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その女が本命の幽霊女だと分かったのは一緒にいるもう一人、殺したはずの短槍のエルザだったからだ、二人はそれぞれ馬を駆り街道をニースへ向かっている。
「馬鹿な!あれは短槍のエルザ、どうして無事でいる?やつらの手の中にもエリクサーはあるのか!?」
ムートン領を抜けてニースへ向かう街道、以前にランドルトン公爵が兵を進めた道、ムートン渓谷が川幅を広げ平らな草原が広がり遮蔽物となる森は遠い。
馬上からエロースは街道を塞ぐ形で二人を迎え撃つ、部下となる兵を十人連れている、以前にエミーたちと会敵した旧フィーゴ家三男のアマルたちだ。
十人はあれからダーク・エリクサーの血管投与により書き換えが進んでいる、彼らに恐怖感や悲壮感はない、理念と信念に裏打ちされた前向きな暴力と狂暴性、自分を神に仕える使徒であると信じている、その表情はヒーローの顔だ。
遠目に見てもエロースには分った、氷の様に冷たい気配、あの女は危険すぎる、やはり駄目だ、クロワ様に近づけるわけにはいかない、ここで始末する!エロースから殺気が迸る。
「戦闘準備!!抜刀せよ、神の敵を殲滅するぞ!」
「おおっ!!」
ギャリィィンッ 全員が抜刀して刃で天を突いた、正々堂々と敵意を向ける。
「散開して囲むぞ!」「!」幽霊女が馬上で弓を引いているのが見えた、遠すぎる距離、当たるはずもない!そう思った。
バシュッ バシュッ バシュッ 早打ちの三連射、地面と平行に撃たれた弓は正面から見ると点にしか見えない、選民の視力でも距離感を掴むのは至難の技、しかもほとんど山なりではなく弾丸のように直線で飛ぶ、比類なきほど強い弦で引かれている。
ギュンッ 「くっ!」エロースの正面に飛んだ矢をギリギリで躱す、矢が掠めていった頬から血が湧き出す。
バキャンッ ゴシャッ 「げっ」「ぎゃっ」両脇にいた兵は避けられずに顔面で矢を受け勢いのままに馬上から吹き飛ばされた。
相手が左右に分かれる、散開して囲む罠はこの時点で躱されている、分断されたのはエロース隊の方だ、幽霊女は剣に持ち替えている、刃が短い、間合いはこちらの方が長い!騎馬同士の交差、一瞬の一撃勝負、スイッと幽霊女が進路をずらした、利き手右のエロースの左側、バックハンドになる、幽霊女は左手に剣を持ち替えている、間合いを消された、絶妙のタイミング、持ち手を変える時間はない。
「くそっ!」届かないと知りつつ振り下ろした剣は空を切る、幽霊女は直前で急ブレーキ、ドリフトするように馬の鼻面をエロースに激突させた!最初から剣を切り結ぶつもりなどなかったのだ。
ドシャアッ 「あうっ!!」衝突されたエロースの馬は横倒しに倒される、幽霊女はそのまま止まることなく交差した兵を後ろから弓で狙撃していく。
落馬した先が砂地で助かった、岩場なら負傷していただろう、口の中に入り込んだ砂を吐き出す。
「なんなんだっ!!」あまりに違う、理不尽が刀を携えて降ってきたようだった。
幽霊女は後ろから攻撃することを厭わない、逃げ惑う兵を躊躇することなく射抜いていく、一撃一殺、その殺しに余韻などない、一切の無駄を排した動き。
幽霊女はエロース側の兵を殲滅すると反対側、短槍のエルザの援護に向かった、全てが予定されたプログラムのように止まる事がない、エルザ側の兵も散りじりになっている、最早作戦も陣形も無かった、五倍の人数の選民で挑んでも猛獣の口の中に自ら飛び込んだようなものだった、今なら首席カオスの言った言葉の意味が大げさではないと分かる、いやむしろ過小評価といえた、あの幽霊女とまともに剣でやり合うなど滑稽でしかない、自分の愚かさを呪った。
逃げ出したい恐怖を殺して歯をくいしばり立ち上がる、相打ちでも幽霊女の喉笛に噛みついてでも、あの女は殺さなければならない、クロワ様のために!
