ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

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最終話・愛する者達へ

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「ねぇ、変じゃない?」
「うん、凄く綺麗だ。変な目で見る男が居ないといいんだけど」

 僕とシラヌイは緊張の面持ちで、呼ばれるのを待っていた。
 色々ごたついていて、時間がかかってしまった。けどようやく、ようやく念願がかなうんだ。

「お二人とも、そろそろ」
「わ、分かった。それじゃ、シラヌイ」
「うん、エスコート、よろしく」

 ウエディングドレス姿のシラヌイの手を取り、僕は教会の扉をくぐった。
 すると、大きな歓声が上がり、赤い花吹雪があちこちから舞い上がってくる。魔王四天王と魔王は勿論、エルフの国の重鎮やドレカー、ウィンディア人。多くの人が僕達を祝福してくれている。
 そしてその中には……母さんの姿もあった。

「よかった……きちんと、約束を守れて」
「ずっと見たがっていたものね。けどこうしていると……やっぱ恥ずかしいわ」

 シラヌイは赤らみ、顔を伏せる。そんな所もまた、愛おしい。
 彼女の手を握りしめ、僕は空を仰いだ。
 ようやく僕らは結ばれたんだ。その実感が、今更ながらにわいてきた。

  ◇◇◇

 エンディミオンとの決戦後の一年は、嵐のようだった。
 まず、国王不在となった人間領は、相当な混乱に陥った。それを鎮めるのに、かなりの時間を費やしてしまったんだ。

 けどそこは、流石は魔王と言うべきか。人間領を統治下に納めると、エルフの国やドラゴン達と連携して支援を行い、軋轢を作らない様混乱を収めてしまった。
 それに伴い、人間領と魔王領は統括され、互いの交流が出来るよう法整備が行われた。トップが消失した人間領との交渉は、僕が橋渡しとなって行われ、難航したものの、どうにか互いが納得できる落としどころを見つけ、現在では健全に運用されている。

 頑張った甲斐もあり、僕達は自由に人間領へ向かう事ができるようになった。だから、僕達は念願だった、墓参りが出来るようになったんだ。

「ここへ来るのは、いつぶりかな」
「ディックの話から計算するに多分、二年半ぶりじゃない?」
「二年半か。随分長い間、ほったらかしてしまったんだな」

 というわけで僕は、シラヌイと一緒に王都近郊都市にある墓地へ来ていた。
 母さんの墓を、ずっとほったらかしにしてしまったからね。ようやく落ち着いた今なら、墓参りに行く事が出来るよ。
 ……本人が傍に居なければ、もっと気兼ねないんだけどさ。

『私の墓かぁ。いざ自分の墓を見るとなると、変な感じがするね』
『貴様なぁ……いい加減にせんか!』

 僕達と並んで歩く母さんに、シルフィが怒声をあびせた。
 そう、なぜか母さんも一緒なんだ。

『大体、死者が何度も現世に出てくるなと散々言っているだろうが! それなのに貴様ときたら、まるで私を気軽に使える馬車のように扱いおって! 最近じゃほぼ毎日出ずっぱりだろうが!』
『だってさぁ、頼んだらなんだかんだ応えてくれるんだもの。そりゃ、息子夫婦に会いたい私としては利用するよね』
『こんのぉ……ああ言えばこう言う……!』
「だったらシルフィも、冥界に帰ればいいじゃない」
『貴様がポンコツすぎて目が離せんのだ。おちおち戻っていられるものか』

 結構世話焼きだよな、シルフィって。もう観測者としての役割は終わったのに、シラヌイの使い魔として現世に留まってくれている。おかげで僕達は母さんと一緒に居られるから、願ったりなんだけどさ。

「早く孫の顔を見せてあげたいわね。って事で、頑張りましょうか」
「張り切りすぎて倒れないでよ?」
「う、それは……保証できない。でも気を付けるわ。私も、事業を起こしたばかりだしね」

 シラヌイは僕との結婚を機に、魔王軍を寿退職した。
 そして、やりたい事として、孤児院や保育園、幼稚園と言った子供向けの事業を始めたんだ。
 戦争のせいで、多くの親を亡くした子が居る。そうした子を支援するために私財を投じて起業したんだ。

