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アリスとジャッカル
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お婆ちゃんはいつも言っていた。
困っている人を放って置いてはいけないよ、役に立つことがあれば教えておやり、手を貸しておあげ。
自然を敬い感謝して生きて行かなくちゃいけないよ。
暴力を誇示して力を示しても何も変わらない、注意深く観察すれば答えは見つかるもんさ、学んだ事は皆で共有するんだ、忘れないために。
きっと未来は今より明るくなる、信じて生きな。
物知りだったお婆ちゃん、薬も創れてお産婆や森の魔物を遠ざける術も使えた、皆の役に立って頼りにされていた。
なのに!
今は燃え尽きて灰になってしまった……お婆ちゃんは天国へ旅立った、まだ早かったのに、まだ皆と生きて行けたのに。
殺したのはあいつらだ、全員が白い馬に跨り白い鎧に白いマント。
聖教会騎士団魔女審問官。
異端と異教徒、特に魔女を狩って回る信仰と正義の名の下に弱者を弾圧する鬼畜集団、物知りだったお婆ちゃんは魔女として処刑されてしまった。
父さんも母さんも村の人皆が泣いて灰になったお婆ちゃんに手を合わせた。
聖教会が発行する免罪符を大金で買えば罪は許されるのだという、神の赦しとはお金で買えるものだと知った。
村の皆が集めたお金をお婆ちゃんはいらないと拒否して自ら処刑台に上がっていった。
お婆ちゃんが悪であるはずがない、神様とはなんだったのだ、悪魔とはなんだったのだ、自分たちの味方ではなかったのか。
僕はもう神を信じない、父さんたちに黙って行こう、あの街へ。
聖教会も騎士団も手を出せないクライムシティへ。
名もなき少年はソーン(茨)を目指した。
「隊長、討伐完了しました!」
腰に銀の鞘に収まった華美なサーベルを吊ったまだ少女の面影を残す騎士見習いが純白の聖教会騎士団隊長テントに報告のため息を弾ませてやって来た。
その顔には初めて討伐を経験した興奮を露にしている。
「君は確か……」
「はい!先週着任いたしましたアリス・ドゥ・ラ・ゴードン二尉であります」
ピシリと敬礼を決めた姿も初々しい、聖騎士団に女性兵士は珍しくないが名前にドゥ・ラが付くのは由緒正しい貴族であることを示している。
貴族の令嬢が聖騎士団兵士というのはかなりレアなケースだ、何か特別な理由が無ければ自分から選択する道ではない。
「私が今回の遠征隊分隊長を務めるピート・ロズワルド一尉です」
立ち上がると軽く会釈する、通常なら新任に立ち上がることなどしないが新兵で二尉着任、貴族のバックボーンを持つこの女性新兵は既に尉官、直ぐに佐官まで昇進して自分の上司となるやもしれない、好印象を残さなければならない。
おまけに想像とは違ってなかなかの美人、シャタンクレール(明るい栗色)の髪も好みだ。
「着任早々に残酷なものをお見せしてしまい心苦しい限りです、しかしこれも国内の宗教観念浄化の重要な任務、どうか許していただきたい」
口上を述べながら応接用のソファを勧める。
「いえ、自分はこのままで結構です、それに残酷などとは思いません、魔女はこの世界に災厄をもたらす悪しき存在、今日その悪の芽を自分の手で葬れたことを神に感謝しています」
そういうアリス二尉の表情は喜々としている、本心であることが伺えた、ここでピート一尉はこの女性が壊れていることに気付いた、初めて火刑を見た時ピートは悍ましさに自分を呪って胃を洗浄するほどに吐いたものだ、新兵の多くが経験する。
それを神に感謝なんていうセリフが出てくるのはどうかしている。
「そっ、それは素晴らしい、今後の活躍に期待いたしますよ、アリス二尉」
「もちろんです、期待に沿えるよう努力します」
