36 / 116
36話 青春のジンジャエール
しおりを挟む
結局ハワードの思惑にはまってしまい、デイジーは彼のステージを楽しんでいた。
あんなあほらしい姿を見ていたら、不安なんかどっかに吹っ飛んでしまった。昼間にかっこいい姿も見せられたからか、ハワードに任せておけば大丈夫な気もしてきた。
「どうだったぁマダム? 俺様のマッスルボデーは最高だったろ?」
「賢者ハワード、妻を目の前で口説くとはいい度胸をしているな」
「そりゃマダムもこんなビール腹より鋼鉄のような腹筋持った男に抱かれたいでしょーが」
父の前で母を口説く姿を見ていると微妙な気持ちもしないでもないが。でもこの軽薄な姿はどこか愛嬌があって、憎めない。悪い面も含めて魅力的に見えてしまうのはどうしてだろうか。
「さて、ここらでエクストラステージだ。ちょいとばかりデイジーを借りるぜ、この賢者様直々にアドバイスを送りたくてな」
「なっ、許せるわけがないだろう! 貴様のような軽薄者に娘を預けられるものか!」
「…………」
憤る父を、母が止めた。
母は微笑みながらハワードに頷き、デイジーを任せる。アマンダ達は仕方ないと言わんばかりに肩を竦め、
「未成年を困らせてはいけませんよ」
「その子、明日のメインイベンターなんだからね」
「わーってるって、マダム達の護衛は任せたぜ」
ハワードはデイジーの腰を抱くと、右腕から赤いオーラの触手を伸ばした。
蜘蛛の糸のように伸びた触手は力強くハワードとデイジーを引っ張り、あっという間に夜空へと飛ばしてしまう。急に高い所へ飛ばされたデイジーは悲鳴を上げ、ハワードにしがみついた。
「しっかり捕まってろよ!」
「え―――ひゃあああああああああっ!?」
スキル【触角】を駆使し、ハワードはサブレナの街を縦横無尽に飛び回る。ブランコのように激しく揺さぶられ、デイジーは目を回してしまう。
だけど、ハワードの力強い腕は彼女をしっかりつかんで離さない。次第に落ち着いてくると、ハワードは思い切り空高く飛び上がった。
瞬間、デイジーは息を呑んだ。
サブレナの街がとても小さくなり、まるでジオラマのようだ。満月だから月明かりで照らされ、ぽつぽつと灯る街灯も相まって、幻想的な光景だった。
「落ちるぞ」
「うん」
頭を下にして、ハワードと共に落ちていく。彼は触手でまた建物を掴み、デイジーを空の散歩へと戻した。
夜道を歩く人が驚き、自分達を見上げていた。ハワードは余裕の笑顔で手を振り、ウインクを飛ばしている。次第にデイジーも一緒になって、同じ事をしていた。
街を大きく一周した後、ハワードはクラフ座へ連れて行った。
屋根に上り、共に街を見下ろす。こうしていると、世界が自分の物になったような気がして、気分がいい。
「どうだい? 街の夜を独り占めだ、贅沢なもんだろ。これで酒が飲める年齢なら、特上のワインでも持ってくるんだがな」
「ふんだ、子供で悪かったし……ひゃっ」
頬に冷たい物を押し付けられ、デイジーは飛びのいた。
ハワードが出したのは、ジンジャエールだ。瓶はキンキンに冷えていて、水滴が滴っている。
「氷魔法で冷やしたからな、美味いぞ」
「あ、ありがと……驚かさないでよ」
「女を喜ばすのにサプライズは必須だぜ? って事で乾杯だ……ぐおっ!?」
「きゃあ!」
瓶を開けた途端、二人の顔にジンジャエールが噴き出した。当然だろう、さっきまで激しく空を飛びまわっていたのだから。
ジュースでべったりになった二人は顔を見合わせると、やがて笑い出した。
「あっははは! こんな酷いサプライズ初めてだよ!」
「俺様もだ! ちっきしょー、もっと慎重に飛び回るべきだったなぁ」
「問題そこじゃないし。おじさんって本当、変な人」
でも、一緒に居て楽しい人。アマンダとリサが一緒に旅しているのも、なんとなく分かる気がした。
暫く、クラフ座から景色を堪能する。明日の夜、祭りが一番盛り上がる頃、デイジーは野外ステージで神の祝詞を披露する予定だ。
でも、上手く行くか自信がない。夕方のリハーサルでも思うように歌えなかった、こんなぐらついた心じゃ、多分本番も失敗するに決まっている。
「一曲、歌おうか?」
ハワードがふいに切り出した。答えを待たず、昼間のメドレーを聞かせてくれた。
聞いていると、ハワードがどんな人なのか分かる。確固たる自信を持っていて、一切の継ぎ接ぎのない、真っすぐな芯を持った男。それがハワード・ロックだ。
