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63話 壮大な自作自演
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―ピョエエエエエ!
エサをねだるひな鳥のような鳴き声だ。デカい図体に似合わず可愛らしく囀る巨鳥だぜ。
「そんなにエサが欲しいなら、畑でバッタか青虫でも探してこい。ジューシーな奴が食べ放題だぞ」
―ピィィィヤアアアッ!
「焦んなよ、慌てなくてもちゃんと遊んでやるぜ。お喋りでも教えてやろうか? ならまずは「こんにちは」からマスターしてもらおうかい!」
テンペストを思い切り蹴り上げ、上空へ吹っ飛ばす。地上で戦えば、エアロタウンが消し飛びかねない。フウリちゃんの大事な場所だ、きちんと守ってやらねぇとな。
俺様はジャンプでテンペストと目線を合わせた。こうしてみると、随分空っぽな瞳をしてやがる。魂が抜けたような、生気を感じない目だ。
「いいや、逆かな。こいつは元から魂がない」
賢者だからこそ分かる感覚だ。このテンペストは誰かが作り出したハリボテ、張り子のトラだ。だけども能力その物はオリジナルを超えているようだな。
「見た所レベル600か、テンペストの平均レベルは300だから、二倍になっているわけだな。それでも俺様の敵じゃあねぇがよ! てことでとっととぶっ倒してやるか!」
―ピョエッ!
テンペストがはばたきで竜巻を起こしてくる。【旋風】のスキルか、大した物持ってるぜ。
ま、回避してやるがな。俺様の脚力ならば、蹴りの反動で空を走れるんだ。鳥よりも自由に動く大賢者様に、地上のオーディエンスも大歓声だ。
―ピョッ!
「っと、動きを先読みしてきたか。確かテンペストは空気の動きで、未来予知ができるんだったな」
避けた先に嘴で突き刺そうと襲ってくる。あーどーしよー大ピンチだわー危ないわー。
「【分身】!」
だから助けて、もう一人の俺ちゃん!
足元に分身を出して、背中を蹴る。分身による切り替えしは予知できなかったのか、豪快に空振りして体勢を崩した。
旋回し、再び俺様に突撃だ。ま、未来を呼んでも当てるなんて無理なんですけどね。
「回避よろしく」
『まかせな!』
再び出した分身に体を引っ張ってもらい、またしても華麗に回避だ。面白いぜこのスキル、アクロバットが自由自在に楽しめらぁ♪
―ピィィィィ!
「狙いを地上に変えたか、アマンダたん達を狙うとは賢いな」
俺様が相手でなければ最善手だったな。
テンペストが起こす嵐を、雷で相殺していく。ここはフウリちゃんの大事な箱庭なんだ、傷は勿論、お前の爪先に至るまでつけさせやしない。
「加えて本物のテンペストを痛めつけた報い、きちんと受けてもらうぞ」
お前は聖獣じゃない、魔物の一種だ。命を弄ぶ存在を許すわけにはいかねぇな。
奴の攻撃を徹底的に弾き飛ばし、胸に指を押し付ける。んでもって【シードライフル】
を接射し、貫通させた。
テンペストがけたたましい叫び声をあげる。あと一発受ければおしまいだな。
―ピャオオオオッ!
