ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~

歩く、歩く。

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23匹目 ボールパイソンのにしきさん

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「よしとってこーい」

 ご主人様が投げたボールを追いかけ、空中でキャッチします。
 たまの休日の今日、ご主人様と一緒に公園へ遊びに来ています。
 こうしてボールやフリスビーを使って遊んでもらうのが一番の幸せです。今日は天気もいいですし、絶好の行楽日和です。

「ボール遊び本当に好きね、そんなに楽しい?」
「ええもちろん。ちゃこさんさんもいかがです?」
「遠慮しとく」

 ちゃこさんさんはご主人様の肩に乗っています。今日里琴さんは外のお仕事へ出ていまして、その間のお世話を私達に頼まれているのです。

「よしよし、次はフリスビーにするか?」
「いいえ、まだボールで遊びたいです」

 ボールを噛み締めたままアピールします。言葉は通じなくても、こうすると私の意思は伝わってくれます。
 じゃあもう一度と、ご主人様がボールを放り投げてくれます。今度は遠くに飛んでいったので、走って取りに向かいます。

「おお早いな。よし、ご褒美だ」

 おやつのカルパスも頂きまして、尻尾を振るのが止まりません。今日は素敵な休日になりそうですね。

「あんたばっかりおやつ貰ってズルい。私も欲しい」
「でしたら、ちゃこさんさんもボール遊びをすればいいのでは?」
「むぅ……マグロチューブには代えられないか」

 ちゃこさんさんがご主人様にアピールします。ちゃこさんさん用に持ってきていたボールを出し、「とってこい」とちらつかせます。

「よし行って来い!」
「にゃっふー!」

 最初こそ渋っていたちゃこさんさんですが、遊び始めるとノリノリです。一目散にボールを追いかけ、咥えました。

「よひ、これへマグロヒューブはいたらき……」
「あれ? それボールですか?」

 ちゃこさんさんが持ってきたのは、両手で持つくらい大きくて、茶色の縞模様が入ったボールです。と言うかこれ、ボールなんでしょうか。随分凸凹していますし、紐というか、毛玉のようです。

「ちゃこ、お前何を持ってきたんだ?」
「いわれた通りボールを……あら? 何かしらこれ」
「これ、ボールじゃないですよ」
「誰だぁい? 僕を引きずってきたのは」

 ボールがほどけました。ちゃこさんさんが持ってきたのは、ボールはボールでも蛇、ボールパイソンさんでした。

「やれやれ、折角日向ぼっこしていたのに。勝手に玩具扱いして引き摺って酷いもんだなぁ」
「ごめんなさい。けどあんた1匹なの?」
「いいや、ちゃんと飼い主が居るよ。でも君が引っ張ってきたせいで離ればなれになってしまったんだ」
「重ね重ね、ごめんなさい……」

 でも、多分近くに居るはずです。探せば送り届ける事が出来るはずです。

「蛇を取ってきてもなぁ、ちゃこ、こいつは捌けないぞ?」
「食うために連れてきたわけじゃないわよ」
「ともかく、飼い主の所に連れて帰らなきゃならないな。どこに居るかな?」

 ご主人様がボールパイソンさんを拾い上げると、くるくると丸まっていきます。両手で持てるくらいの大きさの球体になり、持ち運びやすくなりました。

「へぇ、ボールパイソンって名前の通りだな。それに意外と大人しい」
「不必要に攻撃したりしないよ。意味もないし、攻撃するほど興味もないからね」

 蛇さんと言いますと、やたら滅多に噛みつくイメージが強かったのですが。思いのほか紳士的な性格をされているようですね。

「そうだ、お名前はなんですか? 私はべぇと申します」
「にしきだよ。ニシキヘビから取ってるらしいけど、名前負けしてるよね」

 にしきさんは苦笑します。私は可愛らしい名前だと思いますが。
 まずはにしきさんのご主人様を探しに向かいます。にしきさんに残っていた匂いを頼りに探していると、すぐに見つかりました。
 ジーンズに白のTシャツを着た、細身の女性です。長い髪をうなじでくくっている、綺麗な方です。芝生に寝転がり、気持ちよさそうに寝ています。

「ん……? 誰?」
「あ、どうもすいません。実は」

 ご主人様が事情をお話しすると、女性は起き上がり、にしきさんを受け取りました。

「そう、猫ちゃんがにしきを。別にいいわ、彼に怪我さえなければ。それより貴方、ラーメン屋の店主さんよね」
「なぜそれを?」
「テレビで紹介されるくらい有名なお店だもの、この商店街の人間なら知らない人の方が少ないでしょう」

