霧の魔女と青銀の翼

祥々奈々

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怒れるシスター

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 「工場からパラフィン紙の在庫が無くなりつつあると……」
 「ザイオン・ファミリーからの連絡はないのか」 
 「今のところ……つまらないシノギだと連中に供給の全てを任せていたのが失敗でした、国内に取り扱いの業者がほとんどいません」
 「まさかチェバン・ボルツに狙われるとは……飼い犬に手を噛まれるとはこのことだ!」
 「ドルトムントと話はついていたはずだ、この責任はチェバン政府にある、連中にも探させろ!」
 「はっ、至急に」
 パラフィン紙は神の粉を小分けにして販売するための最小単位となる、容量の大きくなる瓶詰では顧客が限定されるし利益率も下がる。
 このところ偽薬が出回っている、神の粉の権威が下がってしまうのは問題だ。
 何故こんなことになったのか!?聖教会枢機卿のひとりで神の粉の責任者ウバルは焦っていた、次期教皇を狙う一人であれば今失敗することは許されない、それはレースからの離脱を意味する。
 「あと、あれはどうした?魔女、霧の魔女というのは捕らえたのか」
 神の粉の他に瘧(マラリア)を治癒できるものがあってはならない、例え小さな糸くずでも引けばやがて大きな綻びになりかねない。
 疑わしきは直ぐに対処する、それがウバルの信条だ、遺恨は残さない、根絶やしにする。
 「申し訳ございません、今だ捕らえることはできておりません」
 「生かして連行せよというのがモンサン・キーからの命令だ、現場部隊には伝わっているだろうな」
 「はい、それは確かに伝えております」
 「誰を行かせた?」
 「セイント・ヴァルキリア(戦場の乙女)、シスター・ブルーの部隊を派遣いたしました」
 「なに?彼女がこの仕事を受けたのか!?」
 「助かりました、主要な所へ声をかけたのですがいずれも忙しいを理由に断られまして、困っていたところ話を聞きつけたシスターの方から手を上げて頂いたのです」
 「なるほど、彼女らしい、シスター・ブルーが行ったなら間もなく朗報が聞けるだろう」
 あの女も終わりだ、いろいろ後ろめたい事を掴まれていたがこれで精算できるとほくそ笑んだ。
 ウバルの視線はシスター・ブルーが向かったノーマン領アコンガ山ではなく、反対側のモンサン・キーの高台を見ていた。

