天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

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第8−14話 闇夜の馬鹿か天才か

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 三日月の月明かりだけが、漆黒の世界を照らしている。


道を歩む者達が、決して道に迷わない様に。


 歩んできた道を間違えれば、路頭に迷うのは明白。


 ましてや自身が信じてきた道が、遥か昔に間違いだったと気がついた時は帰り道すらもわからなくなる。


 そうならない様に月の女神アルテミスと太陽の神アポロンが、人々の行く手を照らすのだ。


 時には天王ゼウスによる雷鳴や嵐という試練も、人間が険しい道を歩む事の大切さを教えるため。


 苦境に耐えた人間達に、光を与えるのがゼウスの子供の仕事というわけだ。


 しかしそんな慈悲深い光を避けて進む一団が、今まさにルーシー大公国へと入ろうとしている。


 闇夜に混ざる様な漆黒の装備に身を包む、三十人ほどの部隊は月の女神による道案内を拒んでいるのだ。


 彼ら彼女らが道標みちしるべにしているのは、狐の神族からの光。


 戦争のない天上界という目標達成に与えられた道筋をただ、ひたすらに歩んでいる。


 白陸帝国の諜報機関の長官にして、特殊部隊の指揮官であるエヴァとその仲間達だ。


 彼女らは白陸軍にも認知されていない部隊で、戦場で味方に会っても頼る事のできない秘密の部隊。


 闇夜に紛れてルーシー領へ入ったエヴァ達の任務は単純だが、困難を極める任務だ。


「半獣族の救出とルーシー領からの脱出・・・一体どれだけの人質がいるか未知数ね・・・」



 敵の懐へ忍び込み、敵が何よりも包み隠したい実態へ突入する。


危険極まりない任務だが、エヴァの中に迷いはなかった。


 長年路頭に迷ってきた。


 行く宛もなく、自堕落な生活をしながら自身らの卓越した戦闘能力を評価してくれる存在を探し続けていた。


 仕官先が見つかりかけても、ジェイクやホーマー以下三十名ほどの荒くれ者達を危険視して話はなくなる。


 エヴァ自身も仕官なんて既に不可能な事だと諦めて、建国間もない国の祭りへ観光がてら訪れた。


 そこでもジェイクやホーマーらは、その国の皇帝と殴り合うという大立周りをしでかした。


 しかしかの国の皇帝は、今までの君主とは違ったのだ。


「あんな失礼な事したのに、迎え入れてくれてさ。 今じゃ頼りにしているなんて言ってくれるんだもんね」


 エヴァは痛感していた。


好き勝手に誰にも縛られる事なく生きていくというのが、理想の生き方だと思っていた。


 しかしそれは心から必要とされた事のない者らが考える言い訳にすぎなかったのだと。


 自由気ままなんて言葉は、所詮は孤独を隠すための言い訳だった。


「必要とされるありがたみも、役に立ちたいという使命感も全部虎白に出会えなければ知ることはなかった」



 右目の秘密を知る仲間達と自由気ままな生活。


それはただの逃避行であり、虎白に仕えた事でわかった自身らの価値。


 誰かのために生きる事は、とても大切な事なのだと痛感したエヴァは自ら危険な任務に飛び込んだのだ。


 せめてもの恩返しに。


 闇夜を進む精鋭部隊は、ルーシーの国境警備隊を音もなく制圧すると遂に敵地に足を踏み入れた。


 これはエヴァと愉快な仲間達にとって大きな一歩であった。


 ルーシー領へ入った闇の精鋭部隊は、冷酷なほど正確な射撃で敵兵の急所に一発だけ撃ち込んで進んだ。


 彼女らの侵入は誰にも気が付かれていない。


「ここから更に北へ半日進めば、目標の場所がある」
「それもユーリって女の話なんだろ? 信用できるのかよ?」
「信じるしかないよ。 他に情報もないんだし、行こうよ」


 半獣族が労働をさせられている場所は、エリアナがフキエの部屋に忍び込んで手に入れた貴重な情報だ。


 それをユーリが虎白に伝えて、エヴァの耳にも情報が入ったというわけだ。


 敵の英雄であったユーリを疑うジェイクは、巨体を左右に動かして周囲に敵がいないか警戒している。


「歩けば半日かあ。 なあ敵の車両でも奪おうぜ!!」


 そう呑気な事を言っているジェイクの目元へ呆れた視線を送るエヴァは、ティーノム帝国との貿易で発展しているルーシーの町並みを見ている。


 小高い丘の上に潜伏した闇の精鋭部隊は、双眼鏡を手にして次の侵入経路を模索しているのだ。


 戦闘民族らが暮らすこの町は、馬車による移動が基本的であったがティーノム帝国のおかげか車両も見られる様になっていた。


 だがこの発展も表向きで、裏で半獣族の貧困ビジネスをしているという実態を戦闘民族に知られないためだ。


 双眼鏡を手にしているエヴァは、三十名もの精鋭を乗せる車両はないかと左右非対称の瞳を動かしながら探している。


「うちら犯罪者だね」
「敵の国に来てるんだ。 関係ねえさ」


 エヴァは悩んでいた。


出発時に虎白から何度も言われた言葉があったのだ。


 決して騒ぎを起こして気が付かれるなよと。


 エヴァ達の潜入が敵に知られれば、半獣族の命が危険になると考えた虎白はあくまで隠密作戦を義務付けていた。


 双眼鏡から目を離して、隣りにいる荒くれ者共を見ていると虎白からの命令がどれだけ困難な事だったのかと後悔している。


「うちらに隠密ねえ・・・」
「なああのバス二台奪おうぜ!! 運転手は縛っておけばいいよな?」
「ちょっと待ってよお。 虎白には気が付かれるなって言われてるのよ」
「運転手が騒がなければ気が付かれねえよ」


 昔からいつもこうなのだ。


ジェイクとホーマーの強引なやり方をエヴァが、上手く完成に仕上げる。


 ため息をつきながらも、町外れで停車しているバス二台を強奪するために闇の精鋭は丘を降り始めたのだった。
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