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第ニ話 「王子さま、姉か妹いませんか?」
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ここまでの姫ナン!振り返り短歌
「出会い系アプリや配信サービスも使える異世界うれしいな」
「王子はさておき、姫ナンパ!」~百合女子は異世界に行っても百合厨です~
第ニ話 「王子さま、姉か妹いませんか?」
まさか、王子が探している『光の姫君』が、あのスーパーキュートなヒカリちゃんだったなんて! ビックリしたけど、よくよく考えたら名前といいオーラといい、なんかこう、納得です。そっか、大学で話した時もどこか儚げというか浮世離れした印象だったけど、もしかしたら元々こちらの世界の住民だったのかもなあ。
「あの、マユリ殿。もしや『光の姫君』をご存知なのですか?」
私のクソデカ声をモロに受けてフリーズしていた王子が、おずおずと私に聞いてくる。
「あ~と、元の世界で……マユリ『殿』?」
「な、なにかお気に障りましたでしょうか……?」
懇親丁寧な言葉遣いをしてくる王子に、これまでお上品とは縁遠い生活態度だった私はむず痒くなってしまう。
「いや、そこまで畏まらなくても良いですよ、私みたいなヤツに!こう、もっとフランクに……呼び捨てでも構わないです」
「よ、呼び捨て?!婚姻前の男女が?!」
途端に赤面する王子。マジでこの世界の常識がわからん!どうしよう、私この調子だと無意識のうちに求婚とかしちゃいそうだな。百人くらいに。
「ああ……こちらではレアケースなんですね。失礼しました。でも、できれば軽いノリで接してくださると助かります」
「そうですか、わかりました。では……マユリさん」
「はい」
さん付けなら馴染みがあるのでいっか。というか、私が一国の王子に対して不敬すぎるな?!すいません。
「『光の姫君』と、元の世界でお知り合いだったのですね」
「そうです。もうすっごく可愛くて優しくて!ずっと笑顔なんですけど、どこか寂し気で……風が吹いたら消えちゃいそうというか、目が離せない魅力があって、要するに」
「……要するに?」
「激烈にラヴいです」
「……ラヴい」
「はい。ちなみにお胸は控えめです」
「……」
「……」
「≪今のはヒトとしてダメだネ≫」
「まだ!まだワンアウトだから!」
手足をバタつかせていると、王子は溜息を吐きつつ
「とにかく、実際にお会いされているのは『強い』ですね。問題は、今こちらの何処にいらっしゃるのか、ですが……」
と言って、額を押さえた。えっごめん、頭痛引き起こした?
「≪写真があるヨ!王子、見ル?≫」
「あ、ああ……、姿を記録していたのかい?君は色々なことが出来るのだね。見せてもらえるかな」
「≪はイ!≫」
元気よく答えるつくフォンを、私は王子にも見えるように傾けた。
「≪写真はこちラ!≫」
パッ、と現れたのは、みんなで撮った集合写真だ。講堂の前で、式典の際に配られたピンクの花を右手に掲げてお揃いのポーズを決めている。私もアキちゃんもカナコも笑顔で、ヒカリちゃんも笑顔だった、けれど……。
「あれ?ヒカリちゃんの目線、なんか……」
「他の方とは違いますね」
「うん、カメラより向こうを見てるような……」
もしかして、この時点で何かを察知していたのだろうか。
「そういえば、帰りもなぜか一人で先に行っちゃったんです。みんなでファミレス……食事にでも行こうって話してたのに。ちょっと用があるからって言って」
そうだ。それで残念がっていたら、来週には時間が作れるからカラオケでも行こうよ、オールしよう、って提案してくれたんだ。それで浮かれてて、私、ヒカリちゃんがどんな顔していたのか、全然気にしていなかった。あの時、ヒカリちゃんの笑顔は本物だった?本気で、来週の土曜を一緒に過ごそうとしてた?
