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第四話 まずは1発言め
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「ただいまぁ」
声をかけても無反応。それはいつものことだ。
といってもこの家が無人というわけではない。
見切り品で手に入れた少ししなびたキャベツと、痛み始めたトマトを流し台に置いてから、洗濯物を取り込み始める。
母は寝ているのだろうか。奥の部屋で布団にくるまったまま、物音1つたてない。
「いいかげん、お風呂に入ってほしいんだけどなぁ……」
母がずっと寝ているので、布団も干せないし、シーツも交換できない。
随分と痩せてしまった母。
食欲もあまりわかないらしくて、無理やり起こして食事をとらせる以外は、トイレに起きるくらいだ。
今日の夕飯は、肉の代わりに少しちくわを入れたお好み焼きとトマトに塩を振ったサラダにしよう。
少し残しておけば、ご飯を炊いて明日の弁当にも入れられる。
父が死んでから働きに出ていた母は、私が高校2年の時に布団から起き上がれなくなった。
その前々から仕事に行く前に頭が痛いと言っていたり、吐いていたりということはあったようだけれど。結局、体調不良のため仕事を辞めざるをえなくなった。
職場での人間関係か何かが原因だったのでは? と勝手に推測はしているが、母は私に弱みを吐こうとしないし、私も無理に聞きだすこともできずにいる。
いわゆる鬱病なのだろうかと思うけれど、病院に行かせようとしても、それに関してはひどく抵抗するので、仕方なく放置せざるを得なくて。
結局私がバイトをして、家賃や生活費をなんとかしていたが、もうそろそろ限界だ。
父がまだいたころにあった貯金を切り崩したり、フリマアプリで家にあった本や父の形見などを売ったりして食いつないでいたが、それももう底をついてきている。
それに加えて今日、まさか娘が借金を背負って帰ってきたなんて母も思わないだろう。
どうしたらいいんだろう……。
今日はバイトのシフトが入っていなかったけれど、明日からはまたバイトがある。
今でも学校とバイトで時間のやりくりはギリギリだった。
その中で、あのマドカとかいう男と約束した「SNSで一万人フォロワー」という課題もこなさなければならないわけだし。
しかも、あの人は、成績を落とすな、どころか成績を上げろと言ってきている。
今の私は成績を上げるより就職活動をしなければいけないのだけれど……。
「ほんと、困ったなぁ」
困ったなと言ってはいても、腹は減る。嘆いていても仕方がないから手を動かすのが先だ。
ちくわとキャベツを切り刻んでから、卵と小麦粉にまぜて焼く。
冷蔵庫の中から最後の1個の卵を取り出し、あああ、と嘆きながらそれを割った。
今日の1パック限定99円の卵……何度考えても惜しまれる。
呼び出しなんか無視して帰ればよかった……。そうすれば、こんな面倒なことに巻き込まれなかったのに!
山芋とか、天かすとか、そういうものはぜいたく品だから買ってお好み焼きに入れることはできない。今の私はもっともシンプルに腹を満たせるようにするだけでいい。もう少し栄養がやばくなりそうだったら、ビタミン剤を保健室辺りから貰ってこられないかな。さすがに無理だろうか。
料理は美味しさと食費のギリギリを攻めるのが難しい。
ソースは贅沢に使うけれど、上にかける青のりはなし。母の分には鰹節を1パックかけてあげるが、私はなしでいい。
「お母さん、ご飯できてるからねー」
一応食事ができたことを伝えるが、母は返事をしない。調子がいい時は起きてこられるのだけれど、ちょうど今は寝ている時間のようだ。
食事をしながらスマートフォンを点けてSNSを開いた。
まず、自分のプロフィール欄を約束通り、二木本航大くんファン用に変更していかなければ。今まで名前しか登録したことがなかったので、他にも色々いじれることすら知らなかった。
ヘッダーってなんですか。アイコンってなんですか??
