kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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巫女

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 街は壊滅していた、いたるところにイザナギアリに吸われ、皮だけになった躯が風にはためいている、乾燥して紙のようになったそれは千切れ吹き飛んでその痕跡を失くしていった。
 透明な蟻に血飛沫と泥が付着してその醜悪で狂暴な姿を晒している、上空には未だドラゴンの影が猛烈な勢いで飛び回り魔獣を海へと追い立てていた、数十万の鳥たちの羽搏く音が重なり大地をも震わせている
 その影はイザナギアリにとって本能的な恐怖、遺伝子に刻まれた天敵、空を舞う鳥たちの影がドラゴンの影を作る、先頭を飛ぶ小さき鳥が指揮者だ、その歌笛は美しく気高く響き渡る、鳴き声自体がソニックウェポンなのだ。
 
 「私はいけません」
 アリアは首を横にしか振らない。
 「ここだって危険だろ、逃げなきゃだめだ」
 マットとグレイの説得に耳を貸さない、普段どおりの時間、変わることなく祭壇の前に跪いていた。
 「なぜだ?あの渦の先に息子がいるかもしれないんだぞ!諦めないで探そう、俺たちも一緒に探してやる」
 「私はここを離れられない」
 「だから何故なんだ!?」
 「大した事ではないわ、この教会は冥界神殿を鎮める鎮守神、そして私は聖獄の巫女、ここを離れては生きられないの」  
 アリアは衣を脱ぐと背中を露にした。
 「!?」晒した背中には竜の鱗か、青銅の模様が浮き出ている。
 「私の半分は既にこの山の使徒、半魔獣、この山の濃い魔素の中でなければ人の心を保てない、この山を離れればやがてはあの青蛇のような異形になってしまう」
 「貴方たちは運がいい、転移後に青蛇に襲われたのに卵を植え付けられてはいなかった、あの魔獣たちは新たな世界に行くための宿主を探している」
 「じゃあお前が転移したときに!」
 「そう、襲われたわ、でも良かったのよ、息子はいなかったから・・・・・・」
 「そんな・・・・・・」絶句した、巫女はこの山に縛られていた。
 「いつか私の中の魔獣が目覚める時までここで息子の魂に祈りを捧げることが今できることの全てよ」
 「それはいつまで続くんだ・・・・・・」
 「青蛇はこの世界の人間には採卵しない、私の先代は人種だったから五十歳くらいで亡くなったわ、自分の長命が恨めしくなる」
 アリアの生涯はここで終わる、いや既に終わっているようなものだ。
 「受け入れるのか!そんな理不尽なことがあるか!!」
 ぶつけても仕方のない言葉が口を衝いた。
 「エルフ族の気性、長命がそうさせるのかもね、じぶんの運命を”ああ、そうか”と受け入れてしまう、人族に比べれば諦めるのが早いのかな」
 「くそっ、どうすれば!」
 「もしも・・・・・・貴方たちが元の世界に帰れて私の息子に出会ったなら、諦めずに生きろと伝えて、愛することを覚えてと・・・・・・」
 そう言うとアリアは勾玉のネックレスをマットの手に握らせた。
 「年老いた母の儚い願いよ、持って行って」その顔は諦めではなくどこかで確信しているように強く見えた。
 マットは青い勾玉と、再び膝を床に付けて祈る背中を呆然と見つめた。
 「息子の名前は?」
 「・・・リアーナ・・・リアーナ・ミルレオ、きっと覚えてはいないでしょうね」
 振り向かずにアリアは答えた。
 見上げた神獣像は虚ろな光を反射する、その光はマットたちにこの世界で死ぬ事は許さないと告げていた。

