天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

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シーズン3 ツンドラ帝国遠征編

第3−2話 変人の発想は予測不能

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 虎白と莉久。この二柱の神族が、抱える大きな謎を今は、誰一人として解明することはできない。今の虎白にできることは、かつて自分自身の口で言っていた、戦争のない天上界を創り上げることである。
 そしてここに集まった虎白と嬴政、北のスタシア王国のアルデン王。彼らは暴政で民を苦しめるツンドラ帝国を打倒さんとしている。
 野営を設営した一同は、机を囲んで地図を見ながら話しを始めた。

「スタシア王国軍は、三万程度です」
「そして俺の秦国は八十万で、虎白の白陸軍は百人程度か」
「ツンドラの戦力は、属国も含めれば五百万にも及ぶかと......」

 嬴政とアルデンは、暗い表情をして地図を見ている。しかし虎白だけは、表情を変えることなく、地図の一点を凝視しているではないか。
 何を固まっているんだと、嬴政が肘で何度か小突くと、瞳孔が開いている凄まじい瞳を向けた。

「五百万もの戦力が一つの場所に集まるわけがねえ。 それに属国なんて仕方なくツンドラに従っているんじゃねえのか?」
「ま、まあ鞍馬殿の言う通りだとは思います。 ツンドラに歯向かえば、滅ぼされることは明白ですから」

 総力戦で勝てる見込みなんてものは、最初からなかった。虎白は、白い指先でトントンと地図を突きながら、二人の顔を見た。
 やがて一定の間隔で音を立てていた指が止まった。指がさしている場所には、小さな国がある。

「属国の国主と話してみるか。 説得次第では、こちらの味方になるかもしれねえな」
「危険すぎる! 本当にツンドラを嫌っているかわからないのだ」
「だったら嫌いにさせればいい。 明日になったら、俺は竹子達を連れて行くよ」

 虎白は、話しを終えると椅子から立ち上がった。そして属国へ向かうことを竹子達に話している。
 方や地図を見たまま、呆然としている嬴政とアルデンは、置かれていた茶を一口飲むとため息をついた。

「いつもあのような感じなのですか?」
「それは勝手に作戦を立てることか? それとも、相手を小馬鹿にした態度か?」

 そうさいつものことだ。嬴政はそう思った。虎白というやつは、自分の中で何かを考えて相談なしに行動することがある。だが、結果はいつも上々の仕上がりとなる。
 長年変わらなかった虎白の自分勝手にも思える行動は、不思議なまでに誰かが得する形となる。しかしこの破天荒なまでの奇行に、困惑するのも無理はない。
 アルデンからの問いを聞いた嬴政は、きっと共に行動することを拒むだろうと考えた。見るからに、規律正しい騎士の王であるアルデンだからこそ。

「確かに。 身勝手で、相手を馬鹿にしているように見えますね」
「そうだろう? だがあいつはきっと何か考えているぞ」
「ええ、そこなんです嬴政殿。 私は鞍馬殿の鋭い瞳の奥にある、とてつもない凄みを感じます。 果たして、彼が行き着く先に何があるのか見てみたいのです」

 アルデンは、目を輝かせている。まるで憧れの英雄を見た子供のように澄んだ目をしているではないか。
 嬴政は思った。こいつも俺と同じ変人だったか。普通の人間なら、虎白の行動なんてついていけるはずもない。だが俺とて、あいつの底知れぬ可能性に期待してしまう変人だ。このアルデン王、気に入った。
 目を輝かせるアルデンを見て、小さく笑い、茶を勢い良く飲み干した。

「ただ一つ言っておくことがある」
「なんですか?」
「あいつと組むなら、何よりも大事にしなくてはならないことがある」
「それは?」
「臨機応変さだ。 あいつは敵を出し抜く天才とも言えるが、同時に味方すらも激しく困惑させる。 指揮官である俺やお前に、あの竹子とかいう小娘には、虎白の奇行に対応する柔軟さが必要なんだ」

 なんて面倒な男だ。普通ならそう考えるはずだ。しかしアルデンは、胸の奥で炎のように燃え上がる高揚感を感じていた。
 同時に強く思っていた。鞍馬殿なら、本当に戦争のない天上界を創り上げてしまうのではないかと。

「はあ......はあ......」
「高揚するか? まあ見ているんだな。 あいつがこれから、しでかす大事件をな」

 嬴政は羽織っているマントを激しくなびかせた。そして颯爽と出ていった。
 一人残ったアルデンは、高まる心拍数を落ち着かせると、再び地図を見た。虎白が指さした小さい国を見つめている。

「雪豹の国......女王の治める小国だが、強力な兵士を持っている。 さあ鞍馬殿......祖父の遺言通りのお方か見させていただく」

 そして小さく笑みを浮かべた。
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