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シーズン
第8ー13話 感謝の気持ちは行動で
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月明かりが美しく英傑達を照らす中で、行われた前夜祭とも言える盛大な宴もたけなわとなり皆は明日の総攻撃に向けて休んだ。
見張りの歩哨が睡魔と戦いながら、ルーシー軍の夜襲を警戒している。
皆が寝静まった中で虎白だけは、地図を睨みつけながら酒を飲み直していた。
ユーリとゾフィアに触れた途端に知る事となった第八感のさらなる力に困惑しながらも、地図に置かれる全軍の配置を再度確認している。
「ルーシー共も俺達の接近に気がついて、この辺りで戦闘になるだろうなあ・・・」
白くて細い指先を何度も地図の一点に当てている。
そこは広大な平原でありながらも、川や森がある地形だ。
奇襲や伏兵などといった様々な戦術を駆使する事ができる。
しかし虎白が、考えているのは連合軍という複数の軍隊からなる今回の戦争で足並みを揃える難しさだ。
戦術を好まないスタシアや、正面から激突する事を好むマケドニア。
柔軟に動く事ができるとするなら、白陸と秦国だ。
「やっぱりここは、嬴政と上手いこと奇襲するか。 中央戦線には俺の兵士と竹子の軍団でも配置して戦おうかな」
複数の軍隊で足並みを揃える難しさに頭を抱えながらも、作戦を立てていく中でふとルーシー軍が接近すると予想される方角を地図上で見た。
決戦が予想される平原へルーシーが出てくるには、狭い谷間を進むか山岳を乗り越えてくる他なかった。
方や既に連合軍は平原と目と鼻の先に布陣している。
お猪口ちょこに酒を注ぎ直すと、豪快に飲み干してから微かに口角を上げた。
「挟み撃ちにできるかもしれねえな。 谷間で迎え撃つのもいいが、ルーシーの戦士は強いからな・・・こちらの損害も大きいか」
ユーリとゾフィア、エリアナという傑物が抜けたとはいえ、ルーシー軍の強さは健在。
こうしている今でもスタシアと国境線を巡る小競り合いで、大勢の犠牲者が出ている。
いかなる状況になっても諦めないルーシーの気高き戦闘民族を相手にするには、用意周到な戦術が必要というわけだ。
決戦の平原に気高き戦闘民族らを誘い出すためには、彼らが険しい道を進軍している時に襲いかかるのが良策だと考えた。
「夜叉子の軍団を山に入れて、奇襲させるか。 慌てた敵が平原に出てきた所を、連合軍で撃退すれば犠牲を減らせるかな」
戦術は定まった。
明朝、仲間達に作戦を説明すれば全ての準備は整う。
しかしティーノム帝国とルーシー大公国が、この状況でも余裕を見せていられるのには理由があった。
全ての元凶とも言える半獣族の売買である。
仮に明日の朝に戦争を再開しても、人質になっている半獣族達が事故に偽装されて殺されていくのは明白。
大きなため息をついて、お猪口の酒を飲み干した虎白が椅子に深く腰掛けた時だ。
「じゃあ先に行くよ?」
「ああ、目標の制圧と脱出だ。 難しい任務だが、やってくれるか?」
「任せて。 多少手荒な真似はするけど、いいよね?」
という問いに静かにうなずいた虎白は、黒い軍服に身を包んでいる女を見た。
片目を隠している女は夜間というのに、今から出撃しようとしていた。
すると虎白は女に近づくと、肩に手を置いた。
そしてゆっくりと顔を近づけ、語りかけた。
「もういい加減俺に右目を見せてくれエヴァ」
「見ても得しないよ」
「相棒のジェイクには見せてるんだろ? まだ俺を信用できないか?」
虎白は夜間に特殊部隊であるエヴァと、その仲間をルーシーへと送り込むつもりだった。
