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第四話 檻
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カンナちゃんと出会った人生最良の日は、絶対に忘れない。
魔法の使い方も最初はよくわからず、一人でワールモーノと戦う毎日。
ある日、猫の形のぬいぐるみ、くろぽんがカンナを連れてやってきた。
くろぽんとしろぽんはよくわからない世界ではパートナー同士だったようで、2匹は各自単独行動で魔法少女を探していたらしい。
そしてくろぽんと契約したのが、カンナだというわけで。
初の邂逅は自分がワールモーノに囲まれているというピンチの時。
白銀の鎖が月光を切り裂き、敵を一網打尽にしていく様子は、まるで夢の中の出来事のようだった。
肩の辺りで切りそろえられた黒髪に、黒のベレー帽にワンピースという清楚な姿。
天使だ……。
ピンチに現れるなんて、ヒーローでしかないじゃないか!
ぽーっと見とれていたが、彼女がきゃぅっとよろけ、ピンチになって悲鳴を上げた瞬間我に返った。
巨大化したクマのぬいぐるみで敵をぱっくん、と飲み込ませるという絵面があまりよくない技だったのは、天使に見せていいものではなかったかもしれないが。
ワールモーノをやっつけて、再会に喜ぶしろぽんとくろぽんをよそに、彼女は自分に手を差し伸べた。
「カンナ、なの……りりんちゃん、だよね……よろ、しくなの」
口ごもりながら途切れがちに、一生懸命に自己紹介する姿に胸を射抜かれた。頬を染めて、彼女を見つめていたが、はっと我に返ると自分も手を差し出す。
「わ、私はりりんだよ。よろしくね」
彼女の両手を掴んで、ブンブンと大きく手を振って。
男の義春でやったらそのままお巡りさん案件だが、りりんだったら許されるのが嬉しい。大体中の人はもう四十路。こんな年端も行かない女の子の手を1つ握るのには緊張もなにもないし、どんな童貞なの!?となるのだけれど、その時はまるで初恋の男のように緊張しまくっていた。
変身している時は義春の意識はあっても、りりんの意識とはどこか別物のせいかもしれない。
義春だったらまるで興味のない可愛い雑貨やスイーツも、りりんなら心の底からきゃいきゃい言ってしまうのも不思議な話なのだが。
この気持ちはりりんのもの。りりんの記憶が義春をも引きずっている。
だから――。
『カンナちゃんの正体がどんな人でも! りりんも義春もカンナちゃんが大好きなんだああああ!』
そう覚悟を決めて、相手を見定めようとしたら。
「……み、るな。みないで……、りりんちゃん……」
弱弱しい声が。
視覚より先に復活した聴覚が、その声を聴き咎める。聞き覚えがある声に、脳が検索を始めた。
「なんで……」
呆然とした顔でたった一言呟く。それ以外浮かばなかった。
カンナの本来の声が、男の声だとしても、別に驚きはしなかった。実際、魔法少女の正体が男でもありうると思っていたし、自分だってそうなのだし。
ただそれが知り合い……しかも幼い頃から知っている相手では驚きすぎて声が出なくなる。
いくら顔を隠しても、彼なら影だけでもわかるのだ、自分は。
「──直人……さん?」
自分が彼を凝視しているのなら、相手も同じように自分を見つめている。
周囲を見渡すことをする前に、茫然とした表情の直人を見つめていた。
「カンナちゃんが……直人さん……なんだな……?」
確かめるように呟くと、繋いだままだった手がびくっと動いた。
「じょ、城野さん……?」
そして、同じように『りりん』の正体も直人にばれて、どうしようかと思考が混乱を始める。
あんなフリフリの衣装を着て、ぬいぐるみを抱っこしたり、魔法を出したり、口調まで変えてノリノリで。いい歳した男が。竜崎組の若頭が。
知らない人ならともかく、知り合いにバレるってこれってどんな罰ゲーム!!
うああああああああああああああ!!!!
うずくまりたい。絶叫したい。頭を抱えたい。
しかし、そんな取り乱した姿を直人に見せるわけにいかず、無表情で握っていた手を離すと一歩下がる。そんな背中に、ごん、と何かが当たった。
気付けば、其処は沢山の扉がついた大きな水槽の中だった。
いや水がないから水槽と云っていいのかもわからない。硝子の壁にドアがいくつもある。閉じ込められたのに、扉の向こうに道はあるのだろうか。矛盾の世界だ。
知り合いがパートナーだったという問題を先送りにでもするかのように、直人の方はあえて見ずに周囲の硝子の壁を見つめた。
変わった形の檻だな……。
その硬質な素材を軽くたたいて割れそうにないことを確かめる。
扉も片っ端から手を伸ばし、ドアノブを引くがやはり出られそうにない。
どうやら出られそうにないことを確認して、それからようやく現実逃避を止めた。
もしこの手を繋いでいなかったら、お互いの正体を明かすことなく、たまたまそういう魔法か何かに囚われて、ここで再会した。と誤魔化せたかもしれないが、どうしようもない。
「りりんちゃん……」
ずっと黙り込んでいた直人がようやく口を開いた。それにほっとして思わず微笑んでしまった。
「まだ私をそう呼んで下さるんですね」
直人がカンナちゃんの正体というのはまだいい。若いイケメンが美少女な魔法少女の正体だなんて、美味しい設定すぎるではないか。
でも自分は? こんなおっさんが正体なんて、誰にとっても嬉しいことではないよ! どこ路線のご褒美なの、ねえ!
