勇者パーティを引退したのに、勇者が連れ戻そうと追いかけ回してくるんだが

歩く、歩く。

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68話 湖上の授業

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 美女を乗せてボートで湖を遊覧する、なんて優雅なひと時なんでしょう。
 片腕だからオールは漕げねぇが、風魔法を使えばボートくらい簡単に動かせる。アマンダたんが落ちないよう気を付けつつ、ザンドラ湖の探索を楽しんだ。

「聖書では澄み切った湖とあったのですが、ずいぶん濁っていますね」
「そりゃ大昔の書記だからな、時代の流れとともに変わるものさ」
「残念な話です。そうだハワード、あの浮島にある大樹、もっと近くで見てみたいです」
「あいきた、わかったから船首から身を乗り出さないでくれ、落っこちちまうぞ」
「ハワードがいるから問題ありませんよ」
「信頼されて俺ちゃん嬉しいぜ。やっぱ君俺様の事大好きだろ」

 アマンダたんは何も言わず微笑んでくれる。返事はそんだけで充分だ。
 さて、浮島に近づいてみると、樹木の大きさに息を呑んだ。見た所樹齢千年を超えているようで、どっしりと根を張り、力強く幹を伸ばした、生命力にあふれた樹木だ。
 その幹の真ん中には、台座が置かれている。そこにゃあ随分と古ぼけた剣が、蔓に巻き疲れながら安置されていた。

「なんでしょう、あの剣。この距離でも強い魔力を感じますが」
「聖書を読んでいるなら分かるはずだぜ、ありゃあ聖典に名高い聖剣さ」
「聖剣、エーデルワイスですか?」

「目が輝いたねぇ。そのとおり、千年前に「神の加護」を宿した勇者が使った、絶望の魔女を倒した聖剣だよ。少し授業でもしてみようか。
 かつてガーベラを滅ぼそうと、悪逆の限りを尽くした者が居た。そいつの名は「絶望の魔女アリス」。伝承では、人の死に様や断末魔を何よりも好む悪辣な女だったそうだな。
 その魔女を倒すべく、勇者アーサーは四匹の聖獣を従え戦い、打ち倒した。それがこの国の名前にもなったんだよ。
 んでこのザンドラ湖はアリスとアーサーが戦った場所だとも言われている。あの剣は魔女を倒した後に力付きた勇者が遺した物だそうだ」

「あれが噂に名高い聖剣とは、この目に見れて感激です。「神聖なる力で大いなる湖を守護している」とされていますが、ザンドラ湖が舞台だったのですね。それに選ばれた者しか抜くことができないとも聞きました」
「ジョーカーの時と同じ理屈だろうさ、「神の加護」を持った奴じゃなけりゃ触る事すら出来ねぇんだろうよ。それともう一つ、この湖には剣を守る守護者がいる。そいつのお陰でレイクシティは繁栄しているのさ」
「守護者……水の聖獣サロメですね」

「はいまたまた正解、優秀な生徒を持って先生嬉しいぜ」
「勿論です。勇者と契約したと言われる聖獣の一角ですから。勇者の剣を守るべく、この地に住んでいるのですよね」

 アマンダたんが話してくれた通り、このザンドラ湖には水の聖獣サロメが生息している。まぁ生息しているつっても、目撃した奴は今じゃ少なくなったらしいがな。

「昔は聖剣を盗もうとした奴が沢山いたから、そりゃもう一生懸命働いていたらしいぜ。最近じゃ懲りたのかめっきり来なくなったが、それでも水面の底で狼藉を働く者が居ないかどうか見張り続けているそうだ」
「ガーベラ聖国、こうまで神秘的な物語に満ちているなんて。ですが……」
「前のパターンを考慮すりゃあ、今度はサロメと聖剣をネタに暴れるつもりだろうぜ。敬愛のエルマー、大した創作家だ」

 エルマーが残した恋文を見てみる。『レイクタウンで待ってます』なんて言ってた割りには、今の所姿を見せねぇな。

「つかあいつ、遊び心あるな。見ろよ手紙のわきっちょ。カインのイラスト書いてやがる」
「本当ですね。しかも結構可愛らしく描けてます、見ようによっては女の子ですね」
「思わず見とれちまったぜ」

 ……割と悪ふざけが好きなファニー野郎だ。ちょっと憎めねぇな。

  ◇◇◇

「さーて、ボートも堪能したし、次はなーにすっかなー」
「たまには服でも見てはいかがです? 貴方の服、そろそろ替え時ですよ」
「あー、確かに。アマンダたんに殴られたり締め技食らったり投げ飛ばされたり崖から落とされたりで結構ガタ来てるからなぁ。ねぇアマンダたん」
「さてなんの事でしょう」
「主に君に乱暴されたせいでボロになったんだけどねこの服」

 ま、服装変えて気分一新するのも悪かねぇさ。田舎国のブティックがどんなもんか、少し不安ではあるけどな。
 てなわけで服屋へ行こうとした時だった。

「おい待ちなおっさん」
「あん? さっきの小僧どもか。お仕置きされに戻ってきたのか、途中でちびらねぇようにおむつの準備は出来てんだろうな」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる。さっきの借りを返しに来てやったぜ」
「というわけで、マーリン様! こいつです、俺達に狼藉を働いたのは」

 おやおや、助っ人を呼んできたわけか。どんな奴を連れてきたのか興味深いぜ。
 なんて構えていたらだ。奴らはとんでもない奴を助っ人に呼んでいやがった。
 切れ長のクールな眼差しがたまらん、Aカップのスレンダー体型の美女だ。神々しい装束を着こんでいるから、それなりの地位に居るのが伺えるぜ。セミロングの金髪もbeautiful。
 し・か・も! 特徴的なとんがりイヤー……彼女はエルフじゃねぇか!

「俺達はただ声をかけただけなのに、いきなり殴りかかってきて……こんな奴らとっとと街から追い出してくださいよ!」
「成程、事情は把握しました」

 マーリンちゃんはため息をつくと、あろうことか呼んできたガキどもに平手打ちをかました。

「ガレス、嘘を言うのはこれで何度目ですか? あの方の額にある打撃痕を見ればわかります、貴方達が先に手を出したのでしょう! 腕を失っている方に暴力を振るなんて、人として恥ずかしくないのですか!」
「そういえばその傷……いつの間に? さっきまでなかったはずでは?」
「へっへっへ、【擬態】で傷跡を偽装したのさ」

 悪ガキの浅知恵を先読みするくらい簡単さ、賢者だし。

「謝るのは貴方達です、私も頭を下げますから一緒に謝罪しますよ! 旅の方、本当に申し訳ありません。当方が出した被害に関してはきちんと補填しますので」
「気にすんなって、子供のじゃれ合いに付き合うのも大人の役目だからよ。ま、遊び相手は慎重に選べよボーイ達」

 にこやかに言ってやりゃあ、悪ガキどもは途端にすくみあがった。仏の顔も三度までってことわざ、後で教えておかにゃあならんな。

「して、マーリンちゃんでいいんだっけ?」
「はい。私はアンブローズ・マーリン。長いのでマーリンとお呼びください」
「オッケーマーリンちゃん。んじゃあ謝罪代わりに一つ、聞いて欲しいお願い事があるんだけど」
「なんなりとお申し付けください」
「今すぐ人目のつかない森の奥で俺様とお突き合いして頂戴な♡」
「カモン、がるる」

―がるるっ!

 言った直後、アマンダたんが指笛吹いてがるるを呼びつけた。

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