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12話 爆発するカエル。
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俺とミコトの冷戦はその後も続いた。
互いに互いの言質を取るべく奮戦し、水面下で途方もない頭脳戦を繰り広げる。その間リチュアとアンナは和気あいあいと女子ならではの時間を楽しんでいたが。
狩人として、そして冒険者としての矜持からミコトに負けるわけにはいかない。だが流石は忍と言うべきか……のらりくらりと攻撃を回避しながら、巧みに俺の弱みを握ろうと反撃を繰り返している。
警戒しすぎかもしれないが、彼女の雇い主はワンだぞ? NPC以上に感情が無さそうなあのワンだぞ! ワンに比べれば呪われた日本人形の方がまだ表情豊かだぞ!?
なんの裏も無しにこんな優秀な人材を渡すわけがない。そして狙いは大まか分かっている。DLCだ。
ワンは俺のチートに気付いている。レベル1の俺に奴が期待するのは成果ではない、チートアイテムの確保だ。
もしゲームギアを奪われでもしたら俺は用なし、即座に処分されるだろう。忍なんてあからさまなクラスを寄越している辺りにも意地悪さが伺える。
「はいミコトさん、これ今日の補給食です。疲れたら食べてくださいね」
「ありがとうございます」
「クエスト一緒にがんばってこーねミコト!」
「勿論です」
でもってさり気なく二人に懐かれているから何となく居心地悪い。案外ノリがいい姉ポジションだから、妹属性の塊である二人が懐くのもむべなるかな。
……若干リチュアが取られたような気がして胸がもやもやするのはなぜだろう。それはそれとして。
「今の俺って何ポジションに落ち着くんだ?」
「どしたのおじさん独り言呟いて」
「年齢的にお父さんポジションなのが気がかりになっているのでは」
くそ、的確に人の心を抉る発言しやがる。お前の舌はクナイでも仕込んであるのか。
「コウスケさんも気をつけてくださいね。美味しいご飯作って待ってますから」
「分かってる、補給食もありがとな。じゃあ行くぞ」
とはいえ一人悩んでいたって仕方ない。今はクエストに集中するんだ。
◇◇◇
前回と同じ樹海ダンジョンへ向かった俺達は、改めて獲物を確認した。
ターゲットはカエルのモンスター、ノーバディトード。今までのターゲットの中では小型の50センチ程度のカエルである。
それだけ聞くと雑魚モンスターのように思えるが、実は異常に厄介な生物だ。
こいつはお邪魔キャラなのだ。鎧すら溶かす強力な毒液を吐き出して武具の耐久値と性能を落としてくるわ、ちょっと触るだけで大爆発を起こして周囲に大ダメージを与えてくるわ、しかも仲間を呼んでくるわ、集団で鳴き交わされるとストレスからスタミナを奪われるわ。ろくな事が無い。
しかも最も厄介なのが、ノーバディトード固有スキル「フロッグダンス」だ。
このカエル、踊るのである。馬鹿な事を抜かしているかもだが、踊るのである。効果は強制的にタゲをノーバディトードに移す物で、さらに面倒な追加効果がある。
「こいつらが躍っている間、俺達は大量のMPを吸収されて戦闘スキルが封じられる。こいつらは冒険者とモンスターが戦っている中に割って入ってくるからな、強制タゲ移動とスキル封印で混乱させられている間に、強力なモンスターに殺されてしまうんだ」
「なんでそんなおジャマなカエルが居るんだろ。つか何がしたいのこいつら」
「一種の共生関係だよ。モンスターはカエルが獲物を弱らせる事で労せず獲物を手にできる、カエルはそのお零れを食べられる。自然界を生きる処世術だな」
ワンダーワールドでは自然界における共生と寄生の関係が再現されており、イソギンチャクにクマノミ、マンタにコバンザメのようなモンスター同士が協力するパターンが多い。
中には冒険者に寄生してくる危険な奴もいて、ダンジョンを徘徊するモンスターの仲間入り、と言う事もよくあるケースなのだ。
「話を戻すが、ノーバディトードを捕獲するのは大変だぞ。下手すれば命に関わる」
ちょっとでも刺激を与えた瞬間ダイナマイト一本と同等の爆発を起こす、ニトロみたいな生態を持ったモンスターだ。倒すならまだしも捕獲なんて無理難題。クエスト難度は当然のごとくSである。
