青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

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第87話 夏草や球児どもが夢の跡

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熱い夏だ。


気温は高く暑いがそれ以上に熱いのはこの拍手に包まれる球場だ。


1人の球児にここまでの拍手がされる事があるだろうか。


そこまでナインズというチームは祐輝1人で戦っているチームだった。


祐輝が0点に抑えてホームランも打たなくてはならない。


全て1人でやらなくては勝てないのだ。


不可能だとこの場にいる誰もがわかっているからこそ拍手が鳴り止まない。


危うく祐輝は野球というスポーツの常識を覆す所だった。



『ありがとうございましたっ!!!』



キングスCチームは礼儀上のチームに対する挨拶を済ませるとクールダウンをしている満身創痍の祐輝の前に来て大声で挨拶をした。


すると強面のキングスCチームの監督が前に出てくると「こいつらに何か言ってやってください。」と中学生の祐輝に大人が頭を下げていた。


驚き、言葉を失ったがキングスの1年生を見ていると込み上げてくるものがあった。


「じゃあ」と立ち上がって少年達の前に立つと口を開いた。




「仲間に恵まれている事に感謝して、野球ができる事に感謝してほしい。 そして野球は最後の瞬間まで何が起きるかわからない。 だから絶対に気を抜かないで。 そして何より。 怪我には気をつけて頑張ってね。」




祐輝は監督に一礼すると足早に球場を後にした。


もう我慢できなかった。


祐輝はグラウンドの外に出るとトイレの中で悲鳴にすら聞こえる号哭を上げて泣いていた。




「全部終わったあああ!!!! 何もかも!!!!」




しばらく泣き続けた祐輝は落ち着きを取り戻してトイレから出てくると越田が立っていた。


しかし祐輝は下を向いて通り過ぎようとしていた。


すると腕を掴んで物凄い眼力で見つめている越田の瞳にも涙が溢れそうだった。




「後は任せろっ!!!」
「頼んだよ越田。 これやるよ。」




祐輝が渡したのは3年間大切に愛用したピッチャー用のグローブだ。


真美がパートで買ってくれた祐輝の宝物だったが迷わずに越田に渡した。


それは侍が自分の刀を誰かに渡すかの様に命を渡したかの様だった。




「もう俺には必要ない。」
「俺はキャッチャーだけどな。 試合で使うかはともかく。 これは貰っておくよ。 いつもお前と戦っていると思えると悪くないな。」
「高校でも頑張れよ。」
「元気でな祐輝。」





その後のキングスAチームの試合ではなんと越田は3打席連続ホームランという驚異的な試合を魅せた。


相手は確かに格下だったがいくらなんでも全打席ホームランは常軌を逸している。


ベンチに戻るたびに祐輝のグローブにハイタッチをしていた。


しかし祐輝は既に家に帰っていた。


いよいよ真剣に考え始めたのだ。


高校に進学して野球部に入るのかどうか。


マネージャー的な存在でしかいられないがやるべきなのか。


熱い夏は終わり、いよいよ中学生活も終わりを迎えようとしていた。


夏休みのお祭りには行かなかった。


行っても同級生は受験勉強をしているはずで誰もいないからだ。


しかしこの時ミズキは浴衣を着て家の下にまで来ていたがインターホンを鳴らす勇気が出ずに友人とお祭りを楽しんだ。
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