用語からして何を言ってるかわからないんですけれど。
そうだ、まずはどうやったらフォロワーが増やせるかを調べることからスタートだろう。いや、ここは用語から勉強だ! と学校のプリントで裏紙が白いのを取り出すと、そこに1つ1つ知らない単語をメモをしていく。
そして、調べているうちに、世の中には様々なSNSがあり、特色も全然違うことがわかった。
「みんなこんなの使いこなしてんの!?」
映えとか言ってる場合じゃないよ!! と唸りながら、見てるだけで頭が痛くなるような世界に感心してしまった。知らなかったアプリをダウンロードして、こっちの方がフォロワー数を増やすのは楽だろうか、と検証してみたりもするが。
「うう、写真撮るだけなら楽とか思うけど、技術すごいなー。これを盛るっていうのかなー」
正直なところ、私は写真がクソ下手だ。接写で朝顔の写真を撮ったら、朝顔がピンボケして後ろの柵に焦点が合っているとかは序の口。集合写真を撮ったら、背の高い人の首をちょんぎってて心霊写真を撮るなと叱られたり。
そんな私が写真メインのSNSなんぞを始めたら、違う意味で晒されて炎上しそうだ。
マドカさんは私にどのSNSで一万人とお友達になれ(意訳)とも言っていなかったのだから、なんでもいいだろうし、どんなキャラでフォロワー数稼いでもいいとは思うけれど……、仮にも芸能人のファンアカウントなのだから、炎上系の投稿になってしまったら、見知らぬ二木本さんにご迷惑をかけそうだから止めよう。私はしょせんチキン。
しかし学ぶことで一応、軽くはわかった……気がする。
「まずは発言!」
今までSNSはやってはいても、投稿はほとんどしたことがなかったのだ。
とりあえず仕組みに慣れよう!と、何かをアップすることにしよう。しかし。
「……なんて発言したらいいのかわからない」
1発言を打つまでに20分かかった。
しかも、内容は「今日の夕食は総額286円」と夕食の写真を載せてコメントをつけて。
皆が写真付きのものを投稿する理由がわかるような気がする。
写真があったら、それだけでネタになるからか。
まずはノルマ的に1時間で1つはあげていこう。
習慣ついてないのだから、習慣化していくことからスタートしなくては。
声をかけても無反応。それはいつものことだ。
といってもこの家が無人というわけではない。
見切り品で手に入れた少ししなびたキャベツと、痛み始めたトマトを流し台に置いてから、洗濯物を取り込み始める。
母は寝ているのだろうか。奥の部屋で布団にくるまったまま、物音1つたてない。
「いいかげん、お風呂に入ってほしいんだけどなぁ……」
母がずっと寝ているので、布団も干せないし、シーツも交換できない。
随分と痩せてしまった母。
食欲もあまりわかないらしくて、無理やり起こして食事をとらせる以外は、トイレに起きるくらいだ。
今日の夕飯は、肉の代わりに少しちくわを入れたお好み焼きとトマトに塩を振ったサラダにしよう。
少し残しておけば、ご飯を炊いて明日の弁当にも入れられる。
父が死んでから働きに出ていた母は、私が高校2年の時に布団から起き上がれなくなった。
その前々から仕事に行く前に頭が痛いと言っていたり、吐いていたりということはあったようだけれど。結局、体調不良のため仕事を辞めざるをえなくなった。
職場での人間関係か何かが原因だったのでは? と勝手に推測はしているが、母は私に弱みを吐こうとしないし、私も無理に聞きだすこともできずにいる。
いわゆる鬱病なのだろうかと思うけれど、病院に行かせようとしても、それに関してはひどく抵抗するので、仕方なく放置せざるを得なくて。
結局私がバイトをして、家賃や生活費をなんとかしていたが、もうそろそろ限界だ。
父がまだいたころにあった貯金を切り崩したり、フリマアプリで家にあった本や父の形見などを売ったりして食いつないでいたが、それももう底をついてきている。
それに加えて今日、まさか娘が借金を背負って帰ってきたなんて母も思わないだろう。
どうしたらいいんだろう……。
今日はバイトのシフトが入っていなかったけれど、明日からはまたバイトがある。
今でも学校とバイトで時間のやりくりはギリギリだった。
その中で、あのマドカとかいう男と約束した「SNSで一万人フォロワー」という課題もこなさなければならないわけだし。
しかも、あの人は、成績を落とすな、どころか成績を上げろと言ってきている。
今の私は成績を上げるより就職活動をしなければいけないのだけれど……。
「ほんと、困ったなぁ」
困ったなと言ってはいても、腹は減る。嘆いていても仕方がないから手を動かすのが先だ。
ちくわとキャベツを切り刻んでから、卵と小麦粉にまぜて焼く。
冷蔵庫の中から最後の1個の卵を取り出し、あああ、と嘆きながらそれを割った。
今日の1パック限定99円の卵……何度考えても惜しまれる。
呼び出しなんか無視して帰ればよかった……。そうすれば、こんな面倒なことに巻き込まれなかったのに!