制服の胸がはち切れそうだ、超が付く健康体、そういう表現が似合う、肌色、髪の艶、充実した気力と体力が滲み出ている。
「それでは、さっそくですが我が隊の先兵、貴官に預ける犬を紹介しましょう」
「犬?ですか」
「さようです、さあ、こちらへ」
アリス二尉が案内されたのは本部テントから離れた古びた飾り気のない無地のテント、使い古されてところどころに穴が開いている。
入口の布に触れたくないのかサーベルの柄を使って小さく捲ると、暗がりの中に向かって男の名前を呼んだ。
「ジャッカル!ジャッカル、出てこい、新任のご主人様がおいでだ、顔を見せろ!」
ガサッ 奥から土床を踏む音と共に浅黒い精悍な顔の異国人が現れた、身長百八十、無駄な肉のない均整のとれた身体は瞬発力とバネを感じさせる、捲り上げた腕に筋肉が束となって凹凸を付けている。
「マスター、御用でしょうか」
視線を合わせることなく膝を付く、騎士とは違い灰色の衣に革鎧だけの軽装備、足枷はない、囚われているわけではなく自分の意思でここに居る。
殉教者、マーターと言われ異端の宗教から聖教会へ信仰を変えた者たちだ。
多くは貧民であり、職も学もなく、肌の色で差別され定住する土地も持たず難民状態にある、その中から聖教会は自分たちの鉾として猟犬になりえる人材を殉教の名の下にスカウトしている、腰に吊るした雅なサーベルを汚さぬために。
もちろん反逆されぬように何かしらの人質に取ったうえでだ。
ジャッカルと呼ばれた男はその中でも聖教会への帰依意識が高く、また猟犬としての能力も秀でたマーターだ、令嬢新兵の保護者として持って来いだ、令嬢になにかあれば責任はマーターが負うことになる。
「着任したアリス・ドゥ・ラ・ゴードン二尉です、どうぞよろしく!」
快活な挨拶に違和感を覚えたのか下を向いたままのジャッカルの頬がピクリと動いた、ピート一尉同様にドゥ・ラの名前に反応したのだ、自分が子守を押し付けられたのを理解した。
困っている人を放って置いてはいけないよ、役に立つことがあれば教えておやり、手を貸しておあげ。
自然を敬い感謝して生きて行かなくちゃいけないよ。
暴力を誇示して力を示しても何も変わらない、注意深く観察すれば答えは見つかるもんさ、学んだ事は皆で共有するんだ、忘れないために。
きっと未来は今より明るくなる、信じて生きな。
物知りだったお婆ちゃん、薬も創れてお産婆や森の魔物を遠ざける術も使えた、皆の役に立って頼りにされていた。
なのに!
今は燃え尽きて灰になってしまった……お婆ちゃんは天国へ旅立った、まだ早かったのに、まだ皆と生きて行けたのに。
殺したのはあいつらだ、全員が白い馬に跨り白い鎧に白いマント。
聖教会騎士団魔女審問官。
異端と異教徒、特に魔女を狩って回る信仰と正義の名の下に弱者を弾圧する鬼畜集団、物知りだったお婆ちゃんは魔女として処刑されてしまった。
父さんも母さんも村の人皆が泣いて灰になったお婆ちゃんに手を合わせた。
聖教会が発行する免罪符を大金で買えば罪は許されるのだという、神の赦しとはお金で買えるものだと知った。
村の皆が集めたお金をお婆ちゃんはいらないと拒否して自ら処刑台に上がっていった。
お婆ちゃんが悪であるはずがない、神様とはなんだったのだ、悪魔とはなんだったのだ、自分たちの味方ではなかったのか。
僕はもう神を信じない、父さんたちに黙って行こう、あの街へ。
聖教会も騎士団も手を出せないクライムシティへ。
名もなき少年はソーン(茨)を目指した。
「隊長、討伐完了しました!」
腰に銀の鞘に収まった華美なサーベルを吊ったまだ少女の面影を残す騎士見習いが純白の聖教会騎士団隊長テントに報告のため息を弾ませてやって来た。
その顔には初めて討伐を経験した興奮を露にしている。
