もしも北欧神話のワルキューレが、男子高校生の担任の先生になったら。

歩く、歩く。

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序章 ばるきりーさん現る!

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 人間は学生生活を送っていれば、必ず個性的な教師に出会うものである。
 たとえば、ある教師は普段ダジャレしか言わないのに中身はマルチリンガルの天才歴史学者だったり、またある教師はスポーツの世界大会でアイドルが解説を務めるとそれについての説教で一時間を潰したりと。誰の記憶にも、一人は居るはずだ。
 だが今、目の前に居るこの教師は恐らく、この世のどこにも存在しないと断言できるほどに個性に溢れた人物であろう。櫻田高校一年、室井浩二は心からそう思っていた。

「さぁ諸君、槍は持ったな!」

 浩二達の前に立った件の女教師は、意気揚々と腕を組んで高らかに尋ねた。
 一言で言えば奇抜な格好である。ウェーブのかかった長い銀髪と、ルビーのように美しい紅の眼を持ち、トレードマークに翼を象ったティアラを被っている。女性らしいメリハリの利いた肉体は、キッチリと着たスーツで強調され、より際立てられていた。ただフォーマルスタイルなのに足元はサンダルである。その違和感すら美しいのは美人の成せる技だろうか。

 そんな姿をした教師が生徒を集めたのは、教室ではなく校庭だ。生徒達は皆槍を持たされ、制服姿のまま並ばされていた。ジャージや体育着ではないのは、彼女の担当する授業が世界史だからに他ならない。
 もう一度言おう。今やっている授業は、「世界史」である。
 生徒達は皆ダラダラと脂汗を流し、物騒な長槍を抱えていた。なにせこの長槍、ただの長槍じゃない。穂先にべったりと赤い液体が付いていて、青少年には刺激の強すぎる事案にて使用済みの代物なのが明らかなのだから。

「……こうちゃん、この槍、大丈夫なのかな……」

 浩二の脇を突き、幼なじみの水橋琴音が尋ねた。栗色のミドルヘアーを右サイドでくくった、可愛らしい少女なのだが、琴音の瞳は不安で泣きそうに潤んでいた。
 浩二は口をへの字に曲げたまま、一応先生に聞いてみた。

「えっとさ、ばるきりーさん」
「なんだ浩二。それと私はばるきりーさんではない、ラーズグリーズと呼べと言っただろう」
「いやどうでもいいよ今それは。まずは俺の話を聞けやコラ」

 教師に対し喧嘩腰の質問である。普通ならこんな気狂い授業を企画する人物にんな口調で尋ねるなんて誰も出来ないだろうが……。

「うむ、なんだ?」

 このばるきりーさんと呼ばれる先生、意外と素直なのである。

「この槍は何?」
「処刑用の槍だが?」

 ばるきりーさんは平然と、平穏でない返答を返しやがった。
 生徒達は一斉に背筋を泡立てた。当たり前だ。処刑用の槍とか言われて安心できる人間が居るだろうか、いや居るわけない。居たらそいつはばるきりーさん以上のキチガイだ。
 で、そのキチガイ先生の解説は続いた。

「それもただの処刑用槍ではないぞ。聞いて驚け、そいつはロンギヌスの槍だ! この世界では名の知れた教祖を刺し殺した、由緒正しき品なのだぞ!」
「なんでそんなもんが生徒・先生用あわせて三十九本も存在してんだよ」

 浩二は語気を強くした。ロンギヌスの槍と言えばイエス・キリストを処刑したロンギヌスさんの所有物である。
 この時点ですでにツッコミ所が三、四個も存在する案件だが、ばるきりーさんはそろっと明後日の方に目を向けた。

「さて! 今回の授業だが」
「都合の悪い現実から目を逸らすな、この槍どうやって手に入れた」
「……ちょっとイエスに頼んで、新しく槍を刺してもらっただけだ、以上」
「キリスト教徒から大バッシング受けるような事やらかすな!」

 黒髭ならぬキリスト危機一髪だ。んな依頼受けて頷くキリストもキリストである。

「そんなの用意するならまず授業としての体裁を整える努力をしろよ研磨材を使ってでも!」
「いいだろう、さて今回の授業は槍投げだ!」

 研磨どころか発破解体レベルの強引さで話を進めたばるきりーさんだった。ある意味ヤケクソ気味に投げ槍でもある。

「いいかよく聞け、今この世を渡り歩くのに必要なのは武力である。その象徴たる武器の槍を扱うのは世界の歴史を制するに等しい。我が槍裁きをよく見て学習するように」
「世界史をどう捻じ曲げたらそんな解釈に」

 なるんだよ! そうつなげようとした浩二の前で、ばるきりーさんは槍をぶん投げた。
 直後、強烈な爆風がばるきりーさんを中心に発生し、生徒達の顔面を叩いて、学校にでかい亀裂を走らせた。ばるきりーさんの投げたロンギヌスの槍は放物線ではなく直線を描いて青空へと消え、雲をカチ割りながら宇宙を駆ける流れ星へと変わったのだった。
 ミサイルばりの推進力を持って飛んだ槍を、浩二達は唖然と見送るしか出来なかった。はっきり言おう、こんなもんお手本になるわけがない。ついでに言うと世界史全く関係ない。この先生、授業を通じて何を伝えようとしているのだろう。
 で、肝心のばるきりーさんはといえば。

「さぁやってみろ」
「出来ねぇよ!」

 無茶振りにも程がある指示である。

「むぅ、ならば指南書もつけよう。よく読んで参考にしてくれ」

 ばるきりーさんは指を鳴らし、浩二達の手元に分厚い書物を召喚した。
 何かと思い、ぺらりとページを開いて読んでみた。

「ふんふん……ふんふん……読めるかーい」

 浩二は本を投げ捨てた。中身が全部古代ノルド語で読めやしねぇ。
 ばるきりーさんは頭を抱え、やれやれと首を振った。

「槍は出来ない、本もだめ……一体どこから手をつければいいのやら……」
「おい皆、こいつ磔刑に処そうぜ」

 浩二は本気で槍を握り、クラスを扇動した。
 しかし直後、わき腹に刃物が刺さったかのような、強烈な痛みが走った。
 あまりの痛みに声も出ず、浩二は悶絶して倒れた。しかも浩二だけでなく、琴音を含む全生徒が苦痛にもだえ始めたではないか。

「あ……しまった……」

 ばるきりーさんは顔を青くした。

「あの槍……使ったら所有者全員に反動が来る武器だった!」
「んなもん教材として持ち出すなぁっ!」

 かろうじてそれだけ言うと、浩二は激痛に屈して気絶した。
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