kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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リターネス

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 ボオオオオッ 大音量の汽笛と共に大洞窟の山肌から黒い煙が幾筋もあがり始める。
 洞窟内でザ・ノアが蒸気機関を動かし始めたのだ、ノアから放出された排気煙が洞窟の隙間から漏れ出ている、その様は不気味に世界を霞ませる。
 最終幕、フレディは櫓から飛び降りると舞台にその身を躍らせた。
 「トガミさん、時間です、黄金のエリクサーを受け取ってください、その子供に用はありません」
 「はっ、フレディ様、その男は捕縛しなくてよろしいのですか」
 「仕方ありません、黄金のエリクサーが手に入れば再現することは貴方なら可能ではないですか」
 「はいっ!もちろんです」新しい物への興味よりもフレディに信頼と期待を寄せられていることにカレッジ・ハイの脳が歓喜する。
 「それではこちらの用事は頼んだよ、僕はサンプルを確保するとしようか、君、その青蛇を捕獲してザ・ノアに戻り給え、大丈夫、今は嚙みつかないよ」
 フレディが足で突いても青蛇の蜷局は反応しない、休眠しているかのようだ。
 黒服が櫓のレバーを操作して床にあった扉を開く、その地下へと階段が続いていた。
 闘技場から地下道は大洞窟まで続いているのだろう、黒服の一人が仲間を吸いつくし蜷局を巻いた青蛇を恐る恐る抱きかかえると地下へと消えていく。
 パアッンッ 観客席の戦いに銃声が混じる、増援された部隊にマスケット銃を手にした兵が混じっている、命中率は低いとはいえジュン少尉もモリスも迂闊に姿を晒すことは出来ない。
 その銃もエミー達は櫓の死角になり向けることができないでいた、射線を確保しようとすると矢と投げナイフの餌食になる、膠着状態だ。
 黒服フレディは緊張した様子もなく余裕の笑みでエミーとエルザ、二人の前に歩を進める、先程の戦いを見たうえでまだ勝算があるのか。
 左手には一本鞭を持ち、右手は胸のホルスターへと伸びる、姿を現したのはワルサーP三十八、グリップにエーデルワイス章が刻まれた山岳猟兵モデルだ、この時代の人間は見たことがない、エミーも当然ないがその形状から銃の類であることは想像できる。
 フレディの余裕の理由、目の前で発射された初速三百五十キロの弾丸は十メートルをゼロコンマゼロゼロ二秒で到達する、人間の反射速度はゼロコンマ五秒、避けることなど出来ない。
 なら音速を超える鞭を事も無げに躱したエミーはどうだ?対処方法はあるのか。
 「これは拳銃と言いましてね、彼の地より持ち帰った武器の一つ、マスケット銃を小型高威力化した比類なき武器、これを装備した異界の一部隊に国ひとつが滅ぼされてしまった、我々よりも遥かに大きく強い種族が何も出来ずに根絶やしにされたのです、凄まじい光景でした」
 「何の話なのか理解できない、独り言にしては耳障りだわ」
 エミーは視線を合わせない。
 「私は投降することをお勧めしているのです、いくら貴方といえどこの距離では躱すことは不可能です」
 パアッアンッ バシュッ 足元の砂が弾け飛んだ。
 「エミー!」 あの武器は不味い、撃った後に丸い何かが飛び出した、あれはカートリッジ、あの銃は連射出来る、弾や火薬を装填する必要がない、デルは駆け寄ろうと叫んだ。
 「おっと!貴方にも重要な任務があります、黄金のエリクサーを渡してください、早く交換してしまいましょう、私も乗り遅れたくはない、さあ、早く!」
 リードを引いてトガミがティアを引き寄せる。
 「痛いよ、おじちゃん」首が引かれて締まる。
 「やめろ!乱暴にするな!」
 「!」リードを引いたトガミの目がティアの背中に釘付けになる。
 「お前!その肌、なぜ竜化しているのだ!?」
 トガミはティアの美しい鱗状の痣をこの時になって初めて確認した、紛れもない竜化現象、しかも見たこともない白蝶貝の輝きを放っている。
