kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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 「これはデル兄のクイズだね」
 革表紙のノート、答えの違うページ、どのページが本物?それとも全てダミー?
 「ダミーならわざわざ複数の答えを同じノートに載せる必要はない」
 「それにエリクサーはともかく漂流島の事を知ったところで利益はない、隠す必要がない、これはデル兄の悪戯よ」
 「悪戯ぁ、なんだそれ」
 「デル父さんは悪戯好きー、いっつもルイス父さんが揶揄われてた」
 「そういえば東郷塾でもデル兄はイジル側だったな、ふふっ、やり過ぎてシスター・ジョディに怒られていたっけ」
 「茶目っ気のある男だったんだねぇ、あたしは嫌いじゃないよ」
 「意外だな、エルザにちょっかい出したらぶっとばされそうだが」
 「何言ってんだい、あたしは本物の女だよ」
 「ちなみに私は偽物だ、手は出さないでくれ」
 「知ってるし、皆命は惜しいからね」
 「違いない」
 「しかし、悪戯にしては手が込んでいる、解読できそうか?」
 「ああ、デル兄の挑戦を受けよう、解いて見せる」
 「頼んだぞい、俺達は食料の調達に行ってくる、ティア姫もいくかい?」
 「コッド釣り?」
 「ああ、晩飯はコッドだ」
 「やったぁ、行く行く!コッド大好き!」ピョンと跳ねるとホランドの肩に収まった、ホランドが嬉しそうだ。
 「ギルとあたしは蜂蜜の採取だね」
 「助かる、大量のマッドハニーがある、それも本物だ、貴重な材料になる」
 「気を付けろよ、マウンテンビーは気性が荒いからな」
 ティアにとって、ここはどこへいっても思い出の場所、時に優しい記憶が心を傷つけるかもしれない、動いていた方がいい、記憶を書き換えることは出来なくても新たな思い出が増えれば受け入れられるときは来る。
 エルザたちが同行してくれたことに感謝だ。
 一人小屋に残ってノートと向き合う、内容は大別すると漂流島とエリクサー精製、それとティア誕生の三点、それらの事柄がランダムに入り混じり、かつ内容や結末が違うページが複数存在している。
 本物はどれか?ページ番号は振ってあるがこれはダミーに間違いない。
 閉じ紐を外して内容別に区分けして床に並べてみると足の踏み場が無くなった、透かし文字、炙り出し、ありきたりなトリックはない。
 デルは何のためにこんな悪戯をしかけたのか?鍵はそこだ。
 革表紙の最初には”愛するティアへ”とあり最後には”デル・トウロー ルイス・ダーヴァイン”の署名、ティアへ送った物だと分かる。
 並び変えても規則性は見いだせない、数字遊びは除外だ。
 画面の要素、反面ずつ切り合わせるや逆さ文字も当てはまらない、だいたいデルは単純で明快な男だった、詐欺的なトリックは嫌いだったはず。
 それにあて名は愛しいティアとある、そんな意地悪する必要はない。
 「なんだこれ?」手に取ったのは白ページに句読点だけが打たれている。
 何の意味なのだろう。
 「手強いな」
 一度背伸びをすると小屋の外に出て前を流れる渓谷を見下ろす、水面に黄色の花が映って色を付けている、流れる水の光と重なってキラキラと光っていた。
 山の斜面を切り開き、種を植える、最初は猛獣に怯えながらのテント暮らし、それから切り出した丸太を組んで小屋にした。
 言葉にすれば簡単だけれど労力の源となる愛情がどれ程注がれたのか、枯れる事のない愛情はどこから生まれるのか知りたいと思った。
 ホランドとインプが陽だまりの淵に釣り竿を出している、岩の上に足を延ばして座るティアの首が縦に揺れていた、うたた寝をしているのだろう、転がってしまわないかインプが傍で構えている姿が微笑ましかった、育児の経験などない二人はティアが可愛くて仕方がないのだろう、二人は間違いなく善人だ。
 「掛かった!」ホランドの竿が撓る「ティア、ティア姫、かかったぞ」「ふぇっ?」寝ぼけたまま竿を握らせるとコッドが空中にジャンプ、バシャバシャと大暴れしている、大物だ、今夜の夕食には十分な大きさ、取り込めればだが。
 「ふふっ、まるで親子だな」
 親がどういう存在なのかは分からない、自分にいない事を悲しいと思ったことはなかった、東郷塾という居場所には満たされていたし不満なんて持ったことはなかったから、師父の目はいつも優しく、厳しい言葉の裏にある師父の痛みも感じた。
 例え、それが自分一人に向けられたものじゃないとしても悲しい事などない。
 それは通常の人間からしたら変な事なのだろう、誰もが愛を独占したがっていた、誰かを傷つけてでも奪われるのを恐れて立場を守もろうとする。
 そんな感情をエミーは持てない、どうしても欲しいものがない。
 物真似だけではたどり着けないかもしれない。
 ホランドたちの気持ちが伝わってくる、彼らは今幸せを感じている、生涯で出会うことの無かった幸福を共感能に乗せてエミーに伝えてくる。
 「ふぅ」首筋に手を伸ばす、脈がときめいている、この気持ちが一番心を酔わせる。
 「羨ましい・・・・・・」
 首筋を撫でる風が暖かかった、共感できる幸せには大きく分けて二つの色があった、一つは自分の欲求が満たされた色、二つ目は目標を成し遂げた色だ。
 欲求と目標が問題だ、誰かを助ける、殺す、同じ幸せでも違う、英雄と快楽殺人者、同じ殺人でも色は変わってくる。
 ここで神獣を孵して育てていたデルとルイスの幸せの残滓、ここを訪れた人は三人を知らなくてもそれを感じて癒されるに違いない。
 「凄いよデル兄、尊敬する」
 (愛するティアヘ)冒頭の書き出しはティアヘ当てた手紙だ。
 