 「シスター・ブルー!これを見てください!」
 隊員の手に握られていたのは円錐の剣レイピアと曲刀ファルカータ、いずれも聖教会の印、五芒星が刻まれている、聖騎士の物だ。
 「これはどちらに?」
 「屋敷の領主部屋にありました」
 「連絡の途絶えたという騎士団遠征隊の二人の物で間違いないでしょう、ここに捕らわれているのですね、探してください」
 「きっと地下御廟だ!急げ!」
 副官であり法曹のモンスーンが部下に具体的な指示をだすと部下たちは慌てて階段を駆け下っていく。
 「あまりにも変だわ」
 ブルーは撃ち殺した死体を見ながらひとり言のように呟くがモンスーンは聞き逃さない。
 「この者たちのことですか、顔立ちや雰囲気、何より持っていた装備、間違いなくチェバン人です、侵略でしょうか」
 「そう、大筋ではそうね、ノーベルの住民がチェバン人に入れ替わっている、でもそんな事がどこへも知られずに可能かしら、無理よ、内部に協力者がいなければ不可能だわ」
 「なんですと!国を売る人間が我が国の政権内部にいると言われるか!?」
 「私達に知らされていない事が、それも大事が係わっている、私としたことが鼻が利き過ぎたようね」
 「ぬぬぬぬっ、ブルー様の言われる通りなら我々の扱いも地下の聖騎士同様ということに!?」
 「そういう事になるわ」
 「撤退しますか!?」
 「出来ない、画を描いたのが誰かは分からない限り、この秘密を知った我々は暗殺対象になるわ、ここに居た方がマシだけれどチェバン人のテロリスト共はどちらにしても襲ってくるでしょうね」
 「しかし、ここにいては手持ちの武器も限られています、いずれジリ貧に!」
 「獣に手を噛まれたらどうすればいいと思う?」
 「はああ?今その話ですか!」
 「その時はね、より獣の口の奥に突っ込んでやるの、その舌の根本を掴んでやればいい」
 「!なるほど、今我々がいるのは正に……ならばこの奥に!!」
 ダダダッ 御廟を見に行った部下たちが駆け上がってくる。
 「シスター!いっ、いましたが殺されています!」
 「くそっ、やはりそうか!」
 「いえ!殺されていたのはやはりチェバン人です、先程の馬車の奴らと同じ使用人に変装していました」
 「へえ、やるじゃない!これはマフィアの方ね、鉄馬車で来ていた連中の仕業だわ」
 「それが妙なのです、死体に傷がありません、まるで病死したようなんです」
 「毒を盛ったのかもしれん」
 「何か違うのです、急に呼吸を奪われたような引き攣った死に顔で、あんな顔の死体は見たことがありません、まるで……」
 「まるで?」
 「魔女!あれは魔女の仕業では!?きっとそうです!」
 「魔女の魔術に違いありません!!」
 「そんなバカな、現実に魔法など存在せぬわ!毒だ、毒を使ったのだ」
 「なら、聞いてみましょう、当初のターゲット、霧の魔女に」
 「ここにいたのは霧の魔女なのですか」
 「鉄馬車はマフィアの持ち物、そして霧の魔女はソーン・シティに潜んでいるという、マフィアと組んでいてもおかしくない、そしてどういう理由か分からないけれど聖騎士を助けた」
 「魔女が聖騎士を!?」
 「仲良くしているとは限らないわ、捕虜になっているのかもしれない、でも捕らわれていた聖騎士を魔女は助けて脱出した、これは間違いないと思う」
 「なんと……」
 モンスーンは絶句した、魔女にとって聖教会は仇敵にも等しいはず、罪なき女を有能だからと火刑に処してきた、聖教会の前に賢者は邪魔になる、民衆は馬鹿でいてもらう必要があるのだ、統治するための方法、それが宗教の本質。
 だがその宗教に抗う事も馬鹿のやる事だ、どう泳いでいくかは川や海によって変わる、その流れを読めない者もまた無能だ。
 シスター・ブルーは怒りを抑えて生き残り、この窮地をプラスに転ずる方法を考える。
 「まずは脱出した聖騎士と霧の魔女に合流しましょう、彼らの目的を知ることが優先ね」
 「霧の魔女を捕えるのですね」
 「それは考えない方が良いでしょう、きっと手強い、敵対するより取り込んだ方が得策」
 表情に出さないがシスター・ブルーは激怒している、この状況を知っていながら我々に教えなかったものに鉄槌を食らわしてやる。
 ギラリとセイント・ヴァルキリアの瞳が光る。
 ガシャンッ 杖が床を強く打った、シスターがヴァルキリアに変わった合図だ。
 「!!」モンスーンが即座に呼応する。
 「全員傾聴!!」
 バシィ 鍛えられた全員が銃床を床に降ろして直立不動となり視線が集まる。
 「諸君!我が国の中枢には木の幹を食い荒らす害虫がいたようだ、このままではやがて腐り倒木の憂き目にあうやもしれぬ、聖なる法曹としての仕事だ、神の名の許に今!法衣を捨てろ!鎧を纏う時がきた、諸君、狩の準備だ!!」
 ガシャッ 
 「法衣遺棄!神武装着!!」
 モンスーンは聞いた、戦場の未亡人が怒りを小さく漏らすのを。
 「あの野郎、絶対にぶっ殺す!!!」
 
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