ゾワッ 周囲の温度が冬になったように背筋が凍る。
「!」立ち上がり振り向いた先に幽霊女がいた、馬から降りている。
既に勝ったつもりか!小さく、そして細い、一つ蹴りが入れば身体ごと折ることが出来そうに見える。
一対一、それに素手なら!エロースは拳を固めて突進した、組み伏せてマウントを取ってやる、前屈みにレスリングタックルを狙う、幽霊女は構えもせず立っているだけだ。
舐めやがって!怒りが視野をまた狭める。
エロースは幽霊女の膝を目掛けてヘッドスライディングで飛び込んだ、掴んだ!と思った手は空を切った、ゴッ 固い何かに額がぶつかり視界に火花と血飛沫が見えた「ぎゃっ」意図しない悲鳴が口をついて出てしまう。
エロースが手を伸ばした瞬間、幽霊女は上空にジャンプ、その陰にかくれていた石にエロースは突っ込んで自爆していた、幽霊女はひと蹴り跳んだだけだった。
バックリと開いた額の裂傷がエロースの顔を赤く染める。
遠のく意識を繋ぎ留めて転がりながら仰ぎ見た赤い視界の中で氷の視線に見下ろされていた。
「まだやる?」冷たく沈んだ声、勝ち誇った驕りも高揚もない、その視線はまるでライフル銃を眉間に突き付けられているようだ。
「ひぃ」人じゃない!悪魔を相手にしていた!
「あなたもノスフェラトゥ教団の人?ダーク・エリクサーを飲んでいるのね、首が折れると思っていたのに」
女が発した声は疑問符がついていた。
「最後にひとつ聞きたい、貴方たちのボスはどこにいるのかしら」
「言うと思うか?馬鹿にするな・・・・・・」
声を振り絞るが震えて発音があやしい。
「教えてくれたら助けてあげる、これで」幽霊女はエロースの前に黄金の小瓶をかざした、黄金のエリクサーだ。
「いらない、殺せ!」悪魔に魅入られそうになって美しい液体から目を逸らした。
その目を幽霊女が見つめている、共感している。
「出来れば殺したくはない、貴方は哀しすぎる、このまま死ぬべきじゃない」
「何を・・・・・・同情なんかいらない、人間ぶるな!悪魔のくせに!」
精一杯傷つけようと放った言葉に悪魔は少しだけ哀しげに微笑った。
「エミー、教団の本部はニースにあるそうだ、港の端の巨大洞窟、建造中の弩級戦艦の中だそうだ、こっちの男が吐いたよ」
「!!」
短槍のエルザが方向を槍で示した、万事休す、全て終わった。
意味のない事だった、相打ちでも道ずれして役に立とうとした、結果、敵に情報を与え返ってクロワ様を危険に晒すことになってしまった。
「くっ・・・ひっ、ひっ、ああっ、あああーっ!」
クロワ様に拾われた以外、何一つない人生だった、その終わりがこれか、自分は選ばれてはいなかった、夢見た神の国にはいけない落ち零れとなって地獄を彷徨う運命だったのだ、ぬか喜びさせて突き落とすのが神なのか、慟哭が泣き声になった。
バッ 唐突に鼻と口を押えられて呼吸を奪われる、口の中に甘酸っぱい味が広がった。
「ぐっ、がぼっ・・・・・・おごっ!?」窒息死させるつもりだと思った、意識が遠くなる、今生で最後に見るのが幽霊女の顔だとは・・・・・・意識が途切れる瞬間に苦しさも消える、これが死か、最後に声が聞こえた。
「生きて、新しい人生を、人のしあわせを探して」
「よかったのかい?エリクサー使っちまって、なんであいつを助けたのさ、最初にホランドの肉を裂いたのはあいつだよ」
「なんとなく、かな、出来れば女性は殺したくない、私はフェミニストなんだ」
「よく言うね、と一応男だったね」
「一応じゃない、最初から男だよ、ただ見てくれが少しだけアレなだけで」
「アレってなにさ?」
「最近・・・・・・私には余白が多すぎる」
乗馬した二人はニースの大洞窟へと手綱を向けた。
降り出した雨が、雨が血に汚れた額を洗うように濡らしている、岩に衝突した裂傷は既に塞がっていた。
死の泥に沈んだと思った意識は雨によって再び現れる、雲から落ちてくる冷たいはずの雨が温かい。
“生きて、新しい人生を、人のしあわせを探して” 悪魔の声だったのにその言葉は心に焼き付いた。
動けなかった、身体の中で書き換えられた細胞が再び元に返っていく。
