ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~

歩く、歩く。

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22羽目(後編)動物愛好会 

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「どこに行ったのー? 出ておいでー!」

 里琴さんの呼びかけもむなしく、お子様は出てきません。リスは帰巣本能が弱いですから、人の呼びかけではまず戻ってこれないでしょう。
 直接捕まえて連れ戻す以外に方法はありません。幸いな事に、鼻が利く動物が2頭と1匹も居ます。
 里琴さん達と一緒に居るより、別れて探した方が効率がいいでしょう。一度里琴さん達と別行動し、独自に行動する事にしました。

「くんくん……こっちでち、こっちからあたちの匂いがするでち」
「クロも感じるよー! 路地裏の方に逃げてったみたい!」
「もぐりんさん、いつの間にお子様へアンティングをしていたんですか?」
「あたちは出会った動物に挨拶代わりにやってるんでち。ふたりにも追いかけっこのどさくさ紛れにやってたでちよ」
「汚っ、なにしくさってんのあんた」

 アンティング、ハリネズミさんが匂いを付けるために、他の動物や物へ唾をこすりつける行為です。
 正直気分のいい行為ではありませんが、唾をこすりつける分匂いが強く残ります。おかげで追跡が楽にできますね。

「よーし早く追いかけよう! クロ、いっきまーす!」
「どこへ行こうとしてんの! そっち反対の方向じゃない!」

 ちゃこさんさんの注意もむなしく走っていくクロさんでしたが、前方不注意で標識に激突しました。
 シベリアンハスキーって賢い犬のはずなんですけど、クロさんはどこか要領が悪いと言いますか……。

「クロは私が手綱を取っとくわ、ほっといたら何しでかすか分からないもの」
「お願いします」

 クロさんをういろうさんに任せ、私とちゃこさんさんは捜索を続けます。
 ただ、やっぱり頭上が気になります。
 カラスの数が少しずつ増えています。まるで私達を監視しているような、嫌な感じです。

「……ちゃこさんさん、後ろを注意していてもらえますか?」
「わかった。前は任せたわよ」

 退路は猫さんの方が見つけやすいでしょう。犬の私は捜索に集中します。
 路地裏を探索していると、突き当りに着きました。匂いは非常に近いですが、どこにいるのかはわかりません。

「待って、音がする……分かった、こっち来て」

 音を聞きつけたちゃこさんさんが案内したのは、雨どいです。もぐりんさんの匂いも強くなります。

「坊や、聞こえますか? 私です、べぇです。そこにいますか?」
「べぇさん? べぇさん! よかった、よかったよぉ……見つけてくれたぁ……」

 しまちゃんのお子様の声がしました。どうにか見つける事が出来ましたね。

「僕、外に出てから凄く怖い目に遭って、逃げてたらいつの間にかここに迷っちゃって……それで……!」
「泣き言はあとで聞いてあげるから、とっとと出てきなさい。帰るわよ」
「出たいよ。出たいんだけど……尻尾が挟まっちゃって……」
「手伝おうにも、あたち達じゃ狭すぎてどうしようもできないでち」
「大丈夫よ、私に任せて」

 ういろうさんが得意げに胸を張ります。狭い雨どいに手を入れると、器用に挟まった尻尾を外し、しまちゃん坊やを救助しました。

「お魚を獲るのと同じような感じね。これくらい簡単よ」
「さっすがぁ。全く、勝手に外に出てめそめそするんじゃないわよ」
「うっうっ……ごめんなさい……」
「ちゃこさんさん、お説教は後にしましょう。どうやら、急いで戻らないといけないようですから」
「そうね……クロ! 私が言う通りに全力で走りなさい!」
「はーいっ!」
「そうは問屋が卸さんぜぇお前らーっ!」

 クロさんが坊やを乗せて走り出すなり、頭上からカラスの群れが襲ってきました。
 狙いは坊やです。徒党を組んで、坊やを乗せているクロさんを集中して狙ってきます。
 執拗に攻撃してきますが、もぐりんさんが坊やを抱え、針で守ってくれています。ですが、クロさんの脚力をもってしても、カラスの群れを振り切れません。

「久しぶりのたんぱく質、逃がすわきゃねーだろぉ!」
「俺が食うんだ、俺が食うんだ! さぁ寄越せ! そいつを寄越しな!」
「ひいいっ! 怖いよべぇさん!」
「カラスが多かった理由がわかりました、坊やを食べようと狙っていたんですね」
「退路はきちんと見ているわ、あんたは吠えて助けを呼んで!」

 言われる前から、すでに吠え続けています。ですが路地裏にいるせいで外に声が届きません。

「はっはー! 犬の遠吠えでカラスが撃退できるわきゃーねーだろー!」
「とっとと観念してそのリス寄越せハリネズミー!」
「痛いでち痛いでち! あたちがハリネズミでも限界があるでち! カラスの数が多すぎて防ぎきれないでち!」
「あたた! 突かないで、毛をむしらないで! クロも痛いから!」
「わーん! 恐いよ、誰か助けて!」

 大変です、このままでは坊やがさらわれてしまいます……!