「……王子。私、ここへ来た経緯を、ちゃんとお話ししていませんでしたよね」
「ええ……事故に遭って気が付いたらこの世界に居た、としか……」
なんとなく、私はあの時に一緒に居たヒカリちゃんごと、こちらに飛んできたと思っていたけど。
「その事故、ヒカリちゃんも巻き込まれているんです。だから、ここに一緒に飛ばされてきたのかなって、単純な事を考えていたんですけれど……暗殺とか、そういうことだとしたら……」
急にこちらへ滑ってきた大型トラック。でも、あの道にそんな幅、あった?駅と大学を結ぶだけの、店も何もない一本道を、どうして大型トラックが?
「状況など、詳細をお教え願いますか?貴女がこちらへ来たということは、転移の術が作動していると考えた方が妥当です」
少しだけ顔を青くしながら、王子が真剣な表情で言う。
「えっと……トラックってこっちに存在するのかな? こう、ものすごく大きな、馬が曳かない鉄の馬車みたいなものがですね、長方形のそれが横倒しになって、狭い道を滑ってきて、私達にぶつかって……」
「ああ、でしたら『人飛ばしの術』でしょう。割と王道の魔術ですね」
「王道なの?!」
ほっとしたように軽く告げる王子に、私はずっこけそうになる。
「転移先を書き記した巨大な長方形の物体を、対象に衝突させることで発動するものです」
「転移先……」
それを聞いて、私はトラックの荷台部分に何かが書かれていたことを思い出す。事故の時は、あまりのことで柄がどうとか考えが及ばなかったけど、そういえば……。
「つ、つくフォン。少し調べたいんだけど」
「≪いいヨ!≫」
インターネットは使えるようだ。お気に入りのサーチエンジン『ガーデン』(ロゴマークに百合が描かれているんですよ、これが……)で、断片的に覚えていた、あのトラックに書かれていた文字を検索する。
「……あった。『愛は光に照らされて真の幸を手に入れる』……タイトル長っ!」
そう、私があの瞬間に見たのは、このタイトルと……煌びやかな二次元イケメン達の絵。
「う、わぁ」
これは、あれだ。
『乙女ゲー世界に転移しちゃいました』系だ……。
いや、そうだ。サクライ王子の立ち振る舞いといい、『光の姫君』という設定といい、まさにって感じじゃないですか。
「……ん?」
画面をスクロールしていると、目に飛び込んできた数字があった。
「発売年度……えっ、十二年前?それに、これ……発売延期?」
どうやら、リリース十周年を記念して、リメイク版が発売される予定だったみたいだ。けれども、発売日の二週間前に無期延期が発表され、ちょっとした騒ぎになったらしい。そればかりではなく、なんと有志によるファンサイトまでもが規制され、閉鎖が相次いだようだった。
「ふぅん、いわくつきのゲームって訳ね……」
「げぇむ?」
急に覗き込んできた王子に、私は心臓が止まりそうになる。
「な、なんでもございません!」
危ない。この世界の人々に『あなた達の生活は、うちの世界では娯楽として売られていましたよ』なんて言えないし、絶対に知られてはいけない。この情報は私だけの秘密にしよう。
「分かってるよね?つくフォン」
「≪……なんとなク≫」
すぐに検索画面から待ち受けへ戻してくれた。が、今の私の待ち受け画像はビキニだ。
現役女子大生グラドルのサアラちゃんの、ぴちぴちムッチリ眩しいビキニだ。
「おぅふ」
どっちに転んでも王子には見せられない感じだが、まあいい。サアラちゃんのEカップを堪能してください。
「と、とにかく!ヒカリちゃんもこちらに転移してることはほぼほぼ確実ですし!なにかこう、占いとか魔術で居場所を当てたりできないんですか?できそうな気がするのですが!」
赤面し、やや視線を上にズラした王子は、しどろもどろに返す。
「そうですね……。対象者の一部……髪の毛や爪の欠片、もしくは贈り物など、その者との繋がりが必要になります。何かお持ちではないですか?」
