青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

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第66話 祐輝の叫び

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「負けちゃったねー。」
「越田とは引き分けたからオッケー。」


残念そうに唇を尖らせて祐輝を見ているミズキに対して祐輝は涼しい表情で隣に座った。


先輩の試合を応援するためにナインズBチームは観客席で観戦していた。


ナインズAチームの相手は2年生だけで構成されているキングスBだった。


越田のような怪童は特別待遇でAチームにいたがほとんどの2年生はBチームに所属している。


ナインズAチームにとっては格下の相手だった。


佐藤コーチの息子の雄太にとって最後の中学野球だ。


親子で歩む野球人生の最後のプレイボールがコールされ試合は始まった。


雄太は左投げ(サウスポー)で130キロ中盤を投げる豪速球とキレのいいスライダーを武器に三振を量産していった。


そして打線もキングスBチームの2年生ピッチャーから連打を浴びせ初回で3点を獲得した。


祐輝もこの試合はさすがに勝ったとミズキと雑談まで始める始末だった。



「応援しなくていいの?」
「さすがに余裕でしょ。」
「そっかあ。 ねえねえ修学旅行の京都でどこ行く?」
「二条城は確実だな。 それに伏見稲荷だな。」
「えー? 宇治抹茶食べないのー?」



歴史好きの祐輝は京都への修学旅行を楽しみにしていた。


もはやナインズAとキングスBの試合になんて興味もなかった。


試合は5対0で6回まできた。


しかしここに来てエース雄太にも疲れが見え始めてきたのか制球が乱れてファアボールがよく見られるようになってきた。


ベンチから佐藤コーチの「頑張らんかい!」というドスの効いた声が響いている。


二者連続ファアボールで一度タイムを取ってマウンド上に仲間達が集まって話をしている。


ランナーは一、二塁だ。


タイムが終わり雄太はセットポジションから投げるとキングスBのバッターは綺麗に合わせてヒットを打つと満塁になった。


最悪の場合、満塁でホームランを打たれると一気に4点も入ってしまう。


そしてこの満塁という状況はピンチでもありチャンスでもあった。


ホームゲッツーといわれるプレーがあり内野ゴロの打球を即座にホームのキャッチャーに投げると三塁ランナーはアウトになり、キャッチャーが一塁へ送球してバッターランナーもアウトになる。


一気にツーアウトを取る事ができるプレーだ。


ワンナウト満塁という状況でホームゲッツーするかヒットを打たれるかは試合の分岐点とも言える。


ミズキと仲良く話していた祐輝もさすがに試合に集中していた。


雄太はセットポジションから投げるとバッターは突如バントの構えを見せた。


これはスクイズというプレーだ。


満塁という状況でのスクイズはかなり大胆なプレーとされている。


ピッチャーの投球に合わせて塁上の全てのランナーが走りだす。


そしてバッターは例え体に当たってしまう球であってもバントして確実にランナーをホームインさせるプレーだ。


雄太はボールを投げると直ぐにバント処理のために走り込んだがキングスのバッターはしっかりとバットに当てた。


ホームインされてしまう一点は諦めて雄太は一塁へ走るバッターランナーだけでもアウトにしようとファーストへ送球したがこれが試合の流れを変えてしまった。


なんと雄太は暴投してとんでもない方向へ投げてしまった。


歓声と悲鳴に包まれる球場でキングスランナー達は続々とホームへ帰ってくる。


ランナーは全て帰りバッターランナーも二塁に立った。


これで5対3だ。


佐藤コーチは頭を抱えて立ち上がっている。


雄太は愕然としてナインズの空気は冷たく冷え上がっていた。


そんな時だった。



「まだ終わってねえぞ!!!!」




観客席から突如叫んだのは祐輝だった。


その声は強くそして先輩達に勇気を与えた。


祐輝の声に返事をするかのように先輩達は「しゃあっ!」っと叫んで空気を一気に変えた。


まだ一点差で勝っている。


この魔の6回を凌いで攻撃して最終回に繋ぐ。


ナインズAチームの戦いはこれからだ。



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