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第一章 ここは私の知らない世界
第5話 リリアンヌの顔
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一応、分かったことはわかった。
そしてわかったことは、この厨房の仕事がほんとにしんどいということも含まれてる。
中腰でひたすら野菜を切るとか、大きなへらで大きい鍋をかきまわすのが辛いとか、そういうのもあるけれど。
「暑い……」
部屋中に蜃気楼が立ちそうなくらい、部屋が暑い。
窓開け放しているけれど、40度以上はありそう。
なんでこの調理場こんなに暑いんだろうと思ったら、煮炊き用のガスが多く、それも点けっぱなしになっているようだ。
火を消さなくていいのだろうか、と思ったら、閉める栓自体が存在していない。
煮炊きをする火自体は操作せず固定で、弱火や強火のコントロールは、鍋自体を上から釣り上げて火から離してしているようだ。
滑車みたいなので鍋を持ち上げたり、下げたりして、ローテクなんだかハイテクなのだかわからない。
鍋が大きいから、人間の方もそれに合わせて台に上ってかきまわしたりもしていて、ものすごく面倒くさそうだ。
配管どうなってるんだろうとちらっと見たら、床をぶち抜いて管が出てて、そこから火が常時点いてる仕組みのようだ。ガス管が通っている気配がなく、直接地中に繋がっている。
これ、天然ガス?
あー、なるほど。ほっといても勝手に湧いてくるのなら点けっぱなしにしておくほうが合理的なんだ。
火を点けたり消したりする手間も省けるし、それにガス漏れしているのに気づかずに爆発の危険もなくなるものね。
だからこそ、独特の調理法になるんだなぁ、と感心してしまった。
自分の常識が全てではないな、と反省した。物事はそれに合わせて変わっていくのだなぁと。
それで厨房仕事はみんなが敬遠するわけか。
女性なら汗だくになって化粧とか崩れるだろうしね。
この自分自体の化粧はどうなっているのだろうと不安になり、こっそりと顔を擦ったけれど、化粧をほとんどしていないようだ。わずかに口紅を差して程度らしくて安心した。
じゃなかったら、厨房に会う人に自分の顔を見て、流れた化粧で恐れられるところだったわ。
そういえば、自分の顔を確認してないけど、リリアンヌってどんな顔しているんだろう。なんか見るのが怖いが……。
しかし、サウナ効果でお肌はもちもちになった気がする。
暑いー、死ぬーとゆでだこのような顔をしながら、今度はデザート用の果物を切って。
解放された時は全身、汗でびっしょりになっていた。
しかし私はこの時気づいていなかった。
天然ガスの存在をここで気づいていなかったら、この後でこの国の未来も大きく変化させられなかったし、メリュジーヌお嬢様の運命を変えることもできなかったということに。
「今日はお疲れ様、リリアンヌ」
夕食の支度が仕事だったので、準備まですればいいだろう、とようやく解放してもらえた。
「そろそろシシリーお嬢様の方に戻りますね。身支度を整えてから」
「そうした方がいいね」
汗だくになっているから着替える必要があるだろう。体も拭きたいし。
部屋にもう一度戻ろうとしたら、厨房のおばさんに包みに入ったお菓子をいただいた。
中身はデザート用のクッキーのあまりのようだ。
「これは今日頑張ってたから、ご褒美だよ」
「ありがとう!」
ラッキー、と焼き菓子を受け取るが、それを二つの包みに自分で分け直した。
外掃除をしていたアンナを見つけると、お菓子を取り出す。
「アンナ、焼き菓子いる?」
「え? いいの?」
「うん、今日楽しかったの、アンナのおかげだしね。またお喋りしようね」
ほら、隠して隠して、と彼女のエプロンのポケットに隠させる。
下働きの子はあまり裕福ではないようだというのは話していてわかったし。
なんとなくこういうことしたくなるのは、中身が大人だからかなぁ。
一応、リリアンヌとしての記憶が戻ってきているから、人前に出るようにしても、それほど下手を打つことはなさそうだ。多分。
自分の部屋に戻り、ワンピースを脱ぐと水をかける。そうすれば汗染みなどができないのは、みずほではなく、リリアンヌのもっていた知恵だろうか。
そして、予備の制服のワンピースを取り出して袖を通した。
このお仕着せのワンピースも支給でなくて自分で買わなければいけないし、午前と午後で着替える必要があったりもする。リリアンヌの知識がなかったら知らなかった……。
職場の制服なのに支給じゃないなんて、と驚いたよ。大事に着よう。
髪の毛を縛ってまとめ、確認しようと端が曇って暗い小さな鏡に自分を映し、つくづくと思った。
……私、美人だな!!
