「くっ、殺せ!」と屈服した女騎士を拾ったので虐待することにした。

歩く、歩く。

文字の大きさ
50 / 93

50話 新人メイドの働きぶり

しおりを挟む
 出張が終わってから、セレヴィは連休をもらっていた。
 一週間の激務を乗り越えた体は思ったよりも消耗していて、節々がギシギシと悲鳴を上げていた。連休初日は体が痛くて全く動けなかった。
 二日目の今日も疲れがとれておらず、起床が遅れた上、二度寝までしてしまう始末だ。
 二度寝なんて今までした事なかったのに……まぁ、非番だからいいか。

「たまには、鍛錬も休むか」

 ガレオンからも休む時は休めと怒られているし、今日は休息に当てるとしよう。

「セレヴィ様セレヴィ様っ! おはよーございますっ!」

 部屋を出るなり、隣からノアが飛び出してきた。彼女にあてがわれた部屋はセレヴィの隣だ。いつでもセレヴィに会えるとあって、ノアは上機嫌だ。
 しかも彼女は、今日から仕事で使う、新しい制服を着ていた。

「いつでもセレヴィ様のお側に居られるなんて夢見たいですっ。ガレオン様はちゃんと約束守ってくれましたっ、やっぱ懐大きいですねあの人っ!」
「調子いいな。それと、よく似合ってるじゃないか。メイド服」
「可愛いですよねこれ、私も気に入りましたっ」

 ノアはルンルン気分でくるりと回った。ロングスカートがふわりと浮き、なんとも可愛らしい姿だ。それに首元にはガレオンの奴隷の証である文様が刻まれている。セレヴィ同様魔族に変えられていて、尖った耳と小さな牙が生えていた。

 散々騎士がどうだのメイドがどうだの文句を垂れていたが、すっかり今の境遇を受け入れている。順応力の高さはノアの長所だ。

「お給料も待遇もリティシア騎士団より破格ですし、制服も綺麗だし、こうなれば覚悟は決まりましたっ。不祥ノア、これからはメイドとして頑張りますっ!」
「ほどほどにな。マステマ直属だったか、苦労するだろうな」

 腐ってもメイド長だ、仕事には厳しい目を向けるだろう。
 以前マステマの仕事する姿を観察した事があるが、案外仕事には妥協しないタイプだ。窓の隅から天井の染みに至るまで、きっちりと目配りしていた。

 それにガレオン城のメイド部隊は全員優秀で、仕事は早いし的確だし、ミスなんて殆どない。ノアは生真面目だがおっちょこちょいだ、メイドの仕事についていけるんだろうか。
 ……なんか心配になってきた。ちょっと様子を見てみよう。

 メイド部署へ同行すると、マステマが忙しく準備している姿が見えた。彼女は二人に気づくと、へらっと笑って迎えてくれた。

「今日はあーたも居るんすねー、秘書からメイドに部署異動でもするんすか?」
「ノアが迷わないよう案内していただけだ」
「んまーここ広いっすからね。んじゃあノア、今日からあーしがあーたの上司っす。ちゃんと指示に従うっすよー」
「イエス・マム!」
「いやここ騎士団じゃねっすから、はいでいいっすよ」
「了解しましたっ!」

 やる気スイッチが入っているようで、ノアは敬礼と共に返事をする。マステマはセレヴィと目を合わせ苦笑した。

(なんかガチガチっすね)
(私達騎士は上司の命令には絶対服従、何があろうと完遂するよう教育されている。特にノアは下手な冗談でも言えば裸踊りだろうと自殺だろうと必ず遂行するから気をつけろ)
(ピーキーな奴っすねぇ……つーかんな例え出すって事は実例あるんすか?)
(枚挙に暇がない。私は貴族だから幾許か回避できたが、ノアのように平民出身だと……)
(あーたらの前職どんだけブラックなんすか……)
(セクハラ・パワハラ・モラハラ・マタハラ全部盛りフルコースだ。コンプラなど無いぞ)
(うっわ最悪な職場じゃねっすか……)

「ま、最初は先輩について回って仕事覚える事から始めるっす。それと適度に肩の力抜くっすよ。余白残しておかないといざって時てんぱるっすからね」
「了解しましたっ!」
「まだ始業前だからリラックスしてていいっすよ」
「了解しましたっ!」
「……1+1は?」
「2でありますっ!」

 そこはちゃんと答えるんだ。余裕なのか緊張しているのかよく分からない奴である。

「先が思いやられるっすねぇ……」
「まぁ、適度にもんでやってくれ」

 こうして、ノアのメイド生活一日目が始まったのだった。

  ◇◇◇

 ガレオン城のメイドは日勤・夜勤の二交代制を取っており、シフト制の不定休だ。日勤の主な業務は清掃・洗濯・施設整備と言った城内の管理、夜勤は警備兵のサポートで書類整理や夜食の提供、備品の交換等を行っている。
 メイド達はその日によって役割分担されており、今日のノアは洗濯係に回された。山と積まれた衣類を前に、ノアは怯んだ様子だ。