 確かに、私とご主人様は商店街内では名前が知られています。テレビには4回ほど出ていますからね。

「私も何度か利用したのだけど、覚えてるかしら」
「いえ、すいません」
「いいの、常連ってわけでもないし。でもずっと気になっていたの、貴方の事」

 女性は小さく笑うと、ご主人様を上目遣いに眺めます。品定めをするような、獲物を前にした蛇のようです。
 すると、腕に触れました。

「結構筋肉質ね、立派な体。昔何かしていたの?」
「高校時代に、空手を。あの……何か?」
「好きなのよ、男性らしい腕をした方。特に貴方の腕、凄くいいわね」
「はぁ……」
「ふふ……」

 何と言うか、不思議な方です。掴みどころがないと言うか。

「にしきをハンドリングしてみる? ハンドリング、分かる?」
「蛇を手で這わせるんですよね」
「そう。滑らかな手触りで気持ちいいわよ」

 ご主人様はにしきさんを受け取ると、器用に這わせました。にしきさんは丸まらず、ご主人様の手を器用に伝っていきます。

「あちち、あちちち。君の飼い主は随分手が熱いんだね、これじゃ火傷してしまうよ」
「そうなんですか?」
「蛇って繊細なのね。もしかしてハンドリングっていうのはさ、人間の手から逃げてるだけ?」
「そうなんだ。全く迷惑な話だよね、人間からみれば遊んでるつもりなんだろうけど、蛇にしてみれば火傷しそうで嫌になっちゃうよ」

 蛇さん特有のお悩みなんですね。私やちゃこさんさんはご主人様や里琴さんに触ってもらうのは大好きなんですけど、爬虫類の方々はあまり触られるのが好きじゃないようです。

「へぇ、にしきがこんなに懐くなんてね。滅多な事では触らせてくれないのよ、この子」
「いやいや、別に懐いていないよ。なんだって人間は勝手な解釈を押し付けてくるのかな」
「言葉が通じないから仕方ないですよ」
「そうそう。こっちの不満なんざ知ったこっちゃねーって感じだしね」

 動物と人では意思疎通がほぼ出来ません。私のしてもらいたい事が伝わらないなんて、日常茶飯事です。でも。

「そろそろ返しますよ。彼、嫌がってるみたいだし」
「あらそう? もっと堪能してていいのに」

 女性はにしきさんを受け取ると、首にかけました。

「私は織江。宝飾店を営んでいるわ。貴方のお店からそう遠くない所。ご存じ?」
「ああ、あそこですか。男だからあまり行く機会が無くて」
「ぜひ来てみて。貴方ならいくらかサービスしてあげてもいいわ。私、貴方の事気に入ったみたいだから」
「はぁ……」
「あーあ、織江が狙いを定めたか。気を付けなよ君達。うちの飼い主の目、本気だ。注意しないと食われるよ。それこそ、蛇のようにね」
「蛇のご主人様だけに?」
「そう。狙った獲物は必ず喰らう。大人しく見えて、相当積極的な女だよ。織江には気を付けなよ。飼われている僕が言うのもあれだけど、人の話を聞くタイプじゃないから」
「それじゃ、またいつか会いましょう。大将さん」

 にしきさんを連れて、織江さんが帰っていきます。ご主人様は頬を掻いて、

「なんだったんだろ、あの人は……なぁべぇ、ちゃこ、どう思う?」
「私に言われましても」
「同感よ。でもいけ好かない奴なのは確かね」

 ちゃこさんさんは眉間にしわを寄せました。
 私が感じた限りでは、あまり人の事を気に掛ける方ではない気がしますが。

「少し、腹減ったな。べぇとちゃこはどうだ?」
「おやつの時間ですか。私も食べたいですね」
「同じく」
「よーしよし、じゃあ一緒に食べるか。そのあともう一度ボール遊びしような」

 私達動物と人とでは、意思疎通は出来ません。ですけど私のご主人様は、まるで私達の心を見ているかのように、私達のやってほしい事を察してくれます。
 この人が私のご主人様でよかった。私はいつもそう思っています。


※ボールパイソン
 蛇は一見飼うのが難しそうだが、実際はどの動物よりも非常に飼いやすい。餌は7~10日に一度与えればよく、虫かごで飼えるので場所を圧迫せず、種類にもよるが性格は穏やかで大人しいため、よほどの事がない限りかみつく事も少なく、病気にもかかりにくい。
 中でもボールパイソンは蛇の中でも飼いやすい種類である。手に乗せるとボールのように丸まる事からその名がついた。
 ただし、餌が大きなハードルとなる。蛇の餌は冷凍ネズミであり、湯煎でネズミを解凍してから1,2匹程度与える必要がある。この餌に慣れるか否かが最大の問題である。
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