青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

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第89話 稲荷の声

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声を震わせるミズキを凍った様な表情で見つめる祐輝。



「嘘じゃねえ。 愛しているし、幸せになってほしいと思っている。 だが俺からは離れろ。 お前のためだ。」
「そんな理由じゃわからないよ・・・」
「俺もわからねえ。 ただお前が死ぬ気がしてならない。」



もはや何を言っているのか理解できなかった。


気がつけば中学3年生の雰囲気はまるでなく、何千年も生きた化け物の様な落ち着いた気配すら放っていた。


ただの女の1人。


救ってやったんだ。


お前はただの人間。


まるでそう言っているかの様な表情だった。




「本当に私の事好き?」
「ああ。 愛している。」
「わかった・・・また・・・」




「また寄り戻したくなったら言ってね。」そう、言いたかったが止めた。


言っても無駄だと思った。


それほどまでに異様な気配を放っていた。


祐輝はうなずくと足早に1人で歩いていってしまった。




「祐輝君・・・さようなら・・・う、うう・・・」




ずっと楽しみにしていた修学旅行はミズキにとって忘れられない悲しい思い出になってしまった。


まるで別人にフラれた様な気分だった。


いつもの優しい祐輝はどこへ行ってしまったのか。


肩を怪我した事で人が変わってしまったのかとミズキは悲しそうにバッグの中にある「痛みを和らげるテーピングの巻き方」と書いてある本を捨てると友人の元へと歩いていった。


悲しみにくれるミズキを背に祐輝が向かった先には伏見稲荷と書かれる大きな神社に来ていた。


赤く、大きな鳥居を見上げる祐輝は何も言わずに神社に入っていくと本殿に手も合わせずに左手にある山へ登っていった。


まるで自分の家かの様に平然と山へと登っていくと祐輝の耳に何やら怒号や剣戟の様な音が微かに聞こえてきた。


眉間にシワを寄せて歩いていると次第に音は大きくなっていった。


やがて頂上に着く頃には、はっきりと聞こえていた。


怒号の中で風を切る様な刃物が回転しているかの様な音や鉄と鉄が激しくぶつかる様な音がヘッドホンでもしているかの様に聞こえていた。




「俺が俺じゃなくなっている気がする・・・どうしてミズキと別れた・・・」




気がつくと昼を過ぎて太陽が沈みかけていた。


一体何時間いたのか自分でもわからなかった。


我に返ったかの様に祐輝は山を降りて集合場所へ向かった。


そして何事もなかったかの様に平然としているがやはり自分の中で何かが目を覚ましかけている感覚が消えなかった。


次の日も単独で行動した。


不思議なぐらい単独を好んでいた。


京都の名物である寺へ足を運んでじっと見ていると次の寺へ足を運んだ。


写真を撮るわけでもなく、何かを食べるわけでもなく動き続けては眺めているだけだった。


明らかに常軌を逸していると自覚しながらも体が操られているかの様に動いてしまった。


気がつけば修学旅行は終わってしまった。


帰りの新幹線で京都を離れると祐輝は自分の体が戻ってきた様な感覚を覚えた。


すると席を立つとミズキの元へ転がり込むかの様な勢いで走った。




「ミズキ!?」
「ゆ、祐輝君!? あ、祐輝君だね。」
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