捨てられた魔王(♀)を保護しました~元魔王様はショタ狂い~

歩く、歩く。

文字の大きさ
15 / 34

15話 クイックシルバー

「ねぇ君、うちのパーティに入らない?」

 いつものようにギルドで仕事を探していたら、二人の女性冒険者から声をかけられた。
 最初は僕に声がかかったのだと分からず、周りを見渡してしまった。でも僕の周りには、誰も居ない。

「あの、僕の事ですか?」
「そうそう! 今一人なんでしょ? ちょっと話を聞いてもらってもいいかな」
「前々から狙ってたのよ。君凄く優秀な探索者じゃない? 私達のパーティに入ってくれると凄く助かるんだけど」
「あ……勧誘は嬉しいんですけれど、僕はミスティさんのパーティに入っていまして」
「知ってるよ。でもパーティの掛け持ちをしている人もいるし、籍を置くだけ置いてみない?」
「別のパーティに参加して見える事もあると思うし、ちょっとくらいいいでしょ。ね?」
「いえ、僕は今のパーティ以外に参加するつもりはありませんので」

 きちんと断ったけど、二人は引き下がる様子がない、困ったな。
 ……仕方ない、逃げるとしよう。

 コインを投げて、二人の視線を一瞬他の場所へ移す。その瞬間、僕は走り出した。
 走っている間、周囲が止まってるようにスローになる。途中で、こけて書類を落としたギルド職員と、おじさんからセクハラを受けている女性と、喧嘩を始めた冒険者を見かけた。
 落ちそうな書類をキャッチして職員の姿勢を戻し、おじさんを喧嘩している冒険者の間に置いて、ついでにセクハラを受けていた女性のスカートがほつれてたから直してっと。

 ここまでしてから振り向くと、コインはまだ上昇している最中だった。

「あれ? シュウは?」
「居なくなっちゃった、あれ?」

 コインが落ち、二人が気付く頃には、僕はギルドから出ていた。それでもってギルド職員は体勢を立て直し、セクハラおじさんは冒険者に殴られて気絶、女性はスカートが直っているのに驚いた。
 ふぅ、とりあえず事なきを得た。あとでミスティに相談して、あの二人に正式な断りを入れておこう。

「おお、君はミスティの所の。今は一人みたいだな」

 ほっとしたのも束の間、また別の冒険者から声をかけられてしまう。またしても女性だ。

「君の活躍、耳にしているぞ。それで一つ提案なんだが」
「パーティの勧誘でしたらごめんなさい、間に合っていますので」
「むぅ、すげないな。たまには別のパーティを組んでみるのも一興だと思うのだが」
「ちょっと、彼は私達が先に勧誘してたんですけど」

 しまった、足止めされたせいでさっきの二人に見つかってしまった。

「ふん、逃げられたという事は断られたのだろう? ならばお前達に交渉の余地はないはずだが」
「そんな事ない。彼は私達が引き抜くの」
「ねぇシュウ君、私達のパーティの方がいいよねー?」

 勝手に話を進められても困るなぁ、またさっきみたいに逃げるしかないかも。

「貴様ら、随分楽しそうだな。私も混ぜてもらえるか?」

 と、ここで頼れる助っ人が現れた。
 エルザが僕を被さるように抱きすくめてきた。これまでにない威圧感を携えながら、三人を睨みつけている。

「どうもうちの探索者を引き抜こうとしているようだが?」
「うっ……それは、その……」
「軽く提案しただけで本心ではなくて……」
「そうそう! そもそも先に手を出したのはそっちの二人組で私はただ通りすがりなだけで」

「いいぞ」
『え?』
「シュウを引き抜きたければ引き抜くがいい。ただし、条件がある。この私を倒せばくれてやろう。だがもし負けたなら、二度とシュウを引き抜こうとするなよ?」

 ……相当怒っているな、念のためにエリクサーを用意したほうがいいかもしれない……。
 エルザの提案で三対一で戦う事に。僕を引き抜けるというのもあり、三人はやる気だ。もしかして三人がかりなら、エルザを倒せると思っているのかもしれない。