無論方法が無いわけじゃない、ノーバディトードを安全に捕獲する方法はある。狩人であるなら、この程度のカエルに手こずってはいられない。
「それにノーバディトードは捕獲できればかなりの経験値が入る、スキルの熟練度にもな。単なるお邪魔キャラで片付けられない旨味があるんだ」
熟練度は使う事で上昇し、レベルと同じ様に戦ったモンスターに応じて貰える経験値が変動する。モンスターとの戦闘終了までに使ったスキルに経験値が入り、規定数に達するとランクアップする仕組みだ。
俺が得たDLCスキルはまだまだ熟練度が低い、稼げる所で稼がないと。
「ではミスターコウスケ、ノーバディトードを捕獲する術を教えてください。私もノーバディトードの捕縛は試した事がありませんので」
「了解だ。ちゃんとこのための道具は用意してある」
当然DLCでな。
ワンダーワールドのDLCはかゆい所に手が届くラインナップだ。ゲームでよくあるケースとして、DLCを買わねばストーリーが進まなかったり、隠しキャラが仲間にならなかったりするが、このゲームにそんな要素はない。
DLCはなくても楽しめるけど、購入したらもっと楽しめるよ。
当たり前だが意外と出来ていない開発とユーザーの良好な関係を構築しているため、ワンダーワールドは某通販サイトで☆4,2の評価をマークする高評価ゲームなのである。
「捕獲難度の高いノーバディトード、必ず捕獲しよう。それじゃあ状況開始だ」
◇◇◇
警戒しているとはいえ、囮役を女性に頼むのは心苦しい物がある。
今回もジュエルタランチュラと同様、ミコトを餌に獲物をおびき寄せてアンナが彼女をアシスト、俺がモンスターの捕縛を行うという分担にしている。
ここ最近のクエスト報酬で能力アップアイテムを購入し、どうにかレベル8相当のステータスになっている俺だが、それでも二人より弱い事に変わりない。
アンナも前線で戦えるステータスではないし、どうしても一番強いミコトに危険な役割を担ってもらわねばならないのだ。
「適当なモンスターを呼び寄せればノーバディトードはやってくる、合図を出したら「口寄せの術」を使ってくれ」
ミコトにはそう指示を出している。「口寄せの術」は契約したモンスターを呼び寄せて使役する忍版召喚術なのだが、印をミスるとダンジョン内のモンスターをランダムで召喚してしまうバグが存在している。
これはゲームでは出てこない、現実の世界だからこそ出現するバグである。そのバグを利用して捕獲対象を呼び寄せる使い方が出来るのだ。
「よし、行くぞ」
指笛を吹いて指示を出す。早速「口寄せの術」でダンジョン内のモンスターを呼び寄せてもらうと、全長十メートルもの大蛇が現れた。
全身が迷彩柄になっているアーミーマンバだ。レベルは26と言った所か。
体色が環境に溶け込みやすいから近くでも視認が困難で、移動時の音も極端に小さいため、巨体に反して非常にステルス性の高い蛇である。
「これはまた、やばい奴を引いたな」
蛇にはピット器官と呼ばれる体温を感知する機能がある。アーミーマンバに限らず、蛇系モンスターはこの機能で「潜伏」スキルを見破る力を持っているんだ。
俺が持つ「潜伏(改)」ならやり過ごせるが、アンナでは見つかってしまう。今回は悪いが、彼女の出番はないな。
「俺がアシストするから、君は大人しくしてなさい」
アンナが居る場所へ制止の合図を送ってから、ミコトの戦闘をアシストする。小刻みに移動しながらアーミーマンバをけん制し、ミコトの忍術で翻弄しつつ獲物が来るのを待つ。カエル取りに蛇を利用する、なんだか変な感じだ。
ただ、アーミーマンバが来てくれたのは丁度いい。カエル取り用の道具を流用できるからな。
「っと、来たな。ノーバディトード」
ミコトと大蛇を囲うように湧いてきた、土色のウシガエル。あれがノーバディトードだ。
戦っている冒険者を見るなり、カエルどもは二足で立ち上がって踊り出した。ソーラン節を。なぜか知らんが「フロッグダンス」はソーラン節なのである。それ漁師の踊りだよな。
お前ら海水に入ったら死ぬだろとか、そもそも生息地森だろとかツッコミどころ満載なのだが、ミコトのターゲティングはカエルに移動している。迂闊に攻撃すれば大爆発だ。
ともあれ時間をかける必要はない、今の内にアイテムを使わねば。
だがその瞬間、予想外のトラブルが起こった。
アーミーマンバが俺の居る木にぶつかり、足を滑らせ落ちてしまった。地上にはノーバディトードが居る、受け身はとれそうにない。
