ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~

歩く、歩く。

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24羽目 白色レグホンの弁慶さん

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 私の目覚めは、ニワトリさんの鳴き声から始まります。
 朝4時に「コケコッコー!」の鳴き声が響くなり、一緒に起きます。あくびをしながら一緒にご飯を食べ、朝のお散歩へ向かいます。
 1時間のお散歩を終えてから、ご主人様はお仕事の仕込み、私は匂いを嗅いで、味に変化がないかどうかをチェックします。

「わんっ!」
「ん、匂いが薄いか? ちょっと野菜が多かったかな、ありがとな」

 ちょっとでも変化があると、こうしてご主人様へ教えます。不思議な事に、私の吠え方で味の変化が分かるみたいなんです。
 ご主人様と一緒に仕込みを終えたら、一旦休憩です。慌ただしいながらも楽しい、朝の時間。これが私とご主人様のモーニングルーティンです。
 私も手伝いを終えたらもう一度お休みします。この朝のひと眠りが至福のひと時なんで……。

「うおおおおおお!」
「すごっ!?」

 いきなり頭に飛び蹴りを食らいました。爪が突き刺さって痛いです。
 雄たけびを上げながら蹴り飛ばすなんて、誰なんでしょうか。乱暴者ですねぇ。

「汝が当エリアの顔役、ゴールデンレトリバーのべぇと申すものか?」

 古風な口調でそう言うのは、ニワトリさんです。
 立派な赤い鶏冠が目を引く、白色レグホンの弁慶さんですね。地面をカツカツと蹴って、翼を広げて体を大きく見せています。

「申すものと言いましても、いつもお顔を合わせていますよね」
「雰囲気づくりを知らぬのか。まぁいい。本日は汝に決闘を挑みたい。いざ尋常に勝負!」
「お断りします」
「なぜだ、我が滾りに滾った闘争本能をどうしてくれるのだ、貴様!」
「私は喧嘩が苦手なんです」

 弁慶さんはこの近辺の朝の号令を出している方なのですが、闘争本能の塊みたいな人でして。時たま私と戦おうとしてくるんです。
 ニワトリさんと侮る事なかれ、レグホン流武術なる格闘技を修めているそうでして、私なんかあっという間に倒されてしまいます。

「我が武術に新たに生み出された技を受け、コンクリートの大地に沈むがいい」
「嫌です」
「問答無用!」
「そうはさせるか!」

 とびかかってきた弁慶さんの横から、ちゃこさんさんが体当たりで止めました。
 両者転がりながらもバック宙で体勢を立て直し、臨戦態勢に入ります。なんでしょう、このアクション映画みたいなアクロバット。

「あんたね、相手の迷惑も考えないで何やらかしてんのよ」
「笑止、強き者とぶつかり合うのが武人たるもの。この滾る闘争本能、貴様が収めてくれるとでもいうのか?」
「はん、やろうってんなら相手になるわよ。私だって伊達にこの辺りのボス猫を気取ってるわけじゃないんだから」
「いえボス猫はマリンダさんという方がいらっしゃるのですが」
「よかろう、ならば顔役代理として貴様の命! この弁慶がもらい受ける!」
「すいません、誰かこの方々止めていただけませんか?」

 私では収拾がつかなくなってきました。このままではどちらかが動物病院行きになってしまいます。

「レグホン流師範代弁慶!」
「花屋サンフラワーの飼い猫ちゃこ!」
『いざ尋常に勝負!』
「店の前で何喧嘩してんだお前達!」

 ぶつかり合うまさに直前、ご主人様がお二人の首根っこを掴んで止めてくれました。

  ◇◇◇

「うぬうぅぅぅ……我が身を一つかみで止めるとはやるな人間! 汝こそ我が好敵手に相応しい」
「私のご主人様を傷つけるのはやめてください」

 ご主人様に危害を加えるというのなら、例え負けるとしても私も立ち向かいます。
 弁慶さんはまだ暴れたりないようで、あちこちにキックを振りかざしています。このままではまた誰かに攻撃を仕掛けてしまうでしょう。
 となれば、この商店街一番の武闘派を紹介するしかありません。

「ちゃこさんさん、マリンダさんの所へ向かいましょう」
「そうね、あの方ならこのド阿呆も大人しくなるだろうし」
「なんだと? 我が武術を試すに値する者が居るというのか」
「ついてきなさい、この商店街の裏ボスを教えてあげるわ」

 私の知る限り、あにまる商店街で最も強い方はボス猫のマリンダさんです。
 マリンダさんのお宅の古本屋へ向かうと、丁度日向ぼっこをしていました。真っ白な毛をもつ、ずんぐりむっくりとした猫さんです。
 マリンダさんは金色の目を向けて、あくびをします。私より年上の猫さんでして、御年10歳を迎えたベテランです。

