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第21話 1人でやってんじゃねえよ
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祐輝にとって記念すべき初登板は先輩の援護で勝利に終わった。
しかし嬉しさと同時にピッチャーというポジションの責任の重さと点を取られる恐ろしさを学んだ。
試合が終わってベンチに戻ると佐藤コーチが怖い表情で待っていた。
「祐輝。 お疲れえ!」
「ありがとうございます。」
「まずは褒めてやる。 良くやった大したもんだ。」
「いえ。」
佐藤コーチはタバコを吸い始めると真剣な眼差しで見ている。
大きな体の佐藤コーチはかなりの威圧感があった。
祐輝は黙り込むと佐藤コーチの様子を伺っていた。
大きくタバコの煙を吐くと口を開いた。
「1人でやってんじゃねえよ!」
「!?!?」
「いいか。 野球ってのはな。 全員でやるんだよ。 お前1人だけ一生懸命投げてるんじゃねえ。 もっと周りに声かけろ。 先輩だからって関係ないぞ。 しっかり自信持ってやれ。 お前に任せてんだ。 あのマウンドを。」
「はい。 すいません。」
佐藤コーチは笑顔で祐輝の頭をなでると立ち去った。
祐輝はグローブなどをバックにしまって帰る準備を始めていると同じ1年の健太が走ってきた。
健太の目は子供の様に輝いている。
「すげえよ!! 3年生の周りでしっかり投げられるなんて! 相手も3年生なのに!!」
「いや。 佐藤コーチには怒られたよ。 1人でやってんじゃねえってさ。」
「1人?」
「俺もわかんない。 1人でやってたつもりはないんだけどな。 打たれたら先輩が捕ってくれると思ってたし。」
中学1年生には難しい事だ。
周りを見て投球する。
しかも先輩が周りにいる。
祐輝は投げる事で精一杯だった。
健太とグランドから家に帰る道でも考えていた。
「ま、まあ。 佐藤コーチは厳しいからね。」
「うん。 怒られた理由がわからない。 1人かあ。」
「で、でも祐輝がいれば俺達3人しかいないけど強くなれそう。」
「・・・・・・」
たった3人のチームメイト。
2年後には今日一緒に戦ってくれた3年生になる。
今日は本当に心強かった。
いつかあそこまでなれるだろうか。
佐藤コーチの言う「1人でやる」とは何を言っているのか。
家に帰ると祐輝は食事をして部屋に戻っていった。
近頃の家は快適だった。
父親の祐一は新宿の自社ビルの最上階に1人で暮らしている。
祐輝と母の真美と妹の千尋は下の階で暮らしていた。
祐一と顔を合わせる事はなくなっていた。
そんな穏やかな暮らしは祐輝に物事を考える時間を与えた。
「誰かのためか・・・」
中学生活でも友人を作ろうとしなかった祐輝は誰かのために何かを頑張る事を忘れていた。
野球だってそうだ。
本来なら小学校6年間でチームワークを学ぶが、補欠のまま卒業した祐輝はチームワークを知らなかった。
そんな祐輝に与えられたピッチャーという顔役のポジション。
初めて野球も楽しく感じた。
チームワークについて考えたまま祐輝は眠った。
そして次の日学校に向かい、平凡に授業を受けている。
数学も理科もつまらない。
基本的に歴史の教科書を読んでいた。
何かあってもミズキが助けてくれた。
しかし祐輝には歴史以外にもう一つだけ好きな教科があった。
それは国語だった。
歴史にも通ずる所がある国語は祐輝の興味を惹いた。
中でも現代文の科目は非常に成績が良かった。
津田という国語教師は授業後に祐輝に話しかける。
「授業楽しい?」
「うん。」
「そっかあ。 数学や理科はつまらないって聞いたよ?」
「つまらない。」
「うーん。 何がつまらないんだ?」
「将来のためにならない。 足し引き算はできる掛け算割り算も。 それはきっと役に立つけど。 方程式なんて将来使う気がしない。」
津田先生は返す言葉が見つからなかった。
教師としては担当の国語は真面目にやってくれているから問題はないのだが、あまりに取り組み方に差がある事で他の教科の先生から津田先生に相談が来ていた。
しかし祐輝は国語の宿題も授業後に終わらせて津田先生に質問までしてきた。
これ以上他の教科の事で祐輝の機嫌を損ねたくないと思った津田先生は質問に答えると教室を出ていった。
悩める少年は将来を見ている。
10年後の自分は何をしているのか?