 残念だけど、絶対無理だよ。だって相手、元魔王だよ?
 戦略兵器に三匹のスライムが挑んだところで、勝ち目があるわけないじゃない。

「はぁぁぁぁぁ……必殺! 「魔神拳」!」

 魔力を込めた右ストレート一閃、ワンパンで三人の冒険者が吹っ飛んだ。
 エルザはベルゼン最強の存在だからなぁ、多分誰も彼女には勝てないんじゃないかな。

「全く、やはり恐れていた事態が起こってしまったか。シュウの引き抜きなんぞ許すものか」
「エルザも引き抜きの勧誘をされているんじゃ?」
「勿論断っているとも、しつこい輩は全員ぶっ飛ばすか、焼き払うかして処分しているがね」

 ああ、道理で彼女に近づく冒険者が居ないと思った。下手に勧誘したら自分の身が危ないもんなぁ。

「しかしどうするか、こうも表立ってシュウを奪おうとする奴が出てくるとはな。お前は気付いていないかもしれないが、あの三人以外にも引き抜きを狙っている者は多いのだぞ」
「僕を? まさか」
「かーっ! お前は自分の価値をまるでわかっていない! いいか、そこまで高レベルの探索者は珍しいのだぞ! エリクサーを量産し、武具を一気に強化でき、強力なバフをつける料理や薬まで作れる上に可愛らげふんげふん、ともかくそんな便利な探索者などレアだ、レア中のレアだ! こんな愛玩動物もとい優秀な冒険者を狙わぬ泥棒猫が出ないわけがないだろう! 女受けがいい容姿をしているのもまた罪なのだぞぶつぶつ……」

 ところどころ言語がおかしかったけど、彼女なりに心配してくれていると思っておこう。
 うーん、でもそうか、僕が狙われているか……ちょっと、信じられないな。今まで日陰者だったし、あんまり慣れないや。

 それに、僕は人を信じられない。僕の本当の姿を見てしまえば、きっと皆、居なくなる。
 まぁ僕の事はともかく、エルザをどうにかしないと。

「やはりシュウは常に手元に置いておかねばならんな。そのためには首輪が必要か、ついでにリードも持っておいたほうが……いや、位置探知の魔法をかけておけば常に場所を把握できる。セキュリティを強化しておくべきだな」

 物凄く過激な事言ってる。なんとかしてご機嫌取らないと僕の身が危ない、色んな意味で。
 うーん……あ、そうだ。

「ちょっといいかな?」

 布や綿を買った後、屋敷に戻って作り始める。ウサギのぬいぐるみを作り上げて、エルザにプレゼントしてあげた。

「これは、くれるのか?」
「うん。あ、好みを聞かずに作っちゃったけど、大丈夫だった?」
「問題などあるものか。しかしいい出来だ、これはまた、良き物ではないか」

 エルザは大事そうに抱きしめてくれる。よかった、喜んでくれたみたいで。

「心配しなくても僕は移籍なんかしないよ。僕を救ってくれた恩人達を無下にするような真似なんかしないさ」
「ふっ、そんな事は分かっている。私が心配しているのはそこではないのだ」
「違うの?」
「私はな、シュウに雌犬どもの発情した視線が集まるのが我慢ならないだけだ。あのような桃色の視線に晒されるお前を見ているとどうにも我慢ならん。対策を考えねばならんな」

 僕を心配してくれるのはいいんだけど、お願いだから被害者を出さないでね。

「しかしぬいぐるみは助かったよ。実を言うと、何か抱かないと寝られない性質でな……」
「そうなの?」
「うむ……情けない話、あまり眠れてなかったのだ……」

 ぬいぐるみを大事そうに抱え、顔を赤らめている。本気で恥ずかしがってるみたいだ。
 何かと振り切れ気味で忙しい彼女だけど、喜怒哀楽がはっきりしていて、コロコロと表情も変わって、一緒に居て楽しいな。
 慌ただしい彼女が愛おしい、最近はそう思うようになった。
 ……でもいくら彼女でも、あの技を見ればきっと、離れてしまうんだろうな……。
感想 1

あなたにおすすめの小説

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。