悪あがきのつもりか、俺様を避けて地上へ突進していく。その先には……フウリちゃん達が。
「させねぇよ」
極上のメインディッシュである俺様を前にして、オードブルのつまみ食いを許すわけねぇだろうが。死ぬ間際まで味わってもらうぜ、賢者ハワードの味をな。
その時だった。
「危ないっ!」
フウリちゃん達の前に人影が躍り出て、テンペストの攻撃を受け止めた。そいつの正体は……。
「エルマーさん!?」
「よかった……間一髪と言った所ですね」
敬愛のエルマーとやらが盾になり、ハワードガールズを助けてくれた。
「賢者ハワード、テンペストを!」
「……はいよ」
テンペストをとっ捕まえ、義手を押し付ける。ジョーカーよ、お前からのプレゼントを楽しませてもらうぜ。
「【吸魂】」
塔の魔人が持っていた、魂を奪うスキル。こいつでテンペストの魂を奪い取り、俺様の血肉へ変えていく。
骨はおろか血の一滴も残さず、巨鳥が消え去った。敵ながらら有効かつGoodなスキルだぜ。
「やっぱ腐っても太古の魔人だ、今の義手の機能じゃ完全再現できねぇか」
「むぅ……でもそれって、その義手にも伸びしろがあるって事じゃない。やりがいあるわ」
リサちゃん達がやってきた。フウリちゃんの大事な宝物には、当然のごとく傷はない。
流石は俺様、被害ゼロで済ますとは。
「しかし、エルマーさんが重傷です。右腕が、酷く損傷しています」
「はは、私ではテンペストの力を受けきれなかったようですね。しかし、お嬢さん方に怪我がなくてよかった」
仮面越しにエルマーが苦笑した。フウリちゃんは心配そうに奴を見て、
『ハワード、こやつを助けてはくれぬか? わらわ達を助けた恩人じゃ、捨て置けぬ』
「……そうだな、助けてやるか。痛みを感じねぇようにしてやるよ」
フウリちゃんらを奴から離し、指を突きつける。敵意満々の俺様に驚いたか、リサちゃんが腕を引っ張った。
「ちょっとハワード、何してんの! その人は私達を助けてくれたんだよ?」
「自作自演でな。全員こいつから離れろ」
「自作自演? はて、何のことでしょう」
「バレねぇとでも思ったか、演技が大根過ぎるんだよハム野郎。初っ端会った時のセリフで、大まか裏は見えていたよ」
「ほう、私はなんて言いましたっけ」
「ええ、是非そうしてください。私も早期の解決を待っています」
「それの、何が?」
「何が「そうしてください」なんだ? あの時点で俺様達は、精霊達の病を治しに来たとは誰にも言っていないんだ。リサの話と噛み合ってねぇんだよ。それに俺様達を随分付け回していたじゃないか、わざわざ住民に変装してよ」
「変装? いつ、私達の傍に来たのですか?」
「思い出しなよアマンダ、精霊の病を治した後、町の様子を見て回っただろう? その時、宿に泊まっていけと抜かした奴がいたじゃないか」
「……そう言えば、変な発言ですね」
「なんで? 別に普通じゃ」
「リサさん、エアロタウンに宿はありませんよ」
フウリちゃんも言っていたしな、確かにあの町には宿がねぇ。なのにどうして、住民が不自然な事を平気で抜かせるんだ。
「ついでに、こいつを聞きな。音を記録する魔石が残したセリフだぜ」
『貴方は本当に素晴らしい、世界最高の賢者です』
「おっと?」
『貴方はもっと世に広まるべき至高の賢者、より名を高めるべき世界の宝。だからこそ私が貴方を磨き上げます。貴方の価値をより高め、貴方をさらなる唯一無二にするために』
「それは、私が零した独り言、ですね」
「もう隠すつもりもねぇか。【透明化】と【分身】を利用して、二重尾行させてもらったぜ。余計な気配がずっと尾けていたのは分かっていたからな。んでもって、きちんとこの目で確かめたよ。紫のオーラに囚われている、テンペストの姿をな」
「…………」
「お前だろ、風の精霊に呪いをかけやがったのは」
『な、んじゃと……!?』
フウリが青ざめた。アマンダも斧を持ってリサを背に隠している。
「素晴らしい、流石はハワード・ロックです。私の小賢しい浅知恵では、貴方に到底かなわない。本当に貴方は、世界最高の賢者だ」
「陰気なマスカレードに褒められてもな、せめて男装した美女だと言ってほしいもんだぜ」
「あいにく私は男です。ですが、貴方の事は心から尊敬し、敬愛し、尊重しています。ハワード・ロック」