地雷原に飛び込むような物だ。瞬間俺は死を覚悟し、目を閉じた。
だが落下直前、ミコトが俺の手を掴んだ。
忍特有の俊敏さで樹上へ引き上げ、助けてくれる。俺は驚いてしまった。
「なんで助けた?」
「パーティメンバーを助けるのに理由が必要なのですか?」
理解できない。俺が死ねばゲームギアを回収できる、ワンの命令を果たせるじゃないか。
「しっかりしてよおじさん! そりゃ!」
俺が呆けている間にアンナはノーバディトードを掴むと、爆発する前にパチンコで大蛇に撃ち出した。
アーミーマンバの口の中にカエルが入り、大爆発が起こる。アンナは「速射」スキルを持っている、そのおかげで爆発前にカエルを撃ち出せたのだろう。
「これで一貸しだからねっ、帰りにプリン買ってよおじさん」
「ああ……了解だ」
考えるのは後にしよう。今やるのはノーバディトードの捕獲、冒険者ならクエストをこなせ。
DLCで購入しておいたアイテムを掴み投げつける。これはDLCのアイテム詰め合わせシリーズ、魔石セットで得たアイテムだ。
魔石は空中で破裂し、周囲の気温を大きく下げ始める。俺が購入した魔石はダンジョン内の気温を一時的に変化させる効果を持っているのだ。
単純ながらも効果は抜群で、気温の低下に伴い大蛇とカエルの動きが完全に停止した。
冬眠状態である。変温動物は自分で体温を調節できず、冬になると体温低下によって体が動かなくなってしまうんだ。
だからアーミーマンバであろうと、ノーバディトードであろうと、この寒さの中では無力化できる。気温変動アイテムはモンスターの行動を制限する秘密兵器だ。
「そしてこの状態なら、ノーバディトードは爆発しなくなるんだ。この冷却ボックスに入れておけば持ち運びも出来るぞ」
これがノーバディトードを捕獲する唯一の方法でもある。氷魔法を使うと逆に殺してしまうし、魔法の衝撃で爆発してしまうから、気温変動アイテムが必須なのだ。
「ほえー、知らなかったなぁ。気温変動アイテムなんて貴重だから使うの渋っちゃうし」
「狩人ならではの知識ですね。これでクエストクリアです。アイテムの効果が切れる前に脱出しましょう」
「ああ……分かった。にしても……」
ミコトがどうして俺を助けたのか……やはり疑問だ。
互いに互いの言質を取るべく奮戦し、水面下で途方もない頭脳戦を繰り広げる。その間リチュアとアンナは和気あいあいと女子ならではの時間を楽しんでいたが。
狩人として、そして冒険者としての矜持からミコトに負けるわけにはいかない。だが流石は忍と言うべきか……のらりくらりと攻撃を回避しながら、巧みに俺の弱みを握ろうと反撃を繰り返している。
警戒しすぎかもしれないが、彼女の雇い主はワンだぞ? NPC以上に感情が無さそうなあのワンだぞ! ワンに比べれば呪われた日本人形の方がまだ表情豊かだぞ!?
なんの裏も無しにこんな優秀な人材を渡すわけがない。そして狙いは大まか分かっている。DLCだ。
ワンは俺のチートに気付いている。レベル1の俺に奴が期待するのは成果ではない、チートアイテムの確保だ。
もしゲームギアを奪われでもしたら俺は用なし、即座に処分されるだろう。忍なんてあからさまなクラスを寄越している辺りにも意地悪さが伺える。
「はいミコトさん、これ今日の補給食です。疲れたら食べてくださいね」
「ありがとうございます」
「クエスト一緒にがんばってこーねミコト!」
「勿論です」
でもってさり気なく二人に懐かれているから何となく居心地悪い。案外ノリがいい姉ポジションだから、妹属性の塊である二人が懐くのもむべなるかな。
……若干リチュアが取られたような気がして胸がもやもやするのはなぜだろう。それはそれとして。
「今の俺って何ポジションに落ち着くんだ?」
「どしたのおじさん独り言呟いて」
「年齢的にお父さんポジションなのが気がかりになっているのでは」
くそ、的確に人の心を抉る発言しやがる。お前の舌はクナイでも仕込んであるのか。
「コウスケさんも気をつけてくださいね。美味しいご飯作って待ってますから」
「分かってる、補給食もありがとな。じゃあ行くぞ」
とはいえ一人悩んでいたって仕方ない。今はクエストに集中するんだ。
◇◇◇
前回と同じ樹海ダンジョンへ向かった俺達は、改めて獲物を確認した。
ターゲットはカエルのモンスター、ノーバディトード。今までのターゲットの中では小型の50センチ程度のカエルである。