山芋とか、天かすとか、そういうものはぜいたく品だから買ってお好み焼きに入れることはできない。今の私はもっともシンプルに腹を満たせるようにするだけでいい。もう少し栄養がやばくなりそうだったら、ビタミン剤を保健室辺りから貰ってこられないかな。さすがに無理だろうか。
料理は美味しさと食費のギリギリを攻めるのが難しい。
ソースは贅沢に使うけれど、上にかける青のりはなし。母の分には鰹節を1パックかけてあげるが、私はなしでいい。
「お母さん、ご飯できてるからねー」
一応食事ができたことを伝えるが、母は返事をしない。調子がいい時は起きてこられるのだけれど、ちょうど今は寝ている時間のようだ。
食事をしながらスマートフォンを点けてSNSを開いた。
まず、自分のプロフィール欄を約束通り、二木本航大くんファン用に変更していかなければ。今まで名前しか登録したことがなかったので、他にも色々いじれることすら知らなかった。
ヘッダーってなんですか。アイコンってなんですか??
用語からして何を言ってるかわからないんですけれど。
そうだ、まずはどうやったらフォロワーが増やせるかを調べることからスタートだろう。いや、ここは用語から勉強だ! と学校のプリントで裏紙が白いのを取り出すと、そこに1つ1つ知らない単語をメモをしていく。
そして、調べているうちに、世の中には様々なSNSがあり、特色も全然違うことがわかった。
「みんなこんなの使いこなしてんの!?」
映えとか言ってる場合じゃないよ!! と唸りながら、見てるだけで頭が痛くなるような世界に感心してしまった。知らなかったアプリをダウンロードして、こっちの方がフォロワー数を増やすのは楽だろうか、と検証してみたりもするが。
「うう、写真撮るだけなら楽とか思うけど、技術すごいなー。これを盛るっていうのかなー」
正直なところ、私は写真がクソ下手だ。接写で朝顔の写真を撮ったら、朝顔がピンボケして後ろの柵に焦点が合っているとかは序の口。集合写真を撮ったら、背の高い人の首をちょんぎってて心霊写真を撮るなと叱られたり。
そんな私が写真メインのSNSなんぞを始めたら、違う意味で晒されて炎上しそうだ。
マドカさんは私にどのSNSで一万人とお友達になれ(意訳)とも言っていなかったのだから、なんでもいいだろうし、どんなキャラでフォロワー数稼いでもいいとは思うけれど……、仮にも芸能人のファンアカウントなのだから、炎上系の投稿になってしまったら、見知らぬ二木本さんにご迷惑をかけそうだから止めよう。私はしょせんチキン。
しかし学ぶことで一応、軽くはわかった……気がする。
「まずは発言!」
今までSNSはやってはいても、投稿はほとんどしたことがなかったのだ。
とりあえず仕組みに慣れよう!と、何かをアップすることにしよう。しかし。
「……なんて発言したらいいのかわからない」
1発言を打つまでに20分かかった。
しかも、内容は「今日の夕食は総額286円」と夕食の写真を載せてコメントをつけて。
皆が写真付きのものを投稿する理由がわかるような気がする。
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