kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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神のシナリオ

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 洞窟の出口に金属の蓋板が落ちていた、あまり時間は立っていないように思えた。
 緩くカーブした鉄は黒く塗られて白の菊水紋が見える、見たことがある。
 「マット、これって日本軍じゃないのか?」
 「俺もそう思う、菊紋というやつだ、特攻兵器に使われるマークだ」
 「なぜ・・・・・・俺たちと同じか、しかし、これは爆破されているな」裂けた鉄は内部からの圧力で千切れたように見える。
 「私たちが渦に飲み込まれた時、渦の中に貴方たちの言う飛行機が流されていくのを見ました、銀色のもっと大きな物でした」
 「それってギガントじゃないのか、あり得るぞ、俺たちの近くにいたはずだ」
 「だとすれば不味い、やつらが生きていて装備が十分なら拳銃二丁だけじゃ話にならない」
 「奴らとは?貴方たちの敵なのですか」
 「ああ、あんたらが見た銀色の飛行機の中には武器が満載だったはずだ」
 「ドイツ連邦共和国、あんたらの世界にはあるか?」
 「それはオーストリア帝国の領邦国のことでしょうか、ドイツという発音とはちょっと違うが似ているように思います」
 フレディの黒髪はどこか東洋を匂わせる、侯爵を立てて控えめだがその目は鋭い。
 「私達とも敵対すると思いますか?」
 「分からん、あいつらは白人至上主義だからな、黒髪は狩られるかもしれん」
 「なるほど、避けた方が良いかもしれませんね」
 「まあ、この世界に居たらの話だがな」
 進むにつれて息苦しくなってくる、空気が薄い、寒さも厳しくなる、まるで高い山の上にいるようだ。
 遥か遠くに光が見えた、太陽光、出口だ。

 バヒュウウウウウッー 強風が吹き荒れている、出口から顔を出すと異世界であることを納得させられた。
 そこは巨大な山の中腹に開いた洞窟、絶壁が切り立つ岩の真ん中だ、吹き上げる風を追って視線を天空に向けると頂上は曇って見えない、しかし!三千メートルや五千メートルではきかないことは想像出来た。
 恐ろしいほどの威容、神の山だ。
 洞窟から出た先は広場的な平地がある、人為的な物か自然物なのかは判別できないが人の痕跡を感じた。
 「おい、あれを見てみろ」グレイが指示した先、百キロ以上離れた平地に街らしき模様がある。
 「人がいるのでしょうか、人工物に見えます」
 「行くしかないだろうな」
 キィーヒッキキキキキッ 「!?」 洞窟の中から突然鳴き声が聞こえた、背筋が凍るような狂女の叫び声。
 振り返っても誰もいない キィーヒヒヒヒッキー また聞こえた、近くづいてくる。
 「まだ何かいるぞ!」「何なんだよ」「とにかく離れましょう」「急げ!」
 ガサガサガサッ ザザザザッ 「はっ、早っ!!」気配は既に足元だ。
 ドスッ 「がぁ!!」最後尾にいたグレイの足が縺れた「痛てぇ!あっ足が!?」
 「グレイッ、どうした!?」「足に何かたかっている、刺された!!」
 「何にもいないぞ」「見えない何かがいるのですね!興味深い」
 「くそっ、なんで俺ばっかり!」コルトカバメントを引き抜くと見えない何かに向けて引き金を引く、パァンッ バキャッ ギャシャァッ 透明な何かから赤い血が噴き出す、血が輪郭を描き出した。
 「蟻だ、でかい蟻がいる!」「なんとっ!」
 ドッシュ 「うぐっ!!」 「クロワ様!!」 「ちっ!」パァンッ ギシャアッ 直ぐにマットが発砲する、透明な甲殻が吹き飛ぶ。
 「しっかりしろ、走れ!」
 マットがグレイに、フレディがクロワに肩を貸して森へと駆け下りていった。

 どの位森を彷徨ったのか分からない、水だけは豊富にある、川や沢を流れる水は清く飲み水に困ることがなかったが食料と呼べる物は見つからない、季節は晩夏から初秋、ぶら下がった木の実は見たことがないものが多い、毒の有無を考えると食べるのをためらった、茸はもっとだめだ。
 獣も見ることがあったが兎や鳥は早くて拳銃では仕留めることはむずかしい、大型の獣は威力がたらない。
 「このままじゃ野垂れ死ぬ」
 「二人の怪我の状況も悪くなる一方です、治療と休息が必要です」
 「どこかに集落はないものか、何処までいっても森が続いている、人の痕跡がない」
 足を見えない蟻に刺されたグレイとクロワはマットとフレディに背負われており、自力での歩行が出来なくなっていた。
 背負ったままの藪漕ぎは平坦な道でもきつい、二人の足も疲労で限界だ。
 「今日はあそこで凌ぐか」岩壁に横穴がある、鍾乳洞なのか穴は深く続いていて終わりは見えない、機体から持ち出せたサバイバルキットのハンドライトは生きているが電池には限りがある、一瞬だけ照らして蝙蝠などの危険生物の住処でない事を確認する、何かが踏んでいった道がある、出入りしているものは人か獣か、背後にも注意が必要なようだ。
夜がやってくる前に火を起こして獣避けをしなければならない。
 藪漕ぎの途中で出会った獣道には熊や大型の鼬の足跡らしきものもあった、拳銃とフレディの短剣では勝負にならない。
 「薪を探してきます、クロワ様をお願いします」
 フレディはタフだ、欧米人に比べれば肩幅も狭く胸板も薄いのによく動く、その持久力には驚かされる。
 「いつもすまないな」マットは差別主義者ではない、ルーツを辿れば原住民の血が混じっている、その肌が褐色なのはそのせいだ。
 二人の足の傷を確認すると化膿が進んでいる、サバイバルキットの薬だけでは対処出来そうにない、敗血症が進めば一週間で命に係わる。
 「悪いなマット、ドジ踏んじまった・・・・・・」嗄れた声に力がない。
 「いいさ、あとで奢れよ」
 「ここは何処なんだろうな」
 「分からねぇ、俺達がいた星じゃないだろうな、星座が見えない」
 「くっくっ、嘘みたいな話だ、異世界で毒蟻に足を指されて死ぬとか意味ねぇ死に方だ、クソみたいな戦争だったけど、ゼロとやり合って空で死んだ方がマシだったな」
 「グレイさん、我々がここに招かれたのには意味があります、それを知るまで死ぬ事はありません、きっと神の手が差し伸べられます、信じてください」
 年齢と体力がないクロワの方が怪我は軽いが状態は悪い、横たわったまま首を回すことさえ辛そうだった。
 「俺は無宗教なんでな、教会には通ってないのさ、行ったのは教会帰りの女の子をナンパした時ぐらいさ」
 「誰の人生にも神のシナリオは用意されています、無意味な事などありませんよ」
 「公爵様は信心深いんだな、そっちの世界じゃ貴族は牧師も兼ねるのか」
 「そんなことはありません、あの螺旋の渦に触れてからです、ここは彼の地、私達は用意された物語の上にいるのです」
 「それなら、そろそろ救世主が現れてもいい頃だと思うね」
 森の中を松明が揺れて向かってくる、フレディが帰ってきた。
 ジャリッ ザッ 足音は二つ。
 「みなさん」フレディの後ろに人影があった「!」
 
 その女性は白い法曹の巫女のように見える、違和感は巫女の肩から吊られていたのがライフル銃だということだった。
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