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シーズン2 犠牲の果ての天上界

シーズン2最終話 虎白へ託していく未来

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どうして愛していた三姉妹の絆は壊れてしまったのだろうか。


鎖鎌とかぎ爪を振るう二人の姉妹は愛おしい末の妹に背中を向けて別れを告げると激昂している魔王サタンに挑んだ。


突然の裏切りに騒然となった冥府軍だが、サタン配下の魔族の一声から硬直する醜き者達は血眼となった。



「この姉妹を殺した者は三階級特進と褒美を与えるぞ!!!!」



困窮している最底辺の生活をしている冥府兵はその言葉を聞くと、希望すらない暗い生活にほんの少しでも光りを当てるために魔那と魔李へ殺到した。


だが対するは十二使徒でも最強の呼び声高い姉妹だ。


殺到する冥府兵を埃でも飛ばすかの如き速さで蹴散らすと、目指す先はただ一つだった。


狙うのは魔王の首のみ。


手首を斬り落とされて怒り狂うサタンは地面に落ちている自身の肉片を拾うと傷口に当てた。


すると僅か数秒で手首は修復し、姉妹へ襲いかかった。



「姉様!!」
「魔李、まだ死ぬわけにはいかないわよ。 妹達は逃げ切れていないのよ。」
『第六感っ!!!!』



またしてもその言葉を叫ぶとサタンの黒き体毛に彼女らの武器が届いたのだ。


なまくら刀では触れる事すらできなかった悍ましき魔王の体に武器を当てた孤独な姉妹だったが、サタンはその程度では眉一つ歪める事はなかった。


肉体に届いている刃だが、サタンからは血液の一滴すら溢れる事なく強力な波動が彼女らを襲った。


吹き飛んだ二人は倒れ込むと、白い血液を口から大量に吐き出して蒼白とせた顔を激しく歪ませている。



「ね、姉様・・・」
「内蔵が・・・」



緩やかにその場に倒れる姉妹に殺到するのは冥府兵だ。


サタンは彼女らの最期を見もせずに虎白達の追撃のために冥府の門を越えようとしている。


だがその時だ。



『ああああああ!!!!!!』



二人の叫び声が同時に響くと、サタンの眼前に傷だらけの姉妹が姿を現すと瞬きほどの速さで斬りかかった。


だが刃は邪悪な肉体を貫く事はできず、首を掴まれた悲しき姉妹は宙吊りになっている。


怒れる魔王の表情は狂気に満ちている。


瞳孔が裂けるほど開いている狂気の魔王は姉妹の首を掴んだまま、枝をへし折るが如く容易く鈍い音を鳴らしては地面に投げ捨てた。


完全に動かなくなっている姉妹の首は餌を与えられた猛獣の様に奪い合う冥府兵の群れの中に消えていった。


魔王サタンは配下の魔族を引き連れて虎白の追撃をするために冥府の門を越えたのだった。


一方で神族特有の治癒力で回復している虎白は自力で歩き始めていた。


彼らの視線の先には疲労困憊といった虚ろな表情で歩いている解放された女達と僅かに生き残った天上軍の兵士達が希望に向かって前進している。



「死にかけていたが魔呂の姉貴達が助けてくれたのは見えていた・・・」



そう小さく声を発した虎白が目を横に向けると、青ざめた表情で下を向いている魔呂が白い手で布に包まれた何かを持っていた。


小刻みに震えている悲しき末の妹は虎白の美顔を凝視しながら「怖い」と言葉を出した。


頭に手を置いた虎白は顔を近づけると「帰ってから一緒に開けような」と諭す様に話すと、突如として立ち止まった。


一同が虎白の異変に気がつくと彼の視線は冥府の方角を見ているではないか。



「この異様なほどの寒気は中間地点の天候が理由じゃねえ・・・」



一言だけつぶやくと次の瞬間には眼前にいる女達の美尻を叩くかの喧騒を上げながら走らせたのだ。


何事かと困惑する生存者達は叫ばれるがまま、足を早めた。


まだ天上界に到着するまでは何時間もかかり、一時間ごとに変わる天候も今は大敵というわけだ。


するとその危惧が的中したかの様に豪雨となった中間地点は疲労困憊の生存者達の神通力をさらに奪っていくのだ。


だが変わらず凄まじい剣幕で怒鳴っている虎白はしきりに背後を見ている。



「ダメだ・・・間に合わねえ・・・生存者の足が遅くて冥府軍に追いつかれる・・・」



そう話すと虎白はその場に立ち止まって冥府の方角を見ている。


すると莉久が隣に立つと「竹子と優子は先頭にいますので」と虎白の安否を知らない竹子は愛する者が冥府で壮絶な最期を遂げたと思っていると話した。


犠牲の果てに中間地点まで脱出する事ができたが、どうやらここまでだと覚悟を決めた様子の虎白は古くからの家臣である莉久と今少し時間を稼ぐために冥府軍を引き付ける事にしたのだ。