「待って、確かこの辺に金物屋があったはず。場所は分かる?」
「はい。考えがあるんですね」
「ええ、ういろうもついてきて。こいつの声でダメなら、もっと大きな音を立ててやればいいのよ」
「何考えてるのか、わかっちゃったな。オッケー、手伝うわ!」
「あんたはクロを金物屋に誘導して頂戴。近づいたら吠えて合図しなさい」
「わかりました」

 ちゃこさんさんとういろうさんが別行動に移ります。私は目を閉じたまま走っているクロさんに声をかけ、金物屋さんへと向かわせました。
 裏通りから抜け、金物屋さんへ飛び出します。すかさず吠えて、合図を送ります。

「よし落とせっ!」
「あいさー!」

 ういろうさんがたらいを落としました。けたたましい音が鳴り響き、カラスたちが一斉に驚きます。

「なんだなんだ! 銃声か!?」
「気を付けろ、どこから撃たれるかわかんねぇ!」

 カラスたちは混乱しています。今のうちに吠え続け、より群れを掻きまわします。
 ですがカラスは賢く、次第に落ち着きを取り戻してしまいました。

「なんだ……たらいが落ちただけか」
「状況は何にも変わらない、残念だったなぁ」
「いいえ、変わっていますよ」

 無意味に吠え続けていたわけではありません。路地裏から出たという事は、声が響くという事。

「べぇ、どうしたの? あっ!」
「クロがカラスに襲われてる、こらっ、しっしっ!」

 私の声を聞きつけて、里琴さんとユーリさんが合流し、クロさんを守ってくれました。
 同時に、商店街の人たちが集まってきます。人々が集まった事でカラスたちは近づけず、電線に避難します。

「ちっ、こうも集まられちゃあ近づけねぇ。犬猫のくせに、小癪な連中だ」
「お前、名前は?」
「べぇと申します。貴方がたも聞いてよろしいですか?」
「いいぜ、俺達は苦楼頭! この辺りを縄張りとするチームだ!」
「この落とし前はいずれ付けさせてもらうぜ、それまでせいぜい覚悟しておくんだな!」

 捨て台詞を残した後、カラスたちは去っていきます。坊やが襲われることはもうないでしょう。

「お怪我は大丈夫ですか?」
「うん、僕は平気。でも……」
「あたちなら問題ないでち、数が多くて大変でちたが、怪我はないでち」

 坊やはもぐりんさんのおかげで無傷です。もぐりんさんも、針で反撃していたので無事のようです。

「あっ、この子ってもしかして……べぇ達が見つけてくれたの?」
「凄いじゃない! 見直したよクロー」
「えへへ、どういたしまして!」

 クロさんも全速力で走ってくれたから、カラスの被害を最小限に抑える事が出来ました。ちゃこさんさんとういろうさんの判断も素晴らしかったと思います。

「さすがのカラスどもも、大きな音にはかなわなかったようね。流石は私」
「金物屋さんには迷惑かけちゃったけどね。それと、飼い主たちにもか」

「ちょっと、そこの2人さん。その猫とカワウソの飼い主さんかな? うちの商品のたらいを勝手に壊しちゃって、困るんだけど」
『あ……すいません……』
「ごめん里琴……咄嗟の事でめちゃくちゃやっちゃった。こりゃあとで怒られるかな」
「ですが、ちゃこさんさんの行動が無ければ坊やは守れなかったでしょう。私はちゃこさんさんの行動を尊重しますし、凄いと尊敬しますよ」
「そう言ってくれると、少しだけ肩の荷が下りるわ。ありがとね」
「では、戻りましょう。しまちゃん奥様も心配されているでしょうしね」

  ◇◇◇

「坊や! よかった無事に戻ってきてくれて……ありがとう皆さん、なんとお礼を言ったらいいものか」

 集会所に戻るなり、しまちゃん奥様から涙ながらにお礼を言われました。

「お礼なんていいわよ。それよりも、今後こうなる事がないよう気を付けなさいね」
「うん、僕も気を付けるよ」
「全く、あなたって子は……!」

 坊やはしまちゃん奥様に叱られ、しゅんとしています。なんにせよ、こんな危ない事は二度としてはいけませんよ。大勢の方々が心配してしまいますからね。

「はい皆! この子を見つけてくれてありがとう。そのご褒美よ」

 里琴さんがたらいに私達の好物を乗せてもって来ました。ジャーキーにマグロチューブ、どんぐりと、おやつが沢山入っています。

「弁償で買っちゃったたらいだけど、こうやって使うと動物のビュッフェみたいで豪華に見えませんか?」
「ちょっとそれは無理があるような……でもういろうたちが喜んでるから、いいか」

 私も器が変わっただけで、なんだか特別な物を食べている気分になります。救える命も救えて、一件落着ですね。

「けど苦楼頭か。変なのに目を付けられたわね、どうするの?」
「まぁ、何とかなりますよ。私にはご主人様が居ますから、表立って攻撃してくることはないでしょうし」
「あんたってぼーっとしてるから不安なのよね。あいつらが襲ってきたときは、私も守ってあげるわよ」
「ありがとうございます。ちゃこさんさんは頼りになりますね」
「別に……」
「ねーねー! なんの話をしてるのー?」

 クロさんが会話に割り込んで、飛びついてきました。もぐりんさんが頭に乗っていたので、針が刺さって痛いです。

「危ないじゃないの」
「ごめんでち、でもクロがあたちを頭に乗せようとしつこいんでち」
「だって誰かを背中とか頭に乗せるの楽しいかったんだもん! ちゃこさんさんちゃんはクロに乗ってくれないし」
「当り前よ。私が乗るのはこいつだけって決めてるんだから」

 ちゃこさんさんは当然と言わんばかりに私の背中に乗ってきます。私もできれば、ちゃこさんさん以外の方を背中に乗せたくはありませんね。
 なぜかと言われるとわかりませんが、そうですね……
 私もちゃこさんさんが大好きだから、でしょうかね。それが一番の理由です。
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