ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
87 / 181

86話 四度目のフェイス戦。

しおりを挟む
 空を埋め尽くさんばかりに、大勢のドラゴンが迫ってくる。
 僕は刀を握り、その先頭に立つ巨龍を睨んだ。
 全ドラゴンの中でもひときわ大きな巨躯を誇るドラゴンだ。全身に無数の古傷を蓄え、岩のような質感を持つ皮膚は動くたびに軋みを上げている。筋肉量がすさまじいんだろう。
 傷が深く刻まれた顔は歓喜に満ちている。戦える事に純然な喜びを見せていた。

「龍王、ディアボロス……!」

 横で、ラズリがうめいた。
 その姿を見た者は誰もいない。なぜなら出会った瞬間、そいつは殺されているからだ。
 この地上において勝てる者はいない。存在そのものが災害、命自体が最強の証。そう謳われる、この世界最強の生命体。
 龍王ディアボロス。そんな奴が、エルフの国にやってきたのか。

「しかもだ……」

 お前がそいつの頭上に居るのが、何よりの驚きだ。

 勇者フェイス、どうしてお前がディアボロスの頭に乗っている。

 ドラゴンはプライドの高い種族だ。人間を頭にのせるなんて、万が一にも有り得ない。ドラゴンの背や頭に乗るためには、ドラゴンを打ち倒し、屈服させなければならないんだ。

 ……つまりそう言う事か。

 ディアボロスはフェイスに敗れ、力を認めた。あいつは地上最強の生物を倒したんだ。

「って事は人間とドラゴンの同盟が成ったわけだな、それも僕達が想像している以上の速さで」
「感心している場合じゃないわよ、あいつら奇襲に来てんだから、迎撃準備!」

 シラヌイは杖を振り回し、ファイアボールを展開した。
 無数の火球がドラゴン達に飛んでいく。音速を超えるファイアボールの弾幕だけど、ドラゴン達はブレス攻撃で対抗した。
 シラヌイの弾幕を前に拮抗している。多勢に無勢と言え、彼女にここまで戦える相手は初めてだ。

「弩弓隊撃ち方始め! ドラゴンを近づけさせるな!」

 ラズリが大声を張り上げるなり、僕の頭にも声が響いた。世界樹の力で念話を飛ばしたんだ。
 彼女の号令に従い、下からエルフ兵が弓を構える。強力な弓による射撃が飛び、ドラゴン達の壁となった。

『ブレスを撃て! 圧し負けるでないぞ、ばっはっは!』

 ディアボロスの号令でドラゴン達の攻撃が始まる。弓と炎の撃ち合いは一見、エルフ不利に見えた。
 だけどエルフの矢は魔法の矢だ。水属性を宿した矢により炎を打ち消され、全くの互角だ。

「ふぅ、ギリギリ間に合ったみたいだな。ただ、こっから先も賭けだぜ」

 ワイルは腰に手を当て、険しい顔でドラゴンを見上げている。彼がどのようにしてドラゴンと人間の合同計画を察知したのか聞きたいけど、今はそれどころじゃあないな。

「ワイル、僕達に協力してくれ。ドラゴンの襲撃を教えてくれたのなら、味方と捉えていいんだよな」
「いや、勘弁してくれよ。本当、マジで俺戦闘に関しちゃ門外漢だから。協力したところで活躍できる保証なんかひとっつもしてやれないんだぜ?」

 ワイルは本気で困った様子だった。けど、

「ただまぁ、なんもしないってのも筋じゃあねぇよな。俺もここを獲られるのは我慢ならねぇし、しょうがねぇ。出来る限りやってやるさ、怪盗なりの戦い方でな」
「感謝する」

 稀代の怪盗が一時的にでも味方になったのは心強い。するとラズリが拳を打ち合わせた。

「ディアボロスが接近している」
「何?」

 一向に破れない拮抗に業を煮やしたのか、ディアボロスが前に出た。いくらエルフでも、生きる災害は止める事が出来ない。
 あいつが世界樹に来たらまずいな。

「ディアボロスは私が止める。貴方達は勇者を頼めるか」
「了解、気を付けてくれ」

 ラズリと頷きあう。僕が戦わなければならない敵も、しっかり見えている。
 ラズリがディアボロスに殴りかかると、巨龍の腹が大きく陥没した。山をも砕く拳の一撃、しかしディアボロスは意に介していなかった。

『ばっはっは! 貴様が噂に聞く世界樹の戦巫女か! まさかかようなる者と戦えるとは、何たる幸運! さぁ、ワシを楽しませてみろ! 小さくも強き者よ!』
「貴様のような戦闘狂に合わせる趣味などない!」
『ならば無理にでも合わせてやる! おい勇者、こいつはワシが貰う、貴様も楽しんでくるがいい!』
「勝手にしな」

 ディアボロスからフェイスが飛び降りた。まっすぐに、僕をめがけて。
 ハヌマーンを装備し、迎撃する。僕の抜刀術と同時に、フェイスの一太刀が振り下ろされた!

