1 / 109
噂
しおりを挟む
帰り道を失くした一匹の蜂が街に迷い込んだ、雑踏を避ける羽根は静かで大人しい、でも甘く見るな、触れればその毒針は鋭く容赦ない。
狭い路地の露店街は道中央にベンチが並べられて食べ歩き出来るようになっている。
エミーはそのうちの一軒でライ麦のパンに野菜や焼いた肉を挟んだサンドイッチと水をひと瓶買うと空いていたベンチに腰を降ろした。
露店街は夕食前に一杯飲む連中や総菜を買い求める主婦たちで混雑しているが、まだ剣呑な雰囲気はない。
日が沈み人と街にアルコールと麻薬が十分に回ってくると様子が一変する、そこには女が一人でいてはいけない危険が充満する。
フードを頭から被り、長いマントで容姿を隠していても華奢であること、露出している長く細い指が隠されたフードの中に興味を引いている。
目の早い男たちの下品な視線を無視しながら雑踏から聞こえる噂話に聞き耳を立てる、世間の情報を得るには一番手っ取り早く正確だ。
裏のベンチで仕事上がりの兵隊が娼婦の女を連れて名産のカルヴァドス(リンゴのブランデー)をあおりながら鴨肉のつまみでひっそり飲んでいた。
「あんた、あの聞いた?」若い兵隊より少し年上に見える女は娼婦にしては薄い化粧で擦れた感じがない、経験が浅いのか演出なのかは分からない。
「あの話ってなんの話さ?」若い兵士は下級貴族の嫡男なのか羽振りは良さそうだ、透明なグラスに注がれたカルヴァドスの色が濃い、本物ならXO(六年以上熟成させたもの)だろう、露店で飲むには高級すぎる。
「王宮にエリクサーが持ち込まれたって話さ」
「ああ、知っているぞ、なんでも一度に五十本以上持ち込まれたそうだ、王宮の予算を圧迫するほどの金額だったらしいな」
「本物なのかい?」
「噂だけれど王妃様が肺の病で伏せっておられていたのが最近は謁見できるそうだ」
「エリクサーを飲んだって事なの」
「タイミング的にはそうとしか考えられないな、肺の病は重篤だったと聞いている」
「私ね、本物見たことあるの・・・金色に輝く美しい琥珀色、宝石のようだったわ」
「子爵様か・・・」
「そう、お父様はそんな珍品や骨董品なんかにお金を注ぐ人だった・・・そんなだから没落しちゃったのだけれどね」
少し視線を落として安物の服の裾を弄ぶ、女は没落貴族の令嬢、ランドルトン派だった貴族の大半はミストレス・ブラックパールの反逆罪での逮捕を受けて国王による粛清を受けた。
「いつか俺が必ず身受けしてやる、待っていてくれ」若い兵士は女と幼馴染だった。
「期待しないで待っているわ」答えた女の視線が遠い空に向けられていているのを兵士は不満そうに見た。
「それとあれだ、エリクサーの出所が怪しいんだ」
「エリクサーの出所、そういえば聞いた事ないわね」
「数年前に貴族を狙った義賊が出没していたのを覚えているか?」
「ええ、家は被害に会わなかったけれど派閥関係なく襲われたわね」
兵士は頷くとカルヴァドスの残りを一気に飲み干した。
「その賊の首領だった男が持ち込んだって噂なんだよ」
「確か捕まって死罪になったって聞いたわよ」
「死罪っていってもガレオン船の永久漕ぎ手送りだったらしい、死体は確認されていない」
「そうなんだ、でもエリクサーも義賊もオカルト紛いの怪しい話ね」
「まあな、王宮の内部の事なんて我々下級兵士には正確には伝わらない、金魚なみの尾鰭がついている」
「あんたのコネでエリクサーが手に入ったらさ、私にも分けておくれよ、少しは待ってる時間も伸びるだろうさ」
作り笑顔だ、娼婦はひと夜で幾人もの相手をする、いずれ必ず病気に感染してしまう、穏やかな未来は見えない。
「そんなことにはならない、約束するよ」
「優しい嘘」
月に透かせて仰ぎ見たカルヴァドスのグラスは月の光を受けて淡い金色に輝いた。
「少し似ているかも・・・」至高の回復薬エリクサーの味を想像しながら女はカルヴァドスを喉に流し込んだ。
飲み終えた二人は連れ立って夜の街へと消えた。
「・・・」フードを降ろして細い指で首を挟むように脈に当てる。
乱れはない、冷静だった。
薄い銅色の髪は月の灯を受けたハイライトが金色を反射する、薄い緑の瞳と小さな鼻、線の細い顎は可憐な少女の様だがエミーの性別は男性だ。
