「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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25話 女騎士の手柄を横取りしてみた

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 マステマが余計な事を言ったせいだ。中々進まぬ仕事と格闘しながら、セレヴィはガレオンに目をやった。
 いくつかの手紙に目を通した後、通信用の魔法具を使ってリモート会談を始めた。相変わらず偉そうな口調で相手を威圧し、巧みな話術で言いくるめていた。

 さっきからガレオンを意識してしまう。私とガレオンができているだと? ゴシップも甚だしい。こんな俺様魔王なんか誰が惚れるものか、私の好みとはまるで違う。
 セレヴィが男性に求めるのは、まず優しい事が第一だ。相手に寄り添い、親身になって接する事が出来る人。それでいて自身の言動と行動に責任を持ち、一度決めた事は必ず最後まで断行する強い意志がなければならない。

 多くの意見を取り入れる柔軟性、幅広く物事を見れる広い視野、自身への不満も受け止める器の深さを兼ね備え、現状に満足せず努力を続けられる向上心。加えて先を見越した計算が出来る賢さと、大胆な決断力も備えていなければ。

 何より大事なのが、セレヴィより強くなければならない。自分より弱い男となんか一緒になれるものか。
 そこまで考えた所で気付いた、ガレオンが全部兼ね備えている事に。
 魔王として圧倒的なカリスマ性を持ち、領民を想った健全な統治を行っている、魔界最強の男。セレヴィの基準を軽々と超える優良物件であった。

 いやいやいや、だとしても傲慢なのはいただけない。男たるものもっと謙虚でないと。でも謙虚なガレオンはなんか嫌だ、あれだけ能力があるのに下手に出てたらむしろ嫌味に見える。むしろ魔界の猛者を相手にするのなら、堂々とした態度が取れないとダメだろう。

 くそ、何を考えているセレヴィ、これではあいつの評価を高めているだけではないか。

 いずれは人間界に戻るにせよ、奴に一泡吹かせてからでなければならない。そうこれはあくまで敵であるガレオンを改めて客観的に評価しているだけであって決してガレオンが私の理想に近いなーとか思っているわけではなくむしろかなり見直したとは全然断じて思っていないわけで乗り越えるべき壁の高さが分かってまぁやる気が出たかなぁと感じていてもっと頑張って見返してやるぞと意気込んでいるだけで決してガレオンを意識しているわけでは

「俺の顔を見て何をぼさっとしている」
「はっ! 違います、決して見ていたのではなく、ただ、あの、そう! この件に関して意見が欲しかったもので」
「見せろ、何で詰まっている」

 ガレオンが接近してくる。つい後退してしまい、壁に追い込まれた。
 いっぱいいっぱいになりながらも書類を突き出す。ガレオンが色々意見を出してくれるも、全く耳に入ってこなかった。

「おい、聞いているのか。俺が話している最中に上の空とはいい度胸だな」
「ひゃっ!?」

 壁を叩かれ、セレヴィは飛びあがった。
 逃げ場がなく、ガレオンの顔が近い。それに意外と胸板が厚い事に気づいた。燕尾服で隠れているが、ガレオンの体は鍛え抜かれている。
 こんな事で何を動揺している、相手は魔王だぞ、こんな些細な一面見た程度でだらしない。
 だがもし、このまま迫られたら、抵抗できる自信がない。おのれガレオンめ。

「体調悪いなら帰れ、このところ根を詰めすぎだ」
「えっ?」

 ガレオンは机に戻るなり、有休届を引っ張り出した。

「休日にも隠れて仕事を持ち帰っていたな、気付いていないとでも思ったか。そんな事をするから肝心な所で調子を崩すんだ馬鹿が。スケジュールにはかなりの余裕がある、お前が一日二日抜けた所で支障は出ない。数日連休を取れ」
「いや、体調に問題があるわけでは」
「自覚症状がないだけの病もある。文句はあるだろうが、そんな上の空のまま仕事されては迷惑なんでな」
「…………」

 違う、そうじゃない。優しいけどそうじゃない。柔軟な対応だけどそうじゃない。

「体調は問題ありません、大丈夫です」
「なら不満でも溜まってるのか。この場で言ってもいいぞ、ここには俺達以外誰も居ない、対応できる不満ならやってやる。俺への不満もあるなら言ってみろ、改善してやる」

