kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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幽霊か悪魔か

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 ギギギギッ ガキィッンッ 二人がかりで操作する大きなチェーンカッターで南京錠を切断した。
 バキィンッ バキィンッ 何重にも設置した鍵が壊されていく。
 扉も破壊出来ないように強化されている、今までにない厳重な仕様だ。
 「この警戒、やはり間違いない、ここに金貨はある!?」
 アマルは期待に胸を躍らせて扉を開いた、重く頑丈な扉が倉庫の中に月明かりを挿していく。
 「灯を点けろ」懐中電灯のように蝋燭の灯を倉庫に向けた、積まれた木箱が置いてある、アマルが首を振って合図するとバールを持った仲間が木箱に取りついた。
 ギッギッ バンッ 蓋が外れる。
 覗き込んだ男の手が箱の中に伸びて小袋をつかみ取ると中を開いた。
 トンドルトンの家紋の入った金貨が二十枚単位で入っている、木箱の中は小袋で満載だ。
 「アマル!!」男が金貨を放る、パシッ 掴み取った金貨を歯で齧る、偽物ならメッキが剥げるがコインは歯型を残して凹んだ。
 「大丈夫だ、本物だ!」
 「ようしっ、運び出すぞ!!」二十五人全員が倉庫の中に殺到する、箱の運搬より
 自分の懐に金貨を詰め込むのに必死だ、他の木箱の蓋も次々に空けられていく。
 「何やってんだテメエら!箱ごと運び出すんだよ!!」
 ガラガラガラッ ドシャーン 「!!」入口の扉が閉じられた。
 シャッ シャッ トスッ 「げっ・・・」木箱の影で数人が同時に僅かな呻き声を上げて床に崩れ落ちた。
 「ハッ!?」冷たい風が頬を撫でる、背筋にゾッと悪寒が走った。
 バアキィッン ゴシャアッ 今度はハッキリと異常を知らせる大音響の金属音が倉庫内に響き仲間の一人が大砲に吹き飛ばされたように中を舞った。
 ギュルギュルと回転しながら床に落ちた男は腹を切断されて内臓を床に撒き散らしながら即死している。
 「血で床が滑っちまう、床を汚さないでおくれ白髪鬼」
 「すまん、力が入り過ぎた・・・」
 扉の前に二メートルを遥かに超える白髪巨人と浅黒い肌の骨太女がいた。
 「やはり罠か!」
 警備が誰もいないとは思っていない、多少の犠牲は覚悟の上だ、倉庫の中に隠れていたとすれば大人数であるわけがない、数なら負けてないはずだ。
 「敵だ!中心で亀甲円陣を組め!」アマルの指示は早かった、盗賊団はアマルと柱を中心にして盾で防御壁を作り臨戦態勢を取る。
 「おやおや、割と統率されているじゃないか」
 骨太女がズイと前に踏み出す、手には短槍が握られている。
 「敵の人数を把握しろ、照明手、敵から灯を外すな!!」
 カンデラ代わりの蝋燭の灯が薄暗くも敵を照らす。
 アマルたちの意識が巨人と骨太女といういかにも強そうな二人に集中していた刹那、倉庫奥から小さなゴム毬と細い影が亀甲陣に迫った。
 バンッ バンッ バンッ 地面を跳ねるスーパーボウルのようにバウンドインプが蝋燭の灯を横切る。
 バキャッ 「ぎゃああっ」盾の下を潜り抜けてインプのハルバートが狙ったのは足だ、一直線に足を潰しながら駆け抜けて円陣の外へと飛び出す。
 「ぐがあっ」つま先を失くした盗賊が足を抱えて転がる。
 「なっ、なんだ今のは?小鬼か!?」
 全員が小鬼が突き抜けたた方向を見た、その先に見慣れない人間がいる、女だ。
 「なっ、女なんかいたか!?」「バカッ、敵にきまっているだろ!!」
 全員が剣を向けようとしたとき女が動いた、いや動いたように見えた。
 スウッと煙のように棚引くと、まるで幽霊のように円陣の中を一周した。
 一周終えた時には円陣の内側は全て人間が機能を停止している。
 細い身体が闇に溶けるように円陣の外に漏れ出る。
 「あがっ」「けっ」「あ゛っ」内側にいた六人全ての首に赤い筋が走り、頸動脈からドクドクと血が湧き出す。
 酸素を運ぶ輸送ルートを失った脳は数秒で永久にシャットダウンした。
 バタッ 糸の切れた人形のように崩れ落ちると僅かな痙攣を残して死の淵に旅立っていった。
