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第8話 俺までいじめられたよ

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ガキ大将勝に対抗する存在として祐輝の知名度は1年生の間で有名になっていった。


もうすぐ2年生になる。


それなのに勝と祐輝は仲直りどことか、学年を巻き込む喧嘩へと発展していった。


小学生の喧嘩。


しかし祐輝は真剣だった。




「タイガースで嫌われ者になってもいじめらている人を助ける事は間違っていない。」




祐輝の考えは間違っていないかもしれない。


しかし一輝までタイガースで嫌われ始めた。


練習中でも一輝の声を無視する勝と取り巻き。


一輝が投げたボールを誰も捕らずにいる。




「おーいみんなーボール行ったよー。」
『・・・・・・』




祐輝と一輝は孤立していた。


それでも2人は野球を続けた。


2人を結ぶ大切なスポーツとなっていた。


タイガースで嫌われていても野球を続けたい。


そして気がつけば一輝と祐輝の父親は互いに飲みに行くほど仲を深めていた。





「一輝、今日も夕飯一緒に食べるらしいよ。」
「そっか! 俺はタイガースで嫌われても祐輝だけいてくれればいいよ!」
「俺もだよ。 勝達は学校でぶっ飛ばすから。」





一輝と祐輝の両親は対照的な2人だったが毎日の様に酒を飲んで楽しんでいた。


家に帰ると祐一は祐輝に言った。




「友達を大切にできねえお前にお手本だ。 良く見ておけ。」
「え?」
「俺は昔から人から信頼されていた。 良く見ておけ。」
「おやすみ。」




もうすぐ小学校2年生。


しかし祐輝には安息の場所がなかった。


タイガースでは勝のいじめが激化する。


学校では勝に苦しめられる子供達を守るために戦っている。


家では祐一の狂言に困惑している。


妹の千尋も4歳になり可愛いが遊んでいる暇がない。


祐輝の数少ない安息は祐一が仕事で帰ってこない日に母親の真美と外食に行く事だ。


しかし夜遅くに祐一が帰って来ると狂言が始まる。




「はあ・・・出ていけ。」
「え?」
「お前はもう息子じゃない出ていけ。 仕事してみろ。」
「お、俺まだ小学生だけど・・・」
「関係ねえ。 出ていけ。」




どうしていたら正解なのかわからない。


何がきっかけで祐一の狂言が始まるのかわからなかった。


ただ耐えるしかなかった。


気がつくと年も越して祐輝は2年生になった。




「新学期だね。」
「祐輝今年もよろしくね。」
「うん。」




1年生が入学してきてタイガースにもメンバーが増えた。


先輩になった勝は直ぐにタイガース1年生の取り込みを始めた。


祐輝はその光景を横目に堂々としていた。


そんな時だった。




「どうした?」
「俺までいじめられたよ・・・」
『????』




祐輝と一輝は顔を見合わせる。


目の前で大きな体でシクシク泣いている男の子。


彼の名前は弘人(ひろと)。


勝の取り巻きの1人だ。




「なんでいじめられたの?」
「そんな事知るわけねえよ! いきなりみんな無視して来て・・・」
「祐輝・・・」
「弘人やり返しにいくか? これからは俺達と一緒にいればいいよ。」
「う、うん・・・」




祐輝は仲間を連れて勝と取り巻きのたむろっている理科室の廊下へ行った。


少し離れた場所にある理科室の廊下は人気が少なく、いじめをするには恰好の場所だった。


14人ほどの勝派と10人の祐輝派。


遂にぶつかってしまった。


取り巻きだった弘人を助けるために。


かつて弘人も自分を馬鹿にしてきたのにも関わらず。




「勝!!」
「うわあバイキンだ。」
「バイキンはお前だろ! 自分の友達までいじめるのかよ!」




祐輝は我慢できずに襲いかかった。


勝に飛びかかるとボコボコに殴った。


一輝も弘人も呆気に取られて何もできない。


取り巻き達も怖がって動かない。



「みんな祐輝をやっつけろ!」
「来いよ!!!」




同級生より頭1つ背が高かった祐輝が本気で暴れると同級生では止められなかった。


そして祐輝には致命的な問題がある。


怒ると自分で制御が効かなくなる事だった。


鼻血を出して泣いている勝をまだ殴っている。




「ゆ、祐輝! 死んじゃうよ!」
「死ねばいいんだよこんな奴は!!」
「せ、先生呼んでくる!」



一輝が慌てて先生を呼びに行った。


しばらくして3人もの先生に押さえられてやっと落ち着きを取り戻す。


弘人も勝の取り巻きも言葉が出ない。


一輝だけが祐輝を落ち着かせる事ができた。


そして学校に勝と祐輝の親が呼び出された。
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