 自身への不満も受け止める器を見せるな。何? 天然? 天然なのかこの魔王。
 確かに不満はあるが、ガレオンに言える類いの物じゃない。つーか言ったらどうなるのか想像できない。
 と言うかこれだけハイスペックな奴がどうして独身でいるのか、これが分からない。なんでも思い通りに出来る力があるのなら、妃の一人や二人娶るなんて簡単だろう。実際、他の魔王は幾人もの妃を所持していると聞く。それが魔王としてのステータスだかららしい。

「おい、黙ってないで何か言え」
「その、ガレオン様は、き……き……キリンという動物をご存じでしょうかっ」
「キリンだと?」
「は、はい! 首が長い珍しい動物なのですが、もしそれを見世物として持ってこれたらどうだろうと思いまして!」

 咄嗟になんて嘘ついているのだろうか、苦しすぎるだろう。
 こんなので納得してくれるような相手ではない、これは流石に叱られるか。

「動物の展示か、悪いアイディアではないな。試しに呼んでみるか」
「呼ぶ?」

 言うや否や、ガレオンは指笛を吹いた。
 そしたら、窓に巨大な幻獣が現れた。白銀の体毛に雷を纏った幻想的な獣だ。全長四メートルはあるであろうそれは、セレヴィの目を奪った。
 ……キリンはキリンでもこっちの麒麟じゃないけども。

「ただ出店を並べるだけというのも味気なかったからな、何か一つ足したかったんだが、動物の展示は悪くない。何匹か幻獣を用意しておくか、その程度ならすぐに対応できる、早く言え」
「……失礼しました」

 多くの意見を取り入れる対応力。それはいいけど、やっぱなんか違う。
 私が聞きたいのはそうじゃない、ガレオンの胸中が知りたいのだ。
 私をどう思っているのか、ガレオンの口から聞き出したい。彼ならば教えてくれるだろうけど、それだけに聞くのが恐かった。

 もやもやしたまま手紙の整理をし、重要な一通を渡しておく。この後には面会も控えているし、気を引き締めないといけないのに、もやついた想いが残り続けていた。

  ◇◇◇

「ほう、動物の展示ですか。流石はガレオン様、我ら凡夫では思いつきません」
「発案者は俺ではなくこいつだ、褒める相手が違う」

 ブラフマンとの打ち合わせにて、ガレオンはセレヴィの提案を早速形にし始めていた。
 部下の手柄を横取りせず、正当に評価させている。遠まわしに褒められたような気がして、ちょっと照れ臭かった。

「いやはや、本当に優秀なお方だ。ガレオン様もこのような女性が傍に居ると心強いでしょう」
「俺の目利きが外れた事があると思うのか?」
「ありませんね、これは失礼いたしました」

 なんか今日は妙に褒めてくるな、どんな風の吹き回しだ。いつもこんな褒めたりは……いや結構褒めてたっけ。
 意外とガレオンはセレヴィを褒める事が多い。と言うか、怒っている場面はそこまで多くない。
 案外褒めて伸ばすタイプなのだ。

「ともあれ、動物の展示とふれあいコーナーも設置の方向で話を進めましょう」
「という事らしいが、どうする? お前が責任者だろう」
「は、はい!」

 ガレオンの手助けを受けつつ、話がまとめられていく。思えばガレオンはセレヴィが困った時、必ず手を差し伸べてくれる。むしろ支えられているのはセレヴィの方だ。
 魔界に来てからずっと、ガレオンはセレヴィを守り続けている。それにやっと気づけた。
 ……一番の理解者、恩人に仇を返そうとしていたのか……私は騎士失格だ。

「有意義な時間を過ごせました、では私はこれで。セレヴィさんもありがとうございました、お体に気を付けて、頑張ってください。もしお仕事で詰まる事がありましたら、頼れる方にご相談されるのがよろしいかと」

 ブラフマンは小さく会釈し、帰っていった。
 さり気なく助け舟を出してくれたような気がする。今なら、ガレオンに話を振っても不自然にならない。

「あの、ガレオン様……」
「お前が決めろ、お前が望まない限り、プライベートに介入するつもりはない」
「では……その、お仕事が終わったら、お時間を頂けないでしょうか」
「好きにしろ」

 ガレオンは全部察してくれている。ありがたい反面、何を話せばいいのか、今になって困ってしまう。
 ……いや、この際だ。腹をくくるっきゃない。
 今自分が抱えている事全部、話すしかないだろう。
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