 様子を見に行くと言って出かけたクロワ達の帰らない、探しにいこうかと腰を上げた時、森の中から銃声が聞こえた。
 空ではあまり聞く機会はなかったが パパパパンッ 乾いた軽い連射音、間違いないドイツ陸軍のMP四十サブマシンガンだ、九ミリ弾を使用してその装弾数は六十四発を誇る、アメリカ陸軍のグリースガン同様に使い勝手の良い実戦向きな兵器だ。
 「間違いない、ドイツ軍だ、魔獣に追われているのか!?」
 パパパパンッ 複数の銃声、音が近づいてきている。
 森の中を走る白い服が見えた、フレディだ、クロワの姿はない。
 「フレディが追われているようだ、敵はどこだ?」
 目を凝らすがマットの目には見えない。
 「いた!後方百メートル、十人近くいるぞ!」
 「どうするマット?」グレイはニヤリと笑ってホルスターからコルトガバメントを抜いた。
 「決まっている!」マットも装填を確認すると初弾を薬室へと送り込む。
 「まずアリアを逃がそう、そして一人が奴らの後ろへ回り込んで挟撃する、正面からサブマシンガンとはやり合えない」
 「承知した、俺が後ろへ回る、巫女様を頼んだぞ」
 「分かった、死ぬなよ」二人は頷き走り出した。
 
 アリアはこうなることを予期していたのか小銃を手に教会の最上部、鐘がつるされた部屋へと階段を登っていた。
 「アリア!何をする気だ、戦おうなんて思うな、地下迷路に逃げろ、あそこなら見つからない」
 「例え私がここで死んでもそれは運命、受け入れます」
 やはりアリアは生きることに淡泊だ、むしろ死にたがっているのかもしれない。
 「やつらはサブマシガンまで装備した敗残兵どもだろ、追い込まれた鼠は何をするか分からない、小銃や拳銃だけでは勝負にならない!」
 「それが神のシナリオなら仕方ありません、神は私達だけのものではないのですから、それにもう待つことには疲れました」
 ガッ 階段を登ろうとした手を掴んだ 「アリア、頼む」 マットの必死の訴えにもアリアは首を横に振るとスルリと手を振りほどき静かに階段の奥に姿を消した。
 「くっ」噛んだ唇から血が滲んだ。
 パァンッ 銃声は真下まで来ている、睨んでいた階段から視線を振り切って教会の外にでるとグレイとは反対の茂みに飛び込み敵の姿を探す。
 ガサガサッザザザッ フレディが森をジグザグに走ってくる、白いシャツが撃ってくれと言わんばかりに目立っている。
 「フレディ!こっちだ!!」「!」手を振ると気が付いたようだ、背を低くして飛び込んでくる。
 「無事か!?」「私は・・・クロワ様が!」「殺されたのか?」「頭が突然弾けて・・・」フレディが青ざめた顔で俯く。
 「狙撃手までいるのだな!」「相手を見たのか」
 「はい、敵は人族ではありません、魔人です、魔人が銃を持っています」
 「なに、ドイツ軍ではないのか」
 「迂闊でした、現地人だと油断しました、彼らは全滅した転移勇者の武器を奪ってやってきたのです、狙いはきっと教会のエリクサーです」
 「ならエリクサーを使って交渉出来るのじゃないか」
 「彼らの姿を見れば無理だと理解されるでしょう、あの角と牙、あれは悪魔の子孫です、人間を食い物としかみていない、クロワ様はその場で食われてしまいました」
 「何だと!?」「食人です、なんと悍ましい、アリア様が危険です、一刻も早く非難を!」
 フレディは震えていた、主人が貪り食われるところを見せられては大の男でも当然だ。
 銃器を正確に使用できる知性を持っての食人には違和感を覚えたが考えている余裕はない。
 「アリアは教会の上だ、小銃を持って待機している、フレディ、彼女を守ってくれ」
 「はい、マットさんたちは!?」
 「俺とグレイで奴らを挟み撃ちにする」
 「しかし、彼らの武器は強力です、無理せず逃げてください、港に航行可能な船を見つけました、多分貴方たちが言う銀色の飛行機というのがデッキに乗っています、良く目立ちますから分かるはずです」
 「やはりギガントも転移していたか、そこに集合だ、頼んだぞ」
 「ご武運を!」フレディの顔がさらに若い、同時に足取りも二十代のものだ、素早い動きはただの執事ではないだろう、過去に荒事に従事していたことを思わせる。
 ガァンッ コルトガバメントの四十五口径ACP弾の発射音!
 後方からグレイが攻撃を開始した、弾倉に残った残弾は五発、グレイが七発だ。
 至近距離からの一撃必殺が必要だ、マットは木立の影から影へと敵との距離を詰めていった。
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