 「やっぱり只者じゃないねぇ、彼女と遣り合うのは止めておこう」
 「同感だ」
 入り口の二人が左右に分かれて攻撃を始める、二人の攻撃はそれと分かりやすい、大剣と短槍が空気を裂き、盗賊を吹き飛ばす。
 「くそっ、ダメだ、円陣は不利だ!面で対処するぞ、背後を取らせるな!」
 アマルは円陣を解いて、隊を後退させ一列横隊で白髪鬼と骨太女に剣を向けた。
 「囲め!後ろから突き殺せ!」
 「後ろからだと!卑怯者め、貴族なら正々堂々と正面から切り合え!!」
 アマルに向かって手袋が投げつけられる、貴族同士の決闘の申し込み。
 「!?」サーベルを手にした若く身なりの良い男がアマルの正面にいた。
 「私はサーヴ・ナインスター、正義の剣士、そなたの名を聞こう!」
 ブンッ アマルは虚を突いて腰のナイフをナインスターに投じた。
 「なにぃっ!!」名のりを待っていたナインスターは動けなかった。
 ドスッ 「!!」 目を開けたナインスターの眼前にあったのは自分の胴体ほどもあるだろう白髪鬼の腕だった、アマルの投じたナイフの先端が突き刺さっている。
 「馬鹿者!ここはお遊戯場じゃないぞ!」
 白髪鬼がアマルから視線を外さずに怒鳴った、腕がナイフの盾にならなければナインスターの額にナイフが付き立っていただろう。
 「ああっ、血が・・・」ナインスターは極太の腕に刺さったナイフを見て尻込みする。白髪鬼は何事も無かったようにナイフを引き抜くと大剣を握り直す。
 「下がっていろ」
 二十五人いた盗賊は半数以下にまで数を減らしていた、その数は十名、いずれも若い、二十代中頃だろうか。
 アマルに向き合う白髪鬼は慎重だった、その気配から雑魚とは違う気配を感じていたからだ、数の上では二対一、しかしナインスターは使い物にならない、残った十人の顔はいずれも闘気と自信に満ちている、死んだ仲間の屍を踏んでも微動もしない。
 正面の白髪鬼と短槍女に対して三人ずつ、両脇の小鬼と幽霊女に対して二人ずつで向き合う、武器は様々だが独自のフォーメーションは普段から訓練をしている証拠だ。
 倉庫の中に緊張の糸が張り巡らされる、誰もが隙を伺い対峙する相手に焦点を絞った。
 視界が狭まる、唯一エミーの目だけが暗がりの中で全体を捉えていた、向き合う敵だけが相手ではない。
 ギャリイィンッ 白髪鬼の一撃をアマルのデッドソードが受け止めて火花が散る。
 「ぬううっ、この一撃を止めるか!」
 「くっ、我々は選ばれた神の使徒、雑魚とは違うのだよ」
 アマルは震えながらも巨人の圧力に抗っている、ギリギリと力が拮抗する。
 ババババッ 骨太女の短槍による突きの連撃、打ち出すだけではなく間合いの中で刃が上下左右に動く、突きを躱しても横凪に刃を振られれば切られることになる、槍の攻撃は点ではなく剣と同じように面なのだ、更に骨太女の使う短槍は良く撓る、まるで鞭、またはブラジリアンキックのようにタイミングをずらして剣先が襲ってくる。
 三人を相手にして互角かそれ以上、エミーが測った技量でも短槍のエルザは一つ抜けている。
 しかし、三人がかりとはいえエルザの短槍攻撃を凌いでいる三人もやはり雑魚ではない。
 フラッと倒れ込みながら女の身体が地を這う蛇のように白髪鬼と対峙していた三人の端、左利きの足元に滑り込んだ時、既にジグロは一閃され、両足首は切断されていた。
 遥か遠い間合いと思われた場所からの常人の目には捉えられない一閃、白髪鬼と骨太女は見た、エミーの持つ短い刀はフェイクだ、柄の長いジグロの間合いは想像以上に広い。
 切られた事を気付かないまま迫る蛇に対して剣を振り上げようとした男の身体は意に反して後ろにひっくり返る、激痛と共に。
 「ぎゃああっ」熱い痛みと共に見たのは床に立っている自分の足首、何の抵抗も無かったように少しの毛羽立ちも無く滑らかに切断されている。
 スパッ 首筋に冷たい金属が一瞬触れた感触、男が最後に見たのは床を美しい女の顔だけが迫ってくる非現実的な恐怖映像。
 「悪・・・魔」最後の声は血に沈んだ。
 音もなく侵攻した惨劇に全員が茫然と立ち尽くした、暗がりに消えた蛇がいつの間にか人間に姿を変えて立っていた。
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