「大丈夫ですか?……ご安心ください。貴方は何に変えても私がお守りしますから。ここから貴方を出しますから、心配しないでください」
そういうと、どこか途方に暮れたような顔をしていた直人なのに、むっとしたような顔をして、そっぽを向いた。
魔法の使い方も最初はよくわからず、一人でワールモーノと戦う毎日。
ある日、猫の形のぬいぐるみ、くろぽんがカンナを連れてやってきた。
くろぽんとしろぽんはよくわからない世界ではパートナー同士だったようで、2匹は各自単独行動で魔法少女を探していたらしい。
そしてくろぽんと契約したのが、カンナだというわけで。
初の邂逅は自分がワールモーノに囲まれているというピンチの時。
白銀の鎖が月光を切り裂き、敵を一網打尽にしていく様子は、まるで夢の中の出来事のようだった。
肩の辺りで切りそろえられた黒髪に、黒のベレー帽にワンピースという清楚な姿。
天使だ……。
ピンチに現れるなんて、ヒーローでしかないじゃないか!
ぽーっと見とれていたが、彼女がきゃぅっとよろけ、ピンチになって悲鳴を上げた瞬間我に返った。
巨大化したクマのぬいぐるみで敵をぱっくん、と飲み込ませるという絵面があまりよくない技だったのは、天使に見せていいものではなかったかもしれないが。
ワールモーノをやっつけて、再会に喜ぶしろぽんとくろぽんをよそに、彼女は自分に手を差し伸べた。
「カンナ、なの……りりんちゃん、だよね……よろ、しくなの」
口ごもりながら途切れがちに、一生懸命に自己紹介する姿に胸を射抜かれた。頬を染めて、彼女を見つめていたが、はっと我に返ると自分も手を差し出す。
「わ、私はりりんだよ。よろしくね」
彼女の両手を掴んで、ブンブンと大きく手を振って。
男の義春でやったらそのままお巡りさん案件だが、りりんだったら許されるのが嬉しい。大体中の人はもう四十路。こんな年端も行かない女の子の手を1つ握るのには緊張もなにもないし、どんな童貞なの!?となるのだけれど、その時はまるで初恋の男のように緊張しまくっていた。
変身している時は義春の意識はあっても、りりんの意識とはどこか別物のせいかもしれない。
義春だったらまるで興味のない可愛い雑貨やスイーツも、りりんなら心の底からきゃいきゃい言ってしまうのも不思議な話なのだが。
この気持ちはりりんのもの。りりんの記憶が義春をも引きずっている。
だから――。
『カンナちゃんの正体がどんな人でも! りりんも義春もカンナちゃんが大好きなんだああああ!』
そう覚悟を決めて、相手を見定めようとしたら。
「……み、るな。みないで……、りりんちゃん……」
弱弱しい声が。
視覚より先に復活した聴覚が、その声を聴き咎める。聞き覚えがある声に、脳が検索を始めた。
「なんで……」
呆然とした顔でたった一言呟く。それ以外浮かばなかった。
カンナの本来の声が、男の声だとしても、別に驚きはしなかった。実際、魔法少女の正体が男でもありうると思っていたし、自分だってそうなのだし。
ただそれが知り合い……しかも幼い頃から知っている相手では驚きすぎて声が出なくなる。
いくら顔を隠しても、彼なら影だけでもわかるのだ、自分は。
「──直人……さん?」
自分が彼を凝視しているのなら、相手も同じように自分を見つめている。
周囲を見渡すことをする前に、茫然とした表情の直人を見つめていた。
「カンナちゃんが……直人さん……なんだな……?」
確かめるように呟くと、繋いだままだった手がびくっと動いた。
「じょ、城野さん……?」
そして、同じように『りりん』の正体も直人にばれて、どうしようかと思考が混乱を始める。
あんなフリフリの衣装を着て、ぬいぐるみを抱っこしたり、魔法を出したり、口調まで変えてノリノリで。いい歳した男が。竜崎組の若頭が。
知らない人ならともかく、知り合いにバレるってこれってどんな罰ゲーム!!
うああああああああああああああ!!!!
うずくまりたい。絶叫したい。頭を抱えたい。
しかし、そんな取り乱した姿を直人に見せるわけにいかず、無表情で握っていた手を離すと一歩下がる。そんな背中に、ごん、と何かが当たった。
気付けば、其処は沢山の扉がついた大きな水槽の中だった。
いや水がないから水槽と云っていいのかもわからない。硝子の壁にドアがいくつもある。閉じ込められたのに、扉の向こうに道はあるのだろうか。矛盾の世界だ。
知り合いがパートナーだったという問題を先送りにでもするかのように、直人の方はあえて見ずに周囲の硝子の壁を見つめた。
変わった形の檻だな……。
その硬質な素材を軽くたたいて割れそうにないことを確かめる。
扉も片っ端から手を伸ばし、ドアノブを引くがやはり出られそうにない。
どうやら出られそうにないことを確認して、それからようやく現実逃避を止めた。
もしこの手を繋いでいなかったら、お互いの正体を明かすことなく、たまたまそういう魔法か何かに囚われて、ここで再会した。と誤魔化せたかもしれないが、どうしようもない。
「りりんちゃん……」
ずっと黙り込んでいた直人がようやく口を開いた。それにほっとして思わず微笑んでしまった。
「まだ私をそう呼んで下さるんですね」
直人がカンナちゃんの正体というのはまだいい。若いイケメンが美少女な魔法少女の正体だなんて、美味しい設定すぎるではないか。
でも自分は? こんなおっさんが正体なんて、誰にとっても嬉しいことではないよ! どこ路線のご褒美なの、ねえ!
「大丈夫ですか?……ご安心ください。貴方は何に変えても私がお守りしますから。ここから貴方を出しますから、心配しないでください」
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