それだけ聞くと雑魚モンスターのように思えるが、実は異常に厄介な生物だ。
こいつはお邪魔キャラなのだ。鎧すら溶かす強力な毒液を吐き出して武具の耐久値と性能を落としてくるわ、ちょっと触るだけで大爆発を起こして周囲に大ダメージを与えてくるわ、しかも仲間を呼んでくるわ、集団で鳴き交わされるとストレスからスタミナを奪われるわ。ろくな事が無い。
しかも最も厄介なのが、ノーバディトード固有スキル「フロッグダンス」だ。
このカエル、踊るのである。馬鹿な事を抜かしているかもだが、踊るのである。効果は強制的にタゲをノーバディトードに移す物で、さらに面倒な追加効果がある。
「こいつらが躍っている間、俺達は大量のMPを吸収されて戦闘スキルが封じられる。こいつらは冒険者とモンスターが戦っている中に割って入ってくるからな、強制タゲ移動とスキル封印で混乱させられている間に、強力なモンスターに殺されてしまうんだ」
「なんでそんなおジャマなカエルが居るんだろ。つか何がしたいのこいつら」
「一種の共生関係だよ。モンスターはカエルが獲物を弱らせる事で労せず獲物を手にできる、カエルはそのお零れを食べられる。自然界を生きる処世術だな」
ワンダーワールドでは自然界における共生と寄生の関係が再現されており、イソギンチャクにクマノミ、マンタにコバンザメのようなモンスター同士が協力するパターンが多い。
中には冒険者に寄生してくる危険な奴もいて、ダンジョンを徘徊するモンスターの仲間入り、と言う事もよくあるケースなのだ。
「話を戻すが、ノーバディトードを捕獲するのは大変だぞ。下手すれば命に関わる」
ちょっとでも刺激を与えた瞬間ダイナマイト一本と同等の爆発を起こす、ニトロみたいな生態を持ったモンスターだ。倒すならまだしも捕獲なんて無理難題。クエスト難度は当然のごとくSである。
無論方法が無いわけじゃない、ノーバディトードを安全に捕獲する方法はある。狩人であるなら、この程度のカエルに手こずってはいられない。
「それにノーバディトードは捕獲できればかなりの経験値が入る、スキルの熟練度にもな。単なるお邪魔キャラで片付けられない旨味があるんだ」
熟練度は使う事で上昇し、レベルと同じ様に戦ったモンスターに応じて貰える経験値が変動する。モンスターとの戦闘終了までに使ったスキルに経験値が入り、規定数に達するとランクアップする仕組みだ。
俺が得たDLCスキルはまだまだ熟練度が低い、稼げる所で稼がないと。
「ではミスターコウスケ、ノーバディトードを捕獲する術を教えてください。私もノーバディトードの捕縛は試した事がありませんので」
「了解だ。ちゃんとこのための道具は用意してある」
当然DLCでな。
ワンダーワールドのDLCはかゆい所に手が届くラインナップだ。ゲームでよくあるケースとして、DLCを買わねばストーリーが進まなかったり、隠しキャラが仲間にならなかったりするが、このゲームにそんな要素はない。
DLCはなくても楽しめるけど、購入したらもっと楽しめるよ。
当たり前だが意外と出来ていない開発とユーザーの良好な関係を構築しているため、ワンダーワールドは某通販サイトで☆4,2の評価をマークする高評価ゲームなのである。
「捕獲難度の高いノーバディトード、必ず捕獲しよう。それじゃあ状況開始だ」
◇◇◇
警戒しているとはいえ、囮役を女性に頼むのは心苦しい物がある。
今回もジュエルタランチュラと同様、ミコトを餌に獲物をおびき寄せてアンナが彼女をアシスト、俺がモンスターの捕縛を行うという分担にしている。
ここ最近のクエスト報酬で能力アップアイテムを購入し、どうにかレベル8相当のステータスになっている俺だが、それでも二人より弱い事に変わりない。
アンナも前線で戦えるステータスではないし、どうしても一番強いミコトに危険な役割を担ってもらわねばならないのだ。
「適当なモンスターを呼び寄せればノーバディトードはやってくる、合図を出したら「口寄せの術」を使ってくれ」
ミコトにはそう指示を出している。「口寄せの術」は契約したモンスターを呼び寄せて使役する忍版召喚術なのだが、印をミスるとダンジョン内のモンスターをランダムで召喚してしまうバグが存在している。
これはゲームでは出てこない、現実の世界だからこそ出現するバグである。そのバグを利用して捕獲対象を呼び寄せる使い方が出来るのだ。