敵の懐へ飛び込むという非常に危険で困難な任務を任せたのは、エヴァという女の力を信じているからだ。
しかしエヴァは、虎白に心を開ききれていない様だ。
誰にも知られたくない左右非対称の色を持つ瞳を金髪で隠している。
顔をそむけているエヴァの頭を優しくなでると、丁寧に一礼してみせたのだ。
「お前が心を開いてくれるまで待つことにするよ。 ただ、どうか気をつけて行ってきてくれ・・・危険な任務を任せて悪いが、お前を大切に思っているぞ」
小さくうなずいたエヴァは、その場を後にした。
外で待っていた相棒のジェイクとホーマーが心配そうに近づいてくると、気が抜けたかの様に大きなため息をついた。
巨体がたくましいジェイクも細身で筋肉質なホーマーもエヴァと同じ様に、黒い軍服に身を包んでいる。
手には天才技術者であるサラが開発した最新鋭の銃を持っていた。
「大丈夫かエブ。 フォックスに体触られたりしてねえか?」
「大丈夫よ。 むしろ、触ってくれてよかったけどね・・・気を使いすぎなのよねー」
「お前の傷をえぐらねえ様に気をつけてんだろうぜ」
「そうね。 ほんっと・・・どうしたらあんなに優しくなれるのな」
エヴァは十分に虎白に感謝しているつもりだった。
荒くれ者でどこの国からも、迎え入れてもらえなかったエヴァ達を快く歓迎してくれた。
それだけではなく、右目の秘密を察していながらも深く詮索もせずに長い時間見守ってくれていた。
しかしどうしてもエヴァには怖かったのだ。
「でもあんな優しい虎白が、私の目を見て少しでも表情が変わったりするのが怖い・・・」
「いいんだエブ。 お前が怖いなら無理する事はねえよ」
「ありがとうジェイ・・・さあ行こうか。 私なりの感謝の気持ちを表すね」
感謝の気持ちは、態度や言葉で表すのはとても怖い。
そこから右目についてしつこく聞かれるのが、どうしても嫌なのだ。
だから感謝の気持ちは、虎白が頭を抱える自身の過去の失態を帳消しにする事だ。
足かせになっている半獣族の人質を解放する事によって。
見張りの歩哨が睡魔と戦いながら、ルーシー軍の夜襲を警戒している。
皆が寝静まった中で虎白だけは、地図を睨みつけながら酒を飲み直していた。
ユーリとゾフィアに触れた途端に知る事となった第八感のさらなる力に困惑しながらも、地図に置かれる全軍の配置を再度確認している。
「ルーシー共も俺達の接近に気がついて、この辺りで戦闘になるだろうなあ・・・」
白くて細い指先を何度も地図の一点に当てている。
そこは広大な平原でありながらも、川や森がある地形だ。
奇襲や伏兵などといった様々な戦術を駆使する事ができる。
しかし虎白が、考えているのは連合軍という複数の軍隊からなる今回の戦争で足並みを揃える難しさだ。
戦術を好まないスタシアや、正面から激突する事を好むマケドニア。
柔軟に動く事ができるとするなら、白陸と秦国だ。
「やっぱりここは、嬴政と上手いこと奇襲するか。 中央戦線には俺の兵士と竹子の軍団でも配置して戦おうかな」
複数の軍隊で足並みを揃える難しさに頭を抱えながらも、作戦を立てていく中でふとルーシー軍が接近すると予想される方角を地図上で見た。
決戦が予想される平原へルーシーが出てくるには、狭い谷間を進むか山岳を乗り越えてくる他なかった。
方や既に連合軍は平原と目と鼻の先に布陣している。
お猪口ちょこに酒を注ぎ直すと、豪快に飲み干してから微かに口角を上げた。
「挟み撃ちにできるかもしれねえな。 谷間で迎え撃つのもいいが、ルーシーの戦士は強いからな・・・こちらの損害も大きいか」
ユーリとゾフィア、エリアナという傑物が抜けたとはいえ、ルーシー軍の強さは健在。
こうしている今でもスタシアと国境線を巡る小競り合いで、大勢の犠牲者が出ている。