恭しく首を垂れるエルマーからは、純粋な敬意が伝わってきた。裏表もなく真っすぐに、こいつは俺を尊敬している。邪な感情など、一切感じなかった。
それどころか、慈愛の心すら感じる。傍に居て安心してしまう優しさが奴から漂っていた。
『い、異常じゃ貴様……そこまでの慈愛を持っていながら……どうして、どうしてわらわ達を呪える! なぜ大勢の精霊を傷つけられるのじゃ!』
「ああ、それは私がハワード・ロックに会いたかったからです」
「俺様に会いたかった?」
「ええ。噂に名高い勇者カインの師匠にして、勇者パーティの賢者ハワード。そんな誰もが憧れる英雄に会いたいのは、当然の心境でしょう。そして同時に、賢者が活躍する姿を見てみたい。それもまた、英雄に憧れる者の心理でしょう。ですから私は精霊達に協力してもらったのです。精霊に呪いを掛ければ、当然大精霊であるフウリ様が動くでしょう。貴方を捕らえ、アザレア王国のマフィアに渡せば、当然賢者も動くでしょう。さらにテンペストの複製たる魔物を暴れさせれば、当然賢者は戦うでしょう」
『そんな、憧れのために、これだけの事をしでかしたのか?』
「はい。貴方が行く先を導き、敬愛する貴方と出会い、そして憧れの貴方の活躍を見る事が出来た。この上ない幸福です。風の大精霊フウリ様、私をハワード・ロックに会わせていただき、そして彼の輝かしい活躍を見せていただき、誠にありがとうございます」
……皮肉も感情も、何もない。純粋な感謝だった。
こいつには、悪意が全く存在しない。いや、それだけでなく感情もない。声色から何にも感じない、空っぽの残骸のような奴だ。
「なぜ、私達をかばったのですか? 自作自演までして己を痛めつける理由がわかりません」
「失礼しましたアマンダ嬢。私は少しでも敬愛するハワードの心が知りたく思い、彼が大事にしている方々を、右腕を犠牲に守ろうと思ったのです。しかし、まだです。貴方の愛する賢者の痛みは、この程度ではない。もっと、彼の痛みはもっと、強かったはず」
言うなりエルマーは自ら右腕をもぎ取った。ちょっとこいつはパンク過ぎるぜ。
「リサ、見るな。俺の後ろに隠れろ」
「う……あ、ありがと、ハワード」
「いえ、リサ嬢には見ていただきたい物があるのです。この義手を見てください、貴方が制作した物と同じはずです」
奴が取り出したのは、俺様と同型の義手。完全そっくりに再現された代物だった。
「それ、私が作った奴!?」
「を私なりに再現した物です。しかし、あくまで外見を似せただけにすぎません。貴方がハワードのために費やした情熱、敬意、寵愛。その全てが圧倒的に足りなさすぎる。貴方は本当に素晴らしい職人です。ですがこれを付ける事で私は、ハワードのみならずリサ嬢の想いすら理解する事が出来るのです」
エルマーは躊躇う事なく義手を付け、俺様と右腕がペアルックになる。ハリボテでも、自分と同じ腕を持ってる奴を見るのは我慢ならねぇな。
『く、狂っておる……貴様、本当に人間か……?』
「どうでしょう。自身の行いが異常な事は自覚していますから、その上で動く私は体はともかく、精神は人間ではないのかもしれません。しかしこれも、ハワードへの敬意がなせる業です。ですが、やはりまだ分からない。賢者ハワードがどのような想いで生き、どのような意志をもって生きているのか。それを知るには、まだ足りません。もっと、貴方の欠片をかき集めて、寄せ集めて、世界の誰よりも貴方を知り尽くしたいのです」
「そんなに俺様の事を知って、ミュージアムでも作る気かい? 俺様の彫刻を作るのは勝手だが、やり口が気に入らねぇ。俺様を呼ぶためにお前、幾人の精霊を泣かせた? テンペストにどんな暴行を働いた? フウリちゃんにどれだけの涙を流させた? 人の魂や誇りを汚し、傷つけ、踏みにじるてめぇを、断じて許すわけにはいかねぇな!」
【触手】をエルマーに飛ばすも、奴は転移の魔法で消えてしまう。後に残るは、手紙だけ。
「『レイクシティで待っています』か。随分とクレイジーな恋文を残してくれたもんだな」
感情を完全に失った、ただ生きるだけの残骸か。とんだイカレポンチに目を付けられたもんだぜ。
エサをねだるひな鳥のような鳴き声だ。デカい図体に似合わず可愛らしく囀る巨鳥だぜ。
「そんなにエサが欲しいなら、畑でバッタか青虫でも探してこい。ジューシーな奴が食べ放題だぞ」
―ピィィィヤアアアッ!
