kings felds漂流島

祥々奈々

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誓い

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 ゾゾゾゾゾォウオゥオゥオオオォォォォッ

 ヨットの真下を巨大な影が漂流島へ向かい進んでいくのを二人は見た。
 海中に揺らめく鬼火が浮かび上がる。
 「アンデッド・ガレオン!!幽霊船だ」
 「なんて大きさだ、戦列艦百門クラスじゃないのか、いやそれ以上だ、千人以上乗っていぞ」
 「ええっ、そんな、全員がアンデッドになっていたら、いくらマヒメ様でも……」
 「新月の魔物はいいとこ百人程度の船だった、その十倍……」
 「ダー!引き返そう、助けなきゃマヒメ様が……」
 「しかし……アンデッドが狙っている聖獣の卵を抱えたまま戻って万が一奪われることになれば取り返しが出来ないぞ、危険すぎる」
 「大丈夫、僕が移乗して戦う!ダーは卵を守って」
 「移乗なんて無理だ、甲板まで十メートル近くある、登れっこない」
 「登れるよ、僕なら!」
 アイアンクローを装着したルイスの身体から黒い魔素が沸き上がる。
 「ルイ、お前は!?」
 魔素の霧の後に現れたのは魔獣ワーウルフ。
 「こういう訳さ、僕は人間じゃない」
 「それで村を追われたのか」
 「マヒメ様みたいに上級聖獣なら変身も瞬時だけど、低級魔獣の僕は一度変身するとなかなか人間の身体には戻れないんだ」
 ズドォオオオッン ズドドォォォオオッ 砲撃の音が聞こえてくる。
 「始めやがった!」
 「ダー、頼む、僕にやらせてくれっ、白骨兵士の百や二百は道連れにして見せる!卵はダーが守って!!」
 ズドドオオオォォォオッ
 再びの砲撃音、その大きさと数が先日とは圧倒的に違った、汗がダーウェンの額を伝う。
 「分かった!戻ろう、でもルイが移乗したらヨットは離したところで待機する、いいか」
 「恩に着るよ、ダー」
 ダーウェンは舵を切り、セイルを操作して船首を再び漂流島に向けた。

 アンデッド・ガレオンは百四十門級、全長六十メートル、乗組員千名の巨大戦列艦。
 その横腹の大砲が火を吹き、漂流島のエリクサーを木っ端に粉砕していた、轟音が海に響き渡る、最新の火炎榴弾も使用している、山肌が燃えていた。
 甲板には白骨兵士が並び復活の秘宝、聖獣の卵を求めて漂流島へ上陸しようとしていた。
 満月の下、魔の力は最大限に発揮される、海を渡る白骨の動きは早い。
 ガシャアアッ ザババアッ
 聖獣レヴィアタンが疾走する度に粉砕された白骨が海に降っていくがあまりに数が多すぎた、島への揚陸を防ぐことは叶わない。
 粉砕するよりも多くが、幽霊戦列艦から海に落ちてくる、マヒメも移乗攻撃を狙っていたが喫水が高すぎて飛べずにいた。
 その間にも海を渡る白骨が枯れた雑草のように浜辺に列を伸ばしてくる。
 聖なる島が魔に飲まれようとしていた、島がなくなればマヒメは獣に戻る。
 全ての思い出が消える。

