kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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パンツァーファウスト

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 フレディの言った事は本当だった、銃を装備して迫ってきたのは褐色の肌に角を持つ魔人族だが、その軍服はドイツ軍山岳猟兵師団のものだ、片手に盾を持ち、もう片方に持っているのは剣ではなく銃だ、なぜ魔族が軍服をきているのか!?それにしても盾が邪魔だ、撃ち抜けはするだろうが四十五ACP弾は初速が遅い、打撃力は高いが貫通力には乏しい、胴体付近をプレートの上から狙っても即死は難しい、頭部も兜でカードされている、初弾から顔面を狙うしかない。
 魔人どもが銃器の扱いに不得手であることを祈るしかない。
 最初にMP四十サブマシンガンを沈黙させる必要がある、出来れば奪いたい。
 「!」草むらに魔人が一人倒れていた、グレイが命中させたのだろう、変だ、妙に落ち着いている、盾に身を隠してゆっくりと進んでくる、フレディを追ってきたわけではないかもしれない、奴らの狙いは最初から教会!?
 魔人が横切るのを幹の影に隠れて待つ、心臓が早鐘を撃っている、空中戦では時速六百キロの戦い、相手の息遣いは聞こえない、今は自分の鼓動が相手に聞こえてはいないか心配になる、銃把を握り直して撃鉄を起こす、慎重に頭を幹からだすと目標を定めた。
 盾の隙間はヘルメットしか見えない、後ろ後方から首筋に狙いを付けてゆっくりと指に力を込めた、ガァンッ 狙いすました亜音速の一撃、初速が遅い方が弾道の変化は大きいが十数メートルから発射された弾丸は魔族の兜を打ち抜いて首から延髄を破壊した。
 「!!」もんどりうって倒れた仲間から魔族は銃を剥ぎ取ると盾で隙間を塞ぐ、冷静な対処だ、ガァンッ バキュッ グレイの第二弾が盾に弾かれるのと同時にサブマシンガンの掃射が来た! パタタタタタタタッ 紙風船を連続で割ったような軽快でリズミカルな発砲音、毎秒八発もの九ミリ弾を吐き出す。
 隠れている近くの藪が小枝を散らす、冷や汗が背中を伝う。
 「〇×〇×!!」叫ぶと同時に魔族は教会方向へと一気に走り出した。
 「!」後ろ向きに牽制射撃を繰り返しながら一目散に走る、早い!
 迂闊には走りだせない、木々の影を盾に後を追うが距離は離された、直ぐ隣にグレイの姿が見え隠れする。
 パァンッ ガッ ヒューンッ 発射と跳弾の音がほぼ同時だ、教会の方向からの射撃はアリアの小銃だろう、確度のある位置から盾に当てた、いい腕だ。
 「〇×〇×」魔族は大木の幹を背に盾を前に並べて防壁を作る。
 「マット!」グレイが叫ぶのと同時に再びの掃射が来た、屈んだ頭の上を九ミリ弾が空気を切り裂き飛んでいった、堪らず地に伏せてやり過ごす、危なかった、グレイの声が無ければ頭を打ち抜かれていた。
 マット達は知らない、魔族たちは元々人族に与する魔国反体制派組織、転移ドイツ軍の訓練を受けて魔族との戦いにも参加していた、銃の取り扱いには慣れている。
 ドイツ陸軍山岳猟兵師団もまたドイツ帝国により侵略を受けた近隣諸国民義勇兵師団、ナチのような人種差別意識はない、司令官は有益な者の登用を拒まなかった。
 組織壊滅にある今、彼らが狙っているのはエリクサーだ、魔族、人族どちらの国も倒れた後の覇権に向けてドイツ軍現地傭兵団は魔族国復活に向けて早くも動き出していた。
 彼らの目的はエリクサーだ、外貨目的にも自分たちの延命や強化にもなる、しかし何故この場所を知っていたのか、神々の覇権戦争に乗じて襲ってきたのはタイミングが良すぎる話だ。
 「おい、マット!あれを見ろ!」
 グレイが挿した方向は教会の最上部、鐘楼部分から煙が出ている、焚き火の類ではない発煙筒の煙だ。
 「既に侵入されたのか、アリアが危ない!」
 立ち上がろうとした時に盾の間から伸びる筒が見えた 「!!」 あれはっ!
 パンツァファースト!対戦車砲だ!!
 ダンッダンッダンッ 「やめろぉっ!!」 二人同時に走りながら引金を引く、四十五口径が魔族の隠れた大木を削る。
 ドッシュッ 白煙の尾を引いて砲弾が鐘楼に向けて飛んだ、訓練された正確な射撃。
 推進ロケットを持たない初期型のパンツァファーストは飛距離僅かに三十メートル、三キロの爆薬によるメタルジェットは百四十ミリの戦車装甲を貫通する、石壁など紙だ。
 シユルルッ カッ バカーンッ ガラガラッ 石組の鐘楼が粉々に粉砕されて弾け飛ぶ、石壁はドロドロに溶けて液状化して崩れた。
 「アリアーッ」鐘楼にいたなら・・・・・・「そんな・・・・・・」
 絶望がマットとグレイの足を止めさせ、視線を崩れた鐘楼に釘付けしにした。
 ドッ ドドドッス 「あがっ」胸に衝撃と激痛、視界に棒が見えた、矢だった。
 盾の後ろに弓兵がいた。
 「ごぼぉっ」矢が肺に達していた、口の中が血の味でいっぱいになる。
 膝の力が抜ける、木立の隙間から蒼穹の青空が見えた、雲が早い。
 「どうせなら空で死にたかった・・・な」
 神のシナリオとはなんで無駄な事を、いや主人公は別にいたのだ、サブキャラ以前の自分たちは意味のないストーリーしか用意されていなかった、くだらねぇ。
 だがアリアは違ったはずだ、あのまま死んでいいはずがない。
 助けたかった、息子と合わせてやれれば、こんな悔いの残る死に方にはならなかったろう、まったく・・・ああ・・・なんて・・・くだらない人生だ。
 暗闇に堕ちた。