 手紙?・・・・・・手紙!?・・・・・・手紙!!
 「そうか!手紙だ」
 
 小屋へ戻ると広げたページを再び纏める、よく読むと意図的にスペルを間違ったと思える単語がランダムなページにあった、それを正確な単語に治していく。
 違いがない正確なスペルで書かれた物はダミーだ。
 百十文字、百十ページ を抽出したときには太陽は頂点を過ぎた。
 それを頭から項目別に並び替えるとカタルーニャ語の単語が浮かび上がる。

 その単語を繋ぎ合わせる・・・・・・手紙になった。

Por mi querida hija, Tia.
Gracias por darnos a luz, nos haces los más felices que hemos sido nunca, y te enviamos este libro un día que partamos para ti y Mahime.
Dell Trow, Louise Darvine.

愛する娘、ティアへ
生まれてくれてありがとう、君のおかげで俺達は最高に幸せだ、いつか君とマヒメの元に旅立つ日にこの本を送る。
デル・トウロー ルイス・ダーヴァイン

 仕掛けの意味が分かった気がした、これは技術の漏洩やティアの生い立ちを秘密にするためのダミーじゃない、中身も絵本のようであり教科書のようでもある。
 間違い探し、絵物語、空想、経験譚 そんなものが詰め込まれた中にデル達は手紙を隠した、長くなるだろう航海の中でティアが少しでも遊べるように工夫を凝らしたゲームだ。
 読み解き、推理を進めれば答えが現れる。
 父から奇跡の娘への感謝のメッセージ、ティアがいる前で解かずに済んだことを何処かの神に感謝した、これはティアだけの物だ、誰かが解いてはいけない。

 ホランドたちが釣り上げたコッドは十キロもある大物だった、結局網には入らずインプが川に飛び込んで取り込んだ、小屋に帰ったインプはズブ濡れで凍えていたが、その分蜂蜜酒を余計に呑めてご機嫌だ。
 エルザは料理が上手い、コッド一匹から空揚げや焼き物、鍋まで作って豪華な食事をみんなで囲んだ。
 笑い声が響く小屋は狭い部屋が余計に狭くなる、人の気持ちが隙間を埋める。
 ティアは食べ終えると早々に瞼を重くした、エルザが風呂を沸かして一緒に入った後はベッドに直行して平和な寝息を立てている。
 主賓に聞こえないようにノートの内容を皆に話した。

 「いい父親じゃないか」
 「しゃれた事をするぞい」
 「あのデルがそんなことを、義賊時代からじゃ想像できないな」
 「二人は本当にティアを愛していたんだねぇ」
 「ぐふぅ」ホランドはまた号泣していて話せない。
 「明日から正解の部分だけ要点を纏めて書き写すよ、そして元に戻す」
 「ああ、それがいい」
 「ギルにはエリクサー精製の部分だけ頼めるか、訳が必要な所は聞いてくれ」
 「分かった、やってみるよ」
 「ここはいい所だな、あたしは気に入ってしまったよ」
 「俺もだ、ここは生気と命に満ちている」
 「冒険者生活の終わりがここでもいいかもしれんぞい」
 「どうなるかは分からないが、漂流島の旅が終わったらもう一度ここへ来ないか、皆で」
 「どうしたんだいホランド、今日は感傷的じゃないかい」
 「俺は元々ロマンチストだ」
 「それもいいね、帰る場所があるのは幸せなことだから」
 「よぉし、乾杯だ、俺達の故郷に」
 乾杯 プローズィット ザスタローヴィエ チアーズ !!
 少し甘い蜂蜜酒のグラスをぶつける、カチンッと小気味よい音がした、五人はデルのテーブルに置かれたノートにグラスを掲げた。

 テーブルにはデルとルイスが照れくさそうに笑っていた。
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