「まずは見てもらって、その後一緒にやってみましょうか」
「了解しましたっ!」

 先輩メイドの仕事を観察しながら、ノアはぎこちないながらも仕事に励んだ。何度も失敗し、注意を受けているものの、めげずに挑戦し続けている。泡塗れの顔は真剣だ。
 セレヴィははらはらしながら見守っていたが、思いのほかノアはやれていた。

 洗い終えた大量の洗濯物を苦も無く担ぎ、先輩メイドと一緒に洗い場と中庭を往復しても息を切らしていない。メイドとしては新人なれど、騎士時代に鍛えていたおかげで体力仕事は問題ないようだ。
 指示にも素直に従っているし、思ったより順応している。この辺はやっぱりノアの長所だ。
 と、ここでマステマがやってくる。メイド達の仕事をチェックして回っているのだ。

「んーどれどれー? ……ふーむ」
「いかがでしょう、メイド長」
「初日だから大目に見るっすけど、結構汚れが残ってるっす。あーた、先輩ならもうちっと注意深く見てやるっすよ。新人指導もあーたの仕事なんすから」
「も、申し訳ありません」
「あーしがやり方見せるから参考にするっす。メモの用意」
「イエス・マム!」
「返事は「はい」っす」
「了解しましたっ! はいっ!」
「……生真面目すぎて扱いにくいっすよ~……」

 ともあれ、マステマは手本を示した。いい加減な口調に反し、先輩メイドよりも効率よく、かつ丁寧に汚れを落としていく。すすぎ、脱水も手早いし、見事な仕事だ。
 ノアも先輩もマステマの仕事ぶりに驚嘆していた。かくいうセレヴィもだ。

「まー、こいつはあーしのやり方なんで無理に真似しなくていいっす。自分なりのやり方見つけてやりやすいようにしてくれていいっすからね。まずは仕事に慣れる、次に自己流を編み出す、最後にきちんと結果を出すっす。ただしいい加減にやったら怒るっすよ。あーしはメイド全員を見てるっすから、手抜きはすぐに見破るっす」
「了解しましたっ! はいっ!」
「分かんねー事あったらすぐ先輩か、あーしに知らせるっす。指輪使えば通信魔法使えるっすからそれで……ってまだマナを使えなかったっすね。あーたにもおいおい教えとかないとっす」
「よろしくお願いいたしますっ!」
「ん。そんじゃ、引き続きノアの指導任せたっす」

 単に怒るのではなく、きちんと手本を示し、フォローもしている。言い方もむやみに威圧しておらず、ほどほどに接しやすかった。
 上司の中には時折、きつい言葉で叩きつけ、頭ごなしに威圧する者が居る。相手によって態度が大きく違ったりすれば最悪だ。

 そんな接し方をしては相手は恐がって相談できなくなってしまうし、不信感も抱かせてしまう。それでは一緒に仕事をすると委縮してしまい、効率がガタ落ちしてしまうどころか失敗を隠し、取り返しのつかない事態へつなげる恐れもある。
 マステマは誰に対しても平等な態度で接しているし、相手に考える余地を与え、効率の良い方法を学ばせている。ガレオンの幹部なだけあって、人を動かす技術を備えているようだ。

「ノアの働きぶりはどうだ?」
「無駄口叩かず取り組んでくれるからいいっすね。ドジっ子かと思ってたっすけど思いのほか動けるから驚いたっす。ちょいと融通利かないのがあれっすけど、一ヶ月もあれば使い物にはなるっすよ」
「そうか。あとは職場になじめるかだな」
「んーまぁ大丈夫じゃねっすか」

 マステマの言う通り、先輩メイドからこっそりと飴を貰っている。
 頭は弱いが、素直で実直な後輩属性持ちだ。先輩メイドが可愛がってくれるだろう。
 セレヴィはほっとし、胸をなでおろした。

「え、ちょっとノアちゃんやめて!」
「へ? え!? は!?」

 矢先に、ノアが胸元を大きくはだけ、大勢の前で下着を晒していた。しかもあろうことかブラに手をかけ……。

「待った待ったストーップ! 何してるんだノア!?」
「先輩から胸を見せろと申されましたので露出をする所です」
「違うんです! ちょっと話の流れでバストサイズの話になりまして、それで……」
「どんな会話の流れ!?」
「今ブラも取りますので、少々お待ちください」
「やめろノア! 私の言う事が聞けないのか!?」
「セレヴィ様は本日非番ですし、何より現在私の上司はマステマ様ですので……」
「だーこの石頭ーっ!」

 こいつ本当に大丈夫なんだろうか。心から不安になるセレヴィだった。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...