どうしてそんなに自信を持てるのか、デイジーには不思議で仕方なかった。彼に比べて自分は、いつも人の目や声が気になって落ち着かない。
自分に向けられる視線は、声に継ぎ接ぎされた母の面影を追っているから。
「……おじさんさ、どうしてそんなに堂々としていられるの? あの変な女から守ってくれた時も、刺されているのに全然弱音を言わないし。パパから聞いたけど、やばい所から狙われてるんでしょ。なのにどうして笑っていられるの? 恐くないの?」
「その答えは単純さ、俺様が弱いハワードを見たくないからだよ」
ハワードはジンジャエールを一気に飲み干した。
「俺様が尊敬するのは俺様だけだ。なにしろ俺様以上に優れた奴なんざこの世に存在しないからなぁ、もし知っていたら教えてくれるかい?」
「ちょっと、真面目に答えてよ」
「俺様はいつも真面目さ、真面目だからこそ、尊敬する俺様を貶めたくないんだ。俺様が尊敬するハワード・ロックはいつでも強く、自分で決めた信念を曲げずに通し、苦しむ女を必ず守り抜く、世界で一番かっこいい男だ。俺様を好いてくれている奴らも当然、そんな最強の俺様に惹かれているんだよ。
俺様はどんな危険にさらされても、笑って軽口を叩くハワードが好きだ。誰かが危機に陥っていたら、命がけで助けに行くハワードが最高に格好良くて好きだ。最強の賢者として、己に誇りを持って生きるハワード・ロックが、俺様は大好きなんだ。
俺を見てくれる奴らも、弱いハワードなんて見たくないだろう。だから俺は妥協しないんだ。尊敬する俺を死ぬ時まで好きでいられるように、皆が大好きなハワードで居られるように。俺はずっと最高のハワード・ロックであり続けたいのさ」
彼の言葉は、よどみなく、とても力強かった。
彼は本当に、自分が好きなのだろう。でも決して自分に甘くない。自分が理想とする最高のハワード・ロックが大好きだからこそ、自分に厳しく、妥協を許さず、全力でハワード・ロックの人生を生きているんだ。
継ぎ接ぎの一切ない、輝きに満ちた心を垣間見て、デイジーは羨望の眼差しを向ける。どんな時も自分をブレずに貫き、全身全霊で生きるハワードに、尊敬すら覚えていた。
「……私って、駄目だな。おじさんと違って私、自分が嫌いだもの。何をやってもママの影がちらついて、ずっと心がママにパッチワークされていて……本当の自分がなんなのか、全然わからないんだもん」
「継ぎ接ぎなんかなっていないさ。君の心は一切混じり物のない綺麗なもんだよ」
「どうしてわかるの?」
「目を輝かせて俺様の歌を聞いていたじゃないか。あの時の君は自分を嫌う事なく、心から俺の歌に聞き惚れていた。それだけで分かるよ、君は純粋に歌が好きな、十七歳の少女だ。歌が好きだからこそ、自分の声に混じる母親の声が嫌になったんだろう。自分の好きな歌で、周りから「お前はローザじゃない」って否定されているような気になってな。
継ぎ接ぎされているとしたら、マダムじゃない。自分自身を否定しようとする、弱い自分だ。君は君自身をパッチワークしているだけなのさ」
「じゃあどうすればいいの? 弱い自分をどうすればはがせる?」
「はがすなよ、勿体ない。そんな悪い所も自分の魅力の一つなんだから。俺を見ろよ、女の尻や胸追いかけて、斧やハンマーで殴られて。そんな大人誰も褒められねぇだろ? なのに俺は、そんなハワードを嫌ってるように見えるかい? むしろ茶目っ気のある可愛いおっさんとして受け入れてるじゃねぇか」
「それ受け入れちゃいけない自分じゃないの?」
ついデイジーは笑ってしまった。ハワードも苦笑し、肩を竦める。
「人間誰しも完璧じゃない、どんなに頑張っても、絶対直せない悪い所がある。だから否定するんじゃなくて、認めるんだ。悪い自分も好きな自分の一つだって。そうすれば、次第に心の縫い目は取れていく。悪い自分もいい自分も一つになって、継ぎ接ぎのない一人の人間になるんだよ」
「おじさんが言うと、説得力がありすぎて困っちゃうな。言葉が、重いよ」
「言葉が重いのは当然さ。なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ」
言霊の重みを裏付ける、確固たる決め台詞だった。
確かに彼は、ハワード・ロックの全てを受け入れている。受け入れた上で、全部の自分を好きでいるからこそ、彼は途方もなく強いのだ。
そんな強さが、デイジーにあるのだろうか。