「君は確か……」
「はい!先週着任いたしましたアリス・ドゥ・ラ・ゴードン二尉であります」
ピシリと敬礼を決めた姿も初々しい、聖騎士団に女性兵士は珍しくないが名前にドゥ・ラが付くのは由緒正しい貴族であることを示している。
貴族の令嬢が聖騎士団兵士というのはかなりレアなケースだ、何か特別な理由が無ければ自分から選択する道ではない。
「私が今回の遠征隊分隊長を務めるピート・ロズワルド一尉です」
立ち上がると軽く会釈する、通常なら新任に立ち上がることなどしないが新兵で二尉着任、貴族のバックボーンを持つこの女性新兵は既に尉官、直ぐに佐官まで昇進して自分の上司となるやもしれない、好印象を残さなければならない。
おまけに想像とは違ってなかなかの美人、シャタンクレール(明るい栗色)の髪も好みだ。
「着任早々に残酷なものをお見せしてしまい心苦しい限りです、しかしこれも国内の宗教観念浄化の重要な任務、どうか許していただきたい」
口上を述べながら応接用のソファを勧める。
「いえ、自分はこのままで結構です、それに残酷などとは思いません、魔女はこの世界に災厄をもたらす悪しき存在、今日その悪の芽を自分の手で葬れたことを神に感謝しています」
そういうアリス二尉の表情は喜々としている、本心であることが伺えた、ここでピート一尉はこの女性が壊れていることに気付いた、初めて火刑を見た時ピートは悍ましさに自分を呪って胃を洗浄するほどに吐いたものだ、新兵の多くが経験する。
それを神に感謝なんていうセリフが出てくるのはどうかしている。
「そっ、それは素晴らしい、今後の活躍に期待いたしますよ、アリス二尉」
「もちろんです、期待に沿えるよう努力します」
制服の胸がはち切れそうだ、超が付く健康体、そういう表現が似合う、肌色、髪の艶、充実した気力と体力が滲み出ている。
「それでは、さっそくですが我が隊の先兵、貴官に預ける犬を紹介しましょう」
「犬?ですか」
「さようです、さあ、こちらへ」
アリス二尉が案内されたのは本部テントから離れた古びた飾り気のない無地のテント、使い古されてところどころに穴が開いている。
入口の布に触れたくないのかサーベルの柄を使って小さく捲ると、暗がりの中に向かって男の名前を呼んだ。
「ジャッカル!ジャッカル、出てこい、新任のご主人様がおいでだ、顔を見せろ!」
ガサッ 奥から土床を踏む音と共に浅黒い精悍な顔の異国人が現れた、身長百八十、無駄な肉のない均整のとれた身体は瞬発力とバネを感じさせる、捲り上げた腕に筋肉が束となって凹凸を付けている。
「マスター、御用でしょうか」
視線を合わせることなく膝を付く、騎士とは違い灰色の衣に革鎧だけの軽装備、足枷はない、囚われているわけではなく自分の意思でここに居る。
殉教者、マーターと言われ異端の宗教から聖教会へ信仰を変えた者たちだ。
多くは貧民であり、職も学もなく、肌の色で差別され定住する土地も持たず難民状態にある、その中から聖教会は自分たちの鉾として猟犬になりえる人材を殉教の名の下にスカウトしている、腰に吊るした雅なサーベルを汚さぬために。
もちろん反逆されぬように何かしらの人質に取ったうえでだ。
ジャッカルと呼ばれた男はその中でも聖教会への帰依意識が高く、また猟犬としての能力も秀でたマーターだ、令嬢新兵の保護者として持って来いだ、令嬢になにかあれば責任はマーターが負うことになる。
「着任したアリス・ドゥ・ラ・ゴードン二尉です、どうぞよろしく!」
快活な挨拶に違和感を覚えたのか下を向いたままのジャッカルの頬がピクリと動いた、ピート一尉同様にドゥ・ラの名前に反応したのだ、自分が子守を押し付けられたのを理解した。
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