「贈り物……その人から借りた物でもいいのでしょうか?」
「なるほど。対象者の元へ辿る為の触媒ですので、使える筈です。まさか、お持ちで?」
鞄の中を探る。ペンケースを開き、一本のボールペンを取り出した。
「これです。次に会った時、返そうと思ってたんですが……」
手持ちのボールペンのインクが切れて困っていた時、隣に座っていたヒカリちゃんが貸してくれたものだ。まさか、こんな形で役に立つなんて。
「すごいです、マユリさん!……出発して一日で、ここまで進展があるなんて……。神は、僕たちの国を見捨てないでくださったのですね……。感謝せねば……」
胸に手を当て、芯から嬉しそうに王子は呟いた。良かった良かった。
「じゃあ、早速!その術が使える人を探しましょうよ!」
「ええ、そうですね。とは言っても、今回は尋ね人の難易度が通常より高いと思われますので、町の占い師では厳しいでしょう。探知する範囲も未知数ですし。正確な情報を得るには、やはり魔術のメッカである『ギマルージ』まで行くべきです。すぐに出発しましょう!」
そう言うと、王子は私に手を差し伸べてくる。
「さあ、こちらへ。今から急げば、日没前に隣町の宿屋まで着けるでしょう。我が愛馬『ルナ』に跨ればあっという間ですよ。乗馬の経験はおありですか?」
王子に手を取られ、黒く美しい馬の元へと連れていかれる。
「お、お無しでございます」
いや、小学生の頃に公園でポニーに乗ったことがあったかもしれない。けど、たぶん参考にならないよね。
「僕の背にしっかりと掴まっていれば大丈夫。ルナ!すぐ行けるかい」
ブルル、と嘶いた黒い馬は、こちらを一瞥するとそっぽを向いた。
「僕への忠誠心が強すぎるのか、嫉妬深いようで……特に女性を乗せようとすると、こんな態度を取るのです。ほら、機嫌を直しておくれ」
王子がルナの頭を撫でたり声を掛けてあやしている間、私はさっき読み切れなかった『愛は光に照らされて真の幸を手に入れる』(タイトルが長すぎる。もう『愛光(アイヒカ)』って略そう)の情報を、少しだけ覗き見た。イケメンばかり出てくるゲームなら、私が期待するような百合ん百合ん体験は出来ないかなあ、なんて少しだけ残念に思っていたのだ。こう、ライバルでもなんでもいいから、可愛い子ちゃんが登場したらなあ。
「……ん?おやあ?」
所々アクセス出来なくなっている公式サイトだが、キャラクターページの一部は見ることが出来た。きちんとサクライ王子こと(こと?)エルフレッドの情報もある。そこの説明文を読んだ瞬間、私は吠えた。マジで吠えた。
「ど、どうされました?マユリさん。準備が整いましたので、こちらへどうぞ」
ようやく機嫌を直したらしいルナの隣で、王子が両腕を伸ばしている。もしかして、持ち上げてくれるつもりだろうか。
「なんでもありません。よ、よろしくお願いいたします」
とりあえず近寄れば、予想通りふわりと持ち上げられて、蔵の上に横座りになる。
「いい子だね、ルナ」
優しく褒めてから、王子が軽やかに飛び乗る。いや、今のどうやったんだ?
「さあ、しっかり掴まって。出発!」
いやあ、中学の頃に自転車を二人乗りして怒られた以来だなあ、なんて思い出しながら、私はとりあえず王子の腰に腕を回す。えっ、待って。細い。マジで?
仄かに花のような甘い香りの漂う王子の背中や、綺麗な首筋を眺めつつ、私はドキドキと心臓が高鳴るのを感じる。このエレガントさ、美しさ。
「あの、王子。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
先ほどつくフォンで見た、あの情報について。どうしても今、はっきりとしておきたいのだ。軽やかに駆けてゆく馬の上、流れてゆく森の景色を横目に、私は王子の背中に語り掛けた。
「ええ。何でも。僕にお答えできることでしたら」
そうか。いいんだな。ヨッシャ。大丈夫です、たぶん王子に聞くのが一番良いと思います!
