好」
「いやー、旅行が楽しみでついな」

 リージョンの恰好は、半そで短パン麦わら帽子に虫取り編みを装備した、ガキ大将スタイルだった。背負ったリュックもデザインが妙にダサい。
 楽しみすぎて服装だけ目的地に落ち着いているな、てかお前何を求めて旅立つつもりだ。

「あらあらまぁまぁ、ちょっと遅れちゃったわねぇ」

 今度はメイライトが来た……んだけど……。

「ねぇ、旦那四人引き連れてなんて格好してんの?」

 ふわふわの付いた高級コートに、旦那に持たせた大量の荷物。コテコテのセレブスタイルじゃないか。旦那たちもタキシード着込んでるし、一人だけ空気が違いすぎる。
 ……こっちはこっちでなんか勘違いしているような気がしないでもないな。

「おいメイライト、そんなふざけた格好で旅行に向かうとは。旅をなめるなよ」
「あらー、貴方こそそんなはしゃいだ格好で今から大丈夫? 旅行を甘く見ちゃだめよぉ」
「お前ら二人が世間を甘く見てなめてるだろ」
「何を言うディック! これが俺のプライベートスタイルだ」
「同じく私もよぉ」

 こいつらのプライベート壊滅的すぎないか? 一緒に居て恥ずかしいから距離を取ってもらいたい。
 この分だとソユーズも不安なんだけど……大丈夫かなあいつ。

「……我がビリか、待たせたな」

 不安を感じつつソユーズを見やる。そこには……。
 いつもと変わらない、ペストマスク姿のソユーズが居た。

「よかった、君だけはまともで」
「貴方はいつまでもソユーズで居て、お願い」
「……胸中、察するぞ」
「おい、なんだお前ら。これじゃ俺達二人が出オチみたいに思われるじゃないか」
「そうよぉそうよぉ、この格好のどこにツッコミどころがあるのぉ?」
「全身ツッコミどころ満載のまごう事なき出オチだ馬鹿」

 自覚がないだけ余計性質悪いなこりゃ、周囲の視線が痛いぞ。

「……今からでも馬車を別々にできるか聞いてみるか?」
「そうしよう、この二人と一緒の空間にいるのはちょっときつい」
「って事であんたらそこで待ってなさい、もう一便ペガサス便確保してくるから」
「そんなに変かこの格好?」
「うーん、私達にとっては普通なんだけどねぇ」

 ……どうも普段見てなかっただけで、この二人相当浮世離れしてるのかもしれないな。

  ◇◇◇

 傍に居るだけで恥ずかしい、はしゃぎまくった格好の連中を追いやって、僕らはペガサス便での旅を楽しんでいた。
 空を飛ぶ馬車は初めて乗るけど、とても気持ちいい乗り物だ。雲が勢いよく後ろへ流れて、眼下の景色も見る間に変わっていく。鳥と並走していると、自分も空の住人になったような気がするな。
 そんな中で、僕はある物を見つけた。
 山脈に囲まれた、うっそうとした森の中央に、雲よりも高く伸びた巨大な大樹があったんだ。多分魔王城の数倍はあるんじゃないか?

「二人とも、あれ」
「ああ、ディックは知らないのね。あれはエルフの国よ」
「エルフ? エルフだって?」

 話には何度か聞いた事がある。何千年もの時を生きる長命種族で、人間の前にはほぼ姿を見せない種族だ。

「……彼らは世界樹の民とも呼ばれている。他国との干渉を極力拒んでいるが、近年は人間からの圧力に頭を悩ませているらしい」
「確か新聞で読んだことがあるな、エルフと同盟を結ぶために、外交官を派遣しているとか」

 位置的には、魔王領を迂回すれば到着する場所にある。多少無理すれば、人間も行ける場所だ。
 だけど、いくら交渉の場を設けようとしても、なしのつぶてらしい。

「人間は単にエルフから搾取する事しか考えてないわ、だから彼らは人間と話し合うつもりなんか毛頭ないのよ」
「確かに、目に見える驚異を受け入れるわけがないな」
「……故に近頃、魔王様はエルフ国との同盟を結ぼうと考えられているそうだ」
「戦況が落ち着いた今なら、エルフ達と交渉する余裕があるものね。もし同盟を結べたら、彼らからの大きなバックアップが期待できるようになるわ」
「魔王軍がエルフ領を守る代わりに、エルフ達の力を借りるってわけか。それが出来れば確かに、今後フェイスと戦う上で役に立つかもしれないな」

 エルフには強力な秘薬や、彼らにのみ伝わる古代魔法等、他の種族にはない技術を多数保有しているって聞いた事がある。

「それは別として、守れるのなら守りたいな。ウィンディア人の時のように、フェイスがエルフの国に向かってしまう危険もあるわけだし」
「そうね……クソ勇者がエルフ国に着いちゃったら、それこそ地獄になるでしょう。フェイスと戦えるのはディックだけ、貴方が大きな交渉材料になるかもね」
「まさか」

 魔王軍所属と言え、僕は人間だ。エルフの交渉材料にはならないだろうさ。
 そんな話をしているうちに、眼下に荒野が広がってきた。それに、ダイダラボッチが抉り取った岩も見えてくる。
 また来たんだな、この場所に。
 前回は仕事で来たからゆっくり回れなかったけど、今回は沢山遊ぶとしよう。
 ポルカに会えるのも、今から楽しみだしね。
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