少々きつめの顔立ちではあるけれど、目鼻立ちはくっきりとしていて。赤毛にヘイゼルの目のようで、思わず見入ってしまった。
一応、私の名誉のために言っておくが元々のみずほの顔だって、それほどまずいものだったわけではないです、ええ。
しかし、このような生まれつき華やかな顔立ちではなかったので、メイクでごまかしていたというかなんというか。化粧映えする顔立ちと言っておこう。うん。
でも思ったより若かった。
えー、どうみてもリリアンヌ十代なんですけど。化粧しないでこの肌の美しさは若さゆえですね……。
「さてと、そろそろお嬢様に媚びてきますかね」
そう一人ごちると、本日二度目の自室を後にした。
そしてわかったことは、この厨房の仕事がほんとにしんどいということも含まれてる。
中腰でひたすら野菜を切るとか、大きなへらで大きい鍋をかきまわすのが辛いとか、そういうのもあるけれど。
「暑い……」
部屋中に蜃気楼が立ちそうなくらい、部屋が暑い。
窓開け放しているけれど、40度以上はありそう。
なんでこの調理場こんなに暑いんだろうと思ったら、煮炊き用のガスが多く、それも点けっぱなしになっているようだ。
火を消さなくていいのだろうか、と思ったら、閉める栓自体が存在していない。
煮炊きをする火自体は操作せず固定で、弱火や強火のコントロールは、鍋自体を上から釣り上げて火から離してしているようだ。
滑車みたいなので鍋を持ち上げたり、下げたりして、ローテクなんだかハイテクなのだかわからない。
鍋が大きいから、人間の方もそれに合わせて台に上ってかきまわしたりもしていて、ものすごく面倒くさそうだ。
配管どうなってるんだろうとちらっと見たら、床をぶち抜いて管が出てて、そこから火が常時点いてる仕組みのようだ。ガス管が通っている気配がなく、直接地中に繋がっている。
これ、天然ガス?
あー、なるほど。ほっといても勝手に湧いてくるのなら点けっぱなしにしておくほうが合理的なんだ。
火を点けたり消したりする手間も省けるし、それにガス漏れしているのに気づかずに爆発の危険もなくなるものね。
だからこそ、独特の調理法になるんだなぁ、と感心してしまった。
自分の常識が全てではないな、と反省した。物事はそれに合わせて変わっていくのだなぁと。
それで厨房仕事はみんなが敬遠するわけか。
女性なら汗だくになって化粧とか崩れるだろうしね。
この自分自体の化粧はどうなっているのだろうと不安になり、こっそりと顔を擦ったけれど、化粧をほとんどしていないようだ。わずかに口紅を差して程度らしくて安心した。
じゃなかったら、厨房に会う人に自分の顔を見て、流れた化粧で恐れられるところだったわ。
そういえば、自分の顔を確認してないけど、リリアンヌってどんな顔しているんだろう。なんか見るのが怖いが……。
しかし、サウナ効果でお肌はもちもちになった気がする。
暑いー、死ぬーとゆでだこのような顔をしながら、今度はデザート用の果物を切って。
解放された時は全身、汗でびっしょりになっていた。
しかし私はこの時気づいていなかった。
天然ガスの存在をここで気づいていなかったら、この後でこの国の未来も大きく変化させられなかったし、メリュジーヌお嬢様の運命を変えることもできなかったということに。
「今日はお疲れ様、リリアンヌ」
夕食の支度が仕事だったので、準備まですればいいだろう、とようやく解放してもらえた。
「そろそろシシリーお嬢様の方に戻りますね。身支度を整えてから」
「そうした方がいいね」
汗だくになっているから着替える必要があるだろう。体も拭きたいし。
部屋にもう一度戻ろうとしたら、厨房のおばさんに包みに入ったお菓子をいただいた。
中身はデザート用のクッキーのあまりのようだ。
「これは今日頑張ってたから、ご褒美だよ」
「ありがとう!」
ラッキー、と焼き菓子を受け取るが、それを二つの包みに自分で分け直した。
外掃除をしていたアンナを見つけると、お菓子を取り出す。
「アンナ、焼き菓子いる?」
「え? いいの?」
「うん、今日楽しかったの、アンナのおかげだしね。またお喋りしようね」
ほら、隠して隠して、と彼女のエプロンのポケットに隠させる。
下働きの子はあまり裕福ではないようだというのは話していてわかったし。
なんとなくこういうことしたくなるのは、中身が大人だからかなぁ。
一応、リリアンヌとしての記憶が戻ってきているから、人前に出るようにしても、それほど下手を打つことはなさそうだ。多分。
自分の部屋に戻り、ワンピースを脱ぐと水をかける。そうすれば汗染みなどができないのは、みずほではなく、リリアンヌのもっていた知恵だろうか。
そして、予備の制服のワンピースを取り出して袖を通した。
このお仕着せのワンピースも支給でなくて自分で買わなければいけないし、午前と午後で着替える必要があったりもする。リリアンヌの知識がなかったら知らなかった……。
職場の制服なのに支給じゃないなんて、と驚いたよ。大事に着よう。
髪の毛を縛ってまとめ、確認しようと端が曇って暗い小さな鏡に自分を映し、つくづくと思った。
……私、美人だな!!
少々きつめの顔立ちではあるけれど、目鼻立ちはくっきりとしていて。赤毛にヘイゼルの目のようで、思わず見入ってしまった。
一応、私の名誉のために言っておくが元々のみずほの顔だって、それほどまずいものだったわけではないです、ええ。
しかし、このような生まれつき華やかな顔立ちではなかったので、メイクでごまかしていたというかなんというか。化粧映えする顔立ちと言っておこう。うん。
でも思ったより若かった。
えー、どうみてもリリアンヌ十代なんですけど。化粧しないでこの肌の美しさは若さゆえですね……。
「さてと、そろそろお嬢様に媚びてきますかね」
そう一人ごちると、本日二度目の自室を後にした。
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