「これやるよ」
ハワードが丸めた羊皮紙を渡してくれた。それには、ハワードが最初に聞かせてくれた歌が載っている。
「実はその歌、タイトルがねぇんだ。ここに来る間に作った歌でね、君に聞かせた時、初めて歌った奴なんだ」
「そうなの? じゃあ……」
「あれは仮歌、作った歌詞と音程に合わせただけだ。だからそいつは、歌ってくれる人のいない、まっさらな歌なんだ。それだけに、誰がどう歌うとどんな姿を見せてくれるのか。この俺様ですら分からないのさ。だからよ、いつか聞かせてくれるかい? その白いキャンパスに、デイジーって女を全力で描いた、最高のアートをな」
「……うん、やってみたい。私も知りたい! 継ぎ接ぎされていない、本当の私を!」
ハワードから貰った、生まれたての歌。これに本当のデイジーを描いたら、どんな歌になるのだろうか。
デイジーはわくわくして、思い浮かべた。ハワードのように、自分が大好きになるデイジーの姿を。
あんなあほらしい姿を見ていたら、不安なんかどっかに吹っ飛んでしまった。昼間にかっこいい姿も見せられたからか、ハワードに任せておけば大丈夫な気もしてきた。
「どうだったぁマダム? 俺様のマッスルボデーは最高だったろ?」
「賢者ハワード、妻を目の前で口説くとはいい度胸をしているな」
「そりゃマダムもこんなビール腹より鋼鉄のような腹筋持った男に抱かれたいでしょーが」
父の前で母を口説く姿を見ていると微妙な気持ちもしないでもないが。でもこの軽薄な姿はどこか愛嬌があって、憎めない。悪い面も含めて魅力的に見えてしまうのはどうしてだろうか。
「さて、ここらでエクストラステージだ。ちょいとばかりデイジーを借りるぜ、この賢者様直々にアドバイスを送りたくてな」
「なっ、許せるわけがないだろう! 貴様のような軽薄者に娘を預けられるものか!」
「…………」
憤る父を、母が止めた。
母は微笑みながらハワードに頷き、デイジーを任せる。アマンダ達は仕方ないと言わんばかりに肩を竦め、
「未成年を困らせてはいけませんよ」
「その子、明日のメインイベンターなんだからね」
「わーってるって、マダム達の護衛は任せたぜ」
ハワードはデイジーの腰を抱くと、右腕から赤いオーラの触手を伸ばした。
蜘蛛の糸のように伸びた触手は力強くハワードとデイジーを引っ張り、あっという間に夜空へと飛ばしてしまう。急に高い所へ飛ばされたデイジーは悲鳴を上げ、ハワードにしがみついた。
「しっかり捕まってろよ!」
「え―――ひゃあああああああああっ!?」
スキル【触角】を駆使し、ハワードはサブレナの街を縦横無尽に飛び回る。ブランコのように激しく揺さぶられ、デイジーは目を回してしまう。
だけど、ハワードの力強い腕は彼女をしっかりつかんで離さない。次第に落ち着いてくると、ハワードは思い切り空高く飛び上がった。
瞬間、デイジーは息を呑んだ。
サブレナの街がとても小さくなり、まるでジオラマのようだ。満月だから月明かりで照らされ、ぽつぽつと灯る街灯も相まって、幻想的な光景だった。
「落ちるぞ」
「うん」
頭を下にして、ハワードと共に落ちていく。彼は触手でまた建物を掴み、デイジーを空の散歩へと戻した。
夜道を歩く人が驚き、自分達を見上げていた。ハワードは余裕の笑顔で手を振り、ウインクを飛ばしている。次第にデイジーも一緒になって、同じ事をしていた。
街を大きく一周した後、ハワードはクラフ座へ連れて行った。
屋根に上り、共に街を見下ろす。こうしていると、世界が自分の物になったような気がして、気分がいい。
「どうだい? 街の夜を独り占めだ、贅沢なもんだろ。これで酒が飲める年齢なら、特上のワインでも持ってくるんだがな」
「ふんだ、子供で悪かったし……ひゃっ」
頬に冷たい物を押し付けられ、デイジーは飛びのいた。
ハワードが出したのは、ジンジャエールだ。瓶はキンキンに冷えていて、水滴が滴っている。
「氷魔法で冷やしたからな、美味いぞ」
「あ、ありがと……驚かさないでよ」
「女を喜ばすのにサプライズは必須だぜ? って事で乾杯だ……ぐおっ!?」
「きゃあ!」
瓶を開けた途端、二人の顔にジンジャエールが噴き出した。当然だろう、さっきまで激しく空を飛びまわっていたのだから。
ジュースでべったりになった二人は顔を見合わせると、やがて笑い出した。
「あっははは! こんな酷いサプライズ初めてだよ!」