 「この子はいったい!?」
 「トガミさん!早く、乗り遅れますよ!!」もたもたしているトガミにフレディの激が飛ぶ。
 「はっ、はい、ただいま!!出せ!黄金のエリクサーを」柵の間から手を伸ばす。
 「くそっ、渡すからその子を離せ」
 ポケットから黄金の小瓶を取り出してトガミの手に乗せる。
 「本物か!?」透かした小瓶を太陽に透かせる 「おおっ、なんと美しい!」一瞬の煌めきが巨大な影に覆われる 「あっ?」急に曇ったのかと後ろを振り返ると巨大な掌が迫ってきた ガシッ 「ぐおっ!?」 「自分で試してみてはどうだ」 頭を掴まれた、五本の指が頭蓋を万力の力で締め上げてくる、ミシッミシッと骨が軋んだ。
 「あっ、ホランドのおじちゃん」
 「おっと姫は見てはいけないよ」バウンドインプがリードを切って目を隠した。
 メキメキッ 「あぐああああっ」 藻掻いた足が地を離れて浮遊する。
 クジャッ 人間の骨の中で最も固いはずの骨が握力だけで粉砕された、断末魔の痙攣。
 「おっと、これじゃ試せんな」 ポイッとゴミを投げるように躯となったトガミを放る。
 「武器を取り返すのに手間取った、姫、お許し頂けるかな」 ホランドは片膝をついてティアの手を取る。
 ナイトの儀礼。
 「ありがと、おじちゃん、助けてくれて」
 「さあ、お父さんのところにお帰り」
 「君なら抜けられるのだろ」「うんっ」柵の前に促すとユラリと景色が歪み、ティアは柵の向こうへとすり抜けた。
 「おとうさん!!」バフンと飛び付くとクルッと肩車に登る、いつもの光景。
 「ティアお前・・・・・・今のは?」デルは知らなかった、神獣が育っている、進化が始まっている。
 「どなたかは知らないがありがとう、助かった!」
 「でっかいのがホランドおじちゃん、ちっちゃいのがインプおじちゃんだよ」
 「助けて貰ったのはこちらだ、その姫の活躍が無ければ我々はまだ船倉に繋がれていた、あなたはエミー殿の知り合いか?」
 「エミーは義弟だ」
 「なんと、運命だな」「いつか奢らしてくれ」ズラリッ ホランドがツーハンドデッドソードを抜いて肩にかける。
 「ホランド!インプ!無事かい!」柵の向こうからエルザが声をかけた。
 「すまない、足を運ばせてしまったな」
 「今、そっちへ行く」
 「待って、二人にはデル兄さんと一緒にティア姫の護衛を頼む」エミーの声は静かだが良く通る。
 「しかし!」
 「ここはいい、私向きの相手だ」
 「!」「強がりを、私こそ全員相手でも構わないのですよ、この拳銃の前に剣も鎧も意味がありません」
 「本気なの?」
 「なに?」
 「ふふふっ」この微笑は虚勢なのか。
 「行って」「分かった」「死ぬな」
 迷っている時ではなかった、ティアの安全を優先しなければならない「くっ」デルは目の端に映ったエミーが薄く笑ったように見えた。
 “大丈夫、早く離れて” そう口元が動いた。
 バカーンッ ホランドが柵を破壊してデルの前で盾となり二人を挟んで殿をインプが務める、通路で様子を見ていた兵士を蹴散らして出ていく。
 観客席から追跡を試みた兵士はジュン少尉の矢とモリスのナイフに倒された。
 「この黒服は任せて、後ろの三人頼める?」
 「あの拳銃というやつ、対処出来るのかい!?」
 「多分ね」「任されたよ」
 キンッ エルザとエミーは剣の穂先をキスさせる、合わせた視線が武運を祈った。

 短槍リグナムバイタ・ヘキサグラフを持つ手が闘志に燃える、黄金のエリクサーがエルザの能力を引き上げている、視野が広く鮮明だ。
 エミーの愛刀ジグロが鈍く光る、フレディを見据える瞳は深い山の新緑を映したように何処までも澄んでいる、一つの揺らぎもなく凪いた水面には緊張も昂りも映らない。
 ワルサーP三十八を握ったフレディは違和感を感じていた、的が小さくなっている、先程より距離は詰まったのに的となるエミーが小さく見える。
 武の経験を持たないフレディは既に測られている事に気付けないでいた。
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