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最終話 おいでませ、アニマル商店街へ

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 赤い絨毯の上を、ご主人様と里琴さんが歩いて行きます。
 お2人とも綺麗に着飾っています。人間同士が結ばれる時は、豪華な衣装を着る決まりとなっているんですね。
 今日、ご主人様と里琴さんはご結婚されました。小さな教会にお2人のご友人が集まって、新たな門出を祝福しています。
 惹かれあっていた者同士が結ばれる、なんと喜ばしい事でしょうか。そんな瞬間に立ちあえて、私は光栄です。

「里琴さん綺麗だねちゃこ、すっごく幸せそうだし、いいなー」

 私とちゃこさんさんは萌香さんに預けられています。ちゃこさんさんはすました顔をしていますが、尻尾がぴんと立っています。里琴さんのご結婚を一番喜んでいるのは彼女なんですよ。

「はーあぁ、これであんたと一緒に住む事になるわけだ。ま、出かける手間が省けるからいいんだけどね」
「私は嬉しいですよ。ちゃこさんさんの事好きですもの」
「そーやって天然で発言するのやめろっての」

「ふたりでなんの会話してるの? 一緒の家に住めるのが嬉しいのかな」
「そんな所です」
「勝手に代弁するな。と言いたいけど、今日くらいは認めてあげる」

 おめでたい場所のためか、ちゃこさんさんがいつになく素直です。この幸せな瞬間がずっと続けばいいのに。

「よし、それじゃ準備しようか。もうすぐ指輪の交換だよ、練習の成果を見せてあげよう」
「そうですね、ちゃこさんさん、私の背中へ」
「あいわかった。そんじゃあ、やってやりますか」

 萌香さんが私の背中に指輪の箱を乗せ、ちゃこさんさんが支えます。あとは不安定な彼女を落とさないよう慎重に歩き、お2人の下へ向かいます。
 萌香さんに提案され、私達が練習してきたサプライズです。最愛のご主人様達のために、私達で誓いの指輪を運ぶ。ペットとして、最高の恩返しです。

「お前達、いつの間にそんな技を。萌香だな。べぇとちゃこにこっそり仕込んでいたのか」
「ありがとう、凄く嬉しいわ」
「えへへ、おめでとう。私達からの贈り物、どうだった」
「最高だよ。べぇ、ちゃこ。これからも、俺達飼い主をよろしくな」
「勿論ですよ、わが親愛のご主人様」

 ご主人様の手を舐め、親愛の情を伝えます。ご主人様は私の頭を撫でた後、里琴さんと指輪を交換します。
 その後、幸せな接吻を交わします。お2人の人生最高の瞬間、しっかりと見届けさせていただきました。

「里琴を大事にしなかったら、承知しないんだからね」
「大丈夫ですよ、私のご主人様が優しい方なのはご存じでしょう」
「充分ね。でも万が一って事があるでしょ?」

 ちゃこさんさんは私に寄り添い、尻尾を絡ませてきます。
 私も絡み返し、顔を上げます。明日からは、より素敵な毎日が待っていると感じながら。

  ◇◇◇

 結婚されてからも、ご主人様の日々は変わりません。いつものように、来られるお客様達にラーメンを提供する。いつもと変わらぬ、大事な日常です。
 でも1つ変わった事があります。里琴さんが一緒にお店を手伝ってくれています。看板犬べぇに加えて、看板猫ちゃこさんさんも皆様のご来店をお迎えしています。

「あーもう、どうして私までこんな事せにゃならないのよ」
「働かざる者、食うべからずですよ。終わったらいつものパトロールに行きましょうね」
「はぁ……ま、あんたと一緒だから別にいいか」

 私達は商店街を見渡します。今日も今日とて、大勢の動物達が、人間達と一緒に暮らしています。泣いたり笑ったり遊んだり、退屈する間もないくらい、楽しい時間に満ち満ちています。
 ここは東京都某市に造られた大型商業施設、アニマル商店街。
 もしもご興味を持たれましたら、ぜひ一度足を運んでくださいませ。
 おすすめはこの私、ゴールデンレトリバーのべぇが看板を務めるラーメン屋。私の自慢のご主人様の、最高の逸品をどうぞご堪能あれ。


 皆さまが来られる時を、私はいつでもお待ちしていますからね。
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