「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

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32話 魔王を殺せないと思い知らせ、女騎士を眠らせた

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 全戦力が戦闘配備についた。グングニルの艦橋に座し、シトリーはシェイプからの知らせを、今か今かと待っていた。
 ガレオン領周囲は、シトリー軍を中心とした、ネビロス・サルガタナス連合軍が包囲している。シェイプが事を済ませれば、即座にガレオン領へ攻撃する手筈となっていた。
 ついに、自分が魔界最強の男となる。期待に胸が膨らみ、シトリーは笑みをこぼした。
 さぁ早く来い吉報よ、ガレオンの首を持って、シトリーに勝利を与えるのだ。
『待たせたな』
 シトリーの意思をくみ取ったかのように、シェイプから連絡が入った。
 通信魔法越しに、彼はガレオンの首を見せてくる。シトリーは歓喜の雄たけびを上げ、盛大な拍手をした。

「よくやった、よくやったぞ! これで魔界は僕の物だ! 約束通り、お前には相応の地位に就かせてやる! 楽しみにしていろ!」
『だからいらないと言っているだろう、あくまで俺は、ガレオンを倒した事実があればそれでいい』

 謙虚な奴め、だからこそ信じられるのだが。
 さぁ、作戦も大詰めだ。いよいよガレオン領が我が物となる、最後の宣告をしよう。

「全軍攻撃開始! 憎きガレオンの財を全て、根こそぎ奪い取るのだ!」
「了解」

 部下は敬礼すると、通信魔法を使い……。

「作戦開始、プランα始動」
「……プランα?」

 首を傾げるなり、グングニルが激しく揺れた。
 何事かと思う間もなく、艦内で戦闘音が響き渡る。なんと一部のシトリー兵が、味方を攻撃し始めたのだ。
 それだけではない、なぜかネビロス、サルガタナス両軍から挟撃を受け、外に展開していた部隊が瞬く間に制圧されていく。シトリー軍は混乱し、指揮系統がマヒしてしまった。

「魔導動力機能停止、グングニル全機能ロストしました」
「な、なんだとぉ!?」

 さっきの揺れは、グングニルの心臓部が破壊された物だったようだ。成す術もなくグングニルが制圧され、シトリーは兵に剣を突き付けられた。
 逃げようと踵を返すと、ネビロスとサルガタナスが入ってきた。二人の魔王はシトリーを取り囲み、身柄を拘束してしまう。

「こ、これはどういう事だ!? なぜお前達が僕を攻撃する、どうして僕の兵が攻撃する!? どうなっているんだ!?」
「すまないな魔王シトリー、これも我らが生きるためだ」
「我らは既に、ガレオンの手の内だったのだよ」

 二人は服をはだけた。胸元には、ガレオンの奴隷の証が刻まれている……!

『ようシトリー、いい夢は見れたか?』

 そしてシェイプに代わり、通信魔法にガレオンが映り込んだ。

「な、なぜだ!? どうしてお前が生きている!?」
『シェイプに一芝居打ってもらったんだよ、こいつは切り離した体も擬態できるからな』
「なっ……貴様! 裏切ったのか!?」
『すまん魔王シトリー、本来なら寝返るのは俺の主義じゃないが……ガレオンだけは、別だった。これほどまでに器の大きな男を俺は、見た事がない』

 シトリーは目を見開いた。まさかガレオンは、シェイプを説き伏せたというのか。
 相手の主義すら変えさせる、圧倒的なカリスマ性のなせる業だった。

「一体、いつからだ、いつからこの二人を抱き込んでいた!? それにいつの間に僕の兵を取り込んでいたんだ!」
『お前の兵に関しては、以前から少しずつこっちに寝返らせていた。今じゃ三パーセントの戦力が、俺の手中にあったんだよ。そしてその二人も、お前が同盟を持ち掛けるだろうと思って、事前に説き伏せていた。自身の身の安全を条件に、領土全てを俺に渡すようにな』
「……いかにワシでも、ガレオンの小僧には勝てる気がしない。無駄な争いをするよりかは、全てを明け渡して楽になった方がいい……」
「これも魔界で生きるための道よ。幾度かの対話で痛感したのだ、彼奴には絶対に敵わぬと……」
「そ、そ、そん……な……バカな!」