「とは言え敵の姿を確認するまでは俺らも徐々に下がっていこうぜ。」
「かしこまりました虎白様。 できる事なら帰りたいですな・・・」



ここまで来た目的である鈴姫の救出は達成できた虎白は悲しげでもありながらどこか満足げでもある。


腕を組んで遠くを見ていると、豪雨の視界の悪さから薄っすらと姿を現した群れが虎白の厳つい瞳に写った。


覚悟を決めた様子でなまくら刀を手にしている主と名刀を甲高い音を響かせて鞘から抜いた家臣は迫る魔の手を待ち構えた。


だがここに来て天候が味方したのだった。



「おい莉久。 あいつら俺らにまだ気がついてねえぞ。 それに雪が降ってきた。」



雪が降り始めた中間地点は視界を更に悪化させたのだ。


それを好機と見た虎白は莉久と共に天上門へ向かって走り始めた。


落ち着く暇すらなく走り続ける事さらに一時間が経過すると天候は真夏日の様な晴天となった。


ふと前方を見ると巨大な聖なる門が見え始めたのだ。



「後少しだ・・・たぶん先頭は辿り着いた頃だな・・・」



なんとか無事に天上門へ辿り着いた。


そう安堵の表情を浮かべた刹那の事だ。


背筋が凍るほどの怒鳴り声が聞こえると瞬間的に振り返った虎白は表情が一変して愕然となった。


漆黒の羽をばさばさと動かして飛来するのは魔王サタンと悍ましき配下達ではないか。



「なんだよ・・・しつこいんだよ・・・」
「何度も希望を持たせては奈落へと蹴落としますな・・・運命とは残酷ですな・・・」



そう言葉を発すると飛来する邪悪なる王の配下が真っ先に飛びかかってきた。


なまくら刀で鋭い爪を防ぐとめきめきと今にも壊れそうな音を響かせている。


すかさず莉久が斬り捨てたが、次々に迫る魔族は虎白が今にも砕け散りそうな刀である事をいいことに殺到した。



「多すぎるぞ莉久!!」
「虎白様第六感をお忘れか!? 心を落ち着かせて刀と己が魂を一つにするのです。 その刀は虎白様の心一つでまだ斬れますぞ!!」



たびたび傑物達が口にしている第六感という言葉を聞かされた虎白もまた、かつてはその力を宿して戦っていたのだと古き家臣は言った。


殺到する悍ましい者達に臆する事なく気持ちを落ち着かせた虎白は「第六感」と言葉を放つと、どうした事か魔族の動きが鈍くなり音が消えたかの様に静まり返ったではないか。


虎白がなまくら刀を魔族の首に振り抜くと、先程までの壊れかけの状態とは打って変わり凄まじいほど見事に首を跳ねたのだ。



「思い出しましたか?」
「あ、ああたぶんな・・・まだ上手く使えねえが・・・」



そう話したが、迫りくる魔族を前に限界を迎えた二柱は自身らの外見を狐に戻すと俊足を活かして天上門へ走った。


魔族からみるみると距離を開くと光り輝く聖なる門へ飛び込もうとしたその時だ。


二柱の体は触れられてもいないはずだが吹き飛ぶとその場で倒れ込んだ。



「逃さねえぞ鞍馬ああああ!!!! 二十四年も何処へ行っていたんだ!?」



絶叫するのはサタンである。


ふらふらと立ち上がった虎白と莉久だが、天上門まではもはや僅かな距離なのだ。


激昂する魔王を無視して天上門へ再び駆けるがやはり吹き飛ばされた。



「もうダメだ・・・」
「お、お仕えできて光栄でした虎白様・・・最後に申し上げますが・・・ぼ、僕は実は・・・」



莉久が何かを打ち明けようとしたその時だった。


彼らの背後から聞こえてくるのは不快な異音だ。


ばりばりと音を立てる異音が近づいてくると、虎白の直ぐ後ろで音を消した。


すると二柱の体が浮き上がり、天上門へと投げ飛ばされたではないか。



「本当にありがとう虎白。 妻と未来を託したからな。 君達は死ぬべきじゃないんだ・・・」



空中に浮き上がった虎白が見た光景は気高き虫の王が邪悪なる魔王に体を貫かれている姿であった。


天上界に転げ落ちた虎白は慌てて起き上がると蛾苦の名を叫んで中間地点へ戻ろうとしたが、体を掴まれてその場に取り押さえられた。


ふと顔を上げると、ミカエル兵団が弓を構えているではないか。



「鞍馬!! 天上法違反で逮捕する!!」



ジャンヌ・ダルクがそう言い放つと配下のミカエル兵団一番隊の天使達が中間地点へ光る矢を放ち続けた。


しばらくすると静寂が中間地点を包み込んだ。


偉大なる虫の王は己が命と引き換えに愛する妻と天上界の未来を託したのだった。


虎白は逮捕されたが、表情は蛾苦が死んだ事を受け入れられないという絶望に満ちた顔をしている。


この惨劇を鈴姫は知っているのだろうか。


だがこうして虎白は天上界に生還する事となったが、魔呂を連れ帰った事や無断で冥府へ行った事など複数の罪から裁きを受けるか議論される事になるのだった。




        シーズン2完
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