 ゴボゴボと音がする、世界が赤い。
 砂の道を掻き分けて泳ぐ、天空を目指して、新天地を目指して泳ぐ、坂が急になる、ほとんど垂直だ、他の奴らは登れずに脱落していく、俺は違う、強く賢い。
 登り切った先には魔素が溢れている、気持ちがいい、いい匂いがする、何だあれは?特別な食べ物、あれを腹に入れれば奇跡が起こる、もっと強く、そして賢くなる、あれは神だ、神食いだ、とって変われる、全能の神、進化の頂点。
 眩しい青色の光が身体を焼く、魔族の女、邪魔するな、それは俺の物だ!
 魔族はアリアの仇、記憶が混同する。
 記憶?誰の記憶?誰の・・・・・・。

 気付いた時には既に世界が変わっていた。
 巨大な洞窟の中、揺れることの無い巨大な船の上だ、旧式の蒸気船、真っ白な船体。
 俺は誰だ?・・・・・・思い出せない。
 隣に男が寝ている、知っていた顔だ、瓶に入った赤い液体が腕に繋がれた管を通して身体に注がれている、自分の腕にも同じ物が見えた。
 「やあ、おはよう、今日の気分はどうだい?」
 「お前は・・・・・・」見覚えがある、確か。
 「フレディ・・・」男がおやっという顔になる。
 「逆だよ、僕がフェス・ド・ラ・クロワだ、フレディ・マモラはこっちだよ」
 「・・・そうか・・・」むくっと身体を起こす、潮風と波の音が洞窟に響いて入ってくる。
 「ここは煩いな、これじゃ眠れない」
 「すまないねアダム・ワン、今日は海が少し荒れているのだよ」
 「アダム・ワン?俺の事か」
 「そうさ、君がアダム・ワン、そして彼がアダム・ツーだよ」
 「そうか・・・」
 「疲れているだろ、もう少しお休み、出番になったら起こしてあげる」
 「そうか・・・」もう一度身体を倒すと直ぐに寝息を立て始める。

 ベッドを囲んでいるのはノスフェラトゥ教団のアポサル(教祖)クロワ侯爵、しかしそれはすり替わったフレディだ、重ねた年齢の半分以上若返って帰還した侯爵の様変わりは、髪の色を変えただけで驚きと羨望の前に別人の疑いは消えた、少なからず疑義を持った者はダーク・エリクサーで絡め取られるかハンターによる粛清を受けて消えた。
 「上手く熟成は進んでいるようです」
 「そうだね、この間の実験体は直ぐに孵化してしまった、熟成期間が短いと神の使徒どころか普通に蛇の大きさにしかならなかった、やはり転移の渦を通った実績か、彼の地の魔素を吸った事が関係しているかもしれませんね」
 「もう少し睡眠薬の投入を続けますか」
 「いや、ザ・ノアの出航は近い、放流の次期かもしれません、もちろん観察者を付けてね」
 「彼らにとっては待ちに待った新天地、早く外の空気を吸いたいでしょう」
 「畏まりました、クロワ様」
 
 「さあ、新世界です」
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