「よし、行くぞ」
指笛を吹いて指示を出す。早速「口寄せの術」でダンジョン内のモンスターを呼び寄せてもらうと、全長十メートルもの大蛇が現れた。
全身が迷彩柄になっているアーミーマンバだ。レベルは26と言った所か。
体色が環境に溶け込みやすいから近くでも視認が困難で、移動時の音も極端に小さいため、巨体に反して非常にステルス性の高い蛇である。
「これはまた、やばい奴を引いたな」
蛇にはピット器官と呼ばれる体温を感知する機能がある。アーミーマンバに限らず、蛇系モンスターはこの機能で「潜伏」スキルを見破る力を持っているんだ。
俺が持つ「潜伏(改)」ならやり過ごせるが、アンナでは見つかってしまう。今回は悪いが、彼女の出番はないな。
「俺がアシストするから、君は大人しくしてなさい」
アンナが居る場所へ制止の合図を送ってから、ミコトの戦闘をアシストする。小刻みに移動しながらアーミーマンバをけん制し、ミコトの忍術で翻弄しつつ獲物が来るのを待つ。カエル取りに蛇を利用する、なんだか変な感じだ。
ただ、アーミーマンバが来てくれたのは丁度いい。カエル取り用の道具を流用できるからな。
「っと、来たな。ノーバディトード」
ミコトと大蛇を囲うように湧いてきた、土色のウシガエル。あれがノーバディトードだ。
戦っている冒険者を見るなり、カエルどもは二足で立ち上がって踊り出した。ソーラン節を。なぜか知らんが「フロッグダンス」はソーラン節なのである。それ漁師の踊りだよな。
お前ら海水に入ったら死ぬだろとか、そもそも生息地森だろとかツッコミどころ満載なのだが、ミコトのターゲティングはカエルに移動している。迂闊に攻撃すれば大爆発だ。
ともあれ時間をかける必要はない、今の内にアイテムを使わねば。
だがその瞬間、予想外のトラブルが起こった。
アーミーマンバが俺の居る木にぶつかり、足を滑らせ落ちてしまった。地上にはノーバディトードが居る、受け身はとれそうにない。
地雷原に飛び込むような物だ。瞬間俺は死を覚悟し、目を閉じた。
だが落下直前、ミコトが俺の手を掴んだ。
忍特有の俊敏さで樹上へ引き上げ、助けてくれる。俺は驚いてしまった。
「なんで助けた?」
「パーティメンバーを助けるのに理由が必要なのですか?」
理解できない。俺が死ねばゲームギアを回収できる、ワンの命令を果たせるじゃないか。
「しっかりしてよおじさん! そりゃ!」
俺が呆けている間にアンナはノーバディトードを掴むと、爆発する前にパチンコで大蛇に撃ち出した。
アーミーマンバの口の中にカエルが入り、大爆発が起こる。アンナは「速射」スキルを持っている、そのおかげで爆発前にカエルを撃ち出せたのだろう。
「これで一貸しだからねっ、帰りにプリン買ってよおじさん」
「ああ……了解だ」
考えるのは後にしよう。今やるのはノーバディトードの捕獲、冒険者ならクエストをこなせ。
DLCで購入しておいたアイテムを掴み投げつける。これはDLCのアイテム詰め合わせシリーズ、魔石セットで得たアイテムだ。
魔石は空中で破裂し、周囲の気温を大きく下げ始める。俺が購入した魔石はダンジョン内の気温を一時的に変化させる効果を持っているのだ。
単純ながらも効果は抜群で、気温の低下に伴い大蛇とカエルの動きが完全に停止した。
冬眠状態である。変温動物は自分で体温を調節できず、冬になると体温低下によって体が動かなくなってしまうんだ。
だからアーミーマンバであろうと、ノーバディトードであろうと、この寒さの中では無力化できる。気温変動アイテムはモンスターの行動を制限する秘密兵器だ。
「そしてこの状態なら、ノーバディトードは爆発しなくなるんだ。この冷却ボックスに入れておけば持ち運びも出来るぞ」
これがノーバディトードを捕獲する唯一の方法でもある。氷魔法を使うと逆に殺してしまうし、魔法の衝撃で爆発してしまうから、気温変動アイテムが必須なのだ。
「ほえー、知らなかったなぁ。気温変動アイテムなんて貴重だから使うの渋っちゃうし」
「狩人ならではの知識ですね。これでクエストクリアです。アイテムの効果が切れる前に脱出しましょう」
「ああ……分かった。にしても……」
ミコトがどうして俺を助けたのか……やはり疑問だ。
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