「あの」
「はい」
「お姉さまに、恋人は?」
「……」
「……」
お答えできることでしょお?!
私の嘆きは声とならず、口の中で消えてゆく。ポケットの中でつくフォンが二度ほど振動した。なんとなく、めっちゃ怒られてる気がする。あれか、『ツーアウト』ってか。ごめんて。
「出会い系アプリや配信サービスも使える異世界うれしいな」
「王子はさておき、姫ナンパ!」~百合女子は異世界に行っても百合厨です~
第ニ話 「王子さま、姉か妹いませんか?」
まさか、王子が探している『光の姫君』が、あのスーパーキュートなヒカリちゃんだったなんて! ビックリしたけど、よくよく考えたら名前といいオーラといい、なんかこう、納得です。そっか、大学で話した時もどこか儚げというか浮世離れした印象だったけど、もしかしたら元々こちらの世界の住民だったのかもなあ。
「あの、マユリ殿。もしや『光の姫君』をご存知なのですか?」
私のクソデカ声をモロに受けてフリーズしていた王子が、おずおずと私に聞いてくる。
「あ~と、元の世界で……マユリ『殿』?」
「な、なにかお気に障りましたでしょうか……?」
懇親丁寧な言葉遣いをしてくる王子に、これまでお上品とは縁遠い生活態度だった私はむず痒くなってしまう。
「いや、そこまで畏まらなくても良いですよ、私みたいなヤツに!こう、もっとフランクに……呼び捨てでも構わないです」
「よ、呼び捨て?!婚姻前の男女が?!」
途端に赤面する王子。マジでこの世界の常識がわからん!どうしよう、私この調子だと無意識のうちに求婚とかしちゃいそうだな。百人くらいに。
「ああ……こちらではレアケースなんですね。失礼しました。でも、できれば軽いノリで接してくださると助かります」
「そうですか、わかりました。では……マユリさん」
「はい」
さん付けなら馴染みがあるのでいっか。というか、私が一国の王子に対して不敬すぎるな?!すいません。
「『光の姫君』と、元の世界でお知り合いだったのですね」
「そうです。もうすっごく可愛くて優しくて!ずっと笑顔なんですけど、どこか寂し気で……風が吹いたら消えちゃいそうというか、目が離せない魅力があって、要するに」
「……要するに?」
「激烈にラヴいです」
「……ラヴい」
「はい。ちなみにお胸は控えめです」
「……」
「……」
「≪今のはヒトとしてダメだネ≫」
「まだ!まだワンアウトだから!」
手足をバタつかせていると、王子は溜息を吐きつつ
「とにかく、実際にお会いされているのは『強い』ですね。問題は、今こちらの何処にいらっしゃるのか、ですが……」
と言って、額を押さえた。えっごめん、頭痛引き起こした?
「≪写真があるヨ!王子、見ル?≫」
「あ、ああ……、姿を記録していたのかい?君は色々なことが出来るのだね。見せてもらえるかな」
「≪はイ!≫」
元気よく答えるつくフォンを、私は王子にも見えるように傾けた。
「≪写真はこちラ!≫」
パッ、と現れたのは、みんなで撮った集合写真だ。講堂の前で、式典の際に配られたピンクの花を右手に掲げてお揃いのポーズを決めている。私もアキちゃんもカナコも笑顔で、ヒカリちゃんも笑顔だった、けれど……。
「あれ?ヒカリちゃんの目線、なんか……」
「他の方とは違いますね」
「うん、カメラより向こうを見てるような……」
もしかして、この時点で何かを察知していたのだろうか。
「そういえば、帰りもなぜか一人で先に行っちゃったんです。みんなでファミレス……食事にでも行こうって話してたのに。ちょっと用があるからって言って」
そうだ。それで残念がっていたら、来週には時間が作れるからカラオケでも行こうよ、オールしよう、って提案してくれたんだ。それで浮かれてて、私、ヒカリちゃんがどんな顔していたのか、全然気にしていなかった。あの時、ヒカリちゃんの笑顔は本物だった?本気で、来週の土曜を一緒に過ごそうとしてた?