義賊の首領、デル兄の事に違いない・・・「生きている!?」
半年前に皇太子エドワードから聞いた話ではガレオン船は爆沈したはずだ。
噂話と皇太子の情報、信憑性は疑うまでもない。
デル兄は弟エミーに罪が及ばないように自分から罪を名乗り出て捕まった、孤児院の環の外にいた自分に唯一近づこうとしてくれた兄弟。
少し斜めに構えた態度の裏にある人一倍の優しさをエミーは知っている。
エドからデルの顛末を聞いても涙はでなかったし脈も乱れない、自分はなんと冷酷な人間なのか思い知らされた。
悲しくはあれど仕方がないと割り切れてしまう、慟哭に心を病むことはない、
「義賊のエリクサーか・・・」
いずれ海を渡って他国に行こうと思っていた、皇太子の婚約者と同じ顔をもった人殺しは同じ国にいてはいけないからだ。
そう思いながらこの国で半年が過ぎた、フローラに対する暗殺の疑念が晴れなかったからだ、あの渓谷の戦いの中で逃亡を許したのが三人、うち一人は一月ほどで片付けた、婚約パレードの前だった、あと二人は気紛れで見逃してしまった。
片手を切り落とした男と爆弾女、それ以降は消息がしれない。
やはりあの時殺しておくべきだった、以前のエミーなら考えることもなく殺していた、しかし女の為に見逃してくれと頭を擦りつけた男をフローラなら殺さない。
間違っていても後悔はない。
バロネス・フローラは今、婚礼に向けて王宮に入ったそうだ、チーム・エドワードの警備が付いている、心配はいらない。
「ふふっ」会いに行ったらどんな顔をするだろう、自分と同じ顔が自分の出来ない表情をする、フローラは大事な親友で分身だ。
想像したら猛烈に怒っている顔が浮かんだ、別れをいっていないからだ、でもそんな時が来たら張り手の二、三発は避けないで打たれてもいい。
半年たっても女言葉が抜けない時がある、師父東郷以外でここまで深く人と関わったのは初めてだった。
自分がフローラの近くにいればそれがリスクになる、環の外から彼女の幸せを見たい。
婚約パレードで見た二人の笑顔は忘れない、思い出していたら幸せな気持ちになった、雑踏の喧騒さえ小鳥の囀りに聞こえてくる。
ガシャアアァンッ 唐突に何かがひっくり返った、そして怒声が響き小鳥の囀りを現実の波長に戻す。
「ああ!何してくれてんだテメエ!!」
怒声の方向には盛大にひっくり返った皿を前に顔を真っ赤にして怒る禿オヤジと倒れた女の子が見えた。
「もう売りもんになんねぇじゃねえか!どうしてくれんだ・・・と、お前はフラッツ子爵のとこのお嬢様、いや元子爵か」
禿オヤジが露骨に蔑んだ表情を浮かべる。
「あ、あのギルを、ギル・ビオンディを見ませんでしたか?」
「ああー!?ギルって、薬師のギルか、知らねえな、それより手前がひっくり返した商品の落とし前どうしてくれんだよ、金持ってんのか元子爵令嬢様よ」
「今お金は持っていません、後で必ずお支払いしますから、ギル、ギルを探してください、一昨日出かけたきり戻らないのです」
「だから知らねえって言ってんだろ!それより金だよ、この人で無しが!!」
ドゴォッ 靴の底で蹴られて女は人形のように転がった。
「やっ止めて!誰かっ・・・」
周りを囲んだ地元民たちはその様を見ても止めるどころか薄笑いを浮かべている、完全に苛めだ。
調子に乗ったオヤジが拳を振り上げた。
「今まで俺たちを虐げた報いだな!ええ、お嬢様よぉ!」
ブンッ バチィンッ 突き出した拳が細い指に阻まれた。
「なっ!?」
フードを被った華奢な女?が拳を掴んでいた、いつ現れたのか誰も気づかなかった。
「止めておけ、人殺しになりたいか」
静かに声は女のものだがゾッとさせる冷たさがある。
「うっ、動かねぇ・・・」細い指のどこにこんな力があるのかロックされた拳にメリメリとめり込んでいく。
「おっ、折れる!!」骨の湾曲が限界を迎えた時、パッと唐突に拳は解放される。
オヤジは慌てて手を戻し後退った。
「てめぇ、何しやがる!?」
エミーはマントを翻して腰の愛刀ジグロを見せつける。
「!!帯刀してやがるぞ」
「くっ、くそ、そんな奴死んで当然なんだ!」
野次馬が散りだすのを見て禿オヤジも負け惜しみを残して店の奥に消えた。
