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17話 少しずつ歩み寄る。
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テスト一週間前になると部活が休みになり、ラーズグリーズは中間に向けての指導に勤しんでいた。
放課後になると、ラーズグリーズは特別講座を開き、生徒共々、高校生活初のテストを乗り越えるべく奮闘している。特別講座は好評で、他のクラスからも何人か来ているようだった。どうやら、受け持ちの生徒が口コミをしてくれたようなのだ。
それは嬉しいし、きちんと講座を受けてくれる生徒達の姿勢も感心させられるのだが、ただ一人、来てくれない生徒がいる。浩二だ。
別に自由参加だから、来なくてもかまわないのだが、少し寂しい気持ちになる。贔屓してはいけないのはわかるが、彼は最も気にかけている生徒の一人だから。
だから、できれば参加してほしい。ラーズグリーズはただ、彼を知りたいだけだから。
そんな思いで日々を過ごしていた、ある時である。
「やっほーばるきりーさぁーん! きったよー!」
いつものように準備をして待っていると、これまたいつもの通り、一番乗りで琴音が飛び込んできた。なんかやけにハイテンションだが、何かいい事でもあったのだろうか。
「どうした、そんなにはしゃいで」
「あのね! これ当たったの!」
琴音は「当たり」と書かれた棒きれを見せてきた。
「グリグラくん醤油味の当たり棒なのー! 全然当たんないからすっごく嬉しいんだ!」
「醤油味……それはメーカーとしてどうなのだ?」
グリグラくんは他にもめんつゆ味、そば湯味、ラー油味があるらしい。味付けがニッチすぎやしないだろうか。
それはいいとして、琴音は廊下に身を乗り出し、手招きをした。
「ほらほらまりちゃん頑張って! 負けるな負けるなファイト! おー!」
「おっしゃー!」
どうやら木下が誰かを連れてきているようだ。しかし木下でも苦労するほどの、誰を連れてこようとしているのだろうか。
「おら、とっとと来い! 男なら大人しくしてな!」
「男でなくても抵抗するだろ! 離せこら!」
抵抗する件の人物を羽交い絞めにし、木下が入ってきた。ヘラクレスと筋トレしているから、彼女から逃げるのは難しいだろう。
でもって、彼女が絞め技で無理やり連れてきたのは……。
「浩二か」
「……おお」
浩二は諦めたらしく、舌打ちをしながら机に鞄を置いた。
ラーズグリーズはできるだけ平静を保ちつつ、琴音と木下に感謝した。
「来てくれたのだな」
「琴音と木下が無理やり連れて来たんだよ。こんな講座、来たくもない」
憎まれ口をたたき、浩二はそっぽを向いた。不機嫌な浩二の肩を抱き、木下は彼を座らせた。
「まぁそう言うなよ。テストはもうすぐなんだし、事前強化しておいて損はないよ」
「どうだか。大体、この講座を受けて点数が上がるかどうかすら怪しいもんだ」
ご指摘の通りだ。ラーズグリーズだって点数が上がるかどうか、自信はない。
けど生徒のサポートができるよう、できる限りの努力はしている。自分の受け持ちならば、特にだ。
ラーズグリーズは浩二に、薄い冊子を渡した。
「なんだよこれ」
「君用のミニテキストだ。講座に来てくれた生徒には、皆渡している」
「俺用……俺用?」
「ああ。君の得手不得手に合わせて作成してあるから、役に立つと思う」
「役に立つって、どうせ他の奴と内容かぶってんだろ?」
「かぶっていない。なんなら、琴音のと見比べてみるといい」
浩二は自分の冊子と、琴音の冊子を手に取った。中を見比べて、表情がこわばっていく。
「……本当に、中身が違う……」
「君は特に数学が苦手のようだからな、公式を解釈しやすいよう、ノイマンと相談して噛み砕いた解説を用意した。テストで力になるはずだ」
「数学の権威まで引っ張り出して作ったのかよ……それに、なんで俺が数学苦手だって……」
「ホームルームが終わった後、よく琴音に嘆いていただろう。数学なんか気がめいると。他の教師にも、君について教えてもらった。それを元に作ったのだ」
「……よくやるもんだな、おい。随分苦労しているけど、そこまでする理由なんかあるのか?」
浩二はひらひらと冊子を揺らし、笑いながら聞いてきた。
以前のラーズグリーズだったら答えられなかっただろう。でも今なら、胸を張って言える。
ラーズグリーズは笑顔で頷いた。
「私は教師だ。それ以外に、理由は必要ない」
ラーズグリーズは静かな眼差しで浩二を見た。
彼は言い返せず、小さく唸って黙り込んだ。彼の中で、消化し切れない感情が渦巻いているのがわかる。不信、軽蔑、わずかな期待。浩二は懸命に、それらを飲み込もうとしていた。
浩二が通ってきた過去の道のりで、様々な思いが積もり、重なって、彼自身に凝り固まっている感情があるのだ。今はまだ難しいだろうが、ラーズグリーズは信じている。彼が必ず、己なりの答えを出してくれると。
「ほれムロ公! いい加減ふて腐れんのはやめときな。あとでグリグラくん買ってやるから。てんかす味好きだろあんた」
「お前は俺のおかんかよ」
「一応あたしもマネージャーやってっから、ある意味近いかもね」
「……勝手にしろ」
木下に背を叩かれ、浩二は観念したように頬を突いた。