「焦んなよ、慌てなくてもちゃんと遊んでやるぜ。お喋りでも教えてやろうか? ならまずは「こんにちは」からマスターしてもらおうかい!」
テンペストを思い切り蹴り上げ、上空へ吹っ飛ばす。地上で戦えば、エアロタウンが消し飛びかねない。フウリちゃんの大事な場所だ、きちんと守ってやらねぇとな。
俺様はジャンプでテンペストと目線を合わせた。こうしてみると、随分空っぽな瞳をしてやがる。魂が抜けたような、生気を感じない目だ。
「いいや、逆かな。こいつは元から魂がない」
賢者だからこそ分かる感覚だ。このテンペストは誰かが作り出したハリボテ、張り子のトラだ。だけども能力その物はオリジナルを超えているようだな。
「見た所レベル600か、テンペストの平均レベルは300だから、二倍になっているわけだな。それでも俺様の敵じゃあねぇがよ! てことでとっととぶっ倒してやるか!」
―ピョエッ!
テンペストがはばたきで竜巻を起こしてくる。【旋風】のスキルか、大した物持ってるぜ。
ま、回避してやるがな。俺様の脚力ならば、蹴りの反動で空を走れるんだ。鳥よりも自由に動く大賢者様に、地上のオーディエンスも大歓声だ。
―ピョッ!
「っと、動きを先読みしてきたか。確かテンペストは空気の動きで、未来予知ができるんだったな」
避けた先に嘴で突き刺そうと襲ってくる。あーどーしよー大ピンチだわー危ないわー。
「【分身】!」
だから助けて、もう一人の俺ちゃん!
足元に分身を出して、背中を蹴る。分身による切り替えしは予知できなかったのか、豪快に空振りして体勢を崩した。
旋回し、再び俺様に突撃だ。ま、未来を呼んでも当てるなんて無理なんですけどね。
「回避よろしく」
『まかせな!』
再び出した分身に体を引っ張ってもらい、またしても華麗に回避だ。面白いぜこのスキル、アクロバットが自由自在に楽しめらぁ♪
―ピィィィィ!
「狙いを地上に変えたか、アマンダたん達を狙うとは賢いな」
俺様が相手でなければ最善手だったな。
テンペストが起こす嵐を、雷で相殺していく。ここはフウリちゃんの大事な箱庭なんだ、傷は勿論、お前の爪先に至るまでつけさせやしない。
「加えて本物のテンペストを痛めつけた報い、きちんと受けてもらうぞ」
お前は聖獣じゃない、魔物の一種だ。命を弄ぶ存在を許すわけにはいかねぇな。
奴の攻撃を徹底的に弾き飛ばし、胸に指を押し付ける。んでもって【シードライフル】
を接射し、貫通させた。
テンペストがけたたましい叫び声をあげる。あと一発受ければおしまいだな。
―ピャオオオオッ!