通りは直ぐに何もなかったように雑踏を取り戻し流れ始める、凍った空気が溶かされる。
「立てるかい?」
「は・・・はい、ありがとうございます」
「!?」
彼女の視線が定まっていない。
「目が見えないのか?」
「まったく見えないわけではないのです、うすぼんやりとは・・・」
手を取り抱え起こした少女は華奢なエミーより更に軽い、眼窩が窪み顔色も悪い、乾燥した肌が荒れている、老けて見えるが実年齢はエミーと変わらないかもしれない。
「家は近いのか?」
「・・・」どう答えるか躊躇っている、当然だ。
「私は冒険者のエミー、フレジィ・エミーで通っている、もう暗くなる、良ければ送るよ」
王宮発行の登録証を少女の手に握らせる、皇太子エドが用意してくれたものだ、発行者の記名は皇太子とフローラの名前が刻まれた御璽がある、両名が身元を保証した登録書を持つのは国内でもエミーひとりだろう。
「本物!?」手探りの後、息がかかる程に顔を近づけて目を丸くする。
「私はこの土地に縁はない旅人だ、訳は知らないが君をこのまま放ってはおけない」
女は見えない目でエミーの輪郭を探して頷いた。
「ご面倒をおかけします・・・」
冷えて痩せた手を取るとエミーは厩へ向けて引き返した。
狭い路地の露店街は道中央にベンチが並べられて食べ歩き出来るようになっている。
エミーはそのうちの一軒でライ麦のパンに野菜や焼いた肉を挟んだサンドイッチと水をひと瓶買うと空いていたベンチに腰を降ろした。
露店街は夕食前に一杯飲む連中や総菜を買い求める主婦たちで混雑しているが、まだ剣呑な雰囲気はない。
日が沈み人と街にアルコールと麻薬が十分に回ってくると様子が一変する、そこには女が一人でいてはいけない危険が充満する。
フードを頭から被り、長いマントで容姿を隠していても華奢であること、露出している長く細い指が隠されたフードの中に興味を引いている。
目の早い男たちの下品な視線を無視しながら雑踏から聞こえる噂話に聞き耳を立てる、世間の情報を得るには一番手っ取り早く正確だ。
裏のベンチで仕事上がりの兵隊が娼婦の女を連れて名産のカルヴァドス(リンゴのブランデー)をあおりながら鴨肉のつまみでひっそり飲んでいた。
「あんた、あの聞いた?」若い兵隊より少し年上に見える女は娼婦にしては薄い化粧で擦れた感じがない、経験が浅いのか演出なのかは分からない。
「あの話ってなんの話さ?」若い兵士は下級貴族の嫡男なのか羽振りは良さそうだ、透明なグラスに注がれたカルヴァドスの色が濃い、本物ならXO(六年以上熟成させたもの)だろう、露店で飲むには高級すぎる。
「王宮にエリクサーが持ち込まれたって話さ」
「ああ、知っているぞ、なんでも一度に五十本以上持ち込まれたそうだ、王宮の予算を圧迫するほどの金額だったらしいな」
「本物なのかい?」
「噂だけれど王妃様が肺の病で伏せっておられていたのが最近は謁見できるそうだ」
「エリクサーを飲んだって事なの」
「タイミング的にはそうとしか考えられないな、肺の病は重篤だったと聞いている」
「私ね、本物見たことあるの・・・金色に輝く美しい琥珀色、宝石のようだったわ」
「子爵様か・・・」
「そう、お父様はそんな珍品や骨董品なんかにお金を注ぐ人だった・・・そんなだから没落しちゃったのだけれどね」
少し視線を落として安物の服の裾を弄ぶ、女は没落貴族の令嬢、ランドルトン派だった貴族の大半はミストレス・ブラックパールの反逆罪での逮捕を受けて国王による粛清を受けた。
「いつか俺が必ず身受けしてやる、待っていてくれ」若い兵士は女と幼馴染だった。
「期待しないで待っているわ」答えた女の視線が遠い空に向けられていているのを兵士は不満そうに見た。
「それとあれだ、エリクサーの出所が怪しいんだ」
「エリクサーの出所、そういえば聞いた事ないわね」
「数年前に貴族を狙った義賊が出没していたのを覚えているか?」
「ええ、家は被害に会わなかったけれど派閥関係なく襲われたわね」
兵士は頷くとカルヴァドスの残りを一気に飲み干した。
「その賊の首領だった男が持ち込んだって噂なんだよ」
「確か捕まって死罪になったって聞いたわよ」
「死罪っていってもガレオン船の永久漕ぎ手送りだったらしい、死体は確認されていない」
「そうなんだ、でもエリクサーも義賊もオカルト紛いの怪しい話ね」
「まあな、王宮の内部の事なんて我々下級兵士には正確には伝わらない、金魚なみの尾鰭がついている」
「あんたのコネでエリクサーが手に入ったらさ、私にも分けておくれよ、少しは待ってる時間も伸びるだろうさ」
作り笑顔だ、娼婦はひと夜で幾人もの相手をする、いずれ必ず病気に感染してしまう、穏やかな未来は見えない。
「そんなことにはならない、約束するよ」
「優しい嘘」
月に透かせて仰ぎ見たカルヴァドスのグラスは月の光を受けて淡い金色に輝いた。
「少し似ているかも・・・」至高の回復薬エリクサーの味を想像しながら女はカルヴァドスを喉に流し込んだ。
飲み終えた二人は連れ立って夜の街へと消えた。
「・・・」フードを降ろして細い指で首を挟むように脈に当てる。
乱れはない、冷静だった。
薄い銅色の髪は月の灯を受けたハイライトが金色を反射する、薄い緑の瞳と小さな鼻、線の細い顎は可憐な少女の様だがエミーの性別は男性だ。
義賊の首領、デル兄の事に違いない・・・「生きている!?」
半年前に皇太子エドワードから聞いた話ではガレオン船は爆沈したはずだ。
噂話と皇太子の情報、信憑性は疑うまでもない。
デル兄は弟エミーに罪が及ばないように自分から罪を名乗り出て捕まった、孤児院の環の外にいた自分に唯一近づこうとしてくれた兄弟。
少し斜めに構えた態度の裏にある人一倍の優しさをエミーは知っている。
エドからデルの顛末を聞いても涙はでなかったし脈も乱れない、自分はなんと冷酷な人間なのか思い知らされた。
悲しくはあれど仕方がないと割り切れてしまう、慟哭に心を病むことはない、
「義賊のエリクサーか・・・」
いずれ海を渡って他国に行こうと思っていた、皇太子の婚約者と同じ顔をもった人殺しは同じ国にいてはいけないからだ。
そう思いながらこの国で半年が過ぎた、フローラに対する暗殺の疑念が晴れなかったからだ、あの渓谷の戦いの中で逃亡を許したのが三人、うち一人は一月ほどで片付けた、婚約パレードの前だった、あと二人は気紛れで見逃してしまった。
片手を切り落とした男と爆弾女、それ以降は消息がしれない。
やはりあの時殺しておくべきだった、以前のエミーなら考えることもなく殺していた、しかし女の為に見逃してくれと頭を擦りつけた男をフローラなら殺さない。
間違っていても後悔はない。
バロネス・フローラは今、婚礼に向けて王宮に入ったそうだ、チーム・エドワードの警備が付いている、心配はいらない。
「ふふっ」会いに行ったらどんな顔をするだろう、自分と同じ顔が自分の出来ない表情をする、フローラは大事な親友で分身だ。
想像したら猛烈に怒っている顔が浮かんだ、別れをいっていないからだ、でもそんな時が来たら張り手の二、三発は避けないで打たれてもいい。
半年たっても女言葉が抜けない時がある、師父東郷以外でここまで深く人と関わったのは初めてだった。
自分がフローラの近くにいればそれがリスクになる、環の外から彼女の幸せを見たい。
婚約パレードで見た二人の笑顔は忘れない、思い出していたら幸せな気持ちになった、雑踏の喧騒さえ小鳥の囀りに聞こえてくる。
ガシャアアァンッ 唐突に何かがひっくり返った、そして怒声が響き小鳥の囀りを現実の波長に戻す。
「ああ!何してくれてんだテメエ!!」
怒声の方向には盛大にひっくり返った皿を前に顔を真っ赤にして怒る禿オヤジと倒れた女の子が見えた。
「もう売りもんになんねぇじゃねえか!どうしてくれんだ・・・と、お前はフラッツ子爵のとこのお嬢様、いや元子爵か」
禿オヤジが露骨に蔑んだ表情を浮かべる。
「あ、あのギルを、ギル・ビオンディを見ませんでしたか?」
「ああー!?ギルって、薬師のギルか、知らねえな、それより手前がひっくり返した商品の落とし前どうしてくれんだよ、金持ってんのか元子爵令嬢様よ」
「今お金は持っていません、後で必ずお支払いしますから、ギル、ギルを探してください、一昨日出かけたきり戻らないのです」
「だから知らねえって言ってんだろ!それより金だよ、この人で無しが!!」
ドゴォッ 靴の底で蹴られて女は人形のように転がった。
「やっ止めて!誰かっ・・・」
周りを囲んだ地元民たちはその様を見ても止めるどころか薄笑いを浮かべている、完全に苛めだ。
調子に乗ったオヤジが拳を振り上げた。
「今まで俺たちを虐げた報いだな!ええ、お嬢様よぉ!」
ブンッ バチィンッ 突き出した拳が細い指に阻まれた。
「なっ!?」
フードを被った華奢な女?が拳を掴んでいた、いつ現れたのか誰も気づかなかった。
「止めておけ、人殺しになりたいか」
静かに声は女のものだがゾッとさせる冷たさがある。
「うっ、動かねぇ・・・」細い指のどこにこんな力があるのかロックされた拳にメリメリとめり込んでいく。
「おっ、折れる!!」骨の湾曲が限界を迎えた時、パッと唐突に拳は解放される。
オヤジは慌てて手を戻し後退った。
「てめぇ、何しやがる!?」
エミーはマントを翻して腰の愛刀ジグロを見せつける。
「!!帯刀してやがるぞ」
「くっ、くそ、そんな奴死んで当然なんだ!」
野次馬が散りだすのを見て禿オヤジも負け惜しみを残して店の奥に消えた。
通りは直ぐに何もなかったように雑踏を取り戻し流れ始める、凍った空気が溶かされる。
「立てるかい?」
「は・・・はい、ありがとうございます」
「!?」
彼女の視線が定まっていない。
「目が見えないのか?」
「まったく見えないわけではないのです、うすぼんやりとは・・・」
手を取り抱え起こした少女は華奢なエミーより更に軽い、眼窩が窪み顔色も悪い、乾燥した肌が荒れている、老けて見えるが実年齢はエミーと変わらないかもしれない。
「家は近いのか?」
「・・・」どう答えるか躊躇っている、当然だ。
「私は冒険者のエミー、フレジィ・エミーで通っている、もう暗くなる、良ければ送るよ」
王宮発行の登録証を少女の手に握らせる、皇太子エドが用意してくれたものだ、発行者の記名は皇太子とフローラの名前が刻まれた御璽がある、両名が身元を保証した登録書を持つのは国内でもエミーひとりだろう。
「本物!?」手探りの後、息がかかる程に顔を近づけて目を丸くする。
「私はこの土地に縁はない旅人だ、訳は知らないが君をこのまま放ってはおけない」
女は見えない目でエミーの輪郭を探して頷いた。
「ご面倒をおかけします・・・」
冷えて痩せた手を取るとエミーは厩へ向けて引き返した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~
Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。
それでも、組織の理不尽には勝てなかった。
——そして、使い潰されて死んだ。
目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。
強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、
因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。
武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。
だが、邪魔する上司も腐った組織もない。
今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。
石炭と化学による国力強化。
情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。
準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。
これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、
「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、
滅びの未来を書き換えようとする建国譚。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
異世界での異生活
なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる