ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~

歩く、歩く。

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31頭目 羊のすりーぴーさん

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「そうそう、その調子! いいよ2人とも」

 萌香さんの掛け声に合わせながら、私はそろりそろりと歩いています。
 背中にちゃこさんさんを乗せながら歩く。それはいつも通りなのですが、彼女はつま先立ちになってバランスが悪い状態です。変に走れば確実に転んでしまいます。
 ですから、落とさないよう慎重に、慎重に。ちゃこさんさんも支えている物を落とさないよう力を入れています。

「ちょ、ちょっと! もっとゆっくり歩いて、落ちちゃうからっ!」
「わかりました」

 そーっと、そーっと。息が詰まりそうになりながら、私はなんとかゴールまでたどり着きました。

「やった! 成功したよ2人とも、よく頑張ったねー、ごほうびだよ」

 萌香さんからカルパスとマグロチューブを頂き、一息つきます。
 ご主人様と里琴さんに気付かれないよう、公園で練習しています。今やっているのは、萌香さんの提案で計画しているサプライズの練習なんです。
 お2人のためならば、私達はどこまでも頑張ります。練習しすぎて足がしびれていますけど……。

「こんなもん支えて不安定な背中に立ってろって……小娘め、無茶を要求するわね」
「ですが凄いですよ、ちゃんと私の上でバランスを保っているんですもの」
「猫だからね、なめてもらっては困るわ」
「休憩がてら、ちょっと遊ぼうか。色々持ってきてるんだよ」

 萌香さんはバッグからフリスビーや猫じゃらしを取り出します。妙に大きなカバンを持ってきていましたが、そういう事ですか。
 犬猫を飼ってないのに、私達のために遊び道具を揃えてくれるなんて。喜ばしい限りです。
 フリスビーを投げながら、ちゃこさんさんに猫じゃらしを揺らして遊び始めます。練習の後は遊んでリフレッシュ。萌香さんは私達のモチベーションを保つのがお上手です。

「でも遊び終わったらまたあれやるんでしょ? 面倒だなぁ」
「まぁまぁ。今はこの瞬間を楽しみましょう」

 萌香さんが投げたフリスビーを追いかけます。風に乗って高く、遠くへ飛んでいくので、走って追いかけました。
 ジャンプして咥えて、着地しようとしたとき、ふんわりした何かを踏みしめました。
 着地できずに転んでしまいますが、これまたふんわりした物がクッションになって怪我はありませんでした。むしろ気持ちよいくらいです。

「私にのしかかったのはだぁれ?」
「おっと、もしかしてすりーぴーさんですか?」
「べぇじゃない。珍しいのと会ったね」

 私の下敷きになってしまった方は、羊のすりーぴーさんでした。ふわっふわの羊毛がもこもこしていて凄いぽわぽわな方なんです。
 毛に顔をうずめていると、何もかもがどうでもよくなってきます。あまりの気持ちよさに眠気が襲ってきて、ついつい目が閉じてしまいます。

「こら、何居眠りしてるのよ」

 ちゃこさんさんが駆け寄ってきて猫パンチ、無理やり起こされました。
 危ない危ない、あと少しで夢の中に吸い込まれるところでした。

「ああっ! 羊だ! うっわやったー!」

 なんて時に、萌香さんがすりーぴーさんに飛びつきました。ふわっふわの毛に包まれて幸せそうです。

「ああ~この、幸せの深淵に沈んでゆくぅ~……羊に抱き着くの夢だったんだ~」
「みみっちぃ夢……」

 萌香さんの頭の上に乗り、ちゃこさんさんが呆れました。でもすりーぴーさんの毛、凄いんですよ。誰もを幸せにする最高の毛なんです。

「君どうしたのー? 道に迷っちゃったのかなー?」
「主と散歩に出ていたのよ。主ならあそこのベンチで眠ってるよ」

 すりーぴーさんが示した場所には、年老いた男性が居ます。寝具店を営んでいる方でして、すりーぴーさんの羊毛を利用したお布団が人気なんですよ。

「あふ……眠くなってきた……あーどうしよ、程よく暖かくて気持ちいい……」

 萌香さんはあくびをすると、すりーぴーさんに抱き着いたまま眠ってしまいました。
 一見元気そうに見える彼女ですが、凄く疲れていたようです。すやすやとすりーぴーさんに埋もれて、夢の中です。
 学校にバイト、そして私達のお世話。1人で沢山掛け持ちされています。その疲れが重なっていたのでしょう。
 私も彼女に寄り添い、頬擦りします。私にできるのはこうやって傍に居てあげるだけ。