「べぇに、ちゃこに、へぇ、弁慶か。さしずめ、そこの暴れん坊をどうにかしてほしくて私にすがりにきた。そんな所かい?」
「さすがはマリンダさん、全部お見通しね」
「お前が私を差し置いてボス猫を名乗ったのもお見通しだからね」
「……さすがまりんださん……」

 普段強気なちゃこさんさんも、マリンダさんにはたじたじです。

「弁慶、お前の噂なら聞いているよ。誰彼構わず喧嘩を売る暴れん坊。その実態は自分を武人と勘違いしたドン・キホーテ、ようはただのイカレポンチだ」
「我がイカレポンチだと? 貴様、我を愚弄する気か!」
「本当の事を言っただけだよ。井の中の蛙大海を知らずってことわざを知ってるかい? お前さんはまさに、井戸の中でふんぞり返っているだけの愚か者だよ」
 貫禄あるお言葉です。重い腰を持ち上げると、かっと目を見開きました。
「いいだろう、ちょっと揉んでやるか。べぇ、立会人を頼むよ。ここら一帯をしめるボス猫として、勘違い甚だしいニワトリを教育してやろうじゃないか」
「面白い、なれば我がレグホン流武術の真髄を見せてくれるわ」

 両者向かいあい、構えを取りました。なんでしょうこの展開。こんな殺伐とした空気私苦手なんですけど。

「くらえぃ! ニワトリ百裂嘴!」

 弁慶さんが嘴の連続突きを放ちます。が、マリンダさんは右前足一本で全部払いのけてしまいました。

「なんのっ! 飛鶏連脚!」

 今度はジャンプしての連続回転蹴り。ですがこれもマリンダさんは右前足一本で防いでしまいます。

「その程度かい? じゃ、軽く撫でてやろう」

 左前脚による、超速の猫パンチが炸裂。一撃で弁慶さんが殴り飛ばされ、ゴミ箱に叩きつけられました。勝負あり、マリンダさんの貫録勝ちです。

「ば、馬鹿な……我が、レグホン流武術が……一撃で……」
「ごちゃごちゃ難しい事考えてるからダメなのさ。喧嘩ってのはねぇ、気合で相手をはっ倒すもんなんだよ。小難しい技術を鍛えるより、腕力を鍛えな」
「さすがマリンダさん、しびれるわ……」
「私には良さがわかりませんが、凄い自信なのは伝わりました」
「……何という、強さだ。マリンダ殿」
「マリンダさんだ」
「マリンダさん、我を……弟子にしていただけないか?」
『え?』

 思いもよらぬ一言に、私とちゃこさんさんは同時に声を上げました。

 ◇◇◇

「マリンダさん! 今日の指導もよろしくお願いします!」
「しょうがないやつだねぇ、かかってきな」

 完膚無き敗北を喫した弁慶さんは、マリンダさんに弟子入りしてしまいました。
 レグホン流武術を極めるためだそうですが、正直困りものです。何しろ新しい技を思いついては、積極的に私やちゃこさんさんに喧嘩を仕掛けてくるんですから。

「思ったよりも骨がある奴だね、ちゃこなんか私の指導に一週間で音を上げたんだよ」
「マリンダさん、それは言わないで……あんたも聞いてんじゃないわよ」
「そう言われましても」
「ゴールデンレトリバーのべぇ! いざ尋常に勝負!」

 今日もまた、弁慶さんが攻撃を仕掛けてきます。もういい加減にしてもらいたいものですが。

「だから店の前で喧嘩するのをやめろ」

 ご主人様が守ってくれました。とびかかってきた弁慶さんをキャッチし、隅っこへ追いやります。

「やはり一筋縄ではいかないね、ラーメン屋店主大将」
「あ、マリンダ。お前またよそで悪戯してるんじゃないだろうな?」

 ご主人様がマリンダさんにちょっかいを出すと、高速猫パンチを繰り出します。
 ご主人様はまるで見えているかのように全て捌いて行きます。とても強いマリンダさんですが、私のご主人様には全く勝てないんです。

「やはりお前が私のライバルだ、いつか必ず倒してみせるよ。そのためにも弁慶! お前も私の特訓に付き合ってもらうからね」
「どこまでもついて行きます、マリンダさん!」
「どーするこの熱血コンビ……」
「どうしようもないと思います」

 お願いですから、私達に迷惑をかけるのだけは、勘弁してくださいね。

※白色レグホン
 世界でもっとも有名な採卵鶏。イタリアで生まれ、アメリカで改良を重ねた品種で、日本の養鶏の8割を占めている。
 性格は好戦的で警戒心が強く、ペットにはあまり向いていない鳥である。多頭飼いにも不向きであり、群れの中でのヒエラルキーが非常に強く、群れであぶれた個体を虐めて殺してしまう事もある。
 蹴りや突きの攻撃力も高く、また記憶力も非常に高い動物のため、一度目を付けられると執拗に攻撃してくる。
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