丁度人が集まり始め、時間も迫っている。ラーズグリーズは話を止め、教壇に立った。
「では皆、始めようか。まずは数学からだ」
自作の参考書を出し、ラーズグリーズは講座を開始した。
放課後になると、ラーズグリーズは特別講座を開き、生徒共々、高校生活初のテストを乗り越えるべく奮闘している。特別講座は好評で、他のクラスからも何人か来ているようだった。どうやら、受け持ちの生徒が口コミをしてくれたようなのだ。
それは嬉しいし、きちんと講座を受けてくれる生徒達の姿勢も感心させられるのだが、ただ一人、来てくれない生徒がいる。浩二だ。
別に自由参加だから、来なくてもかまわないのだが、少し寂しい気持ちになる。贔屓してはいけないのはわかるが、彼は最も気にかけている生徒の一人だから。
だから、できれば参加してほしい。ラーズグリーズはただ、彼を知りたいだけだから。
そんな思いで日々を過ごしていた、ある時である。
「やっほーばるきりーさぁーん! きったよー!」
いつものように準備をして待っていると、これまたいつもの通り、一番乗りで琴音が飛び込んできた。なんかやけにハイテンションだが、何かいい事でもあったのだろうか。
「どうした、そんなにはしゃいで」
「あのね! これ当たったの!」
琴音は「当たり」と書かれた棒きれを見せてきた。
「グリグラくん醤油味の当たり棒なのー! 全然当たんないからすっごく嬉しいんだ!」
「醤油味……それはメーカーとしてどうなのだ?」
グリグラくんは他にもめんつゆ味、そば湯味、ラー油味があるらしい。味付けがニッチすぎやしないだろうか。
それはいいとして、琴音は廊下に身を乗り出し、手招きをした。
「ほらほらまりちゃん頑張って! 負けるな負けるなファイト! おー!」
「おっしゃー!」
どうやら木下が誰かを連れてきているようだ。しかし木下でも苦労するほどの、誰を連れてこようとしているのだろうか。
「おら、とっとと来い! 男なら大人しくしてな!」
「男でなくても抵抗するだろ! 離せこら!」
抵抗する件の人物を羽交い絞めにし、木下が入ってきた。ヘラクレスと筋トレしているから、彼女から逃げるのは難しいだろう。
でもって、彼女が絞め技で無理やり連れてきたのは……。
「浩二か」
「……おお」
浩二は諦めたらしく、舌打ちをしながら机に鞄を置いた。
ラーズグリーズはできるだけ平静を保ちつつ、琴音と木下に感謝した。
「来てくれたのだな」
「琴音と木下が無理やり連れて来たんだよ。こんな講座、来たくもない」
憎まれ口をたたき、浩二はそっぽを向いた。不機嫌な浩二の肩を抱き、木下は彼を座らせた。
「まぁそう言うなよ。テストはもうすぐなんだし、事前強化しておいて損はないよ」
「どうだか。大体、この講座を受けて点数が上がるかどうかすら怪しいもんだ」
ご指摘の通りだ。ラーズグリーズだって点数が上がるかどうか、自信はない。
けど生徒のサポートができるよう、できる限りの努力はしている。自分の受け持ちならば、特にだ。
ラーズグリーズは浩二に、薄い冊子を渡した。
「なんだよこれ」
「君用のミニテキストだ。講座に来てくれた生徒には、皆渡している」
「俺用……俺用?」
「ああ。君の得手不得手に合わせて作成してあるから、役に立つと思う」
「役に立つって、どうせ他の奴と内容かぶってんだろ?」
「かぶっていない。なんなら、琴音のと見比べてみるといい」
浩二は自分の冊子と、琴音の冊子を手に取った。中を見比べて、表情がこわばっていく。
「……本当に、中身が違う……」
「君は特に数学が苦手のようだからな、公式を解釈しやすいよう、ノイマンと相談して噛み砕いた解説を用意した。テストで力になるはずだ」
「数学の権威まで引っ張り出して作ったのかよ……それに、なんで俺が数学苦手だって……」
「ホームルームが終わった後、よく琴音に嘆いていただろう。数学なんか気がめいると。他の教師にも、君について教えてもらった。それを元に作ったのだ」
「……よくやるもんだな、おい。随分苦労しているけど、そこまでする理由なんかあるのか?」
浩二はひらひらと冊子を揺らし、笑いながら聞いてきた。
以前のラーズグリーズだったら答えられなかっただろう。でも今なら、胸を張って言える。
ラーズグリーズは笑顔で頷いた。
「私は教師だ。それ以外に、理由は必要ない」
ラーズグリーズは静かな眼差しで浩二を見た。
彼は言い返せず、小さく唸って黙り込んだ。彼の中で、消化し切れない感情が渦巻いているのがわかる。不信、軽蔑、わずかな期待。浩二は懸命に、それらを飲み込もうとしていた。
浩二が通ってきた過去の道のりで、様々な思いが積もり、重なって、彼自身に凝り固まっている感情があるのだ。今はまだ難しいだろうが、ラーズグリーズは信じている。彼が必ず、己なりの答えを出してくれると。
「ほれムロ公! いい加減ふて腐れんのはやめときな。あとでグリグラくん買ってやるから。てんかす味好きだろあんた」
「お前は俺のおかんかよ」
「一応あたしもマネージャーやってっから、ある意味近いかもね」
「……勝手にしろ」
木下に背を叩かれ、浩二は観念したように頬を突いた。
丁度人が集まり始め、時間も迫っている。ラーズグリーズは話を止め、教壇に立った。
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