 幽霊船の船首に取り付けられた捕鯨用の弓がマヒメに向かい放たれる、一矢、二矢と躱すが四矢目が尾を貫通した、繋がれたロープに自由を奪われる、万事休す、絶対絶命。
 マヒメが諦めかけた時、不意にロープの緊張が解かれて自由になった、傷口が広がる事も構わず矢を咥えて無理やりに引き抜く、鮮血が海に広がった。
 バシャ、バシャバシャッ 甲板から白骨の部品が雨のように降る、甲板で何かが暴れている、飛び上がり覗くとそこには見たことの無い生き物、いや魔獣がいた、灰色の毛皮を纏い、長い顔に鋭い牙、鉄で出来た爪を伸ばしている。
 ウアッオオオオオオオオーッ 叫ぶ遠吠えの声に覚えがある。
 ⦅ルイスの声!ルイなの!?⦆
 離れた場所にヨットとダーウェンが小さく見えた。
 ⦅何で逃げないの!助けに来るなんて!⦆
 彼らの思いに最後の力を振り絞り海を駆ける。
 甲板の上をワーウルフと化したルイスは駆け巡る、立ち塞がる白骨は鉄の爪に粉砕されていく、満月の恩寵は幽霊船だけではなくワーウルフにも注がれる。
 甲板の兵士を片付けるとルイスは大砲を無力化するため船底に向かった、刀を躱し槍を弾き爪で砕く。
 ルイスが探していたのは燃える榴弾の火薬。
 「船ごと吹き飛ばしてやる!!」
 鬼火が灯る船室には大砲を操作する白骨が蠢めいている、意思の無い骸骨どもの動きは機械的で冷たい。
 ルイスは船底の底にある火薬庫に向かって鬼火を持てるだけ持って降りていく、扉をけ破り、火薬樽の蓋を剥ぎ取りひっくり返す、鬼火を投げ込むと直ぐに扉を閉める。
 脱兎のごとく階段を駆け上る、途中の白骨たちは無視する。
 甲板までもう少しのところで下から吹き上げる爆風に身体を攫われた。
 バァゴオォッ ズドォッ 誘爆が誘爆を呼ぶ。
 マヒメもダーウェンも幽霊船が中央から裂けて火を吹く瞬間を目撃した。
 ズガガガガガアアアアァァァッン
 「ルイッ!!」
 「!!」
 強烈な爆風が離れたヨットを木の葉のように揺らし水中には衝撃波が走る、水圧がマヒメの身体を打ち付けた。
 ギャアアアアッ
 真っ二つに折れた幽霊船は瞬く間に海水を呑み込み爆沈していく、巨大な渦が幽霊船を海中に葬り去った。
 「あいつがやったのか、ルイが……」
 漂流島のエリクサーが燃えて黄金の粉が夜の闇に散っていく、風に吹かれて延焼は広がっている。
 「漂流島が燃える!燃えてしまう……」
 ダーウェンは恋人と親友、故郷を一度に失うような喪失感に打ちのめされた。
 ズズズズンッ
 地震のような地響きが木霊する、漂流島が揺れている?
 ババババシュシュー 沈んでいく、漂流島がゆっくりと沈んでいく。
 「あああっ、そんな、消えてしまう、マヒメの島が、俺達の島が……」
 茫然と見送るダーウェンは気が付いた、違う、ただ沈んでいるのではない、進んでいるのだ、速度を増している、島が泳いでいる!
 一度本宅まで海水に浸かり火事が消えると再び浮上してくる。
 「生きている!動いている、島自体が聖獣!?」
 浮上した島は益々速度を上げて離れていく、追い付くことは出来そうにない。
 ルイはおろかマヒメの姿も見えない。
 「マヒメーーー!ルイーーーー!」
 ダーウェンの叫ぶ声が海原に響く、返答する者はない。
 「二人とも逝ってしまったのか……」
 「ぐっ、ふっ、うううう、ああああーっ」
 非道の過去を持つ盗賊が慟哭の叫びと号泣を上げた、失った物の大きさに過去に踏みつけた者の痛みを知った、取り返すことの出来ない痛み。
 「俺はまた!!」また間違うのか、また失うのか。
 自分の喉を食い破る程の叫びが男の後悔を映した。