「なんで・・・・・・」幽霊女が口を塞いだのはエリクサーを飲ませるためだった、なぜ助ける様な事を・・・・・・分からない、そしてなぜ自分があれほど争いを好むようになったのか、人を殺した快感に酔うようになったのか分からなくなった。
いつからか自分ではなくなっていた、隠された泥が洗い流されたように見たくはない真実が垣間見えてしまった。
「幸せなんて・・・・・・わかんねぇよ、なんなのよ、あの女・・・・・・」
頬を伝うのが雨なのか涙なのか、エロースはただ流れていく雨雲見上げていた。
「馬鹿な!あれは短槍のエルザ、どうして無事でいる?やつらの手の中にもエリクサーはあるのか!?」
ムートン領を抜けてニースへ向かう街道、以前にランドルトン公爵が兵を進めた道、ムートン渓谷が川幅を広げ平らな草原が広がり遮蔽物となる森は遠い。
馬上からエロースは街道を塞ぐ形で二人を迎え撃つ、部下となる兵を十人連れている、以前にエミーたちと会敵した旧フィーゴ家三男のアマルたちだ。
十人はあれからダーク・エリクサーの血管投与により書き換えが進んでいる、彼らに恐怖感や悲壮感はない、理念と信念に裏打ちされた前向きな暴力と狂暴性、自分を神に仕える使徒であると信じている、その表情はヒーローの顔だ。
遠目に見てもエロースには分った、氷の様に冷たい気配、あの女は危険すぎる、やはり駄目だ、クロワ様に近づけるわけにはいかない、ここで始末する!エロースから殺気が迸る。
「戦闘準備!!抜刀せよ、神の敵を殲滅するぞ!」
「おおっ!!」
ギャリィィンッ 全員が抜刀して刃で天を突いた、正々堂々と敵意を向ける。
「散開して囲むぞ!」「!」幽霊女が馬上で弓を引いているのが見えた、遠すぎる距離、当たるはずもない!そう思った。
バシュッ バシュッ バシュッ 早打ちの三連射、地面と平行に撃たれた弓は正面から見ると点にしか見えない、選民の視力でも距離感を掴むのは至難の技、しかもほとんど山なりではなく弾丸のように直線で飛ぶ、比類なきほど強い弦で引かれている。
ギュンッ 「くっ!」エロースの正面に飛んだ矢をギリギリで躱す、矢が掠めていった頬から血が湧き出す。
バキャンッ ゴシャッ 「げっ」「ぎゃっ」両脇にいた兵は避けられずに顔面で矢を受け勢いのままに馬上から吹き飛ばされた。
相手が左右に分かれる、散開して囲む罠はこの時点で躱されている、分断されたのはエロース隊の方だ、幽霊女は剣に持ち替えている、刃が短い、間合いはこちらの方が長い!騎馬同士の交差、一瞬の一撃勝負、スイッと幽霊女が進路をずらした、利き手右のエロースの左側、バックハンドになる、幽霊女は左手に剣を持ち替えている、間合いを消された、絶妙のタイミング、持ち手を変える時間はない。
「くそっ!」届かないと知りつつ振り下ろした剣は空を切る、幽霊女は直前で急ブレーキ、ドリフトするように馬の鼻面をエロースに激突させた!最初から剣を切り結ぶつもりなどなかったのだ。
ドシャアッ 「あうっ!!」衝突されたエロースの馬は横倒しに倒される、幽霊女はそのまま止まることなく交差した兵を後ろから弓で狙撃していく。
落馬した先が砂地で助かった、岩場なら負傷していただろう、口の中に入り込んだ砂を吐き出す。
「なんなんだっ!!」あまりに違う、理不尽が刀を携えて降ってきたようだった。
幽霊女は後ろから攻撃することを厭わない、逃げ惑う兵を躊躇することなく射抜いていく、一撃一殺、その殺しに余韻などない、一切の無駄を排した動き。
幽霊女はエロース側の兵を殲滅すると反対側、短槍のエルザの援護に向かった、全てが予定されたプログラムのように止まる事がない、エルザ側の兵も散りじりになっている、最早作戦も陣形も無かった、五倍の人数の選民で挑んでも猛獣の口の中に自ら飛び込んだようなものだった、今なら首席カオスの言った言葉の意味が大げさではないと分かる、いやむしろ過小評価といえた、あの幽霊女とまともに剣でやり合うなど滑稽でしかない、自分の愚かさを呪った。
逃げ出したい恐怖を殺して歯をくいしばり立ち上がる、相打ちでも幽霊女の喉笛に噛みついてでも、あの女は殺さなければならない、クロワ様のために!
