青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

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第13話 お前はそれでも親友だ

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祐輝は包囲網を敷かれている。


家では祐一の狂言に苦しみ、タイガースでは勝と取り巻きに苦しんだ。


しかし学校だけでは祐輝の力が活きていた。


祐輝を頼って集まってくる子供達。


人数は増えていくばかり。


そんなある日の事だ。


新宿小学校に転校生が現れた。


タイ人の転校生だ。


肌は黒く、少し悪そうな顔をしている。


名をゲーオという。





「ゲーオだって聞いたか? ゲロみたいだー! はははー!!!」





当然、勝の攻撃対象になった。


しかしゲーオは気にもとめなかった。


転向して数日。


勝と喧嘩をする祐輝を見つけた。


いつもの様に勝は逃げていった。


すると祐輝の元にゲーオは近づいてきた。




「君は転校生の。」
「ゲーオ。」
「そっか。 俺は祐輝。 よろしくな。」
「名前。 笑わないの? ゲロって言わないか?」




祐輝は不思議そうに一輝と顔を合わせていた。


ゲーオは冷たい目でじっと下を見ている。


きっと勝に馬鹿にされたんだと気がついた。




「つまんないよ。 ゲロとか・・・ゲーオだよね。」
「ありがとう。 俺、勝潰す。」
「ゲーオはポケットからカッターナイフを取り出した。」




青ざめる一輝は少し祐輝の後ろに隠れた。


祐輝は慌ててカッターナイフを取り上げた。


ゲーオは不思議そうにしている。


別にカッターナイフで祐輝を攻撃するつもりはなかった。


それなのにどうしてか。




「ゲーオ。 一緒に勝を倒そう。 でも武器はダメだ。 こんなの持ってたらゲーオが悪い事になるよ。 一輝のパパは警察官だよ。」
「そ、そっか・・・俺殴るの弱い・・・カッターナイフあれば勝てる。」
「カッターナイフを使ったら負けだよ。」




ゲーオは痩せ細っていて、更に小柄だった。


小学校3年生とは思えないほど小さかった。


ゲーオの家は貧困を極めていた。


母はタイ人で父はもはや誰だかわからなかった。


生きるために母は水商売の道へ進んだが、その間にできた子供がゲーオ。


ゲーオの心の中にある闇の深さは計り知れない。




「ゲーオ。 俺達がいるから。 友達だよ。 喧嘩するなら一緒に戦うから。 カッターナイフはもう使わないで。」
「う、うん・・・ありがと・・・」




その日はゲーオと別れた。


帰り道に祐輝と一輝は話している。


少し浮かない顔をしながら。




「うーん・・・」
「うーん・・・」
「やっぱり気になるよね・・・」
「そうだね・・・」
『カッターナイフかあ』




ゲーオの凶暴性。


子供の喧嘩の域を越えている。


どんな人生を送ってきたのか。


小学生の祐輝と一輝にはわからなかった。


ただ1つ言える事はゲーオを見捨てるつもりはないという事だ。




「またゲーオが刃物出したら俺は止める。 勝は消えてほしいほどムカつくけど死んでほしいとは思わない。 できれば何処か遠くに転向してほしい。」
「そうだよね・・・殺人事件だよ・・・でも子供だから逮捕されないかも・・・」
「え、そうなの?」
「昔父ちゃんが言ってた・・・」




ゲーオはそれを知ってか知らなくてか。


いずれにしてもカッターナイフなんて持ち歩く物ではない。


そして次の日。


授業の合間の休み時間に祐輝はゲーオの様子を見るために一輝を連れてD組を見に行った。


残念な事にゲーオは勝と同じクラスだった。


案の定、勝はゲーオをいじめていた。




「オロロロロロッ!! ああゲロ吐いちゃった・・・」
『ギャハハハハハッ!!』




祐輝と一輝は様子を見守る。


するとゲーオは持っていた算数の時間に使っていた定規をへし折って勝の喉元に突きつけた。


勝の額を手で抑えて喉元に定規が食い込んでいる。


へし折って尖っている定規はもはや凶器だった。




「ゲーオ!!」
「ゆ、祐輝!?」
「おりゃっ!!」




祐輝はゲーオを殴り飛ばして一輝と共に外へ引っ張り出した。


2人は落ち着かせるとゲーオとゆっくり話した。


休み時間終了のチャイムが鳴ったが3人は教室に戻らなかった。


少年達が不良の第一歩に足を踏み入れた瞬間だった。


しかしそれは大切な友達を守るためでもあった。




「授業サボっちゃったね。」
「いいよ別にどうせ理科は俺嫌いだし。」
「へへへ。 俺は算数が嫌い。 ゲーオは?」
「ぜ、全部。」




ゲーオは楽しげに話す祐輝と一輝を見ていた。


3人はその後しばらくして捜索の先生に見つかり職員室でこっぴどく叱られたが表情は明るく、時より目を合わせて笑っていた。
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