kings field 蜂蜜とエリクサー

祥々奈々

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アルカディア

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 隣国の諸島アルカディア、冬が厳しく基幹となる産業が育たず貧しかった。
 作物の生育は短い夏に限られ二毛作が行なえずに人々は海や山の狩猟により食い扶持を稼ぎ、細々と命を繋いできた、緑のない景色は荒涼として寒々しい。
 貧しい人々の中には野菜や果物を見たこともない者も多くいる、タンパク質中心の食事はビタミンやミネラルの必至栄養素の欠乏を招き、毎年のように感染症の蔓延を招いて大量の病死者を出していた。
 貧しい土地の原因は島国を中央から分断する険しいイエテガ山脈、三千メートル級の山々が連なり、その中央に位置する最大の主峰、その頂き三千七百メートルを誇り、山裾には幾つもの湖を配置したマウント・ナラタイは尖った剣先を天空に突き刺さしている。

 「布教活動?」
 この地を納めるのは人食い男爵ウラド・ツェペリという巨漢の男だ、強く巻いた黒いくせ毛と無精髭は荒々しく粗暴な気性を隠さない、教皇派には属してはいるがお布施ばかりを要求する中央には反感しか持ってはいない。
 「堂々と異教を宣言した挙句に布教させろと玄関を叩くとは命しらずだな、面白い、会ってやる」
 「それでは応接間にお通しいたします、男爵様」
 「まーて!応接間ではない、裏の墓地で待たせろ、くだらなければ無縁墓地に投げ捨ててくれるわ!」
 「!ぎょ、御意」
 ウラド家の主幹産業は人身売買、特に女性を奴隷として各国に売り捌き外貨を得ていた、人食い男爵の異名は戻らない家族がウラド家に食われてしまった事を揶揄している。
 特に美人で若ければ高額商品となる遺伝子を残すために適性年齢まではいい暮らしを保障されるが子供は全て男爵に取られることになる、男は他領から女を攫う盗賊として育てられる。
 ウラド領は犯罪で成り立っていた、男爵とは名ばかりの首領がウラド・ツェペリという男だ。
 稼いだ金は循環させる、家族を取られた不満を十分に黙らせることの出来る金額をばら撒く、提供した意外の家族にもだ。
 村単位で人身御供を提供させることにより、その罪を村の者にも共有させ反発を防ぐ、上手いやり方だ、その昔、この事業をアドバイスして立ち上げたマフィアがいたが既に王家により処罰されたようだ。
 ウラドは腰に分厚いナタ状の大型ナイフと二連装の短銃を下げる、その身なりからは爵位もちであることは想像できない、山賊が相応しい。
 墓地の入口に待たせた四輪馬車には馬がいない?見たことの無い乗り物から若くスリムな男が出てくる、黒髪を長く伸ばし黒の燕尾服に身を包んでいる、布教というからには白い聖服を想像していたが随分イメージが違う。
 上品な優男ではあるが自信に満ちた態度は世間知らずか、実力の裏打ちか。
 自分と同じ匂い感じてウラドは舐めてかかるのをやめた、慎重に状況を確認する。

「正直に応えよ、貴様らは何者で、何用でこの領に来たのか!?」
ウラドの問いと同時に後ろに控えた護衛隊がボウガンを黒服に向けたが致命を向けられてもその態度は変わらない。
「お初にお目にかかります、私はノスフェラトゥ教団教祖アポサルの遣いで参りました執事フレディ・マモラと申します」
「!?」「フレディ・マモラだと・・・・・・嘘だな、儂はその男を知っている、似てはいるが貴様ではない、旧友の儂を欺けると思ったか、愚か者め!」
「フッフッフ、アポサル様よりお伺いしております、その通り、私は二代目です、偉大な先達よりこの名を継承いたしました」
「二代目だと、適当な事を」
「問題は私が何者であるかよりも、商売の話が重要かと存じます、必ず満足して頂けると確信しております」
優雅な一礼は確信を失っていない。
「具体的に申してみよ、ただし簡潔にだ!」
「御意」フレディと名乗った男が四輪馬車に合図をするともう一人の男が猿轡を噛ませ拘束した女を一人連れてくる、若い、おまけに美人だ、高い値が付くだろう。
「この女、見覚えはありませんか?」
女の髪を掴むと俯いていた顔を無理やりに持ち上げる。
「なに?」
男受けのする童顔に、豊満ではないが均整の取れた身体、真っ白な肌に金髪碧眼、優良商品に間違いないが覚えはない。
 「あっ!?」 後ろに控えた護衛隊から声が上がった。
 「ひょっとして前領主の公妾館にいたオルガじゃないか」
 「そうだ、オルガだ、間違いねぇって!いや、おかしい、追い出したとき既に三十をとうに過ぎていた、いまは四十近いはずだ、姉妹か!?」
 女が顔を逸らす、恐怖に怯えた顔が男たちの目を余計に惹く。
 「そうだ、若すぎる、本人じゃねぇ」
 「なんのつもりだ若造、昔の公妾に似ているからと言って何だ、何か勘違いしてないか」
 「ふっふ、勘違いではありませんよ、これは本人、間違いなく貴方たちが知るオルガ本人です」
 「馬鹿な!本人はとうの昔に死んでいるだろう、公妾の運命だ」
 「お頭、しかし似ています、口元の泣きホクロ、あっしは覚えてます、こいつは若い頃のオルガにそっくりだ」
 「!」 バチィーンッ 「へぎゃあっ」 ウラドに耳打ちした護衛が平手を受けて吹き飛んだ。
 「お頭って呼ぶんじゃねぇ、殺すぞ!」
 「疑うのも無理はありません、実年齢よりも見た目は半分以下でしょう」
 「化粧で化けさせたのか、あいにくだがそいつぁ間に合ってるぜ」
 「かくいう私たちも彼女と同じ、私は今年で五十になります、どうですか若いでしょう」
 「小僧、人をおちょくるのもいい加減にしろ、時間の無駄だ、全員殺せ!」
 再びボウガンが持ち上がる。
 「いやいやクロワ様の言った通り短気な方だ」フレディの右手の合図。
 パパパパパンッ 軽快な発射音、サブマシンガンだ。
 ドササッ 「!!?」 ウラド以外に立っている者はいなかった。
 「なっ・・・・・・」絶句したまま動けなくなる、四輪馬車に立つ男が持った鉄の筒から紫煙が上がっている、銃だ、連発式の銃!後ろを見るまでもなく部下たちは即死している、あの一瞬で何発の弾丸を発射したのか、魔法だ。
 「少しは真実味が湧いてきたのではありませんか?」
 自分の生殺与奪を奪われたことを理解する。
 「わっ、分かった、信じよう・・・・・・それでどんな商売をしたいのだ」

 「ふっふふ、買ってほしい商品があり、それを使い生産したものを売って頂きたいのです」
 フレディは内ポケットから赤い液体の入った小瓶を取り出した。
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