いかなる状況になっても諦めないルーシーの気高き戦闘民族を相手にするには、用意周到な戦術が必要というわけだ。
決戦の平原に気高き戦闘民族らを誘い出すためには、彼らが険しい道を進軍している時に襲いかかるのが良策だと考えた。
「夜叉子の軍団を山に入れて、奇襲させるか。 慌てた敵が平原に出てきた所を、連合軍で撃退すれば犠牲を減らせるかな」
戦術は定まった。
明朝、仲間達に作戦を説明すれば全ての準備は整う。
しかしティーノム帝国とルーシー大公国が、この状況でも余裕を見せていられるのには理由があった。
全ての元凶とも言える半獣族の売買である。
仮に明日の朝に戦争を再開しても、人質になっている半獣族達が事故に偽装されて殺されていくのは明白。
大きなため息をついて、お猪口の酒を飲み干した虎白が椅子に深く腰掛けた時だ。
「じゃあ先に行くよ?」
「ああ、目標の制圧と脱出だ。 難しい任務だが、やってくれるか?」
「任せて。 多少手荒な真似はするけど、いいよね?」
という問いに静かにうなずいた虎白は、黒い軍服に身を包んでいる女を見た。
片目を隠している女は夜間というのに、今から出撃しようとしていた。
すると虎白は女に近づくと、肩に手を置いた。
そしてゆっくりと顔を近づけ、語りかけた。
「もういい加減俺に右目を見せてくれエヴァ」
「見ても得しないよ」
「相棒のジェイクには見せてるんだろ? まだ俺を信用できないか?」
虎白は夜間に特殊部隊であるエヴァと、その仲間をルーシーへと送り込むつもりだった。
敵の懐へ飛び込むという非常に危険で困難な任務を任せたのは、エヴァという女の力を信じているからだ。
しかしエヴァは、虎白に心を開ききれていない様だ。
誰にも知られたくない左右非対称の色を持つ瞳を金髪で隠している。
顔をそむけているエヴァの頭を優しくなでると、丁寧に一礼してみせたのだ。
「お前が心を開いてくれるまで待つことにするよ。 ただ、どうか気をつけて行ってきてくれ・・・危険な任務を任せて悪いが、お前を大切に思っているぞ」
小さくうなずいたエヴァは、その場を後にした。
外で待っていた相棒のジェイクとホーマーが心配そうに近づいてくると、気が抜けたかの様に大きなため息をついた。
巨体がたくましいジェイクも細身で筋肉質なホーマーもエヴァと同じ様に、黒い軍服に身を包んでいる。
手には天才技術者であるサラが開発した最新鋭の銃を持っていた。
「大丈夫かエブ。 フォックスに体触られたりしてねえか?」
「大丈夫よ。 むしろ、触ってくれてよかったけどね・・・気を使いすぎなのよねー」
「お前の傷をえぐらねえ様に気をつけてんだろうぜ」
「そうね。 ほんっと・・・どうしたらあんなに優しくなれるのな」
エヴァは十分に虎白に感謝しているつもりだった。
荒くれ者でどこの国からも、迎え入れてもらえなかったエヴァ達を快く歓迎してくれた。
それだけではなく、右目の秘密を察していながらも深く詮索もせずに長い時間見守ってくれていた。
しかしどうしてもエヴァには怖かったのだ。
「でもあんな優しい虎白が、私の目を見て少しでも表情が変わったりするのが怖い・・・」
「いいんだエブ。 お前が怖いなら無理する事はねえよ」
「ありがとうジェイ・・・さあ行こうか。 私なりの感謝の気持ちを表すね」
感謝の気持ちは、態度や言葉で表すのはとても怖い。
そこから右目についてしつこく聞かれるのが、どうしても嫌なのだ。
だから感謝の気持ちは、虎白が頭を抱える自身の過去の失態を帳消しにする事だ。
足かせになっている半獣族の人質を解放する事によって。
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