『私も手伝うから、一緒に頑張りましょ。そうすれば身ごもっても安心できるしね』
「義母さん、ありがと」
『って貴様なぁ、勝手に死者と経営するなど……ディックからも何か言ってくれ!』
「母さんもいれば、きっと素敵な事業になるはずだね。僕も応援するよ」
『貴様に頼んだ私が馬鹿だったよ』

 ははっ、とうとうシルフィも心が折れたか。
 話して居る間に、母さんの墓に着いた。
 思ったよりも、綺麗に保たれている。いや違う、誰かが先に寄って、掃除してくれたんだ。
 その証拠に生花が置いてある。まだ置かれて、間もないな。

「……出発前に、寄っていったんだな」
「そう、みたいね」

 気配察知を使うと、まだ近くに居る。全く、挨拶の一つもしていけばいいのに。
 そうじゃなきゃ、助けた意味がないだろう。

  ◇◇◇

 墓参りを後回しにして、僕達は急いで追いかけた。
 まだ、走れば追いつく。そうか、今日が出発の日なのか。何も言わずに出て行くなんて、まったく、らしいと言うかなんと言うか。

「見えた、追いついたぞ!」
「やっぱり、見つかっていたか」
「そりゃあ、追いついてくれって言わんばかりに留まっていればね」

 僕は、マントを羽織った二人組に微笑んだ。
 二人はフードを外し、僕らに向き合う。……フェイスと、アプサラスだ。
 アプサラスは、綺麗に成長したな。腰に下げたショートソードも、よく似合うようになった。フェイスの指導で、立派な剣士になったみたいだね。

「フェイス、ディックが見送りに来てくれたね」
「……ああ。俺としては、黙って出て行くつもりだったんだがな」

 フェイスは目を伏せ、微笑を浮かべた。

 ……一年前、最後の決闘の時。
 僕はフェイスではなく、エンディミオンを粉砕した。
 ハヌマーンの力が全員に行き渡っていたから、出来た事がある。フェイスの体からエンディミオンの魂を追い出し、聖剣に閉じ込めるって方法だ。

 フェイスもあの時、僕達と繋がっていた。だから、皆がフェイスを想えば……彼に憑依していたエンディミオンを追い出す事が出来たんだ。
 聖剣に閉じ込められ、逃げ場を失ったエンディミオンは、ハヌマーンによって魂を砕かれ、本当の意味で死を迎えた。皆の絆が、フェイスを助けてくれたんだ。

 人間領と和平を結ぶ時も、フェイスは精力的に活動して僕をサポートしてくれた。おかげで大分、彼とは打ち解けたと思う。

「俺が非道を働いた人達には、全員謝罪をしてきた。これで、国内にやり残した事は、なくなったよ」
「そうか……それで、この後は?」
「あたしと一緒に世界を回るんだよ。それで、色んな場所を見て、色んな人達と会うの! 冒険者としてね!」
「ああ、そうだな。もう俺は、勇者でもなんでもない。ただのフェイスだ。だから……ゼロからやり直す。俺が手にかけた以上の人達を、この剣で救うんだ」

 フェイスはロングソードを見せた。拵えからして、自作した物だろう。

「龍王剣は返したんだな」
「ゼロからやり直すのに、豪奢な剣を振り回すわけにはいかないからな。お前こそ、これから大変だろう。人間のくせして、魔王四天王になったんだからな」
「そうだね、これから、大変になると思う」

 フェイスの言う通り、僕は「英雄ディック」として、シラヌイの後任の四天王になった。
 僕には夢がある、それはこの世から病気を根絶する事。でも僕にはその知識も、力もない。
 だから、僕の夢に共感してくれた人達の力を借り、支援する事で夢をかなえようと思うんだ。そのためには、権力がいる。だから僕は、四天王になったんだ。

「いつか必ず、戻って来いよ。必ずこの国を、驚くくらい素敵な場所にしてみせるから」
「……お前も、俺の活躍を聞いていてくれ。俺は決して、背負った十字架から目を背けない」
「アプサラス、しっかりフェイスを見てあげなさいよ」
「うん!」