悪あがきのつもりか、俺様を避けて地上へ突進していく。その先には……フウリちゃん達が。
「させねぇよ」
極上のメインディッシュである俺様を前にして、オードブルのつまみ食いを許すわけねぇだろうが。死ぬ間際まで味わってもらうぜ、賢者ハワードの味をな。
その時だった。
「危ないっ!」
フウリちゃん達の前に人影が躍り出て、テンペストの攻撃を受け止めた。そいつの正体は……。
「エルマーさん!?」
「よかった……間一髪と言った所ですね」
敬愛のエルマーとやらが盾になり、ハワードガールズを助けてくれた。
「賢者ハワード、テンペストを!」
「……はいよ」
テンペストをとっ捕まえ、義手を押し付ける。ジョーカーよ、お前からのプレゼントを楽しませてもらうぜ。
「【吸魂】」
塔の魔人が持っていた、魂を奪うスキル。こいつでテンペストの魂を奪い取り、俺様の血肉へ変えていく。
骨はおろか血の一滴も残さず、巨鳥が消え去った。敵ながらら有効かつGoodなスキルだぜ。
「やっぱ腐っても太古の魔人だ、今の義手の機能じゃ完全再現できねぇか」
「むぅ……でもそれって、その義手にも伸びしろがあるって事じゃない。やりがいあるわ」
リサちゃん達がやってきた。フウリちゃんの大事な宝物には、当然のごとく傷はない。
流石は俺様、被害ゼロで済ますとは。
「しかし、エルマーさんが重傷です。右腕が、酷く損傷しています」
「はは、私ではテンペストの力を受けきれなかったようですね。しかし、お嬢さん方に怪我がなくてよかった」
仮面越しにエルマーが苦笑した。フウリちゃんは心配そうに奴を見て、
『ハワード、こやつを助けてはくれぬか? わらわ達を助けた恩人じゃ、捨て置けぬ』
「……そうだな、助けてやるか。痛みを感じねぇようにしてやるよ」
フウリちゃんらを奴から離し、指を突きつける。敵意満々の俺様に驚いたか、リサちゃんが腕を引っ張った。
「ちょっとハワード、何してんの! その人は私達を助けてくれたんだよ?」
「自作自演でな。全員こいつから離れろ」
「自作自演? はて、何のことでしょう」
「バレねぇとでも思ったか、演技が大根過ぎるんだよハム野郎。初っ端会った時のセリフで、大まか裏は見えていたよ」
「ほう、私はなんて言いましたっけ」
「ええ、是非そうしてください。私も早期の解決を待っています」
「それの、何が?」
「何が「そうしてください」なんだ? あの時点で俺様達は、精霊達の病を治しに来たとは誰にも言っていないんだ。リサの話と噛み合ってねぇんだよ。それに俺様達を随分付け回していたじゃないか、わざわざ住民に変装してよ」
「変装? いつ、私達の傍に来たのですか?」
「思い出しなよアマンダ、精霊の病を治した後、町の様子を見て回っただろう? その時、宿に泊まっていけと抜かした奴がいたじゃないか」
「……そう言えば、変な発言ですね」
「なんで? 別に普通じゃ」
「リサさん、エアロタウンに宿はありませんよ」
フウリちゃんも言っていたしな、確かにあの町には宿がねぇ。なのにどうして、住民が不自然な事を平気で抜かせるんだ。
「ついでに、こいつを聞きな。音を記録する魔石が残したセリフだぜ」
『貴方は本当に素晴らしい、世界最高の賢者です』
「おっと?」
『貴方はもっと世に広まるべき至高の賢者、より名を高めるべき世界の宝。だからこそ私が貴方を磨き上げます。貴方の価値をより高め、貴方をさらなる唯一無二にするために』
「それは、私が零した独り言、ですね」
「もう隠すつもりもねぇか。【透明化】と【分身】を利用して、二重尾行させてもらったぜ。余計な気配がずっと尾けていたのは分かっていたからな。んでもって、きちんとこの目で確かめたよ。紫のオーラに囚われている、テンペストの姿をな」
「…………」
「お前だろ、風の精霊に呪いをかけやがったのは」
『な、んじゃと……!?』
フウリが青ざめた。アマンダも斧を持ってリサを背に隠している。
「素晴らしい、流石はハワード・ロックです。私の小賢しい浅知恵では、貴方に到底かなわない。本当に貴方は、世界最高の賢者だ」
「陰気なマスカレードに褒められてもな、せめて男装した美女だと言ってほしいもんだぜ」
「あいにく私は男です。ですが、貴方の事は心から尊敬し、敬愛し、尊重しています。ハワード・ロック」
恭しく首を垂れるエルマーからは、純粋な敬意が伝わってきた。裏表もなく真っすぐに、こいつは俺を尊敬している。邪な感情など、一切感じなかった。
それどころか、慈愛の心すら感じる。傍に居て安心してしまう優しさが奴から漂っていた。
『い、異常じゃ貴様……そこまでの慈愛を持っていながら……どうして、どうしてわらわ達を呪える! なぜ大勢の精霊を傷つけられるのじゃ!』