14歳の少年は24歳の自分に胸を躍らせていた。
しかし嬉しさと同時にピッチャーというポジションの責任の重さと点を取られる恐ろしさを学んだ。
試合が終わってベンチに戻ると佐藤コーチが怖い表情で待っていた。
「祐輝。 お疲れえ!」
「ありがとうございます。」
「まずは褒めてやる。 良くやった大したもんだ。」
「いえ。」
佐藤コーチはタバコを吸い始めると真剣な眼差しで見ている。
大きな体の佐藤コーチはかなりの威圧感があった。
祐輝は黙り込むと佐藤コーチの様子を伺っていた。
大きくタバコの煙を吐くと口を開いた。
「1人でやってんじゃねえよ!」
「!?!?」
「いいか。 野球ってのはな。 全員でやるんだよ。 お前1人だけ一生懸命投げてるんじゃねえ。 もっと周りに声かけろ。 先輩だからって関係ないぞ。 しっかり自信持ってやれ。 お前に任せてんだ。 あのマウンドを。」
「はい。 すいません。」
佐藤コーチは笑顔で祐輝の頭をなでると立ち去った。
祐輝はグローブなどをバックにしまって帰る準備を始めていると同じ1年の健太が走ってきた。
健太の目は子供の様に輝いている。
「すげえよ!! 3年生の周りでしっかり投げられるなんて! 相手も3年生なのに!!」
「いや。 佐藤コーチには怒られたよ。 1人でやってんじゃねえってさ。」
「1人?」
「俺もわかんない。 1人でやってたつもりはないんだけどな。 打たれたら先輩が捕ってくれると思ってたし。」
中学1年生には難しい事だ。
周りを見て投球する。
しかも先輩が周りにいる。
祐輝は投げる事で精一杯だった。
健太とグランドから家に帰る道でも考えていた。
「ま、まあ。 佐藤コーチは厳しいからね。」
「うん。 怒られた理由がわからない。 1人かあ。」
「で、でも祐輝がいれば俺達3人しかいないけど強くなれそう。」
「・・・・・・」
たった3人のチームメイト。
2年後には今日一緒に戦ってくれた3年生になる。
今日は本当に心強かった。
いつかあそこまでなれるだろうか。
佐藤コーチの言う「1人でやる」とは何を言っているのか。
家に帰ると祐輝は食事をして部屋に戻っていった。
近頃の家は快適だった。
父親の祐一は新宿の自社ビルの最上階に1人で暮らしている。
祐輝と母の真美と妹の千尋は下の階で暮らしていた。
祐一と顔を合わせる事はなくなっていた。
そんな穏やかな暮らしは祐輝に物事を考える時間を与えた。
「誰かのためか・・・」
中学生活でも友人を作ろうとしなかった祐輝は誰かのために何かを頑張る事を忘れていた。
野球だってそうだ。
本来なら小学校6年間でチームワークを学ぶが、補欠のまま卒業した祐輝はチームワークを知らなかった。
そんな祐輝に与えられたピッチャーという顔役のポジション。
初めて野球も楽しく感じた。
チームワークについて考えたまま祐輝は眠った。
そして次の日学校に向かい、平凡に授業を受けている。
数学も理科もつまらない。
基本的に歴史の教科書を読んでいた。
何かあってもミズキが助けてくれた。
しかし祐輝には歴史以外にもう一つだけ好きな教科があった。
それは国語だった。
歴史にも通ずる所がある国語は祐輝の興味を惹いた。
中でも現代文の科目は非常に成績が良かった。
津田という国語教師は授業後に祐輝に話しかける。
「授業楽しい?」
「うん。」
「そっかあ。 数学や理科はつまらないって聞いたよ?」
「つまらない。」
「うーん。 何がつまらないんだ?」
「将来のためにならない。 足し引き算はできる掛け算割り算も。 それはきっと役に立つけど。 方程式なんて将来使う気がしない。」
津田先生は返す言葉が見つからなかった。
教師としては担当の国語は真面目にやってくれているから問題はないのだが、あまりに取り組み方に差がある事で他の教科の先生から津田先生に相談が来ていた。
しかし祐輝は国語の宿題も授業後に終わらせて津田先生に質問までしてきた。
これ以上他の教科の事で祐輝の機嫌を損ねたくないと思った津田先生は質問に答えると教室を出ていった。
悩める少年は将来を見ている。
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