ゾワッ 周囲の温度が冬になったように背筋が凍る。
「!」立ち上がり振り向いた先に幽霊女がいた、馬から降りている。
既に勝ったつもりか!小さく、そして細い、一つ蹴りが入れば身体ごと折ることが出来そうに見える。
一対一、それに素手なら!エロースは拳を固めて突進した、組み伏せてマウントを取ってやる、前屈みにレスリングタックルを狙う、幽霊女は構えもせず立っているだけだ。
舐めやがって!怒りが視野をまた狭める。
エロースは幽霊女の膝を目掛けてヘッドスライディングで飛び込んだ、掴んだ!と思った手は空を切った、ゴッ 固い何かに額がぶつかり視界に火花と血飛沫が見えた「ぎゃっ」意図しない悲鳴が口をついて出てしまう。
エロースが手を伸ばした瞬間、幽霊女は上空にジャンプ、その陰にかくれていた石にエロースは突っ込んで自爆していた、幽霊女はひと蹴り跳んだだけだった。
バックリと開いた額の裂傷がエロースの顔を赤く染める。
遠のく意識を繋ぎ留めて転がりながら仰ぎ見た赤い視界の中で氷の視線に見下ろされていた。
「まだやる?」冷たく沈んだ声、勝ち誇った驕りも高揚もない、その視線はまるでライフル銃を眉間に突き付けられているようだ。
「ひぃ」人じゃない!悪魔を相手にしていた!
「あなたもノスフェラトゥ教団の人?ダーク・エリクサーを飲んでいるのね、首が折れると思っていたのに」
女が発した声は疑問符がついていた。
「最後にひとつ聞きたい、貴方たちのボスはどこにいるのかしら」
「言うと思うか?馬鹿にするな・・・・・・」
声を振り絞るが震えて発音があやしい。
「教えてくれたら助けてあげる、これで」幽霊女はエロースの前に黄金の小瓶をかざした、黄金のエリクサーだ。
「いらない、殺せ!」悪魔に魅入られそうになって美しい液体から目を逸らした。
その目を幽霊女が見つめている、共感している。
「出来れば殺したくはない、貴方は哀しすぎる、このまま死ぬべきじゃない」
「何を・・・・・・同情なんかいらない、人間ぶるな!悪魔のくせに!」
精一杯傷つけようと放った言葉に悪魔は少しだけ哀しげに微笑った。
「エミー、教団の本部はニースにあるそうだ、港の端の巨大洞窟、建造中の弩級戦艦の中だそうだ、こっちの男が吐いたよ」
「!!」
短槍のエルザが方向を槍で示した、万事休す、全て終わった。
意味のない事だった、相打ちでも道ずれして役に立とうとした、結果、敵に情報を与え返ってクロワ様を危険に晒すことになってしまった。
「くっ・・・ひっ、ひっ、ああっ、あああーっ!」
クロワ様に拾われた以外、何一つない人生だった、その終わりがこれか、自分は選ばれてはいなかった、夢見た神の国にはいけない落ち零れとなって地獄を彷徨う運命だったのだ、ぬか喜びさせて突き落とすのが神なのか、慟哭が泣き声になった。
バッ 唐突に鼻と口を押えられて呼吸を奪われる、口の中に甘酸っぱい味が広がった。
「ぐっ、がぼっ・・・・・・おごっ!?」窒息死させるつもりだと思った、意識が遠くなる、今生で最後に見るのが幽霊女の顔だとは・・・・・・意識が途切れる瞬間に苦しさも消える、これが死か、最後に声が聞こえた。
「生きて、新しい人生を、人のしあわせを探して」
「よかったのかい?エリクサー使っちまって、なんであいつを助けたのさ、最初にホランドの肉を裂いたのはあいつだよ」
「なんとなく、かな、出来れば女性は殺したくない、私はフェミニストなんだ」
「よく言うね、と一応男だったね」
「一応じゃない、最初から男だよ、ただ見てくれが少しだけアレなだけで」
「アレってなにさ?」
「最近・・・・・・私には余白が多すぎる」
乗馬した二人はニースの大洞窟へと手綱を向けた。
降り出した雨が、雨が血に汚れた額を洗うように濡らしている、岩に衝突した裂傷は既に塞がっていた。
死の泥に沈んだと思った意識は雨によって再び現れる、雲から落ちてくる冷たいはずの雨が温かい。
“生きて、新しい人生を、人のしあわせを探して” 悪魔の声だったのにその言葉は心に焼き付いた。
動けなかった、身体の中で書き換えられた細胞が再び元に返っていく。
「なんで・・・・・・」幽霊女が口を塞いだのはエリクサーを飲ませるためだった、なぜ助ける様な事を・・・・・・分からない、そしてなぜ自分があれほど争いを好むようになったのか、人を殺した快感に酔うようになったのか分からなくなった。
いつからか自分ではなくなっていた、隠された泥が洗い流されたように見たくはない真実が垣間見えてしまった。
「幸せなんて・・・・・・わかんねぇよ、なんなのよ、あの女・・・・・・」
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