「……王子。私、ここへ来た経緯を、ちゃんとお話ししていませんでしたよね」
「ええ……事故に遭って気が付いたらこの世界に居た、としか……」
なんとなく、私はあの時に一緒に居たヒカリちゃんごと、こちらに飛んできたと思っていたけど。
「その事故、ヒカリちゃんも巻き込まれているんです。だから、ここに一緒に飛ばされてきたのかなって、単純な事を考えていたんですけれど……暗殺とか、そういうことだとしたら……」
急にこちらへ滑ってきた大型トラック。でも、あの道にそんな幅、あった?駅と大学を結ぶだけの、店も何もない一本道を、どうして大型トラックが?
「状況など、詳細をお教え願いますか?貴女がこちらへ来たということは、転移の術が作動していると考えた方が妥当です」
少しだけ顔を青くしながら、王子が真剣な表情で言う。
「えっと……トラックってこっちに存在するのかな? こう、ものすごく大きな、馬が曳かない鉄の馬車みたいなものがですね、長方形のそれが横倒しになって、狭い道を滑ってきて、私達にぶつかって……」
「ああ、でしたら『人飛ばしの術』でしょう。割と王道の魔術ですね」
「王道なの?!」
ほっとしたように軽く告げる王子に、私はずっこけそうになる。
「転移先を書き記した巨大な長方形の物体を、対象に衝突させることで発動するものです」
「転移先……」
それを聞いて、私はトラックの荷台部分に何かが書かれていたことを思い出す。事故の時は、あまりのことで柄がどうとか考えが及ばなかったけど、そういえば……。
「つ、つくフォン。少し調べたいんだけど」
「≪いいヨ!≫」
インターネットは使えるようだ。お気に入りのサーチエンジン『ガーデン』(ロゴマークに百合が描かれているんですよ、これが……)で、断片的に覚えていた、あのトラックに書かれていた文字を検索する。
「……あった。『愛は光に照らされて真の幸を手に入れる』……タイトル長っ!」
そう、私があの瞬間に見たのは、このタイトルと……煌びやかな二次元イケメン達の絵。
「う、わぁ」
これは、あれだ。
『乙女ゲー世界に転移しちゃいました』系だ……。
いや、そうだ。サクライ王子の立ち振る舞いといい、『光の姫君』という設定といい、まさにって感じじゃないですか。
「……ん?」
画面をスクロールしていると、目に飛び込んできた数字があった。
「発売年度……えっ、十二年前?それに、これ……発売延期?」
どうやら、リリース十周年を記念して、リメイク版が発売される予定だったみたいだ。けれども、発売日の二週間前に無期延期が発表され、ちょっとした騒ぎになったらしい。そればかりではなく、なんと有志によるファンサイトまでもが規制され、閉鎖が相次いだようだった。
「ふぅん、いわくつきのゲームって訳ね……」
「げぇむ?」
急に覗き込んできた王子に、私は心臓が止まりそうになる。
「な、なんでもございません!」
危ない。この世界の人々に『あなた達の生活は、うちの世界では娯楽として売られていましたよ』なんて言えないし、絶対に知られてはいけない。この情報は私だけの秘密にしよう。
「分かってるよね?つくフォン」
「≪……なんとなク≫」
すぐに検索画面から待ち受けへ戻してくれた。が、今の私の待ち受け画像はビキニだ。
現役女子大生グラドルのサアラちゃんの、ぴちぴちムッチリ眩しいビキニだ。
「おぅふ」
どっちに転んでも王子には見せられない感じだが、まあいい。サアラちゃんのEカップを堪能してください。
「と、とにかく!ヒカリちゃんもこちらに転移してることはほぼほぼ確実ですし!なにかこう、占いとか魔術で居場所を当てたりできないんですか?できそうな気がするのですが!」
赤面し、やや視線を上にズラした王子は、しどろもどろに返す。
「そうですね……。対象者の一部……髪の毛や爪の欠片、もしくは贈り物など、その者との繋がりが必要になります。何かお持ちではないですか?」
「贈り物……その人から借りた物でもいいのでしょうか?」
