霧の魔女と青銀の翼

祥々奈々

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シスター・ブルー

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 怒りと悲しみに震えるイクシージ軍曹を待つことなく中隊長ガロッツィ少尉のブリーフィングは続く。
 「二つ目の目標、あの山にはケツァルと呼ばれる鳥が群れでいる、その中でも少し小型のリーダーが神獣と呼ばれ人の言葉を話す、非常に知能が高い、我々の計画をラインハウゼンに伝えている可能性を否定できない、よって神獣ムトゥスの討伐、これが第二目標だ」
 「そして三つ目、これが最も困難な目標になる、狼の悪魔、チェバン・ボルツを始末する」
 「中隊長、発言よろしいでしょうか!?」
 「許可する」
 「対目標については確保ですか、処分ですか」
 「三目標とも処分だ、聖騎士は一度捉えたが始末を保留した結果がこれだ、同じ轍は踏まぬ、確実に処分せよ」
 「相手の武装は判明していますか」
 「マフィアと聖騎士の武装はたいしたことはないと考えられる、ただ同志マリアの死因が外傷もなく不明だ、未確認の武器がある可能性は否定できない、が三つの中では最も難易度は低い、次はチェバン・ボルツ、狼の実力は言うまでもない、戦力は二人だけだが侮る者はこの中にはいないだろう、奴はナイフ一振りで中隊規模を全滅させたこともある、特に夜の狼は無敵といっていい怪物だ、ただし本物の怪物は神獣だ、奴に敵と認識された場合、超高空からの音響攻撃が待っている、広範囲に降る唄笛は予知することも避けることも出来ない、救いは意識を喪失するだけで致死ではないということだ」
 「少尉、悟られずに狙撃するのは有効ではありませんか?」
 「神獣の暗殺作戦は過去に数度試みた、しかし毎回引き金を引くまでには至らず距離を取られている、神獣は何らかの方法でこちらの気配を察知しているようだ、射程は奴の方が長い」
 「それで今までにこちらの被害はあったのでしょうか?」
 「神獣に限れば無い」
 「殺すことには消極的とみえますね」
 「君たちにはこの三つのターゲットに挑んでもらう、この後編成を行うがいずれも短期決戦、知っての通りノーベル移住計画は既に始まっている、病に怯える同胞を救うのだ、その成功の一端は君たちの働き次第だと覚悟せよ!!」
 全員が立ち上がり軍靴の底を床に打ち付ける! ガッ ガッ
 
 「マーシャラー!神の望むままに!」

 「シスター・ブルー、馬車の中に持ち主を示す物は見当たりません」
 純白に金の縁取り、目深に被った法曹帽に黒いレースの目隠しはその下の表情を隠している。
 「分厚い板に鉄板を張った車体、まるで装甲車ですね、こんな物に乗るのは軍隊以外ではマフィアしかいません、この道で間違いなかったようです」
 「しかし、この男たちは何者でしょうか!?チェバン人のように見えるのですが」
 馬車の近くには使用人の服を来た男たちの死体が転がっている、その胸や額には銃弾による穴が開いていた。
 「霧の魔女を追ってきたのに予想外の事態です、シスター・ブルー、我らの姿を見たとたんに切りかかってくるとは余程後ろめたい事があったと見えますな」
 初老の法曹、聖教会だが騎士ではない、しかしその手には最新の拳銃と背中にはライフル銃を担いでいる。
 シスター・ブルーと呼ばれた女が持つ拳銃は紫煙の糸を引いていた。
 「一撃で当てるとは!相変わらず見事な腕前です」
 「援護してくださった皆さんのお蔭です、どうみてもノーベル男爵の使用人ではないですね、この街の瘧騒ぎは単なる疫病ではないかもしれません、まあ、関係ありませんわ、我らの任務は霧の魔女の確保、邪魔するなら誰であっても容赦しません」
 その服の金縁が意味するのは司祭の階級、基本的には女性の司祭を認めない聖教会において唯一の女性司祭、それは比類なき才能が聖教会に司祭たることを当然と認めさせた。
 柔らかな物腰、優しい口調、控えめでいて気が付くと主役にいる、本来ならプリエステス・ブルー(女性司祭)と呼ばれるところが彼女はシスターと通常の呼び方で呼ばせている、特別であることをひけらかすことをしない。
 セイント・ヴァルキリア(戦場の未亡人)、そう呼ぶ者もいた、それは重火器を扱う才能、単に射撃だけではなく火薬の精製、自分で銃弾を作るハンドローダーなのだ。
 火薬の威力、弾丸の直進性、射撃技術、どれも超一流。
 その技術をもって大司教や枢機卿、さては教皇のために敵といわず味方であっても邪魔者の暗殺任務を担っている、シスター・ブルーの力を借りた者は多い、それは彼女に秘密を握られていると同義語であり彼女の目標は更に上にある。
 一見つまらない任務、本当に実在するのかも怪しい霧の魔女の確保、大司教からの依頼、そのメリットを見いだせない愚か者たちは何かと理由をつけて断る者がほとんどだ、本来ならシスター・ブルーに声は掛からない、いや掛けられない塩漬けになりそうな仕事のはず、しかし大司教の影に潜む依頼主の匂いをブルーは嗅ぎ分ける。
 (これは枢機卿より上の……モンサン・キーからのものだわ)
  「さあ、みなさん、慌てることはありません、この辺でお茶にいたしましょう」
 「おおっ、流石はブルー様、準備がよろしいですね、見張りを交代しながら頂くとしよう」
 初老の法曹モンスーンが音頭を取り、横にチェバン人の死体を置きながら聖女を囲む午後のお茶会となった。
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