「優しい犬だねべぇは。でもそんなに気を使い過ぎていたら、あなた自身も疲れたりしないかな?」
「そんな事はないですよ」
「そうそう。こいつは気づかいするのが趣味みたいな所があるのよ」
「ちゃこはそういう面を気に入ったんだろうけど、そのせいでやきもきする時もあるんじゃないかな?」
「それはまぁ……って何言わせんだ羊」
「たまには休んでごらん。私の体を使っていいから、べぇとちゃこもお昼寝するといいよ。疲れてたら出来る事も出来なくなる、さ、目を閉じなさい」

 すりーぴーさんに諭されるように言われ、お言葉に甘える事にします。
 羊毛に埋もれてまどろみます。ちゃこさんさんも諦めたようにすりーぴーさんに埋もれました。

「あ、これ……すんごいふっかふかぁ~……しあわせ……」

 そしたらすぐに寝入ってしまいます。猫さんにとってもこのふかふかの魅力には抗えません。
 私も目を閉じ、鼻提灯を膨らませながら、うとうとと夢の中へ旅立っていきました。

  ◇◇◇

 私は夢を見ました。ご主人様と里琴さん、ちゃこさんさんが傍に居らっしゃる夢です。
 お2人はとても幸せそうで、傍に居る私とちゃこさんさんもほほえましい気持ちで見守っています。
 すると場面は変わり、登場人物が増えます。お子様です。里琴さんが赤ちゃんを抱いています。

 私も家族の一員として赤ちゃんを守り、月日が経っていきます。少しずつ、お2人のお子様が大きくなっていって、いつしか私より大きくなってしまいました。
 でもお2人に似て優しくて、大きくなっても私と遊んでくれます。ちゃこさんさんも文句を言いつつ、私と一緒に居続けてくれました。

 そんな幸せな夢を見ていたのですが、突然目の前が真っ暗になりました。

 どこにも、誰も居ない。そんな暗い場所にたった1頭で閉じ込められてしまいました。
 吠えても、鳴いても、誰も来てくれません。次第に恐くなって暴れたら、目を覚ましました。里琴さんとちゃこさんさんはまだ眠っています。

「起きたんだね。夢でも見ていた?」
「はい。幸せだったはずなのに、最後は何もなくなって……恐い夢になりました」
「そうか。それは災難だったね」

 すりーぴーさんが私を舐めて慰めてくれます。いい夢だったのに、台無しです。

「私達動物は、飼い主たちより長く生きる事は出来ない。動物によってはその逆もある。その夢は、それを暗示してたんじゃないかなぁ」
「ええ……私の年齢を考えると、ご主人様のお子様と過ごせる時間はそんなに長くないでしょうね。この先どれだけ幸せな時間が続いても、私は誰よりも先に居なくなってしまいます。分かってはいるんですけど、夢で見ると……悲しい気持ちになりますね」
「でも、べぇはちゃんと生きてるでしょお? 生きているのなら、今をちゃんと楽しまないと。そのためには、時には寝て休むのも大事なんだよ。疲れて体調を崩しちゃったら、幸せな時間が一気に短くなっちゃうからね。だからたまには気を遣わず、自分の思うままに振る舞っていいんだよ」
「慰めてくれてありがとうございます。でも、私はいつも自分の思うままに振る舞っていますよ」

 私は周りの方達全員が大好きです。皆さんと一緒にいる時間全てが私の幸せなんです。
 だから気を遣ってなんかいないんです。私はただただ、我儘に振る舞っているんです。私の行いで沢山の方が喜んでくれる、これ以上の喜びはないんです。

「んあ……ふぁ~……ちょっと寝過ぎたかなぁ?」
「ふがっ、こら、私を圧し潰すな小娘」

 ちゃこさんさんが萌香さんに猫パンチを打ち込みました。お2人が起きたので、頬を舐めて歓迎します。

「あはは、先に起きてたんだ。よーし、きっちり休めた事だし、もう1回練習しようか!」
「はいっ!」

 すりーぴーさんのおかげで気力充実、元気もりもりです。ご主人様のために頑張りましょう!

「なんか随分やる気になってるわね、どうしたの?」
「ご主人様達を喜ばせるためですから」

 私の残った時間を幸せで埋め尽くすためなら、どんな事だってします。
 私って実はすごく我儘な犬なんですよ。だから、めいっぱい勝手気ままに振る舞わせていただきます。
 


※羊
 世界で広く飼育されている畜産動物。羊毛や肉等、人の生活に密接に関わっており、誰もが一度は活用した事があるはず。
 飼育するには小屋や敷地が必要であり、一般家庭での飼育は難しい。動物病院でも診れる医師は少ないため、断られる事がほとんどである。
 羊は古代メソポタミア文明の時代より畜産されている歴史がある。豚などの畜産よりも厳しい環境下で生きられる上、貴重な脂肪分やたんぱく質を取る事の出来る動物のため重宝されていた。
 現代でもモンゴルの遊牧民や、宗教上豚や牛を食べられない人々の大切な栄養源として食べられている。
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