「俺様もだ! ちっきしょー、もっと慎重に飛び回るべきだったなぁ」
「問題そこじゃないし。おじさんって本当、変な人」
でも、一緒に居て楽しい人。アマンダとリサが一緒に旅しているのも、なんとなく分かる気がした。
暫く、クラフ座から景色を堪能する。明日の夜、祭りが一番盛り上がる頃、デイジーは野外ステージで神の祝詞を披露する予定だ。
でも、上手く行くか自信がない。夕方のリハーサルでも思うように歌えなかった、こんなぐらついた心じゃ、多分本番も失敗するに決まっている。
「一曲、歌おうか?」
ハワードがふいに切り出した。答えを待たず、昼間のメドレーを聞かせてくれた。
聞いていると、ハワードがどんな人なのか分かる。確固たる自信を持っていて、一切の継ぎ接ぎのない、真っすぐな芯を持った男。それがハワード・ロックだ。
どうしてそんなに自信を持てるのか、デイジーには不思議で仕方なかった。彼に比べて自分は、いつも人の目や声が気になって落ち着かない。
自分に向けられる視線は、声に継ぎ接ぎされた母の面影を追っているから。
「……おじさんさ、どうしてそんなに堂々としていられるの? あの変な女から守ってくれた時も、刺されているのに全然弱音を言わないし。パパから聞いたけど、やばい所から狙われてるんでしょ。なのにどうして笑っていられるの? 恐くないの?」
「その答えは単純さ、俺様が弱いハワードを見たくないからだよ」
ハワードはジンジャエールを一気に飲み干した。
「俺様が尊敬するのは俺様だけだ。なにしろ俺様以上に優れた奴なんざこの世に存在しないからなぁ、もし知っていたら教えてくれるかい?」
「ちょっと、真面目に答えてよ」
「俺様はいつも真面目さ、真面目だからこそ、尊敬する俺様を貶めたくないんだ。俺様が尊敬するハワード・ロックはいつでも強く、自分で決めた信念を曲げずに通し、苦しむ女を必ず守り抜く、世界で一番かっこいい男だ。俺様を好いてくれている奴らも当然、そんな最強の俺様に惹かれているんだよ。
俺様はどんな危険にさらされても、笑って軽口を叩くハワードが好きだ。誰かが危機に陥っていたら、命がけで助けに行くハワードが最高に格好良くて好きだ。最強の賢者として、己に誇りを持って生きるハワード・ロックが、俺様は大好きなんだ。
俺を見てくれる奴らも、弱いハワードなんて見たくないだろう。だから俺は妥協しないんだ。尊敬する俺を死ぬ時まで好きでいられるように、皆が大好きなハワードで居られるように。俺はずっと最高のハワード・ロックであり続けたいのさ」
彼の言葉は、よどみなく、とても力強かった。
彼は本当に、自分が好きなのだろう。でも決して自分に甘くない。自分が理想とする最高のハワード・ロックが大好きだからこそ、自分に厳しく、妥協を許さず、全力でハワード・ロックの人生を生きているんだ。
継ぎ接ぎの一切ない、輝きに満ちた心を垣間見て、デイジーは羨望の眼差しを向ける。どんな時も自分をブレずに貫き、全身全霊で生きるハワードに、尊敬すら覚えていた。
「……私って、駄目だな。おじさんと違って私、自分が嫌いだもの。何をやってもママの影がちらついて、ずっと心がママにパッチワークされていて……本当の自分がなんなのか、全然わからないんだもん」
「継ぎ接ぎなんかなっていないさ。君の心は一切混じり物のない綺麗なもんだよ」
「どうしてわかるの?」
「目を輝かせて俺様の歌を聞いていたじゃないか。あの時の君は自分を嫌う事なく、心から俺の歌に聞き惚れていた。それだけで分かるよ、君は純粋に歌が好きな、十七歳の少女だ。歌が好きだからこそ、自分の声に混じる母親の声が嫌になったんだろう。自分の好きな歌で、周りから「お前はローザじゃない」って否定されているような気になってな。
継ぎ接ぎされているとしたら、マダムじゃない。自分自身を否定しようとする、弱い自分だ。君は君自身をパッチワークしているだけなのさ」
「じゃあどうすればいいの? 弱い自分をどうすればはがせる?」
「はがすなよ、勿体ない。そんな悪い所も自分の魅力の一つなんだから。俺を見ろよ、女の尻や胸追いかけて、斧やハンマーで殴られて。そんな大人誰も褒められねぇだろ? なのに俺は、そんなハワードを嫌ってるように見えるかい? むしろ茶目っ気のある可愛いおっさんとして受け入れてるじゃねぇか」
「それ受け入れちゃいけない自分じゃないの?」
ついデイジーは笑ってしまった。ハワードも苦笑し、肩を竦める。