 ザバンッ ヨットに何かがぶつかった衝撃、振り返った目に灰色の獣毛が見えた。
 「!!」
 駆け寄るとワーウルフを咥えて持ち上げるレヴィアタンの姿があった。
 「マヒメッ!!」
 ルイを船に引き上げる、どう見ても瀕死だ、足は千切れかけ何本もの槍が刺さり、背中は大きく裂けている、もう血がないのか出血すらしていない。
 「おいっ、ルイッ、しっかりしろ、ルイ!」
 返事はない。
 マヒメも頭の冠が千切れて鰭もズタズタに裂けている、白蝶貝の美しい鱗は半数が無く無数の裂け傷が見える。
 戦いの激しさを物語っていた。
 「マヒメ、マヒメ、大丈夫か!!」
 マヒメの手がヨットにかかる、人間に変化していた。
 「ダー、ダーウェン、卵、子供、お願い、守っ……て」
 縋るように伸びる冷たい手を、熱い思いで応えるように握り返す。
 「約束する、必ず、必ず無事に育ててみせる、待っていてくれ」
 「俺の!俺の本当の名前はデル!デル・トウロー・東郷だ!!」
 「デル・・・」少しだけ微笑んだ。
 その言葉最後にマヒメは白蛇に姿を戻して海中に沈んでいく、ユラユラと力なく海流に流されるように暗い海に消えていった。
 暗い夜の海に朝日が昇る、デル・トウローの目には地平線まで続く海原だけが映っていた。

 十年後の春。
 大陸の山深く大河の森、湖のほとりに太い丸太を組み合わせた山小屋があった。
 冬の厳しい寒さに備え大きな暖炉が供えられて外には乾いた丸太が積んである。
 春を迎えて水辺には青草が伸び雪解けの水が白く色を付けていた。
 「お父さーん、ねえ、デルお父さーん」
 「んー、なんだいティア、どうかしたか」
 「あのね、ルイ父さんが網を上げるから手伝ってほしいって」
 「そうか、いっぱい獲れているといいな」
 「ティアお魚好き、お肉嫌い」
 「はは、お肉は無理して食べなくていいぞ、きっとティアの好きなコッドが獲れているに違いない、ルイ父さんは名人だからな、春のコッドは美味しいぞ」
 「やったあ、楽しみだな」
 小さな女の子の手をデル・トウローが繋いでいる。
 父と娘、親子だった。

 ⦅マヒメ、卵はこの湖で無事に孵すことができたよ、名前はティア、海の女神ティアマトからとった、今年で九才だ、元気に育っている、エリクサーは十分だったよ、少し換金させて貰った、ビックリする値段が付いて入手先を詮索されて困ったけど、なんとか誤魔化した。
 その金で船を買ったんだ、長距離を走れる動力付きの最新型だぜ。
 もうすぐだ、もうすぐ会いに行くぞ、君の子供を連れていく、何年かけても探して見せる、
 待っていてくれ、マヒメ、今、行くぞ⦆

 ⦅春は黄金の季節、エリクサーの収穫は短いわ、神薬はそんなに必要はなくなったけどいつか来る家族のために準備しておこうと思う。
 畑は海水に浸かって一度完全に駄目になっちゃた、数年かけて土から作り直したの、彼の教えは覚えている。
 もうすぐ元のように野菜が採れるようになる、言葉は少し上達したかな。
 きっと来てくれる、その時は子供にも踊りを教えたい、みんなで一緒に踊ろうね、きっと、また会えると信じている、待っているわ⦆

 タブラオ・デリーバの壁には下手だけれど一生懸命書いたのだろう似顔絵が飾られている。
 家族の肖像、ベリアル、デル、ルイス、そしてマヒメ。
 その横の紙はまだ白紙のままだ。

 真珠の肌に春の風が優しく頬を撫で幸せな思い出を運んでくる。
 違う空の下、まだ見ぬ我が子に思いを馳せて、漂流島のマヒメは今日もエリクサーの迷路へ降りていく。

 Fin

 追伸
 ⦅最近友達が出来たの、蒼穹の空からやって来る友達、とても頭が良くてお喋りが楽しい鳥さん、仲間を探して旅してるって・・・いつか皆にも紹介するね⦆
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