『あー……盛り上がってるところごめんねー』

 不意に、後ろから声をかけられた。
 振り向くと、リージョンのゲートが開いている。そこから続々、続々と、僕達にまつわる人達が出てきていた。

『いっやー、ディアボロスからフェイスが旅立つって聞いてさぁ。急いで追いかけてきたんだよねぇ』
「おい……黙ってろって言っただろうが」
『ばっはっは! 折角多くの者どもと分かり合えたのだ、それをむざむざ、捨てる必要はあるまい。ワシとしても、貴様に言う事があるからな』
「なんだよ?」

『風邪ひくなよ、フェイス』

 ディアボロスはフェイスを見降ろし、そう言った。最後の最後まで、彼はフェイスの理解者だったみたいだな。

「俺達魔王四天王も、お前の活躍を期待しているぞ」
「……たまには、手紙を出すといい」
「寂しくなったらいつでも戻ってきてねぇ、ここは貴方達の帰るべき場所なんだからぇ」
「なんなら、妖怪リゾートにも足を運ぶといい。宇宙一のおもてなしをしてやるぞ!」
「お前には、酷い目にあわされたけど……」
「土下座してまで謝られたら、その……うん、許さざるを得ないと言うか……」
「ポルカ達にまた、会いに来てね。勇者のお兄ちゃん」
「エルフの国にも、気が向いたら来てみるといい。我ら一同、歓迎するぞ」
「そーそー。十九年後にはもう一組の結婚式も挙がるだろうし、招待するよ」
「姉様!? あ、あの、あまり真に受けないように!」
「そうですよ、僕達はまだその……ってこれ墓穴掘ってるし」
「まぁ、一時一緒に戦った仲だ。旅先でも会うかもしれないし、そん時はよろしくな」
『んじゃ、魔王様から元勇者へ一言。頑張りなさいよ』

 皆が、口々にフェイスへ言葉を送っていく。とても暖かく、フェイスの無事を願う言葉ばかりだ。

『これは期待大だな、勇者フェイス』
『ふふっ、けどあんたなら、きっとやれるさ。偽物じゃなくて、本物の勇者になれたあんたなら』

 母さんはフェイスの頬に手を添えた。

『これでもう、寂しくないだろう。苦しくなっても、傍に大事な子が居るんだろう? だから、あんたは大丈夫。きっと、上手く行くよ』
「……イザヨイ……皆も……!」

 フェイスは唇をかみしめ、涙をこらえていた。

「フェイス……僕からも、渡したい物があるんだ」

 僕はハヌマーンを出し、左腕の籠手を彼に渡した。

「これを、預かってくれ。そしていつか……君が自分を許せるようになったら、返しにきてほしいんだ」
「……俺にこれを、使う資格はあるのか?」
『ある。我は絆の魔導具、真なる絆を結んだ者のみが扱える物なり。汝はアプサラスと、硬き絆を結んでいる。我が力を使う資格があると、認めよう』
「だって、フェイス」

 アプサラスがフェイスの手を握りしめた。一途に、真っすぐにフェイスを愛してくれる、この世でたった一人の女性。彼女が居ればフェイスは、何の心配もいらないな。

「絶対、アプサラスを泣かすんじゃないわよ。大好きな人に裏切られるのがどれだけ辛い事か、分からないとは言わせないから」
「分かっている、裏切らない。俺の、大事な人だからな」
「なら、私達と約束よ」
「僕達も裏切らないと、約束してくれ。そしていつか、必ず会うとも」
「……勿論だ、必ず俺は、戻ってくる。お前に肩を並べられる自分になって、必ずな」

 僕達は指切りを交わした。再会を約束して。
 去っていくフェイスが見えなくなるまで、僕らはずっと、手を振り続けた。












 忘れるなよフェイス、どんなに離れていても、僕達は繋がり続けていると。













 君はもう空っぽじゃない、沢山の人から愛され、祝福される存在なのだと。











 そして、何よりも……僕の、一番の親友なのだと。

                ~FIN~
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