「人間誰しも完璧じゃない、どんなに頑張っても、絶対直せない悪い所がある。だから否定するんじゃなくて、認めるんだ。悪い自分も好きな自分の一つだって。そうすれば、次第に心の縫い目は取れていく。悪い自分もいい自分も一つになって、継ぎ接ぎのない一人の人間になるんだよ」
「おじさんが言うと、説得力がありすぎて困っちゃうな。言葉が、重いよ」
「言葉が重いのは当然さ。なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ」
言霊の重みを裏付ける、確固たる決め台詞だった。
確かに彼は、ハワード・ロックの全てを受け入れている。受け入れた上で、全部の自分を好きでいるからこそ、彼は途方もなく強いのだ。
そんな強さが、デイジーにあるのだろうか。
「これやるよ」
ハワードが丸めた羊皮紙を渡してくれた。それには、ハワードが最初に聞かせてくれた歌が載っている。
「実はその歌、タイトルがねぇんだ。ここに来る間に作った歌でね、君に聞かせた時、初めて歌った奴なんだ」
「そうなの? じゃあ……」
「あれは仮歌、作った歌詞と音程に合わせただけだ。だからそいつは、歌ってくれる人のいない、まっさらな歌なんだ。それだけに、誰がどう歌うとどんな姿を見せてくれるのか。この俺様ですら分からないのさ。だからよ、いつか聞かせてくれるかい? その白いキャンパスに、デイジーって女を全力で描いた、最高のアートをな」
「……うん、やってみたい。私も知りたい! 継ぎ接ぎされていない、本当の私を!」
ハワードから貰った、生まれたての歌。これに本当のデイジーを描いたら、どんな歌になるのだろうか。
デイジーはわくわくして、思い浮かべた。ハワードのように、自分が大好きになるデイジーの姿を。
0
あなたにおすすめの小説
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する
鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】
余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。
いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。
一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。
しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。
俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。
『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます
エリモコピコット
ファンタジー
【12/6 日間ランキング17位!】
「魔法で直せば一瞬だ。お前の手作業は時間の無駄なんだよ」
そう言われて勇者パーティを追放されたシスター、エリス。
彼女の魔法は弱く、派手な活躍はできない。 けれど彼女には、物の声を聞く『構造把握』の力と、前世から受け継いだ『DIY(日曜大工)』の知識があった。
傷心のまま辺境の村「ココン」に流れ着いた彼女は、一軒のボロ家と出会う。 隙間風だらけの壁、腐りかけた床。けれど、エリスは目を輝かせた。
「直せる。ここを、世界で一番温かい『帰る場所』にしよう!」
釘を使わない頑丈な家具、水汲み不要の自動ポンプ、冬でもポカポカの床暖房。
魔法文明が見落としていた「手間暇かけた技術」は、不便な辺境生活を快適な楽園へと変えていく。
やがてその温かい家には、 傷ついた銀髪の狼少女や、 素直になれないツンデレ黒猫、 人見知りな犬耳の鍛冶師が集まってきて――。
「エリス姉、あったか~い……」「……悔しいけど、この家から出られないわね」
これは、不器用なシスターが、壊れた家と、傷ついた心を修繕していく物語。 優しくて温かい、手作りのスローライフ・ファンタジー!
(※一方その頃、メンテナンス係を失った勇者パーティの装備はボロボロになり、冷たい野営で後悔の日々を送るのですが……それはまた別のお話)
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる