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クルーザー
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どうせ領内の掌握を終えたころに正式な爵位を得た兄がこのマナーハウスにやって来る、自分は下働きをさせられているだけだ。
だからといっていい加減な仕事は嫌だ、それまでの業務は完璧に遂行して見せる。
その中でも頭の痛い問題があった、一時的にでも統治を失った領内の治安は急激に悪化した、警察力の低下した領内に野盗強盗の類が近隣から集まり集団となって村や商家を襲い始めている、王家から派遣された警備隊は少数でとても全部に対応することなど出来ない、旧フラッツ家直属の兵士は全員武装解除させているし、新たに警備隊を組織するにはあまりに時間がない。
特に解体された旧ランドルトン派閥の貴族の生き残りたち、粛清を逃れた者が徒党を組み組織化してきていた。
生来の貴族は庶民の中で働くことなど出来ない、領民から吸っていた税収という糧を失い、生み出すことを知らない簒奪者は奪う形を変えて安易に生き残りを図ろうと犯罪集団へと堕ちていく。
「今週だけで十件やられました」担当次官が報告書を手に汗を拭いている。
「同一犯なぁのですか」
「おそらく違います、手口はバラバラで統一性はありません、目撃者の証言も噛み合いませんでした」
「襲われたのは押収した金品をぅ隠しておいた場所ばかり、内通者がいるぅな」
「内通者・・・スパイですか?」
「いずぅれにしろ逆賊をこれ以上太らぁせるわけにはぁいぃきません、ここはひとつ罠を仕掛けましょう、出来るだけ腕の立つ兵士を集めてください」
「腕の立つものですか?使えそうな連中は皆要職に就いてしまっていて果たして何人集められるか・・・」
「この際引退したぁ老兵でも農家の力自慢でぇも構いません、最低でぇも十人、ぁ集めて下さい」
「十人・・・」次官は引き抜くべき顔を頭の中に並べてみたが期待には堪えられそうにない。
「いぃなければ領内でスカぁウトしてもかぁまいません、とぉにかく早急に揃えてくぅださい」トマスはイライラしてくると語尾の訛りが酷くなる、察した次官は空返事を残して走り去った。
バーモンド本家から王家に対して応援要請をすることも出来るが時機尚早だ、無策のまま王家に頼っては臆病者の誹りを本家が受ける事となる、ここは何とかしなければならない、踏ん張りどころだ。
トマスは腰のサーベルは短くお飾りに等しい、街を創り育てるのが自分の仕事、破壊は正反対だ、トマスは暴力が嫌いだ、その能力を磨こうと思ったことはない、そんな時間があるのなら本を読み勉強したかったが才能がその時間を奪い付いた字名、アングリー(怒れる)・ドワーフ。
トマスは大きく分厚い自分の掌を見て溜息をついた。
「いらない才能だ・・・」その声は訛っていなかった。
旧ランドルトン領の海岸にかつては公爵家お抱えの造船所が連なっている、いまは一時的ではあるが王家の管理下に置かれていた。
「社長!あのクルーザー売れそうだって本当ですか!?」
いかにも職人といった工場長が社長室に走り込んできた、朝から騒がしい。
「ああ、前金も貰ったぞ!」
葉巻を咥えた社長の顔色は昨日まで違い明るい、ミストレス・ブラックパールから直接依頼を受けて建造していた新造二十メーター級クルーザー、補助的とはいえ蒸気動力も備えて一年の遠洋航行にも耐えうる豪華で堅牢な船だ。
その分、お値段も破格だった。
「いったい誰が!?今はどこの貴族も払える奴はいないと思っていましたが・・・」
「それがな・・・名前は明かせないが信頼は置ける奴だ」
「社長、大丈夫なのですか?踏み倒されればこの会社は一巻の終わりですよ!?」
「あいつが売れなきゃどっちにしても倒産だよ、王宮も新領主もお堅くて娯楽のクルーザーになぞ見向きもしない、損失は全てこっち持ちだ」
「前金てのはどれくらいですか?」
「即金で半額だ」
「半額!?そんなに!」
「ああ、引き渡し後に手形も割賦も無しにもう半額、どうだ、いい話だろう」
「信用できる会社なのですか、手形もなしに即金払いだなんて、まさかマフィアとかじゃ?」
工場長の不安ももっともだった、この港の造船所はランドルトン公爵お抱えのようなもの、王家の支配下に置かれた、各造船所は事業仕分けのターゲットだ、軍艦のような巨大な造船所は国も欲しがるだろうが、遊興用の造船に将来があるかは分からない、新たな受注を得るためには路線変更と設備投資が必要だ。
高給な大型クルーザーなど不良債権にしかなりそうになかった。
工場長たる自分にも名前もいえない、団体であるかも分からない、そのくせ金払いはいい、美味い話ほど裏があるものだ、後から犯罪に巻き込まれでもしたら職を失うだけではなく命まで失いかねない。
元来社長は職人上がりで経営者に向いているとはいえない、人を信用しすぎる。
「場長、大丈夫だ、買主は信用できる奴だ、今は言えないが引き渡し近くなったら必ず合わせると約束する」
「社長がそこまでおっしゃるなら・・・」
「それからあのクルーザーが売れたことは内緒だぞ、余計な詮索をされて話が流れればその時こそ倒産だ」
「分かりました、皆にも箝口令を発しておきます」
「たのんだぞ!」
社長室の窓から黒く塗られた船体が小波に揺れている、喫水が浅い現代的なデザイン、中央にだけ備えたマストは高くないが、船首にまで張り出せる三角帆は大きく船速は遅くない、さらに蒸気機関は船尾に備えた二輪水車を回転させて水力を得る仕組みだ。
船室七、艦長室、操舵室、調理室、蒸気機関室、船倉三室、十名の乗組員で一年は航行できる、内緒だが口径は小さいが大砲と長射程の大型弓バリスタも備えてもいる。
ミストレス・ブラックパールが自分用に発注したクルーザー、その名を黒い珊瑚、ブラック・コーラル号。
船主を失った海の貴婦人は新たなオーナーを迎えて大海に舵を取るべく最後の仕上げと機関整備を進めることになった。
だからといっていい加減な仕事は嫌だ、それまでの業務は完璧に遂行して見せる。
その中でも頭の痛い問題があった、一時的にでも統治を失った領内の治安は急激に悪化した、警察力の低下した領内に野盗強盗の類が近隣から集まり集団となって村や商家を襲い始めている、王家から派遣された警備隊は少数でとても全部に対応することなど出来ない、旧フラッツ家直属の兵士は全員武装解除させているし、新たに警備隊を組織するにはあまりに時間がない。
特に解体された旧ランドルトン派閥の貴族の生き残りたち、粛清を逃れた者が徒党を組み組織化してきていた。
生来の貴族は庶民の中で働くことなど出来ない、領民から吸っていた税収という糧を失い、生み出すことを知らない簒奪者は奪う形を変えて安易に生き残りを図ろうと犯罪集団へと堕ちていく。
「今週だけで十件やられました」担当次官が報告書を手に汗を拭いている。
「同一犯なぁのですか」
「おそらく違います、手口はバラバラで統一性はありません、目撃者の証言も噛み合いませんでした」
「襲われたのは押収した金品をぅ隠しておいた場所ばかり、内通者がいるぅな」
「内通者・・・スパイですか?」
「いずぅれにしろ逆賊をこれ以上太らぁせるわけにはぁいぃきません、ここはひとつ罠を仕掛けましょう、出来るだけ腕の立つ兵士を集めてください」
「腕の立つものですか?使えそうな連中は皆要職に就いてしまっていて果たして何人集められるか・・・」
「この際引退したぁ老兵でも農家の力自慢でぇも構いません、最低でぇも十人、ぁ集めて下さい」
「十人・・・」次官は引き抜くべき顔を頭の中に並べてみたが期待には堪えられそうにない。
「いぃなければ領内でスカぁウトしてもかぁまいません、とぉにかく早急に揃えてくぅださい」トマスはイライラしてくると語尾の訛りが酷くなる、察した次官は空返事を残して走り去った。
バーモンド本家から王家に対して応援要請をすることも出来るが時機尚早だ、無策のまま王家に頼っては臆病者の誹りを本家が受ける事となる、ここは何とかしなければならない、踏ん張りどころだ。
トマスは腰のサーベルは短くお飾りに等しい、街を創り育てるのが自分の仕事、破壊は正反対だ、トマスは暴力が嫌いだ、その能力を磨こうと思ったことはない、そんな時間があるのなら本を読み勉強したかったが才能がその時間を奪い付いた字名、アングリー(怒れる)・ドワーフ。
トマスは大きく分厚い自分の掌を見て溜息をついた。
「いらない才能だ・・・」その声は訛っていなかった。
旧ランドルトン領の海岸にかつては公爵家お抱えの造船所が連なっている、いまは一時的ではあるが王家の管理下に置かれていた。
「社長!あのクルーザー売れそうだって本当ですか!?」
いかにも職人といった工場長が社長室に走り込んできた、朝から騒がしい。
「ああ、前金も貰ったぞ!」
葉巻を咥えた社長の顔色は昨日まで違い明るい、ミストレス・ブラックパールから直接依頼を受けて建造していた新造二十メーター級クルーザー、補助的とはいえ蒸気動力も備えて一年の遠洋航行にも耐えうる豪華で堅牢な船だ。
その分、お値段も破格だった。
「いったい誰が!?今はどこの貴族も払える奴はいないと思っていましたが・・・」
「それがな・・・名前は明かせないが信頼は置ける奴だ」
「社長、大丈夫なのですか?踏み倒されればこの会社は一巻の終わりですよ!?」
「あいつが売れなきゃどっちにしても倒産だよ、王宮も新領主もお堅くて娯楽のクルーザーになぞ見向きもしない、損失は全てこっち持ちだ」
「前金てのはどれくらいですか?」
「即金で半額だ」
「半額!?そんなに!」
「ああ、引き渡し後に手形も割賦も無しにもう半額、どうだ、いい話だろう」
「信用できる会社なのですか、手形もなしに即金払いだなんて、まさかマフィアとかじゃ?」
工場長の不安ももっともだった、この港の造船所はランドルトン公爵お抱えのようなもの、王家の支配下に置かれた、各造船所は事業仕分けのターゲットだ、軍艦のような巨大な造船所は国も欲しがるだろうが、遊興用の造船に将来があるかは分からない、新たな受注を得るためには路線変更と設備投資が必要だ。
高給な大型クルーザーなど不良債権にしかなりそうになかった。
工場長たる自分にも名前もいえない、団体であるかも分からない、そのくせ金払いはいい、美味い話ほど裏があるものだ、後から犯罪に巻き込まれでもしたら職を失うだけではなく命まで失いかねない。
元来社長は職人上がりで経営者に向いているとはいえない、人を信用しすぎる。
「場長、大丈夫だ、買主は信用できる奴だ、今は言えないが引き渡し近くなったら必ず合わせると約束する」
「社長がそこまでおっしゃるなら・・・」
「それからあのクルーザーが売れたことは内緒だぞ、余計な詮索をされて話が流れればその時こそ倒産だ」
「分かりました、皆にも箝口令を発しておきます」
「たのんだぞ!」
社長室の窓から黒く塗られた船体が小波に揺れている、喫水が浅い現代的なデザイン、中央にだけ備えたマストは高くないが、船首にまで張り出せる三角帆は大きく船速は遅くない、さらに蒸気機関は船尾に備えた二輪水車を回転させて水力を得る仕組みだ。
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