勇者パーティを引退したのに、勇者が連れ戻そうと追いかけ回してくるんだが

歩く、歩く。

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51話 勇者は来ずとも、セピアを守る賢者なら居るぜ!

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「守るべき民だと? 違うな、王が民を守るのではない。民が王を守るのだ。それを分からぬ愚か者め、貴様らは処刑だ! 市中引き回しの上頭をはね、晒し首にしてくれる!」

 キングはメイスを振り上げるなり、レベルアップドラッグを服用した。
 途端、変化が起こる。キングの体が巨大化し、同時に皮膚や肉が削ぎ堕ちた。
 巨人のような見上げる体躯になったが、キングは甲冑を着込んだ骸骨に変貌してしまう。落ちくぼんだ眼孔から赤い瞳が輝き、鋭く伸びた牙を打ち鳴らしている。

「魔物に身を窶したか。これが、塔の魔人の力か……」
「蜘蛛のように狡猾なジャック、キマイラのように自分を失ったクィーン。どうもそいつの心を反映した姿に変貌するらしいな。んで、キングは血肉を伴わない、空っぽな骸骨の王様ってわけだ。よく似合ってるぜ、ドレスアップにしちゃちょいと貧相だがね」

『ほざけ愚民。我が命は党首たるジョーカーに捧げている、我は傀儡の王、それでもかまわぬ! 貴様らはザナドゥの養分としてその血を捧げるがいい!』

 キングは雄たけびを上げた。レベルは800まで上昇し、セピアに勝てる相手ではない。
 それでも、不安はなかった。なぜなら、隣にハワードが居るから。

「俺様の血は美女の吸血鬼じゃないと捧げられないな、代わりにお前の血を捧げなよ。もっとも、中身のないしゃれこうべじゃよだれの一滴も落とせねぇけどな」

 いつもの軽口がセピアを安心させる。相手がどれほど強敵でも、ハワードは怯えないし臆さない。誰が相手でも余裕を崩さぬ強さが、背を見る人々に勇気を与えるのだ。

『賢者ハワード、貴様は党首が手を下すまでもない。このキング直々に貴様を潰し、ザナドゥの力を示してくれる!』

 キングのメイスがハワードに振り下ろされる。セピアは彼を守ろうと剣を構えるが、その前にハワードがセピアを背に回した。
 巨大化したメイスを左手一本で受け止め、彼はキングを鼻で笑った。「この程度かよ?」と言いたげな目でキングを見上げると、デコピンで穂先を粉みじんにする。あまりの衝撃にキングはたたらを踏み、しりもちをついた。

「魔人の血は飲んだ者の真実を映し出す、まさにその通りだな。お前は所詮見掛け倒しだ、外見こそ禍々しいが、中身は骸骨のようにすっからかん。そんな奴が、俺様とセピアに傷一つでもつけられると思うなよ?」
『ぐ……ふふ……まだ準備運動だ。ここからが本番よ!』

 キングは立ち上がるなりスキルを使う。【分身】で無数の仲間を生み出し、勝ち誇ったように笑いだした。

『いかに賢者が強くとも、足枷を引きずりながら戦えるはずがあるまい! 男の背に隠れ震えるだけの弱者が、まずは貴様から肉塊にしてくれる!』
「っ!」

 キングがセピアをにらむなり、途方もない不安が押し寄せてくる。
 歯がカチカチとなり、背筋が怖気だつ。自分のせいでハワードが死んでしまうのではないか、途方もない恐怖が襲ってきた。

「やっぱお前は愚か者だよ。セピアが足枷? 冗談じゃない。むしろセピアのお陰で俺様は、超絶パワーアップしてんだぜ」
「えっ?」

 セピアは思わずハワードを見上げた。ハワードはにかっと笑い、胸を叩いた。

「知ってるかい? ハワード・ロックは美女を守ると格好つけようと張り切るから、いつもの100倍強くなるのさ。君は足枷どころか、俺様の力の源なんだよ」
『だがそやつが強くなるわけではなかろう』
「はぁ……お前さん、本当にモテた事ないんだなぁ」

 ハワードはやれやれと首を振った。

「女はな、男に守られることで強くなるのさ。「この人が居るから大丈夫」って安心するから、どんな困難にも立ち向かえるようになるんだよ。イケメンの条件は顔立ちじゃなく、女にそう思わせる事が最低条件なんだ。女一人安心させられないような奴がモテると勘違いして、いきった事抜かすんじゃねぇ。俺様が断言する、セピアは弱くない。俺が見てきた中で、一番強い心を持った最高の色女だよ」

「……ハワード……!」
「恐がる事はないさマイハニー。勇者は来ずとも、セピアを守る賢者なら居るぜ。ここに一人な!」

 ハワードの声がセピアを奮い立たせる。彼女は凛とした目を見せるなり、自力でキングの言葉を打ち破った。

「……私を侮っては困るな。私はセピア・L・ソムニウム。かつて塔の魔人を打ち破った一族の末裔! 賢者と共に貴様を打ち払い、ザナドゥの野望を食い止めてみせよう!」
「ハッハー! いいねぇ盛り上がってきたぜ! さぁ、態度がデカいだけのちっせぇキングに、ナイトとビショップがチェックメイトしてやるよ!」
『ぐ……だが、たかがレベル100の女に何ができる! 所詮貴様などポーンも同然! キングを討ち取れると思うなよ!』

 キングの分身が消えていく。【透明化】で姿を消したのだ。
 当然、セピアには見えない。だけどもハワードならば、【ピット】のスキルで見る事が出来る。
 そして視覚共有を使えば、セピアにもキングの姿を捉えられる。

「ステップを合わせろハニー、俺の背から離れるな」
「了解、ダーリン」

 ハワードに合わせ、セピアは走った。
 二人で踊るようにキングの分身を掻い潜り、翻弄していく。ハワードがキングの態勢を崩した所で、セピアの剣が急所を刺す。抜群のコンビネーションを前に、空っぽの王は歯が立たなかった。

『なぜだ、賢者はともかく、なぜ女如きに勝てぬ!?』
「チェスをやった事がないのかい? 斜めに動くビショップと駒をジャンプできるナイトは、相性ばっちりなんだぜ」

 いくどかセピアに攻撃が向かっても、ハワードが全て叩き落してくれる。賢者が守ってくれるから、セピアは恐れる事無くキングへ剣を振るえる。
 やがてキングの分身は全滅し、残るは本体ただ一人。城塞は崩壊し、賢者と騎士が王手をかけた。

 ……やっぱり、ハワードと居ると安心する。

 ハワードは自他ともに認める駄目男だ。だけど彼は自分ではなく、誰かのために怒る事が出来る。困った時には必ず助けに来てくれる、世界で一番頼りになる賢者だ。

『おのれ……おのれ! セピアよ、貴様は所詮役立たずだ! 魔王との戦いでは何度も後れを取り、連戦連敗し、勇者パーティの後塵を拝するばかり! そのような下賤なる者が、このキングに触れるでないわ!』
!」

 セピアは初めて口汚い言葉を放った。人に中指を立てるのも、初めてだ。

「私は弱い、たった一人で戦える強さを持っていない。だけど……そんな私を支え、共に戦ってくれる賢者が居る。彼が居れば私は、何も恐くない! 罵倒したければ罵ればいい、嘲りたければ笑うがいい! その程度で私はもう、揺るがない! 私には……ハワード・ロックが居るのだから!」

 これまでのセピアはずっと、独りで重圧を背負っていた。けど最強の賢者が、彼女の重荷を持ってくれている。
 気付けば、幻聴も幻視も無くなっていた。周りがどんな目で見ても、もうセピアの心に不安や恐怖はない。
 周りから何を言われても、もうセピアの心は傷つかない。彼女を身を挺して守ってくれる、最愛の賢者がいるから。

『ぐ……なぜ、なぜ! なぜその男の言葉一つで、こうも強くなる!?』
「だぁからさっき言っただろ? 俺様がどんな女でも守ってしまう、超絶クールなイケメンだからだよ!」

 義手と剣を握りしめ、ハワードとセピアが駆け出した。

「女一人救えねぇ男に、王を名乗る資格はない。あの世で天使相手にナンパの練習でもするんだな!」

 セピアの斬撃がキングの首を断ち、ハワードの魔力を込めた拳が胴体を砕いた。
 ザナドゥの王を討ち取り、セピアはハワードを仰ぎ見る。賢者はウインクすると、親指を立てた。
 その姿を見るだけで、セピアも自然と微笑んだ。やっぱりハワードは、人を安心させる。
 だからこそセピアは、彼に恋してしまったのだ。

 刹那、大気が振動した。
 驚き、空を見やる。ザナドゥの飛空艇を中心に、強大な力があふれていた。

『く、くくっ……これで、勝ったと思うなよ』

 頭だけになったキングが、二人を嘲笑った。

『我は、時間稼ぎをしたまでだ。今頃儀式は終わった頃だろう、最早ハワードであろうとも、塔の魔人の復活を止める事は出来まい……この勝負、このキングの勝利だ! 党首様! どうか……ザナドゥの悲願を達成してくださいませ!』
「負け惜しみはみっともないぜ、とっとと天国への直行便に乗り込みな。俺様の奢りだ」

 ハワードはキングを踏みつぶし、空を見やった。

「悪いがバッドエンドは無いんだよ。このハッピーエンド請負人である俺様が居る限り、絶対な」
「ハワード……」
「はいはい、そんなしょぼくれた顔しないの。それに何にも心配する必要ないって。皆と一旦合流するぞ、ついてきな」
「あ、ああ……」

 非常事態なのに、ハワードは全く慌てた様子がない。むしろ子供のように目を輝かせて、舞い込んだハプニングを楽しんでいる。
 そんな彼を見ているだけで、自然とセピアから不安が消え去っていた。
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