青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

文字の大きさ
74 / 140

第74話 日本で唯一無二

しおりを挟む
祐輝は越田と連絡先の交換をした。


そして数日後に選考会初日の結果発表がされると祐輝と越田は一次選考を通過していた。


これにはたまらずに祐輝は越田に電話をかけたが「当たり前だ。」と一言言われて電話を切られた。


怪童越田には当たり前でも祐輝には大事件でミズキにまで電話して話す始末だった。


そして週明けの学校でミズキが嬉しそうに賞賛してくると祐輝は「あの越田と一緒に野球できる!」と何とも嬉しそうだった。


学校が終わりいつもの様にランニングをして壁当てをしている祐輝はじっとボールを見つめていた。



「フォークかあ。」



選考会で見た桜木のフォークは今まで見た事のない変化球だった。


越田の指示通り手を出さなかったがそもそもあんな変化球は打てるわけがないと祐輝は考えていた。


ボールを二本指だけで挟んで投げるなんてできるのかと首を傾げていた。



「祐輝君また変化球?」
「えっ!?」
「わかるよー。 3年間も見てきたんだよ? カーブ覚える時と同じ顔でボール見てたから。」



ミズキは祐輝へ惚れ込むあまりに野球のルールまで覚えていた。


そしてプロ野球中継まで見るほど野球を学び、変化球の事も知っていた。


祐輝は選考会で出会った桜木というピッチャーのフォークの話をするとミズキは「怪我するよ。」と心配そうにしていた。


しかし中学1年生の頃に比べて祐輝は足や腕も太くなり、身長も183センチとかなり高かった。



「もう投げられるよ。 最近じゃ身長も伸びなくなったし。 身体は出来上がった。」
「でもまだ細いよー。」
「筋肉はこれからつけていくけど負荷には耐えられるよ。」



成長が止まるまで祐輝は筋トレもせずに走り込みに専念していた。


筋トレをすると身長が伸びないと言われていたので祐輝は絶対にベンチプレスなどは触らない様に気をつけていた。


とにかく食べてたくさん眠って伸ばしたピッチャーとしては申し分ない183センチという高身長。


後はしっかりと筋肉をつければ球速も更に上がり、変化球も多彩に投げ込める。


その一歩としてフォークに着手した。


心配そうに見つめるミズキの目の前で二本指でボールを挟むと壁に向かって投げた。



「うわっ!」
「あらー! ホームランだね!」
「やべえ!」



壁に当たるどころか壁を越えて民家に入ってしまった。


祐輝はミズキと一緒にボールを探しに行くと民家の主が不思議そうにボールを持っていた。


「すいません。」と申し訳なさそうに謝ると主は笑顔で返してくれた。


定番の雷親父でなかった事に祐輝は安堵してもう一度壁に向かってフォークを投げた。



「あー。」
「んー。 落ちた?」
「たぶん落ちてないよね。」



壁には当たったがユラユラと力のないボールだった。


桜木の様に手元ですとんっと落ちるフォークではなかった。


するとジャージ姿で汗だくの越田がこの間と同じ様にリュックを背負って走ってきた。



「お前何キロ走ってんだよ!」
「10キロぐらいじゃん? それよりお前また女といちゃついて! 選抜に入るんだぞ俺達は!」
「なあ越田。」



祐輝はボールをじっと見て「捕ってくれ。」と小さくつぶやいた。


すると越田はどこか嬉しそうにリュックからキャッチャーミットを取り出した。


前回会った時に越田の背負うリュックが気になっていたが、あの日以来祐輝はずっと考えていた。


本当はあの日自分の球を捕りにきてくれたのではないかと。


その答えは今わかった。



「投げろよ祐輝。 俺とお前で日本一の中学生になるんだ。」
「お前は日本で一番のキャッチャーだな。」
「そしてお前は日本で一番のピッチャーだ。」



日本で唯一無二のバッテリーを目指す2人の姿はあまりにも美しかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...