「ああ、それは私がハワード・ロックに会いたかったからです」
「俺様に会いたかった?」
「ええ。噂に名高い勇者カインの師匠にして、勇者パーティの賢者ハワード。そんな誰もが憧れる英雄に会いたいのは、当然の心境でしょう。そして同時に、賢者が活躍する姿を見てみたい。それもまた、英雄に憧れる者の心理でしょう。ですから私は精霊達に協力してもらったのです。精霊に呪いを掛ければ、当然大精霊であるフウリ様が動くでしょう。貴方を捕らえ、アザレア王国のマフィアに渡せば、当然賢者も動くでしょう。さらにテンペストの複製たる魔物を暴れさせれば、当然賢者は戦うでしょう」
『そんな、憧れのために、これだけの事をしでかしたのか?』
「はい。貴方が行く先を導き、敬愛する貴方と出会い、そして憧れの貴方の活躍を見る事が出来た。この上ない幸福です。風の大精霊フウリ様、私をハワード・ロックに会わせていただき、そして彼の輝かしい活躍を見せていただき、誠にありがとうございます」
……皮肉も感情も、何もない。純粋な感謝だった。
こいつには、悪意が全く存在しない。いや、それだけでなく感情もない。声色から何にも感じない、空っぽの残骸のような奴だ。
「なぜ、私達をかばったのですか? 自作自演までして己を痛めつける理由がわかりません」
「失礼しましたアマンダ嬢。私は少しでも敬愛するハワードの心が知りたく思い、彼が大事にしている方々を、右腕を犠牲に守ろうと思ったのです。しかし、まだです。貴方の愛する賢者の痛みは、この程度ではない。もっと、彼の痛みはもっと、強かったはず」
言うなりエルマーは自ら右腕をもぎ取った。ちょっとこいつはパンク過ぎるぜ。
「リサ、見るな。俺の後ろに隠れろ」
「う……あ、ありがと、ハワード」
「いえ、リサ嬢には見ていただきたい物があるのです。この義手を見てください、貴方が制作した物と同じはずです」
奴が取り出したのは、俺様と同型の義手。完全そっくりに再現された代物だった。
「それ、私が作った奴!?」
「を私なりに再現した物です。しかし、あくまで外見を似せただけにすぎません。貴方がハワードのために費やした情熱、敬意、寵愛。その全てが圧倒的に足りなさすぎる。貴方は本当に素晴らしい職人です。ですがこれを付ける事で私は、ハワードのみならずリサ嬢の想いすら理解する事が出来るのです」
エルマーは躊躇う事なく義手を付け、俺様と右腕がペアルックになる。ハリボテでも、自分と同じ腕を持ってる奴を見るのは我慢ならねぇな。
『く、狂っておる……貴様、本当に人間か……?』
「どうでしょう。自身の行いが異常な事は自覚していますから、その上で動く私は体はともかく、精神は人間ではないのかもしれません。しかしこれも、ハワードへの敬意がなせる業です。ですが、やはりまだ分からない。賢者ハワードがどのような想いで生き、どのような意志をもって生きているのか。それを知るには、まだ足りません。もっと、貴方の欠片をかき集めて、寄せ集めて、世界の誰よりも貴方を知り尽くしたいのです」
「そんなに俺様の事を知って、ミュージアムでも作る気かい? 俺様の彫刻を作るのは勝手だが、やり口が気に入らねぇ。俺様を呼ぶためにお前、幾人の精霊を泣かせた? テンペストにどんな暴行を働いた? フウリちゃんにどれだけの涙を流させた? 人の魂や誇りを汚し、傷つけ、踏みにじるてめぇを、断じて許すわけにはいかねぇな!」
【触手】をエルマーに飛ばすも、奴は転移の魔法で消えてしまう。後に残るは、手紙だけ。
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(※一方その頃、メンテナンス係を失った勇者パーティの装備はボロボロになり、冷たい野営で後悔の日々を送るのですが……それはまた別のお話)
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
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「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
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無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
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