勇者パーティを引退したのに、勇者が連れ戻そうと追いかけ回してくるんだが

歩く、歩く。

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33話 悪い事を教えるおっさん

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「ちょっと、なんなのおじさん。ついてこないでよ気持ち悪い」
「しゃーないでしょー。俺様ボディガード頼まれちゃったんだもーん」
「「もん」いうな、歳考えなさいよ、あんた四十超えてるんでしょ?」
「ろんもち。いつでも心は二十歳の四十三歳独身でーっす☆」

 着替えて劇場から出ようとするデイジーを、俺ちゃんとリサちゃんがついて行く。一応事件の渦中に居るんだから、もうちょっと慎重に行動してほしいもんなんだけどねー。

「さっきの襲撃事件見たでしょー? 万一君が襲われたら大変だって事で、Mr.オズマから護衛の依頼受けてんのよぉ」
「ならママの所に行けば? ママの方が危ないんじゃない?」
「いいや、マダムには手を出さねぇだろう。あの魔法は相手を殺すと、奪った臓器も機能を失ってしまう。だから奪った後は手出しせず、そのまま放置するパターンが多いのさ」

 それにクィーンは俺様の命をご所望だ。狙うとすれば人質目的で、デイジーの可能性が高い。何しろいい声をしているからな。人間切り刻むのが大好きな手芸マニアだ、この子の声帯を奪おうと襲ってくるのが目に見えるぜ。

「そのクリスタルの喉を狙って鋏振りかざしてきてもおかしくないからな。マダムの方はアマンダたんに任せときゃ平気だよ」
「私が言うのもあれだけど、この賢者腕前だけは一流だから。傍に居れば命だけは無事だから、命だけは」
「その代わりセクハラ受けそうだけどね。私見てたんだから、ママにいきなり襲い掛かって。おじさんと居たら変な事されそうだから嫌」
「平気平気、俺様二十歳未満には手を出さない主義だから。乳臭いガキには興味ないの。だからほれ」

 リサちゃんの可愛いお尻をなでなでと。アマンダたんのむっちり感と違ってこっちは張りのあるすべすべ感がたまらんねぇ。
 勿論お仕置きのハンマーに叩き潰されたけど。頭が床にめり込んで抜けないんですが。

「どさくさ紛れに何してんのよあんたぁ!」
「いや……未成年に手を出さない証拠に成人のお尻を堪能しようと……」
「むしろ警戒するんだけど。おじさん賢者じゃなくて愚者でしょ」
「くははっ、タロットじゃスタートを意味する始まりのカードだな。クリエイティブな仕事をする奴にはよく出るようだぜ」

 なんてふかしながら、デイジーのポケットを指さす。彼女が手を突っ込むと、そこには。

「あ、あれ? なんでタロットカードが?」
「おじさん手品得意なのさ、記念にあげるよ。そいつの意味には、大きな可能性、人生を楽しむって物もある。君にぴったりで、なおかつ足りない物が啓示されてるだろ」
「……大きなお世話だし」

 タロットを捨てて、デイジーが逃げようとする。でも残念、劇場の外に出たらあいつが居るんだぜ。

「がるる! もふもふ攻撃!」
―わふっ

 外で待機していたがるるがのしかかり、デイジーを捕獲。もふもふな毛皮に取り込まれて身動き取れないようだな。

「ちょっ、なにこのふわふわ生物……あ、なんかいいかも、このもふもふ……」
「どうだい? 俺様達そんなもふもふに乗って旅してるんだぜ。羨ましいだろー」
「子供に何自慢してんの、大人げない」
「子供みたいな体してるおねーさん、うるさいよ」
「あんだとクソガキャア!?」

 リサちゃんがハンマーを振りかざしたので、流石に俺様もストップをかける。俺様ならともかくデイジーにそんなもんぶつけたら首から上がシンバルみたいになっちまうよ。

「あー、でもこのふわふわ、いい……眠くなってきちゃう」
―くぅーん……
「悪ぃがるる、暫く好きにさせてやりな」

 がるるに抱き着き、デイジーは緩んだ顔で頬ずりしている。気持ちは分かるぜ、俺様もがるるを抱きしめるの好きだしな。

「そういや、さっきの俺様の歌はどうだったい? まだ具体的な感想を聞いてなかったな」
「……大した事、ないし」
「そいつは残念だなぁ、作詞作曲俺様なのに」
「えっ、あれおじさんが作ったの?」
「ま、暇つぶしにな。他にも色々ラインナップあるけど、どうだい?」
「聞きたい! ……あ、嘘、本当は聞きたくない……」
「残念だが、目を輝かせて言われても説得力がないぜ」

 ま、言われずとも聞かせてやるがね。俺様自慢のロックンロールをな。
 何曲か歌ってやると、デイジーはしっかり耳を傾けてくれる。嬉しいもんだね、こうまで熱心に聞いてくれると俺様冥利に尽きるぜ。

「どうだい、俺様の歌は。しっかりとしたソウルを感じるだろベイビー」
「別に、まぁまぁだし。私の方がプロなんだから、上手いに決まってるし」
「まぁ、そうだな。技術だけ見れば君の方が上だろう。だがな、君の歌には決定的に足りない物がある。それは、自分でも分かってんだろ?」
「…………」

「口にしたくないなら言ってやるさ、魂が無いんだよ。君の歌はマダム・ローラをまねているだけで、君自身の魂がこもっていない、空っぽのグラスみたいなもんだ。グラスだけじゃ色味も味気もない、きちんと酒を注いで初めて、人の心は満たせるのさ」

 俺様やマダムの歌声が人の心を震わせるのは、歌というグラスの中に魂という酒を注いでいるからだ。空っぽのグラスに氷だけ入れたって、心は満たされないさ。

「……私が今、ちやほやされてるのって、私の歌声にママの影があるからなんだよね。ママと声が同じだから、無意識に皆ママの顔を追っていて……そんなの、私だってわかってるよ。でも、どんなに歌っても、自分の声からママが離れないの。そのせいで、自分の声が分かんなくなって……私の中にママが継ぎ接ぎされちゃって、どう歌うのが私らしいのか、全然分からないんだ」

 がるるを撫でながら、デイジーは弱音を吐いた。一見ツンケンしているが、心根が随分弱っているようだな。見ず知らずの俺様に愚痴を出すとはよ。

「つか、俺様の歌聞いて心許した感じかな」
「そんなんじゃないし。おじさんみたいな変態なんか嫌いだし」
「Uh-oh、嫌われちゃった」
「あんたね、その適当な態度どうにかならないの?」
「無理っ。ま、そんな鬱屈した態度じゃ本番で支障が出ちまうよ。少し羽伸ばしな、俺様が大人の遊びを教えてやるぜ」
「だからそんなもん教えんなっての」
「ううん、いいよ。たまには悪い事してみたい気分だから。どーせおじさんの事だし、ろくでもない遊び知ってるんでしょ」

 デイジーは拗ねたようにそう言った。投げやりになっちゃあ駄目だぜ? 折角綺麗な顔してんのに台無しだ。

「たまには悪い事して遊んでみな。大人に憧れ背伸びをすんのも、子供に許された特権なんだからよ」
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