「ディィィィック!!!」
「フェェェェイス!!!」

 刀と剣がぶつかり合い、火花が散った。僕と奴の瞳に、互いの姿が映りあう。
 互いに弾きあい、距離が開く。前戦った時とは違う手応えに、僕は刀を振った。

 ハヌマーンの力が発動しなかったんだ。

 でも理由はすぐにわかった。あいつが使ったのはエンディミオンじゃない、別種の剣だ。
 禍々しいオーラを纏った、広刃の大剣だ。生物的な鍔を持ち、刃にはいく筋もの文様が浮かび上がっている。
 見ているだけで相手を不安にさせる、恐怖を体現したかのような剣だ。

「新しい得物を手に入れたのか」
「お前を殺すためにな。苦労したぜ、何しろあのクソジジィをぶっ倒さねぇと手に入らない代物だからよ」

 フェイスは右手にエンディミオンを、左手に大剣を握りしめた。

「龍王剣ディアボロス、龍王の名を関した、エンディミオンに次ぐ名剣だ。お前にエンディミオンが通用しないなら、それ相応の準備をするまでだよ」
「そいつは、随分な歓迎ぶりだな」

 改めて、こいつがディアボロスを倒したのだと実感する。すると頭上からさらなる気配が落ちてきた。

「あいつの仲間よディック!」

 シラヌイが言うなり火球を放つ。辛うじて火球を防御し、フェイスの女達が着地した。
 その中の、女剣士が僕に斬りかかってくる。数度打ち合い距離を取ると、彼女の持つ剣に気付く。彼女が持つ剣も変わっていた。
 ディアボロスとは逆に、神々しいオーラを纏った剣だ。同じ広刃の大剣で、白く輝く刀身と、美しい装飾が施された鍔が印象的だ。

「どうだディック! 勇者様より受け取ったディアボロスの兄弟剣、その名も輝龍剣オベリスクだ! この剣の前ではお前の刀も」
「黙れ、ぺらぺら喋んな。その程度でビビる奴じゃねぇよ」

 フェイスが一喝するなり、彼女達は怯え、縮こまった。
 以前までなら甘い顔をしていたのに、彼女達に本性を隠そうともしない。僕に負けてから、あいつの何かが変わったらしい。
 遊びが消え、最初から全力で来ている。どうやら、今までの中で一番タフな戦いになりそうだ。

「お前と戦うのも、これで四度目か」
「結構な腐れ縁だよな。フェイス、どうしてお前は僕に拘る、僕と知り合ったのは、ここ一年くらいだ。こっちには因縁をつけられる理由が思い当たらないんだけど」
「お前にとってはそうだろう。だが俺にとっては、十何年も前から、お前がムカついてたまらなかったんだよ」

 フェイスはエンディミオンを担ぎ、ディアボロスを突きつけた。

「おしゃべりはここまでだ、とっとと始めようぜ。こっちはもう、お前を殺したくてうずうずしているんだからよ」
「そう簡単にやられるつもりはない」
「いい加減、あんたもしつこいのよ。ストーカー勇者なんてこっちから願い下げだわ」
「いやー、男に追い回されるとは、随分と苦労してんだな、お前さん達」
「誰だてめぇ?」

「あ、どうも。ワイル・D・スワンです。当然俺の名前はご存じだろ?」

 フェイスが驚いた様子を見せる。奴にとっても稀代の怪盗の登場は予想外だったか。

「乱入しちゃって悪いけど、この兄ちゃんが俺に助けを求めていてね。正直自信ねーけど、足手まといにならない程度にゃ活躍させてもらうぜ」
「助かるよ、ワイル」

 シラヌイとワイルが並んでくれる。これで数は、三対四か?

『ううん、四対四だよ』

 念話でラピスが話しかけてくると、枝葉が伸びてフェイス達を襲った。
 これは、祈祷場からラピスが助けてくれているのか?

『世界樹の領域内なら、私も戦えるよ。ワイル様が戦っているのなら、私だって勿論あなたの味方をする。ディアボロスもラズリに任せて、ディックは思い切り勇者と戦って!』
「ありがとう、ラピス」

 よし、四対四なら互角だ。背中を気にせずフェイスに集中できる。

「昔からてめぇはずっとそうだ。なんも力を示してないのに、なんの取り柄もないくせに、どうしてお前には勝手に人が集まる? それが前からムカついて……仕方なかったんだよ」
「……何を言っているんだ?」
「こっちの話だよ。さぁ、議論の時間だ。てめぇの語る愛と、俺の語る力。そのどっちがこの世で本当に強いのか……今ここで示そうじゃねぇか!」

 フェイスとの四度目の戦いか、初っ端からハードな展開になりそうだな!
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...