 全部、ガレオンの掌の上だった。武力でも知略でも、何もかもガレオンが上回っていた。圧倒的な力の差を見せつけられ、シトリーは膝を突いた。

『俺に喧嘩を売る奴は最近少なくてな、たまには本気でやってやろうと思ったんだ。相手の全てを先読みし、力も知恵も上回り、心身共に徹底的に叩き潰す。そいつがこのガレオン・ドゥ・アスタロトのやり方だ』
「う……ああ……」

 シトリーの心は完全に折れていた。何をしてもガレオンには敵わない、完全に格付けは済んでいた。

『さて、お前に選択肢をやろう。このまま足搔き、魔王として死ぬか。俺に降伏し、奴隷となるか。好きな方を選べ』
「……降伏する……死ぬよりも、ずっとましだ……」

 僕は、なんて奴に喧嘩を売ってしまったんだ。シトリーは延々と、自身の愚行を後悔し続けた。

  ◇◇◇

 ガレオンの完全勝利を目の当たりにし、セレヴィはため息をついた。
 数ヶ月前からネビロス、サルガタナス両名と頻繁に対談している姿は見ていた。その時からガレオンは、この展開になるとずっと言い続けていた。
 それが現実になるなんて、どこまでもガレオンはセレヴィの上を行き続けている。シトリーだけでなく、ガレオンはセレヴィの心まで、完全に屈服させていた。

「お前のような男と会えたのは、一生の誇りだ、魔王ガレオン」
「精々心に刻むといいさ、それでいいんだな?」
「ああ、お前に忠義を誓おう。今後はお前のために力を使わせてくれ」

 シェイプもこの通り、数回話しただけでガレオンに心酔している。ガレオン直々に奴隷の証を刻まれ、彼の配下となってしまった。
 シェイプは兵に任せ、ボロボロになった部屋はメイドによってあっという間に修復された。一安心すると、体の力が抜けて倒れそうになる。ガレオンが肩を支えてくれて、ベッドに寝かせてくれた。

「無理させたな、悪かった」
「いや……私から言い出した事でもあるし」

 自分を囮にするよう提案したのはセレヴィ自身だ。当初ガレオンは反対したが、最後には押し負けて受け入れたのだ。
 ガレオンなら守ってくれると信じていたからこそ、セレヴィは躊躇しなかった。それでも彼が胸を貫かれた時は、背筋を冷やした。

 なにしろ、両親が殺された時と同じ場面だったから。

 けれどガレオンは、セレヴィの不安をいとも簡単に粉砕してしまった。理不尽も不条理も、有り余る力でねじ伏せたのだ。

「けど、胸が……すまない、私を庇ったせいで……」
「心臓なんざとっくに再生している。そもそも人間と体の構造が違うんだ、胸に風穴あけられた程度で死ぬわけないだろう」
「そうか、よかった……ガレオンが生きていれば、それでいい」
「ふん、なら次はお前の番だ、傍に居てやるからとっとと風邪を治せ。いつもみたいに憎まれ口の一つでも叩いてみろ。弱り切ったお前じゃ、張り合いがなくてつまらないからな」

 セレヴィは頷いて、ガレオンの手を握りしめた。
 大きくて力強い手。セレヴィから不安を吹き飛ばしてくれる手だ。気が付かないうちにセレヴィは、ガレオンの手が大好きになっていた。
 沢山の奴隷の中でただ一人、ガレオンを独り占めにしている。満足感と共にセレヴィは再び眠りについた。

 今度は悪夢を見ずにすみそうだ。
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