「なるほど。対象者の元へ辿る為の触媒ですので、使える筈です。まさか、お持ちで?」
鞄の中を探る。ペンケースを開き、一本のボールペンを取り出した。
「これです。次に会った時、返そうと思ってたんですが……」
手持ちのボールペンのインクが切れて困っていた時、隣に座っていたヒカリちゃんが貸してくれたものだ。まさか、こんな形で役に立つなんて。
「すごいです、マユリさん!……出発して一日で、ここまで進展があるなんて……。神は、僕たちの国を見捨てないでくださったのですね……。感謝せねば……」
胸に手を当て、芯から嬉しそうに王子は呟いた。良かった良かった。
「じゃあ、早速!その術が使える人を探しましょうよ!」
「ええ、そうですね。とは言っても、今回は尋ね人の難易度が通常より高いと思われますので、町の占い師では厳しいでしょう。探知する範囲も未知数ですし。正確な情報を得るには、やはり魔術のメッカである『ギマルージ』まで行くべきです。すぐに出発しましょう!」
そう言うと、王子は私に手を差し伸べてくる。
「さあ、こちらへ。今から急げば、日没前に隣町の宿屋まで着けるでしょう。我が愛馬『ルナ』に跨ればあっという間ですよ。乗馬の経験はおありですか?」
王子に手を取られ、黒く美しい馬の元へと連れていかれる。
「お、お無しでございます」
いや、小学生の頃に公園でポニーに乗ったことがあったかもしれない。けど、たぶん参考にならないよね。
「僕の背にしっかりと掴まっていれば大丈夫。ルナ!すぐ行けるかい」
ブルル、と嘶いた黒い馬は、こちらを一瞥するとそっぽを向いた。
「僕への忠誠心が強すぎるのか、嫉妬深いようで……特に女性を乗せようとすると、こんな態度を取るのです。ほら、機嫌を直しておくれ」
王子がルナの頭を撫でたり声を掛けてあやしている間、私はさっき読み切れなかった『愛は光に照らされて真の幸を手に入れる』(タイトルが長すぎる。もう『愛光(アイヒカ)』って略そう)の情報を、少しだけ覗き見た。イケメンばかり出てくるゲームなら、私が期待するような百合ん百合ん体験は出来ないかなあ、なんて少しだけ残念に思っていたのだ。こう、ライバルでもなんでもいいから、可愛い子ちゃんが登場したらなあ。
「……ん?おやあ?」
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「ど、どうされました?マユリさん。準備が整いましたので、こちらへどうぞ」
ようやく機嫌を直したらしいルナの隣で、王子が両腕を伸ばしている。もしかして、持ち上げてくれるつもりだろうか。
「なんでもありません。よ、よろしくお願いいたします」
とりあえず近寄れば、予想通りふわりと持ち上げられて、蔵の上に横座りになる。
「いい子だね、ルナ」
優しく褒めてから、王子が軽やかに飛び乗る。いや、今のどうやったんだ?
「さあ、しっかり掴まって。出発!」
いやあ、中学の頃に自転車を二人乗りして怒られた以来だなあ、なんて思い出しながら、私はとりあえず王子の腰に腕を回す。えっ、待って。細い。マジで?
仄かに花のような甘い香りの漂う王子の背中や、綺麗な首筋を眺めつつ、私はドキドキと心臓が高鳴るのを感じる。このエレガントさ、美しさ。
「あの、王子。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
先ほどつくフォンで見た、あの情報について。どうしても今、はっきりとしておきたいのだ。軽やかに駆けてゆく馬の上、流れてゆく森の景色を横目に、私は王子の背中に語り掛けた。
「ええ。何でも。僕にお答えできることでしたら」
そうか。いいんだな。ヨッシャ。大丈夫です、たぶん王子に聞くのが一番良いと思います!
「あの」
「はい」
「お姉さまに、恋人は?」
「……」
「……」
お答えできることでしょお?!
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